日本アニメの視聴年齢制限が緩すぎる問題
アニメの視聴年齢制限は緩すぎると言わざるを得ません。日本人は幼いころから当たり前のように女性の裸やスクール水着、入浴シーン、まるで盗撮を思わせるような更衣室やトイレを使用する女性の映像などに大量に触れて成長していく環境に置かれています。下からスカートの中を見上げるような角度で下着や太ももを強調したり、極度に胸を大きく描くなど女性を性の対象としての側面しか表現しない、セクハラを当たり前のようにしているなど、アニメにおける女性の表現は、成人男性からの視点に偏り過ぎているように思われます。
まず、最初に、アメリカに引っ越した架空の中学生の体験をエッセイ風にまとめて、アニメ映画に厳格な視聴年齢制限を適用する必要があるという問題を提起したいと思います。
【架空の中学生のエッセイ】
突然、父の転勤が決まり、僕はアメリカの中学校に転校することになった。
英語に自信はなかったけれど、僕は大のアニメ好きだから、日本のアニメをきっかけに友達ができるといいな、なんて夢みたいなことを考えていた。東京オリンピックの開会式で日本の漫画やアニメは、日本を代表する文化として扱われていたし、テレビのニュースで日本のアニメキャラのコスプレをして盛り上がっている外国人を見たこともある。アニメを介して日本文化交流の架け橋になれたらいいと思ったのだ。
登校した初日、ちょっとしたスピーチの時間があったので、僕は緊張しながら自己紹介がてら趣味の話をした。
「僕は、日本から来ました。日本のアニメが大好きです。日本のアニメを知ってもらって、いっしょにアニメの話ができたらといいと思います」
その時だった。なにか一瞬、シーンとなって教室に緊張が走ったのを感じた。
たぶん実際は1秒くらいだったと思うのだが、ものすごく長いような沈黙の後に、儀礼的でまばらな拍手が起きた。先生の顔が引きつっている。後ろの方の席の生徒が顔を見合わせて、嫌な感じで笑った。前の席の生徒は明らかに不快感を表し、僕にだけ聞こえる声の大きさでつぶやいた。
「Hentai」
ヘンタイ?知らない単語だ。
僕は、何がおきたのか悟った。僕は、初日からやらかしてしまったのだ。
理由を誰にも聞けないまま、僕は帰宅した。
終わりだ。僕のアメリカでの中学生活は1日で終わった。
絶望的な気分に浸りながらも、僕は、原因を知りたいと思った。
あのスピーチのどこがいけなかったのだろう。
僕のしゃべり方に問題があったのか。それともアニメオタクだと思われて、敬遠されたのだろうか。
最初の方は、みんな普通に聞いていた。どの単語から、みんなの表情が凍り付いたのか。使った単語は、わずかだ。僕は、思い出そうとした。
そうだ。「アニメ」と言った時からだ。日本のアニメは、世界的に高い評価を受けているのにどうしてだろう。
僕は、父のパソコンで検索してみた。
Japanese Anime -日本のアニメ
顔から、血の気が引いた。なんとそれは、18禁のサイトの名前で、通信販売専門の会社だったのだ。取り扱っている商品は、当然、日本製のアニメである。
どうりで、みんな変な顔をするはずだ。
そして、もうひとつの驚きは、Hentaiという単語だった。なんとそれは、日本語由来の単語で、意味はまさしく変態、性的倒錯という意味だった。これも日本のアニメを形容するのに使われるそうだ。
次の日、僕が勇気を振り絞って登校すると、日本のアニメーションが好きだという男子に話しかけられた。
日本のアニメーションに対する評価は、日本人が思っているほど高くはないという。そもそも視聴年齢制限があって、見られる作品は少ない。彼が日本のアニメーションに詳しいのは、熱心にSNSのコメントなどで勉強しているせいだ。
彼にこんな質問をされた。
「セクハラのオンパレードで、タイトルに打ち上げ花火が入っている映画が2017年に最優秀賞は逃したものの日本アカデミー賞の優秀アニメーション作品賞をとったという事実に、君はどういう意見を持っているのか」
僕は、答えに詰まった。
彼と違って、僕はこの作品を見たことがある。毎週金曜日に映画を放映する人気のテレビ番組で、おととしの夏休みに見た。あの時はちょっと行儀の悪い子達だなくらいにしか受け止めていなかった。指摘されて、初めて気づいたが、子どもが視聴する映画であんなセクハラをやるなんて非常識だ。まるでセクハラを容認しているか、むしろ推奨しているみたいじゃないか。日本人として恥ずかしいと思った。そして、そのことに気付きもしなかった自分を情けないと思った。
日本のアニメは性と暴力のイメージを強く持たれているという。
正直、ショックだった。まさかこんなふうに受け止められているとは、想像もしていなかった。研究不足だと言われてしまえば、それまでだが、日本人と日本のアニメがこんなふうに見られているとは思いもよらなかった。
なにが『クールジャパン』だ。日本の大人は嘘つきだ。それとも、ろくに作品を見もしないで賞を与えたり、海外に推薦したりしているのだろうか。
この件があってから、僕はある意味、注意深くなった。僕は、今の学校では唯一の日本人だ。みんな僕を日本人の典型例か代表者のように記憶することだろう。そういう自覚を持って、僕は暮らしている。
アニメーション作品は、世界中で視聴される。その国を代表するという気概を持って、作品を作ってほしいと切に願う。そして、それを見る側が声を上げなければ、何も変わらない。おかしいものはおかしいと指摘する勇気を持つべきだと思う。
【解説】
補足いたしますと、上の文章は、フィクションです。まるでセクハラのやり方を具体的に教えるような映画を青少年が普通に視聴できてしまう現状を変革する必要を訴えるために書きました。
