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ピアニスト玲子の奇跡(2)  作者: でこぽん
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6.バラカトの苦悩

 イブラハムのレストランが終了する時刻を待って、バラカトは再びイブラハムの会社を訪れた。

 バラカトは、イブラハムの水産大臣就任を願っている。

 スラノバ国以外の多くの国では、一般に大臣の椅子を得るためには事前運動を行う。場合によっては、それ相当の賄賂(わいろ)を決定者に与えることもある。だが、スラノバ国においてバラカトは違っていた。その理由は、彼が国民のことを第一に考えているためである。

 バラカトは、イブラハムの言葉を思い出した。

『俺は、スラノバ国の子供たちに、ひもじい思いをさせたくない。子供たちの未来に希望を持たせたい』

 その言葉は、バラカトの心に、深い印象を与えた。

(イブラハムならば、国民のために、懸命に行動してくれる)

 バラカトは信じていた。

 会社の受付に着くと、誰もいない。

「こんばんは、イブラハムさんはおられますか?」

 大きな声で挨拶すると、ハッサンが出てきた。

「あっ…、あなたはパラカト大臣…」

 ハッサンは、すぐにレストランへバラカトを案内した。

 レストランでは、みんなが今から夕食を食べようとしていた。

「バラカトさん。久しぶりです。夕食はまだでしょう?」

 イブラハムはそう言うと、スワイダーにバラカトの分を作るように目配せした。

 スワイダーも慣れたもので、あっという間に一人前の料理を装い、バラカトの前に置いた。

「みんなで食べたほうがおいしいからね!」

 イブラハムは、体裁も何も気にしていない。

 夕食の内容を見ると、イブラハムも他の社員たちも、皆、同じ料理である。もちろん、バラカトに提供した分も同様に、みんなと同じ料理だ。

「それでは、ありがたくいただきます」

 バラカトは、みんなと一緒に食事を始めた。

「ところで、本日のバラカトさんの用件は、この前の返事を聞きに来られたのですか?」

 食事をしながら、イブラハムが尋ねた。

「もちろん、そうです。イブラハムさんの返事を聞きたくて、訪れました。私は、イブラハムさんに水産大臣になってもらいたい。今でもそう思っています」

 レストランには、近頃雇われた社員も多い。彼らは、農政大臣と水産大臣を兼務しているバラカトの顔を見て驚き、さらにバラカトの話を聞き、ざわめいた。

「バラカトさん、俺に水産大臣として期待することは何ですか? この前は、スラノバ国国民のためになることを考えてくれれば、それでかまわないと言ってくれたけど、もう少し具体的に説明してくれませんか?」

「国の子供たちに、ひもじい思いをさせないように、魚を安く市場に提供してもらえれば、それで十分です」

 バラカトは、フォークを皿に置き、再び話し出した。

「スラノバ国は、その多くが山国のため、漁業は、この周辺の漁村のみで営んでいます。漁獲量も少ないため、遠く離れた農村には、魚介類が供給されません。国中に安い魚を供給し、子供たちが笑顔で魚を食べられるようにしてください」

