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日向野あかりは、親友に送るはずの恋をグルチャに誤爆した。  作者: なかすあき
6章 告白を断ったらまた燃えはじめてしまった。
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6-2

 教室の熱気が、いつ燃え上がってもおかしくなくなったとき。


 教室の前のほうから、低い声が落ちた。

 落ちた、っていうのがいちばん近い。投げたんじゃなくて、ぽとん、って。


「それ以上はやめてください」


 久住(くずみ)くんだった。


 大声じゃない。机も叩かない。

 なのに、さっきまでのひそひそが、いっせいに息を止める。


 笑い声が、ふっと消えた。

 誰かが「……はい」って言ってもおかしくない静けさが、教室に張りつく。


 久住くんは、表情をほとんど動かさないまま、続けた。


「好きな人がいるのは、普通のことです」


 普通。

 その言葉が、急にあたしの胸に刺さった。


 助かった。ほんとに。

 なのに、体が固まる。


 助かったのに……なんで、もっと苦しくなるの。

 久住くん、好きな人がいるの普通だって思ってるんだ。


 あたしは、久住くんのほうを見たいのに見られない。

 見たら、何か言わなきゃいけない気がする。

「ありがとうございます」とか、「すみません」とか。

 そういう、ちゃんとした言葉。


 でも、助けられると、声が出ない。

 助けられるほど、近づけない。


 口を開けたのに、空気しか出入りしない。

 声は、また迷子だ。


 静けさが、教室を一枚の紙みたいにぴん、と張った、その直後。


 後ろのほうから、笑い混じりの声が飛んできた。

 紙に穴をあけるみたいに、軽く、でも最悪の場所に。


「もしかして久住、日向野(ひなたの)のこと好きなんじゃね」


 ……え。


 あたしの心臓が、今度は“止まる”じゃなくて“落ちた”。

 教室の床まで、ころん、と転がっていった気がした。


 久住くんの反応を見たい。

 でも、見たら、終わる。

 何が終わるのか分からないのに、終わる気がする。


 だからあたしは、反射で目をそらした。

 自分の机の端っこだけを見つめる。

 でも、耳は久住くんのほうを向いていた。


 最低だ、あたしって。

 久住くんがさっきの言葉になんて返すか、気になってる。


 息を吸うのも忘れて、あたしの世界だけ、時間が止まっていた。


「……マジ?」


 だれかのつぶやき。

 からかってやろうって感じじゃない、ホントに驚いてる感じ。

 たぶん、久住くんとあたしじゃ似合わないと思ってたんだろう。


 つぶやきがこぼれてから、教室は静寂に包まれていた。

 さっきとはちがう止まり方。笑いが消えたというより、空気が次の言葉を待ってる感じ。


 あたしは、それに耐えかねて、久住くんをうかがいみた。

 その横顔はいつもの無表情、怒っていたり、呆れていたりしていない。


 久住くんは、否定もしなかった。

 肯定もしなかった。


 ただ、たった一瞬だけ。


 あたしを見た。


 目が合う、っていうより、見られた、って感じ。

 目線が当たったところだけ、熱くなるみたいな。


 だめ。


 あたしは反射で、視線を逃がした。

 黒板でもなく、窓でもなく、机の上。

 ノートの端っこの、どうでもいい線。


 逃げたのは目なのに。


 心臓だけが置いていかれる。


 どくん、どくんって、あたしの体の中で暴れてるのに、顔は動かないふりをしてる。

 笑えない。怒れない。声も出ない。


 ……今の視線、なに。


 あたしは、机の上を見たまま思った。


 なんで、何も言わないの。久住くん。

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