11:正義の使途-1
1.亡国ラビヌ
王都に賊現る――との報は規制が敷かれたのか新聞には載っていなかったものの、国内三件目の爆発事件までもを伏せておくのは不可能に近い。翌日の朝刊は王都の爆発事件の話題で持ちきりであったし、清風亭の一階食堂でも同様だった。
いよいよ何者かの企みが王都にまで迫ってきた。その事実は街をざわめかせ、であるからには王立魔術学院の内部にも動揺をもたらさない訳がない。落ち着いて考えてみれば、十分に分かることだったのに。
「臨時休講……」
「無駄足踏んじまったな」
レインナードさんと一緒に登校したまでは良かったものの、守衛さんにそう教えられてガックリしてしまった。多くの学生が昨日の事件の影響を受けて実家に帰っているとかで、講義をしようにも人がいなくなってしまっているらしい。とはいえ、昨日の今日という急すぎる事態ではある。
そこまで踏み切るには至らなかったのか、一応学院自体は開いており、休校扱いにはなっていない。デュナン講師もいらっしゃったので、午後の約束について許可をいただけたし、レインナードさんを護衛として伴う申請も済ませることができた。問題は、約束の時間まで完全な暇になってしまったことだ。
「何度も訪ねる格好にはなってしまいますけれど、もう一度デュナン講師を訪ねてみましょうか。グザヴィエ卿と対面する前に打ち合わせをしておいても悪くはありませんから」
諸手続きを請け負う事務室を出て、その前の各種お知らせが貼られている掲示板を手持ち無沙汰ついでに眺めなどしつつ水を向けてみる。
私の横で物珍しげに貼り紙を眺めていたレインナードさんは「そうだな」と頷き、掲示板へ向けていた眼をこちらへと動かした。
「敵の内実がどうであれ、人形を手駒にしてるのは確実っぽいかんな。その辺の話を聞けるなら聞いといた方が、今後の立ち回りにも効きそうだ。俺は自動人形の専門家じゃねえし、昨日の奴は自動人形にしちゃあ妙な動きをしてたろ」
私を見下ろす目は、少なからず問う色を含んでいる。昨日は清風亭に帰り着いた後もバタバタしていて、あの件についてさほど深く話し合えはしないままだった。
疑似生命工学の専門家ではなくとも、アルマでの事件を経てレインナードさんも自動人形への理解を深めている。あれだけ自動人形らしからぬ振る舞いを見せられれば、違和感を覚えないはずもなかったのだろう。
「そうですね。あれは……あの人は、ただの人形ではなかった」
「あの人?」
意図して言い換えたのを聞き逃すことなく、首を傾げる聡さに少しだけ口角が持ち上がる。
この件は魔術理論としての複雑さ以上に、心理的な忌避感が理解の妨げになりかねない。それでも、レインナードさんなら私が想像していることを説明しても、きちんと受け止めてくれるはずだ。さほどの不安もなく思えるくらいの信頼は、既にあった。
「詳しい話は、デュナン講師の研究室で。半人前が伝聞と推測で語るよりも、きちんとした疑似生命工学の先生のいるところで話した方がいいことですから」
「……お前がそこまで慎重になるっつー時点で、とんでもねえ話題だって保証がされてるよな」
渋い声で言うレインナードさんには苦笑を返すだけに留め、掲示板の前を離れる。
向かうのは、本日二度目となる講師陣の研究室棟――「叡智の館」だ。今日は灰色の重い曇天で、肌寒いばかりか午後になったら雨が降りそうな雲行きをしている。せめて天気くらいは晴れやかであってほしかったものを。
数分ばかり歩いて到着した「叡智の館」は、学生がいなくて講義に手を取られる必要がないからか、まだ朝に近い時刻なのに騒々しいくらいだった。謎の詠唱、謎の煙、謎の爆発音と不穏なものがそこここに見られるものの、一切を無視してデュナン講師の研究室へ向かう。
