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永遠のマリア

田舎の山奥に住む夫婦に起きた出来事。

夫の考え、妻の考え、夫婦は中むつまじいと思われていたが・・・

マリアの『生きる』旅は此処から始まった。

ここは最果ての村。

その最果ての村の森奥に一組の夫婦が仲睦まじく厳かに暮らしていた。

夫がソップと妻のマリアは薬師であった。

妻が研究し夫が調合する。

たまに村に訪れては風邪薬や傷薬などを納品して生活をしていた。

決して贅沢が出来る訳ではないが夫婦は不自由なく幸せな日々を過ごしていた。


ある日からマリアは悩みを抱えるようになった。

この日、マリアはソップに勇気を出して悩みを打ち明ける事にした。


「ソップ!」


ウトウトしているのか返事がない。


「ねぇソップ!」


「ん~、何だい?マリア」


ソップは寝ぼけ眼でマリアを見つめる。


「私ね『死ぬ』のが怖いの」


気持ちよく寝ていたところを起こされて何事かと思ったが、マリアの『死ぬのが怖い』と言う発言に一人にさせてしまい寂しがっているのかと思い、マリアの事が可愛く思えていた。


「はは、そうかマリアは死ぬのが怖いか」


「ちょっと、真剣に話しているのよ」


「ごめん、ごめん。でも僕が一緒にいるから大丈夫だよ」


「でも、貴方が先に逝ってしまったら一人になるわ」


「君を残して死なないよう気を付けるよ」


ソップの言葉にまだ納得行かないのか、マリアは俯いたまま何か言いたそうにしている。

マリアがここまで寂しがるのも珍しく何かあったのかとソップは心配になってきた。


「そうじゃないの」


「どうしたんだい?」


「『この薬』の事よ」


マリアがテーブルの上に青色の液体が入ったビンを1つ置いた。始めて見る色の薬にソップは何の薬を見せられているのか解らなかった。

よくよく考えれば、ここ最近のマリアは検体用のネズミを使って何か研究をしていたように思えた。


「何だい?それは?」


「『若返りの薬』よ」


「!?」


この世界には様々な薬がある。

しかし、若返りの薬など見たことも聞いたこともない。

ソップはマリアが少し痴呆が入って来たのかと心配になって来た。


「この間、ネズミを検体として効果は成功していたわ」


「おいおい、何て者を作ったんだお前・・・」


どうやらマリアの痴呆ではなく本当の事らしい。若返りの薬などがあれば人生をやり直せるだけではない。欲しがる者が数多くおり、もしかしたら国をもかえるかもしれない。

そんな薬が目の前にある事に驚き、ソップの寝気は完全に吹き飛んでしまった。


「でも、これを飲む勇気がないの。此を私だけが飲んでも貴方がいなくなってしまうわ。だから、貴方にも飲んで欲しいの。」


「・・・」


薬を飲む。

確かに薬を飲めば妻と二人で今一度人生を楽しめる。

そう、妻と二人で。


「今、飲まなくてもいいわ。いつか、いつでもいいの」


「解った。今はまだ飲み勇気がないけど、僕もマリアを残して死にたくないからね」


「本当!嬉しい♪」


「ああ、死ぬときは二人一緒だ」


マリアはテーブルに置いた『若返りの薬』をソップに手渡した。


「この一ビンで細胞が一番の最盛期に戻るはずよ」


「君の分もあるんだろ?」


「ええ。研究室の棚ぬ置いてあるわ。飲む時は教えて、私も飲むから」


「ああ。1つしかないなら絶対に飲まなかったが二人あって良かったよ。安心したらお腹が空いて来てしまったな」


「うふふ、今日は兎肉のシチューよ」


「それは楽しみだ」


こうしてマリアの悩みをソップが受け止めてくれた事が嬉しく、この日この時が人生で最高の幸せを感じていた。

そう、あの時までは・・・


(ああ・・・)


(悲しい・・・)


(悔しい・・・)


(嘘つき・・・)


(信じてたのに・・・)


