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5話 先輩に復讐します!

「昨日はよくもやってくれましたね、先輩。今日は復讐をしにきましたよ」


 俺が日比乃に肩揉みをしてやった翌日の放課後、パソコン室に現れた彼女はそう言った。


「お、そうか」


 俺は軽く流して、記事の作成を続ける。

 今日はなんか調子よく仕事ができているから、あまり邪魔されたくないのだ。


「なんか軽くないですか!? なんでそんな適当に流すんですか!」


「だって今相手してる暇ないし」


「そこまで忙しくないはずですよね。記事の締め切りまであと二週間ありますし」


「確かにそうだけど、俺は今集中してるんだよ。邪魔しないでくれ」


「いやです! 邪魔します! だって今日は復讐のために来たんですよ! 先輩の都合とかおかまいなしです!」


 うーん。都合悪い時に来てしまったなあ。

 なんで俺が調子いい時に限ってこいつが妙に絡んでくるのか。


 まあ昨日の俺の行動が原因だから、こいつを一概には責められないけど。


「わかったわかった。じゃあある程度のとこまで終わったら相手してやるから、それまで大人しくしててくれ」


「大人しくしませんよ? 先輩の都合はかまわないって言ったじゃないですか」


そう言って日比乃は俺の後ろにやって来た。


 もちろん俺も馬鹿正直にそのまま日比乃に対して無防備な背中を向けておく必要はない。

 椅子を回転させて――パソコン室の椅子は背もたれのない、キャスターが付いて回転するタイプの椅子だ――後ろの日比乃へと振り返る。


「何をする気だよ。またこの間みたいに後ろから抱き着く気か」


「今日はそれはしませんよ。私がするのはもっと別のことです」


「別のこと?」


「ええ。私は考えたんです。昨日の復讐を果たすには、先輩に対して何をすればいいか」


「まず復讐なんてものをしないで欲しいんだが」


「却下します。私は昨日屈辱を味わわされたんです。この恨みは必ずはらします」


 やっぱり止まる気はないか。


「復讐とは言っても、やばんなことはしませんよ。先輩は男の人ですからね。普通に喧嘩をしても、私が勝利することはできません。そこで私は先輩の弱点を攻めることにしました」


「弱点?」


「そうです。弱点です」


 日比乃は息を大きく吸い込んだ後、ビシッと俺の方を指さし、日比乃は告げた。


「ずばり、先輩は耳が弱い!」


「耳が弱いって。どういうことだよ」


「ふっふーん。この前先輩の耳に息を吹きかけた時の反応を私は忘れていませんよ。ずいぶん敏感に反応されていましたねえ」


 あー。あのときか。後ろからこいつが抱き着いて来たとき。

 確かに俺はあのとき耳に息を吹きかけられて、「あふん!」なんて声を出して反応してしまった。


 こいつはそのことを覚えていたのだ。

 ずいぶん細かいことを覚えているものだ。


「先輩は耳に息を吹きかけられて敏感に反応してしまう人だということは既に判明してるんですよ! 言い逃れしたって無駄です!」


 日比乃がどや顔で俺に告げる。


 その顔に多少イラっと来るが、しかし言っていることは間違いではない。

 確かに俺は耳が弱い。

 あのとき息を吹きかけられて反応してしまった。

 それは事実だ。


「まあ。そうだな。確かに俺は耳が弱いのかもしれないが、それでお前は何をするんだ?」


「今から先輩の耳に息を吹きかけます」


 日比乃は即答した。


「いや、させると思うか? わざわざそんなこと」


「させてくれなければ今日はずっと先輩の邪魔をするだけですよ? それでもいいんですか?」


 よくないな。

 このまま残りの時間ずっと邪魔されるのは困る。せっかく今日は調子よくかけているのだ。進められるうちに進めておきたい。

 そして家で続けようとして帰ろうとすれば、帰宅を邪魔されそうな気がする。


 ならばここはあえてこいつの言うことを聞いて、こいつがある程度復讐とやらを終えて満足した後に記事の作成を続けた方がいいのではないか?