少年が父親のパソコンで検索する「Japanese Anime」という会社名は、実は、かなり昔の会社名で、違う名前に変更されています。東京オリンピック後に検索しても、出てきません。
一方、「Hentai」という単語は、実在して、意味も前述の通りです。『アメリカで日本のアニメはどう見られてきたか』によると、アメリカでは従来、漫画やアニメは子ども向けとして考えられていました。1990年代の初め頃に日本製のポルノアニメーションが輸入され、その後、日本のアニメを模倣してアメリカでポルノアニメーションが制作されるようになりました。当時、漫画アニメーションで公然と性描写をやってのけるのは、日本だけだったので、Hentaiという単語は、ポルノの「きわもの作品」をさす用語となりました。
【打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?】
「打ち上げ花火」には、スクール水着の女性の全身をゆっくりとしたカメラワークで描き出す映像や男子生徒が女性教師に執拗にセクハラする姿が描かれています。
2022年10月現在、Amazon Prime Video のレイティングはGで、誰でも視聴できる作品とされています。Netflixでは、2022年9月20日付で、レイティングが変更されました。この作品は、7+になっており、「7才以上にオススメ」となっています。
【見える子ちゃん】
最近では、「見える子ちゃん」の例があります。ホラーコメディとされており、霊的能力を持つ少女の学園もののようでありながら、女性がトイレを利用する様子を盗撮のようなカメラワークで描いたり、古くから規制を逃れるために使われてきた触手による性的表現など、どう見ても成人向けの作品ですが、深夜の時間帯とはいえ、テレビ放映されました。この作品については、Amazon Prime Video のレイティングは、7+になっており、7才以上で視聴できます。
◇視聴年齢制限について
ここで、映画や動画配信サービスにおける視聴年齢制限についてまとめておきたいと思います。
【映画の場合の視聴年齢制限】
映画倫理委員会 Film Classification and Rating Committeeとは、映画の自主規制機関です。映画の視聴年齢によって、次の4つに分類するレイティング・システムを実施しています。
①G:General Audiencee(すべての観客)
すべての観客が観覧できる映画です。「小学生以下の年少者が鑑賞しても動揺やショックを受けることがないように慎重に抑制されている」とあります。映画4区分の概要によると、「どなたでもご覧になれます」と書かれており、大人から子どもまで、誰でも見ることができる映画といえます。
②PG12
PG:Parental Guidancee(親の指導・助言)
12 歳未満の年少者の観覧には、親又は保護者の助言・指導が必要な映画です。「刺激的で小学生の観覧には不適切な内容も一部含まれている 」とされています。「一般的に幼児・小学校低学年の観覧には不向きで、高学年の場合でも成長過程、知識、成熟度には個人差がみられることから、親又は保護者の助言・指導に期待する区分である」とされています。
③R15+
R:Restricted(観覧制限)
15歳未満は観覧禁止の映画です。「主題や題材の描写の刺激が強く、15 歳未満の年少者には、
理解力や判断力の面で不向きな内容が含まれている」とされています。
④R18+
18歳未満は観覧禁止の映画です。「主題又は題材とその取り扱いは極めて刺激が強く、このため18歳未満は観覧禁止とする」とされています。
これらは、あくまで映画における分類ですが、日本においても、少なくとも映画館では、このような配慮がなされています。
【大手動画配信会社の視聴年齢制限】
①Amazon Prime Video
近年では、映画館まで出向かなくても、家庭で映画を視聴できるサービスも普及してきており、家庭内での視聴年齢制限の実施は、各家庭の事情によるところが多いと思われます。
ここで、家庭において映像を視聴する場合について、見てみましょう。大手動画配信会社Amazon Prime Videoでは、各作品ごとに視聴年齢を設けており、視聴者はその制限を設定することができるようになっています。
・G すべての年齢層を対象としています
・7 小学生以下(12歳未満)がご覧になる際は成人保護者の助言や指導が必要です
・13 一般視聴者・年長のお子さま・ティーン対象
・16 一般視聴者・年長のお子さま・ティーン・ヤングアダルト対象
・18+ 18歳以上対象
上記は、加入したときに各自で設定できる機能なのですが、実際に視聴してみると、作品ごとに数字や記号が表示される場合があります。Prime videoのヘルプというページには、各国のレーティングとの対応が一覧表にまとめられています。日本の場合には、映倫の映画の分類が用いられています。ここでは、左側にPrime videoの表記、右側に映倫の分類を表示しました。
・キッズ(すべて)‥‥‥G
・年長の子供(7+)‥‥‥(記載なし)
・ティーン(13+)‥‥‥PG12
・ヤングアダルト(16+)‥‥‥R15+
・大人(18+)‥‥‥R18+