マリアが『若返りの薬』を渡して数日後、マリアが夕食の準備をしていると、ソップは密かに調合していた薬をマリアのスープに混ぜ入れた。

何も知らないでマリアはそのスープを飲む。

マリアは直ぐに喉に違和感を感じ苦しみ出す。


マリアのスープに入れられたのは毒であった。

毒で苦しむマリアに「ゴメンよ」と語りかけると、研究所に置いてあるマリア用の若返りの薬を持ってきた。


「もうこれは君には必要なくなったね」


ソップは念には念をとナイフでマリアの腹を刺す。

だが、マリアへ止めを刺した訳ではなく、マリアの苦しみが増えるだけであった。

ソップは家に火を着けて姿を消した。


木造で、藁で出来た屋根は綺麗に燃え尽き、ここに誰かの住まいがあったのであろうとしか認識出来ないほど真っ黒に何も残らなかった。



_____________________________


「火事だ!!」


「森からだ!!」


「おい、あの辺は『薬屋』の夫婦のところじゃないか」


「そうだ。あの辺だ!」


「大変だ。消しに行くぞ」


最果ての村人が燃え盛る火に気付く。森奥に夫婦が住んでいる事や山火事になることを恐れ村人全員で水桶を持って火元に向かっていった。

あまりの騒ぎに村に見知らぬ若い男がいたことなど誰も気付かなかった。


「おい、そこのお嬢さん。この先は火事で危険だから帰った方がいいぞ!」


途中で一人の若い女性とすれ違う。

若い女性は「帰るね」と呟いていたが、それどころではない村人達は忠告だけして火元の方へと駆け出す。

火元は薬師夫婦の家であった。

村人達は近くの水場をバケツリレーでどうにか森に火が移ることなく消すことが出来た。

だが、夫婦の家は燃え尽きてしまっていた。


「こりゃヒドイ。何もかも炭だらけで遺体があるかも解りゃしない」


「ああ、何て事だ。あんなに仲の良い夫婦だったのに」


村人達が色々助けてくれた薬師が亡くなってしまっただろうと思い悲しみで佇んでいると、村人達の鼻に異様な匂いが突き刺してきた。


「しかし何だこの匂いは?」


「もしかしたら、色々な薬が燃えた事で発生しているのんじゃないか?」


何の薬か解らないものが、火事で異様な匂いを発している。知識がない村人達もこの危険性に気付く。


「おいおい、危険ぞ!今すぐ村に戻ろう!」


「そうだな。火は消えた事だし一度村に戻ろう」


「だな。この状況じゃ、二人は生きちゃいないだろ」


火は消えたが、様々な薬物が燃えたであろう匂いに有害があるかも知れないと考えた村人は、どう考えても生き残っていないだろうと思われる状況を見て、皆で一度村に帰る事にした。


「そう言えば途中ですれ違った娘は何処から来たんだ?」


「・・・」


誰が呟いた言葉か解らないが誰も返事は出来なかった。

此処は最果ての村の奥で、この奥は険しい森が続き更に奥は数メートル級の険しい山々が連なっており、若い女性一人どころか人自体が通り抜ける事が厳しい。

村人でもないし、見たことがない女性に対し皆が不思議に感じていた。



__________________________


時は少し過ぎ村から少しした所にあるナマダの町・・・


「これから、どうしましょ。幾つかの薬を持ってきたから此をお金に変えないと・・・」


村人とすれ違った女性はナマダの町にいた。

彼女の名前は『マリア』。

そう、薬師夫婦の妻は生きていた。


密かに隠し持っていた『万能薬』を飲み、動けるようになると研究室の隠し扉の中に置いてある『本物の若返りの薬』にて今の姿となり、ここまで逃げてきた。


(『ゴメンよ』か・・・私の方こそ『ごめんね』ね)


マリアはソップの事を愛していた。

愛していたが信用しきれなかった。

ソップが信用を害する何かをマリアにした事もなく、ただただ堅実な夫であった。

だが、信じきれなかったマリアの心が今は正しかった事が非常に虚しく切なく感じるマリアであった。


ソップが持っていった若返りの薬は失敗作であった。若返る事は出来るが、その後は5倍のスピードで歳をとってしまう。

おそらくソップは偽物の薬を飲んだはず。そうなるとソップは10数年後にはこの世からいなくなる。


可能ならソップに理由を聞きたいが、マリアが生きていることを知ったソップが何をしてくるか解らないため、ソップを探すことはしないことにした。


マリアは研究室の棚ぬ置いてあった、もう1つの偽物の薬をソップが持ち出した事を思い出す。

アレを誰かに売るつもりだろうか?

