第三部序
『あ〜、もうっ! ちっくしょうっ!』
ハカセはその頃はまっていた、ウォーシミュレーションゲーム、『Soul of Iron2』、通称SOI2をやりながら叫んでいた。
第二次大戦期の列強国のいずれかを選んで、軍事に、内政にプレイヤーとして干渉し、歴史を変える。
そんな典型的ミリオタなら必須のパソコンゲームをカチカチとマウスを操作しながら、熱中していた。
俺はそれを横からのぞき込むように見ていた。
次にやるのは自分だから、可能な限り吸収してしまおうと、熱心に。
代わるがわる交互にプレイして、あーじゃねこーじゃねと、軍事知識やら歴史についての雑談めいた、恐らくは教育洗脳を受けるのが日常だったころ。
そうとはまるで感じさせない巧妙なほどの自然な振る舞いで、ハカセはゲームで癇癪を起す駄目な大人を体現していた。
未だに俺はアレが狙った演技だったのか、単なる地の振る舞いだったのかわかりかねている。
殺人の一線を越えている、立派なテロリストたる男がどこまで本気でああいう感じだったのかと。
『なんでこうなるぅっ』
思い通りにいかなかったのがよほど腹に据えかねたらしい。
もちろん選んでいる勢力はソ連だった。
一体何がそんなにうまくいかなかったのか。
この男特有のふにゃふにゃした物言いにも関わらず、それなりに切迫した苛立ちらしいものが伝わってきた。
『この時点で宣戦布告できないのはおかしいだろっ』
『歴史イベントのフラグって不合理だよ!』
『一方的に向こうがやるばっかでさぁ』
そうぶつぶつ呟いた最後。
『そもそもなんでスターリンはアイツのことをあんだけ信用したんだ?』
ひどく不条理で納得いかないという風に口にした。
『不思議だよなぁ。ほんとうに謎だ。あれだけ猜疑心が強くて何もかもを信用しなかった男が。ただ一人、最も信じちゃいけない存在だけを妄信していたんだから』
そもそも絶対に相容れないブルジョワ的ファシストそのものじゃないか、と。
完全に詰んだのか、マウスから手を放し、頭の後ろで組んで俺を見やる。
そして数学の問題を問いかける教師のように、こう聞いてきた。
『ゆーくん、もしスターリンがあの裏切りを事前に知っていたとしたらどうしたろうな?』




