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探偵少女ロリータをひろう  作者: 存思院
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第20話 佐倉のカフェテリア

 伊智那は英国騎士を家において自分は予定通り調査のために家を出た。まったく、あれを上品さのために雇った父は理解できんな、などとぶつぶつ云いながら駅に向かう。


到着した最初の目的地は佐倉のカフェテリアである。古い銀行の建物だったものを、今は美術館として開放しているそこは地元では名の知れた観光名所であるが、城下町にひっそりと佇むばかりで賑わうような広さもない。吹き抜けのエントランスの、市松模様の磨かれた床を進み、奥に入るとコーヒーが飲めるスペースがある。ここが待ち合わせのカフェテリアであった。窓際二人掛けの席に座るマダムは厚化粧のよく似合う、年相応に御綺麗な御仁。伊智那が歩いていくと、整えられた髪がゆれて呟いた。

「貴女、酒臭いわね」

 一瞥もせずに手にもったハーブティーのカップを置き、文庫本を閉じた。古本とみえて色あせているそのタイトルは『唐詩概説』と読める。

「グラスワインを」

 クリアジェルネイルが迷いなくワインを示したとき、どちらともなくふと笑った。

「小川先生の本とはまた、趣味がよろしいですね」

「なに、わからないから読んでいるのよ。趣味も何も」

 いつの間にか雨が降り始めていた。

「それで、何が目的なの。突然大昔のクラスメイトから連絡がきたと思ったら、娘が会いたがっているなんて、私にも予定というものがあるのをご存知?」

「どうもすみません。お聞きしたいのは山王楓のことなのです」

 老女は眉一つ動かさない。

(まったく、母さんの高校はこんなキャラの濃いやつばかりだったのか? 老女というお歳でもないだろうが、そう呼ぶに相応しいだろうさ。古ぼけたビルに棲みつく占い師の皮を被った妖怪とかその類じゃないか。御綺麗なことに間違いはないけれども)

「実は、山王楓と筒井靖の一連の事件について知ったのですが、それで母さんの火事に対する奇妙な反応の謎も……いやそうではなく、何が云いたいのかというとつまり、この間山王楓を名乗る少女に会ったのです」

「名乗る?」

「ええ、山王楓の旅券やら学生証やらを持って、私は山王楓、などと云いますが別人です。顔が違いますから」

 伊智那は適当な話をつくって情報を聞き出すことを諦めてしまった。

「なんだか大変なことになっているみたいね。でも云っておくけど、私は関わるつもりはないわ。今となっては、というか昔から無縁のことに今さら関わるつもりも拘るつもりもないもの。でも、そうねえ、あの頃を思い出すなら、私は入谷先生が嫌いだったというのと、山王さんが最後に学校に来たとき、ストレスからか随分体形が変わったわね、と思った気がするわ」

 嘆息した。何だ。この人はだいたい知っているのだな、と。それでいて関わるつもりがないときたら、引き下がるほかあるまい。どうせこれ以上のことは知らないのだろう。

 二人は口を付けていなかったお茶とワインをひと思いに飲み干して、会計を済まして無言の内に店を出た。雨は降り続き、アスファルトの濡れる匂いが溢れていた。

「じゃあ、またね、酔っ払いのお嬢さん」

「どうもありがとうございました」

 すぐに高級そうな赤い傘は遠ざかった。お礼の言葉も聞いてないだろう。

 伊智那は去り際に渡された名刺を見た。

「――文学部――教授……文化人類学者か。生徒には不人気だが、実力のある教授、そんな光景が目に浮かぶようだな」

 得たい情報の半分を聞き、満足気に頷く。

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