人形の制作で重い素材を扱うことも多いからか、幸いなことに目的の部屋は玄関からも比較的近い一階にあった。以前にアルドワン講師の研究室を訪ねた時に比べれば格段に短い時間で移動は済み、異音も異臭もしない扉の前で足を止める。
「度々申し訳ありません、ハントです。改めて、お時間をいただけますでしょうか」
そう言って扉を軽くノックすると、ややあってから内側から開けられた。あれ、という疑問の表情を浮かべて顔を出したのは、栗毛に緑の眼の男性だ。
レインナードさんに比べれば小柄ではあるものの、自分で木や石を加工して人形を作るスタイルでいらっしゃるので、体格自体はがっしりとしている。歳は三十そこそこというところか、今になってみればソイカ技師と学友だったという述懐にも納得するばかりだ。たぶん、歳もほとんど変わらないのだろう。
デュナン講師は私の顔を見ると、「構わないけど」と言いつつ首を傾げた。
「君の方は大丈夫? 他の用事はちゃんと終わった?」
「はい、恙なく。お陰で時間が空いてしまい――先ほど少しだけお話した、昨日の事件についてご意見を伺えればと」
ラビヌの禁術が関わっている可能性があるのです。声を潜めて最後に付け加えると、デュナン講師は大きく目を見開いて絶句した。
先に訪ねた時には、まだ「昨今の爆発事件に関連して、自動人形も関わる情報提供を騎士団の方にすることになったので同席をお願いしたい」としか伝えていなかった。それでも快諾してくださったのには感謝しかないけれど、まさかラビヌが関わってくるとは考えもしていなかったのだろう。
「……そりゃあ、騎士団から人が来るのも道理だし、僕が同席を求められるのもまた然りだね」
数拍分の絶句の間の後、デュナン講師は困惑と納得の入り混じった声で言った。状況は理解できても、その根幹の事態が信じられないといったような心境なのではないだろうか。その気持ちはよく分かる。私自身がそうなのだから。
「とりあえず、中に入って。まずは昨日の話を聞かせて頂戴よ」
「はい、失礼します」
軽く頭を下げ、促されるままに扉をくぐる。
デュナン講師の研究室は、アルドワン講師のそれよりも「作業場」という印象が濃い。様々な蔵書も書架に収められているけれど、人形の制作に必要な資材の方が圧倒的に多いし、鋸や鑿のような工具もあちこちに見られた。……あ、あれはエマブットの彫刻刀では。
エマブットは王都にある老舗の刃物メーカーで、商工ギルドの職人さんたちにも愛好家が多い。プロ用の高級工具なのでお値段も文字通りの桁違いであり、私では到底手が出ない逸品なので、さすがは学院の講師殿と感嘆する他ない。
「その辺に適当に座って。お茶とか出せないけどいい?」
「とんでもありません、大丈夫です」
デュナン講師が示したのは部屋の中央に据えられた作業机で、その周囲にはいくつかの椅子が置かれていた。私とレインナードさんが手前側に並んで座り、デュナン講師は向かって右の側面の椅子に腰を下ろす。
「サパンとオルムの爆発事件に自動人形ないし傀儡人形が関わってるっていうのは、僕も既に聞いてる。何度か騎士団というか、ラフィに意見を求められて答えたからね。――あ、ラフィはラファエルね。あのラファエル・デュランベルジェ。君らもアルマで会ったんだって聞いたよ。ルカとラフィと僕は学院に通ってた頃の友達でさ」
「はい。たくさん助けていただきました」
「だろうねえ。あいつ、末っ子で下に弟妹がいないから、あれで実は年下を構いたがりなんだ。騎士団や貴族社会の中では、軽々にそういう振る舞いに出ることもできないけど」
デュナン講師が肩をすくめる。確かに、ラファエル卿は随分と親身になって助けてくださった。
「――と、話が逸れたね。それで、一連の爆発事件にラビヌが関わってるってことかい? ラビヌと人形と言えば……ハントさんはもう分かってるだろうけど」