あの薬を飲めば直ぐに効果が現れ莫大なお金が手に入るとだろうけど、歳をとる毎に異変に気付く。

そうすれば、騙されたと思う富を与えし者から何をされるか解らない。


マリアは悩んだが諦める事にした。

そもそもマリアを騙して薬を持ち出したのはソップだ。

それに、どこにいるかも解らない者を心配する前にマリアは自身のこれからを考えて行かなければならなかった。


マリアは先ずは資金を得るために持ち出した薬を売りに『医療ギルド』に向かった。


「医療ギルドへようこそ」


「此方の薬を買い取って下さい」


「『風邪薬』が3つと『熱冷まし』が2つ『痛み止』が5つに傷薬(小)が4つと・・・傷薬(中)まであるのですね。これは助かります」


傷薬(小)は刺し傷などを治せる程度であり、傷薬(中)になると欠損以外の傷は殆ど回復出来る。

凄い効能であるが調合が難しく滅多に手に入らない代物であったため、ギルド職員は思わずマリアに感謝の言葉を述べてしまった。


ギルド職員は各薬を少しだけ取り特殊な液体に着けてみた


「『効能』は確かなようです。『風邪薬』が一つ200BD、『熱冷まし』が100BD、『痛み止』が100BD、『傷薬(小)』は50BD、傷薬薬(中)は5000BDになりますがどうしますか?」


「全部お願いします」


「それでは全部で6500BDになります」


マリアは銀貨65枚受け取ると医療ギルドに保管してある薬草の値段を聞いた。


「『ガゼ草』15DG、『ヒヤリ草』10DG、『イタレ草』10DG 、『癒し草』50G、『ゲドク草』50Gとなります」


「それじゃ、此と此と此と・・・全部で1100BD分下さい。」


「お買い上げありがとうございます」


「それと、宿屋を探しているんだけど教えて貰えたいかしら?」


「宿屋でしたら、此処を出て左に・・・」


医療ギルドに宿屋の場所を教わり、行きながら道端に映えている雑草(実は薬草)を収穫しながら宿屋に向かった。


「一泊いくらかしら?」


「一泊500DGで食事は朝100DGで夜150DG になります」


「それじゃ、5日分お願いするわ」


「はい。食堂は一階ですので、食事の際は此方のカードを提示して下さい」


「今日の夕飯は何かしら」


「本日は一角兎のナマダソースがけです」


「美味しそうね。今すぐ行っても大丈夫かしら?」


「はい。大丈夫ですよ」


マリアは早速食堂に向かい夕食を注文した。

ナマダの町周辺は豆の栽培が盛んで、その豆を発行させた『味噌』というものを特性ダレと合わしたソースがお肉との相性が素晴らしく、始めての一人の食事を堪能した。


マリアは部屋に戻ると今後の事について考える事にした。取りあえずはこの町で10年は過ごす事にした。

10年と決めたのは若返りの薬のせいだ。


若返りの薬は細胞に働きかけ効果が発生している。

そ失敗作はその効果が直ぐに切れてしまい、細胞が急激に老化してしまう。


完成品はいつ効果が切れるか解らなかった。もしかしたら永遠に切れないかもしれない。

そうなると、歳をとらない女性が入るとなれば不思議に思わない人などいないだろう。

よってマリアはこの街に10年と言う期間を設けた。


ここから凄腕の薬師が世界を旅をして、様々な難病を治す物語が始まる。

いつ薬の効果が永続的かもしれない永遠の薬師の誕生であった。



───────────────────────


一人の男が最果ての村へ亡き妻墓参りに向かっていた。

男は腰が曲がり杖を着きながらやっとの思いで最果ての村の手前にある街にたどり着く。

宿に泊まると噂が耳に入って来た。


この街に凄腕の薬師がいて、ここの薬を飲めば一発で熱が下がり、風邪や怪我が治ると言う。

しかも、薬師の女性が物凄く美人だと騒いでいた。


男も薬師であった。

今は手が震え真艫に調合が出来なくなり薬師として引退していたが、凄腕の薬師と言う話を聞いて見てみたくなった。


男は薬屋に行くと、店内には噂通り美しい女性が立っていた。まるで若かりし頃の妻を思わせるような美しさであった。

ああ、私は何故妻と生きる道を選ばなかったのだろうか。


美しい薬師は男の姿を見るや驚いた顔をしたように思えたが気のせいだろう。誰もが興味がある異性に対し目があっただのと誤解をしてしまう。こんな年寄りがそんな事を思ってしまう事に男は恥ずかしくなってしまった。