 バラカトの説明は、まさにイブラハムの会社の方針と同じだった。

「バラカトさんの考えは、俺たちの会社の方針と同じだ」

 思わず、パウロがいった。

「そうだよ。確かに子供たちに安くておいしい魚を提供することは、会社の考え方と一致している」

 スワイダーが、パウロにあいづちをうつと、

「船長、断る理由は全くないと思う!」

 と、ハッサンが後押しした。

 ハッサンもパウロもスワイダーも、バラカトの考えに共感を持っている。

 イブラハムも、そう感じていた。会社の方針と同じことを水産大臣として行う。それは大変魅力的である。だが、イブラハムには、まだ疑問がある。

「バラカトさんが期待されることは、全く申し分ありません。だが、失礼ですが、ひとつ教えてください」

 イブラハムはスプーンと皿を横に置き、改まった姿勢をとった。

「バラカトさん。あなたが農政大臣になろうと思った理由を教えてください」

 突然の質問だった。

 イブラハムの質問に対しバラカトは、しばらくの沈黙の後、静かに語りだした。

「全ての国民に、不足なく食べ物が行き渡るようにしたい。ただそれだけの理由です」

 バラカトは、落ち着いて回答した。しかも、その答えは、イブラハムに水産大臣として頼む内容と同じだった。

 しかし、イブラハムは納得していない。

「バラカトさん、失礼ですが、それだけではないですよね。農業改革を行い、内戦で夫や子供を失った人たちに、生きる力を与えるためだったのではありませんか?」

 イブラハムの質問は、バラカトにとって想定外だった。

「どうして…、そのようなことを尋ねるのかね?」

 沈着冷静なバラカトの顔が、驚きの表情となった。

「バラカトさんが作成した農業基本法を、読ませていただきました。それによると、母子家庭の農家や子供を失った老夫婦の農家への補助の制度が、しっかり記載されています」

「……」

 バラカトは無言だ。

「さらに、バラカト大臣が文字通り心血を注いで実行した灌漑(かんがい)工事は、レアル村を起点とし、次はココゾ村でした。レアル村やココゾ村は、内戦による農民の被害が、最も大きかった場所ですよね」

(…レアル村…)

 イブラハムの説明に、バラカトは、昔のレアル村での出来事を回想した。


*****


 内戦が始まる以前のレアル村は、緑豊かで明るい歌声が聞こえてくる農村だった。

 しかし、内戦で多くの村人が死傷し、田畑も焼け野原になってしまった。

 その内戦当時、革命軍の作戦を指揮したのがバラカトだった。

 バラカトはそのとき、革命軍の軍師だった。彼は、王国軍を殲滅(せんめつ)すべく、王国軍の部隊をレアル村の奥地におびき寄せた。その後、風上から火を一斉に放ち、王国軍に多大な損害を与えた。

 バラカトの作戦は、王国軍だけを焼き尽くす計画だった。

 しかし、突然風向きが変わり、王国軍だけでなく、村の多くの家屋にも火が燃え広がった。そのため、多くの村人が犠牲となった。

 結果として、この村での戦闘は革命軍が圧勝した。だが、バラカトの心は複雑だ。

 この村での戦闘で、バラカトは『氷の血の軍師』と呼ばれるようになった。相手を皆殺しにし、地域住民の犠牲を顧みないバラカトの作戦は、王国軍や周辺諸国から恐れられた。

 当時のバラカトは、戦闘に勝つことが最優先だった。だから仲間の犠牲を最小限に抑えるためならば、どんな非難を浴びようとも、気にしなかった。

 戦闘中、綺麗ごとを言っていたのでは、王国軍に比べ圧倒的に装備が劣る革命軍は、瞬時に殺られてしまう。だからバラカトが指揮する戦いは、事前に作戦を入念に練り、火攻めや水攻めなどの戦術を、有効に用いていた。

 しかし、モナ女王に出会い、モナ女王の国民に対する深い愛情を知ることで、バラカトの考え方は、全く変わってしまった。

 モナ女王が推し進める新政府樹立において、バラカトは、積極的に活動した。国民の平等や戦争の放棄をうたった憲法の草案は、バラカトによって作成された。

 当時の誰もが、バラカトは副首相になると予想していた。それだけ新政府樹立において、バラカトの活躍は目覚ましかった。

 しかし、皆の予想に反して、バラカトは農政大臣を希望した。しかも農業基本法の制定と灌漑工事の実施という、苦労が多く見返りの少ない仕事ばかりを担当した。

 バラカトは、レアル村での出来事を忘れていなかった。戦争で家族や家を失った人たちの悲痛な叫び声は、今も彼の記憶に残っていた。

 そのため、農業基本法を制定し、母子家庭や働き盛りの者が不在な農家に対する補助を、行きわたらせた。また、レアル村で灌漑工事を実施し、レアル村を再び緑豊かな村にしていこうと決意した。


