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灰燼年代記  作者: kira
プロローグ
3/11

王都リュミエラ

リュミエル王国 王都リュミエラ



王都リュミエラは、朝の光の中で、永遠が続くかのように輝いていた。


白い石で舗装された大通りには淡い光が反射し、街路樹の葉が風に揺れて、さざ波のような音を立てている。都市でありながら、ここでは自然が拒まれることはなく、建物と木々、水路と広場は、最初からそうあるべき形で並んでいた。


水路を流れる水は澄み、橋の上では旅人が足を止めて街を見上げる。

遠方から来た商人たちは、王都の清潔さと治安の良さを褒め、多少高くなった宿代や食事代にも笑って金を払った。最近、物の値が少しずつ上がっていることに気づく者はいたが、それを不吉だと考える者はいなかった。王都は繁盛している――それが共通認識だった。


市場には、異なる種族が肩を並べていた。

果物を売るドワーフ、香辛料を量る人族、装飾品を勧めるエルフ。言葉も習慣も違うが、値段をめぐる軽口と笑い声は同じだった。子どもたちは兵士の足元を走り抜け、叱られる代わりに頭を撫でられる。


兵士たちは鎧を着け、槍を持ちながらも、どこか緊張感に欠けていた。

門番は旅人と冗談を交わし、巡回兵は顔見知りの商人に手を振る。身分の差はあっても、そこに隔たりはなく、兵士もまた「この街の一員」だった。戦争は物語の中の出来事であり、この王都では現実ではなかった。


王城の庭園もまた、その延長にあった。

白い柱の回廊、整えられた芝、花の香り。都市の中心にありながら、ここは静かで、世界が穏やかに循環している場所だった。


エルネシア・リュミエルは、回廊に立ち、その光景を見渡していた。

エルフの血を引く王女として生まれ、剣も政も学び、正しさを疑わずに育った。


王国は平和だった。

多民族が共に生き、帝国に対しても無益な敵意を持たなかった。正義は、正義であるだけで価値がある――そう信じられるだけの時間が、この国にはあった。


「姉上」


声をかけたのは、弟――王太子アウレリウス・リュミエルだった。

建国王と同じ名を持ち、次代を担う者として育てられた少年は、庭園の静けさの中で、わずかに眉を寄せていた。


「国境からの報告が増えています。些細なことだと言われていますが……」


言葉を濁すその様子に、エルネシアは気づいた。

この城で、本気の不安を口にすることは、どこか場違いだった。


「大丈夫よ」


エルネシアは微笑んだ。

それは弟に向けた言葉であり、自分自身に言い聞かせるための言葉でもあった。


「戦争なんて、起きない。起こしてはいけない」


背後で、老人が静かに咳払いをした。

エルネシアの教育係であり、かつて王国軍を率いた老将――バルドゥスだった。


「王女殿下」


穏やかな声だったが、そこには経験だけが持つ重みがあった。


「平和は、疑われなくなったときに、最も脆くなります」


庭園の空気が、一瞬だけ張り詰める。

だが風が木々を揺らし、水音がその緊張を押し流した。


「ご忠告は胸に留めます、将軍」


エルネシアはそう答えた。

老将はそれ以上何も言わず、ただ一礼した。


誰もが、このやり取りを深刻には受け取らなかった。

庭園の外では、王都が今日も変わらず息づいている。


街は光に満ち、人々は明日も同じ一日が続くと疑っていなかった。

笑顔は本物で、幸福は確かに存在していた。


この平和が、どれほど脆い均衡の上に成り立っているのか。

それを本気で考えていた者は、まだ、ほとんどいなかった。


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