そう言って言葉を切り、デュナン講師の目が私からその隣へと移る。言葉に出さない確認の意図も難なく通じたらしく、レインナードさんもあっさりと「俺は知らねえ」と首を横に振った。
「ラビヌの国が今どういう風に見られてて、その真南の国がどういう風に対応してるかは俺の方が詳しいだろうけどな」
「ああ、キオノエイデの人なのだったっけ。〈獅子切〉レインナード」
「ガキの時分に飛び出したけどな」
「行動力の化身~。逆にハントさんは、そこまでラビヌの国自体については知らないよね?」
レインナードさんの言い方に笑っていたデュナン講師が、再び私の方へ視線を転ずる。
ラビヌの国のことはデュナン講師の疑似生命工学講義で知ってはいるけれど、あまり興味を出すのも憚られるような内容であったので、個人的に掘り下げて調べたりはしなかった。言い訳ではあるけれど、その余裕もなかったのだ。少しくらい文献を当たっていれば……なんて、今思っても詮無いことだとはいえ。
「そうですね。まだ講義で学んだことくらいしか」
「じゃあ、まずはラビヌの国がどういう経緯で滅ぶに至ったかの話から始めよう。〈獅子切〉殿、折角だから説明をお願いしても?」
「傭兵に弁舌を期待すんなよ」
「いいじゃないか、たまにはさ」
にこやかにデュナン講師が笑う。レインナードさんは釈然としないような面持ちではあったものの、その笑顔に圧されたのか、軽く空咳をしてから話し始めた。
「……ラビヌが約千年前に北の悪神に滅ぼされたってのは、お前も知ってるよな?」
語り口は、あくまで普段の雑談の延長線上のよう。説明するというよりは私に話しかける体を取っているのは、その方が構えずに済んで楽だからかもしれない。
「はい。北の神と、その信奉者たちによる侵攻とお聞きしました」
「おう。発端はそいつらだが、実際にラビヌの国を攻め落としたのは死人だな」
「死人?」
どういうことなのか、パッと一瞬では意味が取れなくて繰り返してしまった。
問い返されたレインナードさんは眉間に皺を寄せたものの、それが私へ向けた感情でないことくらいは、もうちゃんと理解できる。それだけ言いにくいというか、言うのも嫌な話なのだろう。
「文字通りの死体さ。北の神の得意分野だったのか、それとも信奉者が数の不利を引っくり返す為に習得したのかは分からねえ。ともかくも、奴らは死体を操る術を持ってた。村で歴史の授業を受けたのも二十年近く前なんでうろ覚えじゃあるが、最初期の奇襲で田舎の村が一つか二つ落とされたんだったかな。そこで得た死者を操って近隣の村々を訪ねさせ、連鎖的かつ秘密裏に被害と軍勢を増やした」
ラビヌの騎士団が事に気付いた時には、生ける屍の一大軍団が築かれた後だった。
苦々しげに告げられた台詞に、ゾッとした。まるで日本にいた頃に読んだホラー小説のようだ。生ける屍の訪問。そうと知らずに迎えた人は、また新たな屍となる。ゾンビ映画とは違ってウイルス性の感染経路がなかったのだとすれば、まだマシではあったのか――いや、一つの国が滅びているのだから、いいも悪いもないか。
「ラビヌの国に混乱が起こって……タイミング的には、それが北の神によるものだと分かった時とかでしょうか。状況の鎮圧には、周りの国も加勢したんですよね?」
「そりゃあな。ラビヌが攻め落とされれば、その勢いに乗って南進してくるのは目に見えてた。キオノエイデは一番に支援したらしいさ。ただ、ラビヌとの間にはデケえ山脈がある。当時はまだ転送の魔術もそこまで発達しなかったし、援軍を送るだけでも一苦労だったそーだ」
「ああ……」
その辺りの事情には納得と理解しかなくて、他に返せる言葉もなかった。
転送魔術はエドガール・メレス卿擁する現代になって、ようやく常用に耐え得るほどの発展を見た最新技術だ。千年も昔では到底軍勢の運用を助けるほどの精度が出せていたとは考えにくい。