 下手に抵抗していた方が、ずっと面倒なことになりそうだ。


「わかった。いいぞ。」


 俺は日比乃の案に乗ることにした。


「その代わり時間を決めろ」


 何も向こうのペースに乗せられることはない。

 こちらにも条件を付けさせてもらう。


「えー」


 日比乃は不満そうだったが、しかし自分の要望が通ったこともあってか渋々ながらも頷いた。

 決められた時間は十五分。

 それが終わったら、大人しく俺の邪魔をしないこと。

 そう決まった。


 さて、いよいよ耳に息を吹きかけられるわけだが。


 俺にはもちろん秘策があった。

 秘策と言っても何も特別なことではない。

 ただ覚悟していればいいだけだ。


 耳に息を吹きかけられるなんて、いくら耳が弱くても耐えることができる。

 前に息を吹きかけられて反応してしまったのは、不意打ちだったからだ。

 あらかじめ何をされるか知っていれば、耐えられる。


 ふふふ。日比乃。

 当てが外れたな。

 いまさらお前程度の策にあたふたする俺ではない。

 先輩として、格の違いを見せつけてやろうではないか。


「じゃあいきますよ。先輩」


「ああ、いいぞ」


 馬鹿め。

 お前はこれを復讐だとか言っていたが、復讐するときにいちいち許可をとる奴なんているものか。

 こんなものはただの児戯にすぎない。


 日比乃は俺の後ろに座り、体を寄せて耳へと口を近づけて、耳に息を吹きかけ――


「はむはむ」


 なかった。


「あひぃあ!」


 思わず俺は叫び声を上げてしまう。


「ちょっ! お前!」


「はむはむはむ」


 日比乃は俺の耳に息を吹くことなんてせずに、俺の耳をはむはむとほおばっていた。


 話が違うじゃないか!

 事前に申告していたものと別物が出てきたぞ!


「ふっふっふ。引っかかりましたね先輩。私が耳ふーなんてその程度のことで済ますわけないじゃないですか。どうせ息を吹きかけられる程度なら覚悟していれば我慢できると思ったんでしょう? 甘いですよ先輩」


「なんだと!」


「あれはブラフです。甘く見て調子に乗った先輩が、私に無防備に耳を差し出させるための嘘ですよ。まんまと引っかかって下さいましたね」


 くそ! 

 つまりさっきまでのは俺を油断させるための策略か!

 俺はこいつの策にはまってしまっただけだったのか!


 驚いた俺は日比乃の耳はむから逃れようと体を動かそうとするが、しかし失敗した。

 日比乃が後ろから俺に抱き着いて離さないのだ。

 騙されたと知った俺が逃れようとしてもがくのをあらかじめ予想していたのだろう。


 ていうか今日は抱き着かないって言ったじゃないか! それも嘘かよ!


「くそ、はなせ!」


「はなしませんよ先輩。昨日私が受けた屈辱を晴らすために先輩にはこのまま耳をはむらせてもらいますからね」


 日比乃は抱きしめる手を強くする。

 ぎゅううっと強く抱きしめられ、俺に日比乃の体が密着してしまう。


 すると、背中に柔らかい感触が感じられる。

 その感触に、幸せな気分になりつつも動揺してしまう。


「お、お前! マジで離せ。また先生来るぞ!」


「今日は職員会議があるので来ませんよ。リサーチ済みです。万が一にも誰か来ないようにさっき鍵もかけときました」


 なんだこいつ。今日はやけに準備がいいな!


 その間にもまた日比乃ははむはむを続ける。

 このままだと、くすぐったさと気持ち良さでどうにかなってしまいそうだ。


「先輩。まいりましたか?」


「まいった。まいった。降参だ」


 俺は大人しく負けを認める。


「もう私にあんなことしませんか?」


「しないしない」


「私がやめて欲しいと言ったことはすぐやめますか?」


「やめるようにするよ」


「私と付き合ってくれますか?」


「え?」


「あ、い、いえ。すみません。今のはミスです。時期尚早でした」


 なんだ。ミスか……。

 残念だ。

 待て残念ってなんだ?


 こんがらがってきた。

 だめだ。色々混乱している。

 なにも考えられなくなりそうだ。




「いいですか?」


 混乱している俺をよそに、日比乃は気を取り直して俺の耳で囁いてくる。


「私が先輩を気持ち良くするんです。先輩が私を気持ち良くするんじゃないんです。そこらへんを間違わないようにして下さい」


「わ、わかった」


 とりあえず、俺はうなずく。

 すると日比乃は俺の返事に満足したかのように得意げに頷く。


「ふふん。それでいいんですよ。先輩は私のやることにドキドキしていればいいんです」


 日比乃は俺に抱き着いたまま、囁き続ける。


「私のやることにドキドキして、私のやることに一喜一憂して、それで――」


「先輩は、私のことばかり考えていればいいんですよ」


 俺は混乱していたが、その言葉ははっきりと聞こえた。

 そして、頭の中に印象深く残り続ける。


 その言葉の意味を日比乃に訊きたかったが、しかし混乱していた俺にはできなかった。



 その後日比乃が満足するまでこの耳はむは続いた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 嘘や悪戯でここまで体張る子はいないでしょう、常考。 後輩ちゃん、先輩大好きかよ。 余計な人はいらないので、もうずっと二人だけで お楽しみしていてほしいです。 それで末永く爆発爆発!
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