 レアル村での灌漑工事の一日目の朝、驚くべきことが発生した。誰一人として、村人が灌漑工事に協力しなかったのである。

「開始時間は正しく連絡したのですよね?」

 パラカトが農政省の職員に確認した。

「はい。全世帯を回り連絡しました」

 農政省の職員が、パラカトに答えた。

 今回の灌漑工事に向けて、事前に担当の職員が農家の全世帯を訪れ、灌漑工事の目的と達成した後の農作物生産の増加数を説明した。この工事が完了した後は、誰もが生活が豊かになることが分かっていた。

 しかし、それでも、誰一人として協力しようとする者は、いなかった。

 なぜならば、村人は、内戦でのバラカトの所業を知っていた。多くの村人を焼死または殺戮し、家を焼失させた張本人の名前を、今も憎しみを込めて覚えていた。そのバラカトが指揮する灌漑工事が、いかに素晴らしい目的であろうとも、村人は決して協力する気になれなかった。

 人間は理論でなく感情で動く動物である。そのことをパラカトは忘れていた。


 工事開始時間が過ぎ、誰一人村人が集まらないなか、バラカトは職員たちに告げた。

「開始時間だ。私たちだけでも工事を始めよう」

 灌漑工事は、バラカトを始めとする数名の職員たちで細々と開始された。

 夕方まで汗まみれになりながら、それでも一メートル分の用水路ができた。

 次の日も、村人は誰も参加しない。

 バラカトと数人の職員は、その日も黙々と作業を行った。

 作成した用水路は、二メートルの長さになった。

 三日目も同様だった。

 その日も、バラカトと数人の職員だけで作業をした。

 四日目の朝、二百人の村人が集まった。

 しかし、集まった村人の目的は、手伝いのためではない。バラカトに抗議をするためだった。

 レアル村の村長アムダが、代表してバラカトに告げた。

「バラカトさん。村から出て行ってくれ。あなたが昔、革命軍を指揮してこの村に被害をもたらしたことを、村の者はみんな恨んでおる。『当時は戦争だったから仕方がなかった』と、あなたは思っているだろうが、わしらは誰一人として、『仕方ない』で済ませることはできないと感じておる」

 アムダ村長の後ろでは、多くの村人がバラカトを(にら)んでいた。

「アムダさん。私も『仕方ない』で済むとは、思っていません。私がいることで皆が迷惑でしたら、私は村から離れます。但し、灌漑工事が終了した後です。それまでは、ご迷惑でしょうが、ここにいさせてください」

 バラカトは説明後、工事を再開した。

 集まった村人は、バラカトが村から出て行こうとしないので、不満が(つの)った。

「出ていけ」

「出ていけ」

 村人から『出ていけ』のコールが何度もおこった。

 それでもバラカトは、手を休めず工事を続けた。

 すると、どこからか石が飛んできた。

 石はバラカトの額に当たり、額から血が流れ出した。

「石を投げたのは誰だ!」

 バラカトの額から流れ落ちる血の量が、あまりにも多いため、バラカトと一緒に作業していた職員が、石を投げた者を捉えた。

 石を投げたのは、背が低く背中が折れ曲がった老婆だった。ほんの少しでも殴ろうものならば骨折しそうな、弱弱しい歩き方をしていた。

 老婆は目に涙を浮かべて、

「あんたが、私の息子を殺した。あんたがいなかったら、息子は死なずに済んだのに…」

 そう言うと、老婆は大声で泣き出した。

「わああああああああああああ」

 老婆の声は切なく響き渡った。

 バラカトは、老婆を捉えた職員に対して、

「おばあさんの手を放しなさい」と告げ、

 泣きじゃくっている老婆に対して、

「本当に申し訳ありません。息子さんの命を奪ったのは私です」

 と、深々と頭を下げた。

 老婆は、頭を下げているバラカトに向かって、

「お前のせいで…お前のせいで息子は…」

 と、叫びながら、何度もバラカトの顔を殴り続けたが、やがて殴るのをやめ、再び大声で泣き出した。

 アムダ村長が、泣き続けている老婆を抱きかかえ、言った。

「バラカトさん、村の者は、全て戦争が悪いことを知っている。法律上、あなた個人には罪が無いことも、みんな知っている。だが…、わしらは、実際に家族を失っている…。あなたを恨まずには、おられない…。寛大な気持ちが無いとか、理性が無いとか言われると思うが、それでも、誰かを恨まずには、生きておれんのじゃ」