「だからって、のんびりしてたら自分の首が締まるだけだしな。援軍を出しにくいなりに加勢に全力は尽くしたし、決してラビヌを見捨てようとか、ラビヌにやらせとこうっつー話にもなっちゃいなかったと、キオノエイデは国民にそう教えてる」
「実際、キオノエイデでも北部地域で山を越えてきた死人による被害が出てたそうだからね。何としても中央まで影響が及ぶ前に事態を収束させようと必死だったと思うよ。事の発覚時点で、既にラビヌに任せようなんて楽観ができる次元じゃなかった」
レインナードさんの語りの合間を縫い、デュナン講師が補足する。お陰で納得は深まるばかりではあるものの、それが嬉しいかと言われれば全くの否だ。
侵攻を受けた隣国の余波が自国に及んでいる時点で、確かにのんびりしてなんていられない。対岸の火事が燃え移り、いよいよ我が事となったのだから、キオノエイデの国もさぞかし慌てたことだろう。
「最終的には、なんだったか、二人の魔術師がそれぞれ山の南北に立って基点を作り、道を通すことで大規模な軍勢を送ったとかいう話だ。それでラビヌの残存兵と協力して反撃に出て、なんやかんやで北の悪神を封じた。それがキオノエイデの子どもが習う歴史だな。――でもって、北の悪神は封じられたが、その影響はラビヌの土地に残ってて未だに死体が徘徊してる。それが山を越えねえようにって監視と駆除をする国境警備隊が今もあって、実際に働いてる。北の悪神との戦いは、ウチの国にとっては未だに地続きの脅威のままなんだよ」
「なるほど……」
私が知識として知っている以上に、ラビヌの国を巡る歴史は現代に至るまで確固とした問題として続いているようだ。
他方、レインナードさんの話では一つ欠けている情報がある。デュナン講師がそれぞれに説明させようとする訳だ。私たちはお互いに知っている情報の範囲が違う。それらを合わせれば、足りないところを補い合って理解の深化を助けることができる。
もっとも、レインナードさんが知らないのも、決して「臭い物に蓋」的な隠蔽が図られたのではないと思う。これはあまりにも流布してはいけない禁忌だ。ゆえに、キオノエイデでは意図的に詳細に触れないことで、後世に伝える情報の取捨選択を行ってきたのだろう。
それでいて完全に失伝することがなかったのは、万が一の備えとして残さねばならないと判断されたからだ。レインナードさんの言う通り、キオノエイデの国にとって北方の脅威は神話でも伝承でもなく、紛うことなき現実に他ならない。知っていなければ、万が一の時が来た時にも満足な対応を取ることができないのだから。
いずれにしても、恐ろしい話だ。重苦しい気分で息を吐くと、デュナン講師が「ハントさん」と呼んだ。
「そういう訳で、君と君の傭兵殿とでは知っている分野が違う。君の知っていることを話してあげなさい。僕が共有を許可する」
「はい。……ヴィゴさんは、キオノエイデの軍勢と一緒に北の神を封じた残存兵が、どういう人たちだったか詳しく知っていますか?」
デュナン講師の言葉に頷き返し、隣に座る人を見やって問う。
ようやく聞き手に回れるからか、レインナードさんはそこはかとなくホッとしたような目顔をしていた。それが一転、表情を曇らせる。怪訝に思っているというよりは、困惑に近い顔で首を捻った。
「どういうって――生き残りは生き残りだろうよ」
「いいえ。彼らは、生きてはいなかった」
「何?」
レインナードさんが、今度こそ怪訝そうに表情を歪める。
自分で喋っていながら、私も妙なことを言っている自覚はあった。ただ、悲しいかな純然たる事実でしかないのである。
「私も、最初は何でそんな突飛な発想になったんだろうと不思議でした。追い詰められ過ぎて、戦える人がいなくなりすぎて、最後の手段として形振り構わなくなったのかもと。……でも、さっきのお話で納得がいった」
そう言い置いてから、一呼吸を挟む。軽く息を吸い、吐き出すだけの沈黙。
