きらきらひろい
そのまちの人たちは、毎日きちんと暮らしていました。
朝は起きて、昼は働き、夜になると眠ります。
夜のまちを歩く人は、だれもいませんでした。
夜がふかくなるころ、道に小さな光が落ちてきます。
それは、人の心からこぼれた
小さな幸せのかけらでした。
うれしかった気持ち。
かなしかった気持ち。
言いたかったけど、言えなかった思い。
それらは光になり、夜の道に落ちます。
けれど、落とした人の目には見えません。
その光をひろう老人がいました。
老人は、夜になるとまちを歩きます。
くたびれたコートを着て、ゆっくりと歩きます。
道に落ちた光をひろい、小さなふくろに入れます。
そして、光を落とした人の家の前に置いていくのです。
朝になると、光は家に吸い込まれます。
家にいる人は、気づきません。
ただ、少しだけ心が軽くなります。
それが老人の仕事でした。
なぜその仕事をしているのか。
老人は考えたことがありません。
そうするものだと、ずっと思っていました。
歩くこと。
ひろうこと。
とどけること。
それをくり返すうちに、
ぎもんは生まれなくなりました。
老人は、いつも静かに夜のまちを歩きます。
ある夜のことです。
まちはずれの家で、ひとりの少女が
まどの外を見ていました。
その日は、学校で鉄棒の練習がありました。
みんなは、くるりと逆上がりができました。
けれど、少女は何度やってもできませんでした。
家に帰ってからのごはんでは、
ピーマンを残してしまいました。
ほんとうは、がんばって食べようと思っていました。
でも、できませんでした。
だめだったことが、
胸の中に、いくつも残っていました。
そのとき、道の上で
小さな光がきらりと光りました。
少女は、その光から目を離せませんでした。
見ていると、
胸の中のつかえが、少しだけほどけました。
気がつくと、少女は家を出ていました。
道の先で、少女は老人に出会いました。
老人は、地面にしゃがみ、
光をひろっていました。
「それ、なに」
少女が聞きました。
「幸せのかけらだよ」
老人はそう言って、また手をのばしました。
少女は、となりにしゃがみました。
道を見ると、光が見えました。
「わたしもひろっていい」
老人は、うなずきました。
ふたりは並んで歩きました。
少女がひろう光は、
ひとつひとつ、ちがっていました。
あたたかい光。
ふるえる光。
「これは、だれの」
少女が聞きました。
「さあね」
老人は答えました。
「でも、きっと
がんばった人のだ」
その声は、静かでした。
やがて、少女は
ほかとはちがう光を見つけました。
大きくて、やさしい光でした。
見ていると、
逆上がりのときの手の痛さや、
ピーマンを残したときの気持ちが
すこしだけ、やわらぎました。
少女は、その光をひろい、老人を見ました。
「これ、まだとどいてない」
老人はふくろを見ました。
その光は、老人には見えていませんでした。
「じゃあ、たのむよ」
少女は、その光を
まちはずれの家の前に置きました。
それは、老人の家でした。
朝になりました。
老人は目を覚ましました。
胸の奥が、じんわりとあたたかく感じました。
理由はわかりません。
それでも老人は思いました。
今夜も歩こう。
夜になると、老人は外に出ました。
道を歩き、光をひろいます。
けれど、ときどき足を止めます。
まっくらな空を見あげるのです。
なぜそうするのかは、わかりません。
少女は、もう夜に家を出ません。
でも、次の日の学校で、
鉄棒にもう一度ぶらさがってみました。
まちの人たちは、老人のことを知りません。
それでも今日も、
なんだかいい日だなと思う人が、町にはいます。
今日もどこかで、老人は静かに歩いているのです。




