君だけの笑顔で
ある国をまとめる王様、の息子"マイル"という名の王子がこのお城に住んでいました。
しかし城下町の人たちは
「王子様はどんな顔をしていらっしゃるのかしら…」
「なんだか俺、苦手だな…」
王子は顔を洗う時以外、常に仮面をつけていました。そのため町の人たちからはあまりよく思われていませんでした。
「ふぅ…」
王子はもう慣れていました。でもそんな王子にも唯一の親友がいて、名を"エール"と言い、王子が仮面をしていなくても心許せる親友でした。二人はとても仲が良く毎日のように会っていました。
「こんな僕と一緒にいてくれてありがとね。」
「なにを今更。マイルは素敵な人じゃないか。」
これはエールの口癖でマイルのことを褒めてくれるのでした。
「そんな事ないよ。僕は、僕の顔が醜い。それを隠すために仮面をつけているからね。」
「そんな風に思わないでよ…」
エールは独り言のように小声で呟きました。
「じゃあそろそろ僕帰るね。」
「うん。また明日ね。」
すっかり真っ暗になった道をエールは帰っていきました。
少しして、星が輝く夜になりました。
「そろそろ寝るか…よいしょっと…」
そうそう、マイルが仮面を外す時はもうひとつあります。それは寝る時です。王様は知っていました。マイルの寝顔はすごく可愛いのです。そんなこと知らないマイルは誰にも見られないだろうと仮面を外すのです。
夜中。 ホホー… バサバサバサ…
何かがマイルの部屋にやってきて、用が済むと颯爽と帰っていきました。
朝日が昇りマイルが起きました。
「え!?ない…ない…!どうしよう。そんな…。…そうだエールの所に行こう。」
なんと傍に置いておいたマイルの仮面が、どうやら寝ている間に無くなってしまったのです。お城中探しても無く、エールに相談することにしました。マイルは大きなフード付きの服の着てそれを目深に被り、更に帽子も被ってお城をこっそり抜け出しました。
「エール!僕だよ!マイルだよ!」
エールは驚いた顔ですぐに出てきてくれました。
「マイル!?どうしたの?すごく焦ってるけど…」
「実は…」
マイルは朝あったことを一生懸命話しました。
「そっか…じゃあ僕と外の方探しに行こうか。」
「わかった。エールが一緒なら…」
二人は外の森にマイルの仮面を探しに行くことにしました。
「僕、こんな所初めて来たよ。」
「マイルは王族だからね。森は危険もあるけどとっても楽しいよ。動物たちもすっごく優しいんだ。」
エールには特技がありました。大抵の動物たちと話せるのです。森が遊び場のエールにとって自然と身についた特技でした。
「あ、ねずみさん。実はこんな形の仮面を探してるんだけど…」
「チューチュー。チューチュチュチュー。」
「ふむふむ。そうなんだ!ありがとうねずみさん。」
エールはねずみに仮面のある場所を聞きました。ねずみはなんて言ったんでしょう。
「マイル。ねずみさんが言うにはフクロウさんが持っていったのを見たって。杉の木をあと二本見た所の巣にいるって。」
「エールってすごいんだね。」
親友の新たな一面を見たマイルはさらにエールが大きく見えました。
「一本…二本…」
二人は杉の木の本数を数えて行きました。
「ここだね。あのーフクロウさん!」
「ホーホー。ホーホホー。」
エールとフクロウは何か話しているみたいです。エールは森で有名みたいですね。
「ありがとうフクロウさん!…マイル!取り返してきたよ!」
「本当に!ありがとう、エール。」
「フクロウさんはね、夜中の散歩中に綺麗なものを見つけて、たまたま持ってきたのがマイルの仮面だったんだって。悪気はなかったみたい。ごめんねって。」
「そうだったんだ…でも戻ってきてよかった。」
マイルはホッと胸を撫で下ろし、早速仮面をつけようと帽子を取りました。
「あのさ…マイル。」
「なに?」
「マイルは素敵な人だよ。仮面なんかつけなくても僕はそのままのマイルの方がもっと素敵だと思うよ。」
「でも…僕の顔は醜い。人に見せるような容姿はしてないんだよ。それに僕に自信なんてない。」
マイルは初めて胸の内を明かしました。
「それでもさ、マイルの笑顔は本当にキラキラしていてこの国を明るく照らす太陽みたいなんだよ。どれだけマイルが醜いって感じてても、泣いてる顔も笑ってる顔も怒ってる顔も僕はその表情一つ一つが宝石みたいだと思ってるよ。…だからこれからはだんだんでいいから素顔でいて欲しい。」
「そうなんだ…僕、ずっと自分なんかなんで生まれてきたんだって思ってた。でもこの仮面をつけていると、少しだけ自分でいられるような気がして、なんだか落ち着いていたんだ。でもエールがそういう風に言ってくれて心の底から嬉しいって今思った。エールじゃなかったら嬉しくなかったかもしれない。ありがとう。」
マイルの涙が地面にポタポタと落ちていき、土にしみを作りました。
「…もうこの仮面はいらないね。」
バキンッ。マイルは自分の仮面を踏みつけて、粉々にしました。
「いいの…?」
「うん。もういいんだ。僕は前を向いて生きていくよ。」
「そっか。じゃあ帰ろうか。」
「そうだね!僕お腹すいたな〜」
「この先に美味しいリンゴがなっているんだ。寄り道してこうか!」
「うん!」
前を向いて駆けて行った、マイルの笑顔は太陽よりも何倍も輝いていました。