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日向野あかりは、親友に送るはずの恋をグルチャに誤爆した。  作者: なかすあき
5章 幼なじみからの告白は定番の体育館裏だった。
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5-1

 スマホの画面には、まだ陽太の文字が残っている。


『放課後ちょっといい?』

『……大事な話』


 “大事な話”って言い方、ちょっと心臓に悪いよね。


「陽太、なに?」って返せばいい。

 それだけのはずなのに、なぜだか指が動かない。


 教室の出口の前で、さやが振り返った。


「どうしたの? 帰んないの?」


「う、うん。ちょっと、先生にプリントのことで聞くかも」


「へえ」


 さやの「へえ」は、疑ってるときの「へえ」だ。

 笑ってるのに、目だけが“点”になってる。


 陽太のことなんだから、ふつうにさやに言えばいいはずなんだけど。

 なぜか隠してしまった。


 さやに断りを入れて、廊下に出ると、帰りの人の波が流れていた。

 上履きの音がぱたぱたして、誰かがクリスマスの曲を口笛で吹いてる。浮かれているやつがいるもんだ。


 スマホを取り出す。

 陽太とのトーク画面。


 あたしは、短く打った。


『いまどこにいるの?』


 すぐに既読がついて、数秒後。


『体育館の裏。ごめん、急に』


 返ってきた。


 とりあえず、体育館に向かうことにする。

 それにしても、大事な話ってなんだろ。

 陽太のことだから、クリスマスにみんなで遊ぶ計画についてとかかな。浮かれてるな、あいつも。

 でも、その話だったらあたしだけに話すのも変だよね。


 体育館の横にさしかかると、ボールの音がした。

 ドン、ドン。

 遠くの笑い声。

 なんだか日常から外れていくような、そんな感覚。


 体育館の裏は、コンクリの壁がやたら冷たそうに見える場所だった。さわってないのに、手がひゅっとなる。

 人気もないし、告白スポットってのも納得。って、森田の話って……まさかね。


「あかり」


 そんなことを考えていたら、陽太に声をかけられた。


 いつもの笑顔じゃなくて、どこか真剣そうな表情。

 クラスにいるときの陽太じゃない。


 これ、ホントに告白かも……?


「……来てくれて、ありがと」


 いつもだったら、「おー! ありがとな!」って元気な声が、今日は大人びて聞こえた。

 それがおかしくて、ついいつもの調子で軽口をたたきそうになった。


「……」


 でも、陽太の目の奥に、からかってはいけない光を感じて、あわてて口を閉じた。

 へらへらしたら、きっと、だめだ。


「……それで、大事な話って、なに?」


 言えた。

 声が裏返らなかっただけで、今日はちょっと勝った気がした。


 でも、陽太は笑った。いつもの、明るいやつ。

 笑ってるのに、顔のどこかが硬い。冬の空気のせいじゃないと思う。


「ごめん、急に呼び出して。寒くない?」


「だいじょぶ……陽太は?」


 表情が硬いのは、寒いからかと思って聞き返した。

 心なしか、手も震えているように見えるし。


「いや、暑いぐらいだよ」


 ちょっと笑いながら、陽太は言った。


 あ、いつもの陽太かも。


 少しだけ間が生まれる。

 遠くの部活の声が、急に近くに聞こえた気がする。

 陽太は一回、息を吸って、吐いた。白く広がって、陽太の顔をぼんやりとさせる。


「あかり、グルチャの件でさ……いろいろあったじゃん」


「うん……?」


 あの件、心配してくれたって感じなのかな。


「で、俺、考えたんだけど」


 陽太の目が一瞬だけ、まっすぐこっちを見る。すぐに外れる。

 そのくせ、また戻ってくる。行ったり来たり。


 そして、次の瞬間。


「俺、前から好きだった……つきあって」


 言葉が、どんって落ちた。

 雪じゃないのに、足元が白くなった気がした。


 ……え。

 え、いま、なんて。


 口を開いたのに、音が出ない。

 心臓だけが「わっ」って跳ねた。びっくりの跳ね方。


 でも。


 うれしい、が来ない。


 代わりに、久住くんの声が先に来た。

 あの、静かな敬語。

「……やめましょう」って、あのときの。


 なんで今、その声が浮かんでくるの。

 目の前にいるの、陽太なのに。

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