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日向野あかりは、親友に送るはずの恋をグルチャに誤爆した。  作者: なかすあき
3章 あのときは、あたしのほうが背が高かった。
4/21

3-1

 入学して、ちょっと経った頃。


 中学1年の、昼休み。

 廊下は、みんなの上履きの音とか話し声でいっぱいで、窓の外はやたら明るかった。


 あたしは友達と笑いながら歩いてた。いつも通り、普通に。


 ……普通にしてたのに。


「そこの1年、ちょっと」


 後ろから呼ばれて、足が止まる。

 あたしのこと……?


 振り向いたら、先生がいた。太めの眉が、もう「疑ってます」って形になってる。

 名前は知らないけど、おそらく生徒指導とか校内風紀対策課課長とかの先生なんじゃないかって

見た目。


 その先生は、あたしの髪を上から下まで眺めて、ため息みたいに言った。


「髪、その色はダメだろ」


 え。

 その言い方、最初から決めつけじゃん。


 あたしは、思わずムッとなってしまいそうになるのをこらえて言った。


「えっと、これ地毛なんですけど」


 言い切った。ちゃんと敬語も使えたし。偉い、あたし。

 あたしの髪は、生まれつき100人に聞いたら95人が「茶髪」と答えるぐらいの茶色だ。

 光が透けると余計に目立つから、長く伸ばして結んでまとめているんだけど。


 先生は、うんともすんとも言わないで、口の端だけ動かした。


「地毛ねえ。それ証明できるの?」


 ……証明? なにそれ、数学?

「証明できる?」って、三角形の合同みたいに言わないでほしい。


 あたしは、心の中でツッコミながらも、表では真面目な顔を作った。


「えっと……できるっていうか……生まれたときから、です……」


 先生は腕を組んで、うーんって唸った。

 ちょっと納得いってない感じかも。


 どうしよう、お母さんとかに説明してもらったりしなきゃいけないのかな。

 あんまり迷惑かけたくない、というか、いっしょに歩いていた友達には現在進行形で迷惑かけてる。不安そうな顔させてる。

 通り過ぎる生徒たちは、なんか先生に怒られてるやつがいるぞってじろじろ見てくるし。


 あたしがちょっとだけ泣きたくなった、そのとき。

 人の流れの中で、一人だけ立ち止まる影があった。


 通りすぎるはずの誰かが、ふっと止まる。


 あたしは横目で見た。


 男子。背があたしより少し低くて、制服の着方がきちんとしてる。

 この頃は、着崩すことで格好つけたがる男子たちが増えてきた中で、珍しい。


 まだ名前も知らない。顔も、ちゃんとは見たことない。

 でも、目が合った気がした。


 その男子は、先生とあたしの間に、半歩だけ入るみたいに立つ。


 そして、静かな声で言った。


「先生、日向野(ひなたの)さんは、小学校のときから、この色でした」


 ……えっ、今の、なに……? 助け舟?


 先生が、ぴたっと止まる。


「……そうなのか?」


 先生の目が、あたしに向く。

 あたしは反射で、こくこくって頷いた。首が勝手に動く。


 先生は、少しだけ気まずそうに咳払いをして、声のトーンを下げた。


「……じゃあ、次からは誤解されないようにしろよ」


 誤解されないようにって、どうやって。

 髪に「地毛」って札をつける?


 あたしが頭の中でまたツッコんでいるうちに、先生は去っていった。


 廊下のざわざわが戻ってくる。

 やっと息ができる。


 ……助かった。助かったのに。


 あたしは、隣の男子のほうを見た。


「ありがとう」って言おうとした。言おうとしたのに。


 その男子は、もう歩き出していた。

 振り返りもしないで、何事もなかったみたいに。


 あたしの喉は、きゅっと縮んだ。

 声が、出ない。


 でも、だれ……?


 名前も知らないまま、背中だけが遠ざかっていく。

 助かったのに、「ありがとう」が口の中で迷子になった。

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