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第三部4


「御子息のことはご安心ください」


 開口一番、ベリヤは言った。

 やはりこの男の実務処理能力は捨てがたいなと、そう想う。

 即応性、網羅性、実効性。

 すべてが卓越しているとしか言いようがない。


「相変わらず手際がよろしくて、大変結構だ。まあ息子に危険が無いよう、最大限『有効に』活用したまえ」


「もちろん。何事も無駄のなきよう、効果的な処理を心がけるのが私の責務と、そう心得ております」


「うむ」


 ああ、やはり素敵な男だ。

 こうも邪悪に機能的に徹することができるなど。


 まず未曽有の国難を前にした、内治に関してはほとんどこの男にこのまま任せても問題あるまい。

 人格的問題点さえ把握してコントロールしている限り、これ以上の適格者はいない。

 俺は徹底して外交、軍事に心置きなく集中できそうだ。


 引き続き、残酷に、陰険に、効率よく管理運営してもらえればいい。


 ……だが。


「で、本題についてだが。何やら先般のポーランド制圧によって多量に出てしまった敗残兵についての取り扱いだとか」


「ええ、先にお送りした資料の通り、抱え込んだ危険要素の最終的解決の提案でございます」


「……上位責任者はきれいさっぱり、処分するのがキミの考えというわけか」


「残す理由がございませんので。最も管理負荷もかからず、後顧の憂いもなく、誰も懐がいたまない。これ以上の方法はないかと愚考する次第です」


 俺はチラリと手元の紙束へと視線を落とす。


 『ポーランド軍捕虜の選別状況および今後の管理方針に関する中間報告書』。


 これか。

 ソ連が為した致命的ともいえる、非人道的処置の一つ。


 ポーランド軍将校、兵、知識階級2万人の虐殺。

 いわゆる『カティンの森事件』として後世知られることになった最大級の汚点。


 やはりこの男を採用した以上、歴史の必然として萌芽を出すらしい。

 史実ではこのままの案が採用されて、取り返しのつかない禍根を残すわけだが。


 所詮、この男は内務屋だなと嘆息しそうになる。

 まああまり全方位に高い能力を持たれても御しづらくなるから丁度いいのかもしれない。


「微に入り細を穿つ、非の打ちどころのない緻密な計画案を出してくれて、大変心苦しいのだが」


 俺は内心の軽蔑も、逆説的な安堵も一切を出さすに、計算高い為政者としての顔だけで言う。


「彼らにはもっと有効な使い方があるのではないかと、そう想っているのだ」


「? 大量に存在するだけで、時間も物資も消費する一方ではありませんか? 物理的に消してしまうのが、最も手がかからずに効率的としか思えませんが。秘匿を徹底しさえすれば、最初から何もなかっただけということですし」


 本当に、致命的に内務バカだな、コイツ。

 バレるし、騒がれるし、効率とは程遠いものを齎すってのに。


 なにより、リトヴィノフにやらせているワイルドカードの絶大な効果を全く無効にするどころか、マイナスにすらしてしまう恐れがある。

 それだけは絶対に避けなければ。


 さて、この外交感覚が完全に欠落した男にわからせるのは骨が折れそうだな。

 でもやるしかあるまい。

 どれだけ疑問があろうと、最終的に俺に逆らえるわけもないのだし。


 俺はたっぷりと間をおいてから、重々しく切り出した。



「ベリヤ君、高度に政治的な判断というものを今少し君にも意識してもらいたいものだな?」



 ポーランド捕虜の扱いは、将校などの上位責任者も含めて、収容所における労務作業とすることになった。

 その際には、病没など不可避的なもの以外、一人も死亡者を出すことないよう、徹底することを約束させた。


 どうやら殺すことよりもよっぽど至難だったらしく、珍しくごねるような態度を見せたのだが。

 『内務における最高責任者として全うすべし』といってやったら、ようやく腹を据えたらしかった。



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