「……」

 バラカトは、無言だった。彼は、アムダ村長の言葉の意味を、十分に理解していた。

『誰かを恨むことで生きながらえている命がある』

 それが大変悲しい人生であることも、パラカトは知っていた。

 バラカトは手拭いで額を巻き、血止めをすると、黙々と作業を続けた。

 すると、突然、村人とバラカトとの間に一人の女性が割り込んできた。

 女性というよりも少女と言ったほうが良さそうな年齢だ。女性の後ろには、屈強そうな護衛もいた。

 女性は村人に向かって大声で語りだした。

「みなさん、お願いします。灌漑工事が終了するまで、バラカトさんを村から追い出さないでください」

 なんと、その女性はモナ女王だった。

 実際は新政府樹立と共に王政が廃止されたため、モナ女王としての権限は無くなったが、国民は尊敬の念を込めて、今も『モナ女王』と呼んでいる。

 モナ女王は慈愛に満ちた顔をしている。身長は低く、髪は三つ編みにしている。驚くことにモナ女王は、まだ十六歳だった。

 十六歳といえば、高校二年生の年齢である。

 若いにもかかわらずモナ女王は、王位を継承されたその日にスラノバ国の内戦を終了させた女王として、多くの国民から信頼されていた。

 また、自分が不利になると分かっていながら王国を解体し、スラノバ国に議会制民主主義を樹立したのも、モナ女王だった。

 モナ女王の行動は、全て国民の幸せを第一に考えていることを、みんなは知っていた。

 だから大人や老人も、こぞってモナ女王を尊敬している。

 そして、こんな片田舎の村に女王がやって来るとは、誰もが予想していなかった。

「モナ女王だ!」

「本当だ。モナ女王だ」

「こんな片田舎に来てくださるなんて、信じられない」

 多くの村人がつぶやいた。そして驚いた。

 驚く村人の前でモナ女王は、

「バラカトさんを農政大臣に推薦したのは、私です。バラカトさんを非難されるのでしたら、私にも、その罪はあります」

 と、バラカトを守り、さらに、

「この灌漑工事が終了すると、レアル村の農産物生産量が、およそ二倍になります。レアル村の人たちを幸せにするために、スラノバ国での灌漑工事の起点を、ここにするよう決めたのは、バラカトさんです。どうか、そのことだけはわかってください」