「北の神による侵攻の終末期、ラビヌの軍はほとんどが人形に置き換わっていたといいます。ある意味では、現代における自動人形の前身とも言えるものでした。人形に魔石を埋め込み、それをもって動かす」
「つっても、自動人形だって転送魔術よろしく割と最近のモンだろ。一人でたくさんの人形を動かせるように細工したってことか?」
「複数の人形を同時並行で操作できる術師は滅多にいません。仮にできたとしても、個々に戦闘行動を取らせようと思えば術師の処理能力を超えて脳が焼かれる。そもそも、当時のラビヌにはそこまで卓越した人形師は残っていなかった。ほとんどの魔術師が戦死していましたから」
「どうも話が見えてこねえな。人形に魔石を埋めて、それでどうしたんだ」
「『目の前に見本は山ほどあった』」
「……は?」
レインナードさんが目を丸くする。さながら、つい先刻にラビヌの名を聞いた時のデュナン講師のように。
「以前、講義で読ませていただいた手記に書かれていた一節です。読んだ時は、単に破壊された人形や戦死した戦士のことを指しているのかと思っていましたが、そうじゃなかった。……生きた人間が死んだ人間と戦い、殺されて、敵の軍勢の一部になる。だから、ラビヌはどんどん攻め込まれていった。その結果、最後の最後で残された手段が、それだったんだと思います」
そこまで喋って、一度口を閉じる。
心底おぞましい話だった。純粋にその技術がということでもあるけれど、それ以上にそんな決断をしなければならなかった状況か。どれだけ惨憺たる戦況だったことか。
「生きている人間が戦うから、敵が増える。ならば、生きていない人間が戦えばいい」
努めて冷静にと装って語る私を見つめ、レインナードさんは完全に絶句していた。そういう反応になる気持ちは、私もよく分かる。デュナン講師の特別講義で一連の話を聞いた時、全く同じ反応をした。
「ラビヌ侵攻の終末期、彼の国の擁する兵の主戦力は人形だった。その人形は、魔術師の作り上げた素体に人間の魂を籠めたものだったそうです。おそらく、ラビヌの魔術師は敵の魔術論理を『殺したものの肉体を操る』ものだと看破した。それゆえに魂を重視し、肉体ではない物質に乗せることで敵の術にかかるのを回避したのだと思いますが――」
そこまで喋り、デュナン講師へと目を向ける。私が学んだのはここまでだ。これ以上は喋れない。学んでいないことは喋れないのが道理であり、それはデュナン講師も承知の上なのだろう。
うん、と頷き、後を引き継いでくれた。その表情は普段の気安過ぎるくらいの明るさが鳴りを潜め、ひたすらに真剣だった。
「おおよその経緯は、そんなところだと思う。――傭兵殿も、お分かりいただけたかな。ラビヌの禁術とは、人形の素体に人間の魂を籠めることで痛みも疲れも知らない兵士を作ることだった。これはキオノエイデとアシメニオスで共通する第一級秘匿情報だ。北の神が復活する、またはその信奉者が勢力を再興する。そのようなことがあり、キオノエイデが攻められた場合にはアシメニオスが全面的に加勢するという約定の上で共有された。僕の講義でも、それを教えるに足ると判断した一部の学生にしか明かしていない」
「……とりあえず、千年前の魔術師が形振り構わなさ過ぎる手段で決着をつけたってのは分かった」
「まあ、簡単に言えばそういうことだね。そして、僕はハントさんが将来有望かつ重要機密を明かすに足る魔術師であると判断しているし、冗談や酔狂で彼の国の話をする訳がないとも信じている。……つまり、それだけ確実な情報を手に入れたのだろう」
デュナン講師がじっと私を見つめる。その眼を見返して頷き、鞄の中から金属片を取り出して作業机の上に置いた。もちろん昨日に得た、あのラビヌの名が刻まれたものだ。
王冠を頂く盾と山脈を背にした狼の紋章。――今は亡き国の紋章が刻まれた欠片である。