ただし、Prime videoでは、NRという表示が出る場合もあります。日本ではこの分類に馴染みがありませんが、Prime videoのホームページによると、アメリカ合衆国、カンダ、フランス、イタリア、スペインなどでは、NR、Unrated、Rなどの表記は、すべて大人むけ(18+)の映画のことです。日本では、受け手側は全ての年齢層が視聴できるコンテンツのような印象を持ってしまいます。早急に解決すべき課題だと思います。
②NETFLIX
また、同様にNETFLIXの場合には、このエッセイを書いた当時は、次のような設定になっていました。
・キッズOK
・G
・PG12
・R15+
・R18+、大人向け
テレビで放映されたアニメーション作品の場合には、一話ごとにこの設定でした。
2022年9月20日付で、レイテイングが変更されました。新しいレイテイングは、以下のような5段階になっています。
・全年齢
・7+
・13+
・16+
・18+
また、16+、18+では、作品再生時に、作品内にみられる成人向けの表現が画面に表示されます。
例 暴力、性描写、言葉づかい…等
テレビで放映されたアニメーション作品の場合、全体での制限が表示されるようになっています。
【各国におけるTV番組の視聴年齢制限】
前述した視聴年齢制限は、映画についてでしたが、実は、海外では、テレビ番組についても視聴年齢制限が設けられている国が多数あります。さきほど引用したPrime videoの対応表には、各国のテレビ番組のレーティングも表記されているので、これをくわしく見てみたいと思います。
英国やドイツ、イタリア、スペイン、メキシコ、オーストラリア、シンガポール、ブラジルなどは、映画とテレビ番組で同じレーティングが用いられています。
アメリカ合衆国は、映画とテレビ番組と少し異なる基準を設けていますが、その違いは、ごくわずかで、映画ではティーン(13+)がPG13とされていたものがない代わりに、テレビ番組では、TV14があります。いずれもヤングアダルト(16+)というレーティングはないので、13歳の当事者にしてみれば、テレビの方が実質的には少し厳しいという印象を持つかもしれません。
フランスの場合、映画とテレビ番組の差は、ごくわずかで、映画ではキッズ(すべて)にUというレーティングがありますが、テレビ番組にはありません。ティーン(13+)の映画のところは、12という数字があるだけなのですが、テレビ番組のところには、10、12というふたつの数字が併記されています。それより上の年齢層向けにヤングアダルト(16+)と大人(18+)があるのは、映画とテレビで同じです。ちなみに大人向けの表記は、18、NR、Unratedの三種類となっています。
ここに記載されている16か国のうち、少なくとも10か国については、テレビ番組のレーティングがされています。
【TV番組の視聴年齢制限がないと何が問題か】
ネットが普及し、テレビ番組として制作された作品が、家庭で視聴される機会が増加することによって、新たに生まれた問題もあります。
典型的なのは、自衛隊ポスターに使用されたことで話題になった「ハイスクールフリート」のような事例です。2022年10月現在、Amazon Prime Videoでは、Gになっており、誰でも視聴できる状態になっています。制作された当初は、深夜の時間帯に放送され、当然、視聴するのは大人であると考えられてきたものが、ネットサービス会社などによって配信されるときには、視聴年齢制限がないので、誰でも視聴できるということです。かわいらしい絵なので幼児や児童が視聴する可能性もあると思います。保護者がいっしょに視聴できれば、途中でやめさせることもできますが、いつでも同伴できるとは限りません。子どもたちがよくわからないうちに、性的コンテンツを延々と見続けるという事態も起こり得ます。
ネットにおける映像の配信会社は、視聴年齢制限を設けていますが、アニメーション作品に関しては、実写作品に比べて非常に緩やかと言わざるを得ません。直接、表現していないのだからいいという判断のようですが、実写であろうがアニメであろうがその内容が伝わるという点では、同じではないでしょうか。かわいらしく描かれたキャラクターは、子どもたちを引き付けます。少女たちの成長を描く学園もののような体裁をとっていたら、子どもたちは、無自覚なままに性的コンテンツを長時間、見続けてしまうかもしれません。アニメーション作品の視聴年齢制限に関しては、もっと厳格に適用していく必要があるでしょう。
教育は学校だけが担うのではありません。社会全体が子どもたちを育てるのです。子どもたちが健全に成長できる環境を整えることは、大人の責任です。
参考資料
◆無批判なセクハラ描写に注意 アニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
https://virtualgorillaplus.com/anime/fireworks-side-or-bottom-sexual-harassment/
◆アメリカで日本のアニメはどう見られてきたか?草薙聡志 徳間書店 2003年
ISBN4-19-861705-8
◆レーティング Prime Video
https://www.primevideo.com > help
◆Netflix、国内でのレイティング表示を変更 2022年9月20日
https://about.netflix.com/ja/news/maturity-ratings-japan
◆Netflixの映画やドラマの年齢制限
https://help.netflix.com/ja/node/2064/jp
◇警告◇
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