 モナ女王は、村人に対して深々と頭を下げた。

 仮にも一国の元女王が、村人に対して頭を下げている。信じられない光景だった。

 村人は、息をのんだ。

「モナ女王、頭をあげてください。この村の者は、皆、女王を尊敬しています」

 アムダ村長は、モナ女王のための椅子を、若者に用意させようとした。

 だがモナ女王は、手を振って椅子の用意を制止した。

「それでは、灌漑工事が終了するまで、バラカトさんを、村から追い出さないでいただけるのですね?」

「いや…、それはちょっと…」

 アムダ村長は、断る理由を、なんとか見つけようとしていた。だが、大恩あるモナ女王に対し、断ることなどできるはずがない。アムダ村長は、口をもぐもぐさせていた。

 すると突然、

「工事が終わるまで、いてもいいよ」

 声の主は、さっきまで泣いていた老婆だった。

 老婆はさらに、村の皆に向かい、

「モナ女王の頼みならば、誰も断れないだべ。みんな、バラカトを早く村から追い出すために、灌漑工事を手伝ってけろ。一日でも早く、バラカトを村から追い出したいから」

 そう言って(くわ)を振るい、灌漑工事の作業を手伝い始めた。

「そうだ。モナ女王の頼みならば、おらたちは断れない。せめて灌漑工事を一日でも早く終わらして、バラカトを村から追い出すことだけが、うちらの希望だ」

 多くの村人が口々に叫んで、灌漑工事を手伝い始めた。

 バラカトのもとで一緒に作業をしている職員たちは、この様子を見て村民の前に走り寄り、

「みなさん、こちらに集まってください。作業の段取りを説明します」

 職員たちは、作業の仕方を村人に説明し、班の編成や作業分担を決めた。

「皆さん、ありがとうございます」

 モナ女王は、再び村人へ向かって頭を下げた。

 その日は、モナ女王も作業を手伝った。

 手伝うといっても作業者名簿をつくり、作業者一人一人にマテ茶を手渡しただけだが、作業者名簿を作る際、作業者の名前と顔を記憶した。そしてマテ茶を渡す際、必ず村人一人一人に話しかけた。

「アスワンさん、手伝ってくれてありがとうございます」とか、「アリーさん、もうすぐこの村は豊かな村になりますよ」などだ。

 モナ女王から話しかけられた村人は、皆、感激した。誰もが尊敬するモナ女王から名前を呼ばれたのだ。しかもマテ茶を手渡しで受け取った。それだけで、みんなは前向きに灌漑工事を手伝うようになった。


 人間とは不思議なものである。

 昨日まで村人は、灌漑工事を手伝うことを拒否していた。そして先ほどまでは、パラカトを早く村から追い出すために、仕方なく灌漑工事を手伝っていた。だが今は、モナ女王のために一生懸命作業をしている。誰もが前向きに作業をするようになった。

 指導者しだいで、作業に取り組む意欲が大きく変わることを、皆は改めて知った。


 職員たちは、てきぱきと作業を村民に指示し、また、村人から発生した問題の相談を、受けていた。

 しかし、その作業指示や問題に対する相談の対応方法は、実はバラカトが職員に前もって説明したものだった。

 だから職員たちは、自分たちが手におえない問題が発生すると、村人に隠れてバラカトに相談していた。

 アムダ村長は、その事実を分かっていたが、知らないような顔をしていた。

 レアル村での灌漑工事は、村民の協力で、三ヶ月で終了した。

 工事終了日の前日、バラカトは人知れず村から去った。

 工事終了後、完成の祝賀会が催されたが、そこにはパラカトの姿は無かった。


*****


 話をイブラハムのレストランに戻す。

 イブラハムの質問に対して、バラカトは、

「そのとおりです。私は、内戦で多くの人々の命を奪いました。多くの家族に不幸をもたらしました」

 その後、うつむき加減で説明を続けた。

「だから今は、戦争で傷ついた人たちが少しでも元気になるようにしています」

 バラカトが説明を終えた後、しばらく沈黙があった。

 その沈黙を打ち破るように、

「バラカトさん。俺もあなたの考えに賛成だ。俺は水産大臣になる。水産大臣になり、あなたを応援したい」

 と、イブラハムは元気よく返事した。

「俺は、漁業で国民を幸せにする。バラカトさんは、農業で国民を幸せにしてください」

「イブラハムさん、ありがとう。これで肩の荷が少し降りた気分です」

 バラカトは嬉しそうに顔を上げた。

「でも、バラカトさん。もう過去のことを振り返らず、前を向いて、スラノバ国の未来、みんなの幸せだけを考えましょう」

 イブラハムは、まるでバラカトの心の中を読み取ったかのように励ました。

(イブラハムは私の心が読めるみたいだ…)

 バラカトは心の中でつぶやいた。

 いずれにしろ、バラカトに心強い味方ができた。

「早速、グレン首相に連絡します」

 バラカトはそう言いながら電話をした。

 

 パラカトの依頼を受けたことで、イブラハムの行動範囲は加速度付きで大きく広がっていくことになる。やがてそれはイブラハムを海商王へと導くことになる。

 だが、このときのイブラハムは、自分自身が海商王になるとは思ってもみなかった。


 スラノバ国の夜空には、多くの星々が明るく輝いていた。


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