12話 削れるもの
代償は、すぐには痛まない。
だが、確実に削れていく。
これは、
守った夜の“その後”の話。
朝。
タミィは平然と歩いていた。
だが、違和感はすぐ分かった。
「右手」
「……え?」
「握ってみろ」
ぎこちない。
指が、遅れる。
「ちょっと鈍いだけです」
そう言って笑う。
だが、昨日よりも明らかに反応が悪い。
善意貴族が報告書を置いた。
「昨夜の結界。あれは五重式のうち“神経遮断式”が含まれていた」
「……神経?」
「術式を断つ際に、干渉が逆流する可能性がある」
タミィは黙る。
「感覚は、戻るのか」
「断言できません」
沈黙。
外では復旧作業が続いている。
歓声もある。
だが、ここだけ空気が重い。
「私は問題ありません」
タミィが言う。
「昨日、子どもたちは助かった。それで十分です」
「十分じゃない」
俺は言った。
「お前が削れていい理由にはならない」
「削れていません」
即答だった。
だが、その拳は震えている。
「……怖いんです」
小さく、こぼれた。
「怖くないわけないじゃないですか」
初めてだ。
タミィが“強がり”を崩したのは。
「でも、止まる方がもっと怖い」
視線が、俺に向く。
「あなたが迷った時、私は隣に立ちたい」
胸が痛む。
俺は気づいていた。
結界を前にしたあの瞬間——
俺は“被害を最小限にする王子”であろうとした。
だが彼女は違った。
“誰かを救う仲間”であろうとした。
善意貴族が口を開く。
「……王子。動きがあります」
「何だ」
「昨夜の封鎖。貴族評議会の一部が関与していた。
そして今朝、“王子の越権行為”として正式な抗議が出ています」
来たか。
「つまり?」
「次は、あなたが封じられます」
権限停止。
兵の差し止め。
補給の凍結。
合法的な足止め。
「私は、狙われます」
善意貴族は静かに言う。
「あなたと組んだ以上、私も標的です」
タミィが立ち上がる。
少しふらつく。
「なら、早いですね」
「何がだ」
「止まってる暇、ないですよ」
その目は、もう迷っていない。
だが俺は見逃さなかった。
右手の感覚が、さらに薄れている。
削れている。
確実に。
俺の財布の魔法は金を消費する。
タミィの力は——
何を消費する?
「お前は、何を代償にしている」
タミィは一瞬だけ視線を逸らした。
「……まだ、分かりません」
嘘だ。
分かっている。
言わないだけだ。
善意貴族が一歩前に出る。
「王子。覚悟を」
俺はようやく理解した。
これは、
俺一人の戦いではない。
そして、
俺だけが削れる物語でもない。
外で風が吹く。
貴族街の塔が、遠くで鳴った。
戦いは、もう
表ではなく、内側から始まっている。
Maronです。
これが投稿されたすぐ後に2話目が出るでしょう。
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Maronでした。