「店員さん、この薬を下され」


「あ、はい」


声まで妻に似ているように聞こえるとは、妻の墓がもうすぐだと期待によって錯覚しだしているようだ。


「これからどちらまで?」


美しい薬師が男に聞いてきた。


「ここより更に奥にある最果て村の奥まで妻の墓参りに行こうかと思っております」


「そうですか・・・奥様が許して下さると良いですね」


「そうですな」


男は薬屋を後にする。


数日後、男はやっとの思いで最果ての村にたどり着く。男が住んでいた家は更に山奥であった。


「ソップ?ソップじゃねぇか?」


一人の村人が話しかけてきた。10年程の時が経ったはずだが、村ひとはソップの事を忘れていなかった。


「ソップ、おめぇ火事で死んだのではないのか?」


「ああ。俺は街に出ていた」


「そうか。もしかしてマリアさんもか?」


「いや、マリアはいない」


「そうか・・・」


そう。マリアはもういない。

私が殺してしまったから。


男は村人に別れを告げると森の奥に進む。

二人が住んでいたあの家へ。


男は二人で住んでいた場所に辿り着いた。

家は燃え尽き何も残っていない。

家の前には木碑が立てられており、薬師夫婦ここに眠ると書かれていた。

村人達が立ててくれたのだろう。


妻はこの下に眠って入るのだろうか?

それとも燃え尽きてしまったのだろうか?


男は木碑の前まで来ると跪き泣き崩れた。

男はあの日の事を後悔している。


妻が若返りの薬を完成させたと知ると、男の心に闇が生まれた。

若返った自身の謳歌した姿を想像するもその隣に妻の姿を想像する事は出来なかった。


男は妻の分の薬があると知ると、妻と共に若返る事よりも売って金にすることしか頭に思い浮かばなかった。


そして、男は妻に毒を盛った。

苦しむ姿を妻を見て男は罪悪感により思わず「ゴメンよ」と呟くが研究室にある若返りの薬とレシピを探さなければならないため妻の研究室に向かった。 


薬は妻が言う通り棚ぬ置いてあったが、レシピはいくら探しても見つからない。もしかしたらレシピは妻の頭の中にあるのかもと思うと、男は妻に対して憎悪が生まれ妻の腹をナイフで刺した。


最後は証拠隠滅のため家に火を着け、若返りの薬を飲んで村に向かうと、姿が若返ったソップに気付く村人はいなく、難なく村から出ることが出来た。


その後、男は領主に残った若返りの薬を渡した。

領主は若返った自身の姿を見ると男に大金を手渡された。


大金で豪遊する。金があれば女も買うことが出来る。くすりを調合して売っていた時の生活が馬鹿馬鹿しく感じてしまった。

男は後悔していない。後悔していないが、心のどこかにポッカリと何かが抜け落ちた感じがしていた。


そして、月日が経つと体の異変に気付く。明らかに歳をとるのが早い。数年で中年のような姿になってしまった。

妻に騙された?

いや妻は「若返りの薬」としか言っておらず、確かに若返った。若返った後の副作用が当たり前だ。


私は知らぬうちに指名手配されていた。

おそらく領主も異変に気付き私を探しているのだと思う。

皮肉な事に歳をとった私は指名手配と年齢的に違うため捕まることはなかった。


逃走に金を使い。

贅沢を一度覚えるとなかなか抜けず贅沢を続けてしまう。

あんなにあった大金も数年で使い果たしてしまった。


残り僅かとなったお金で何をするか考えると、頭に浮かぶのは亡き妻の墓参りであった。

豪遊している時に気付いていた、女遊びしている時に気付いていた。

どんな生活をしても妻がいなければ意味がなかったのだ。

男は妻の墓参りに出かけ、今この場所にいる。


どんなに若返っても妻が側にいなければ意味がなかったのに。こんな人生なら妻との生活を一年でも二年でも長く過ごしていれば良かったと男は後悔をする。

そして、妻が眠っていると勘違いしている木碑の側でゆっくりと目を閉じた。




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