01神還師とは? Q01~Q05
Q01:神還師って何?何をする人たち?
『かみかえし』と読むが『しんかんし』とも言う。迷い神を元の土地に還すこと力を持つ者、またはその力を管理する者のことを指している。
今作品で神還師を名乗っているのは、神楽親子・藤本由美・久我山修一のことを指している。
だが、榊守はそのあたりのことは理解していないようだ。もちろん本人がそう理解しているかどうかもよくわからない。榊の知識はほとんどが神楽や藤本の受け売りでしかない。
神還師の始まりについては、その存在自体がかなり秘密性が高く、情報についても眉唾感が多い。特にこのご時世、この手の情報に関してはオカルトというかネットの都市伝説な中身になっていた。
その中でまとめた歴史をひも解くとその存在は古代までさかのぼるといわれている。
古代から人間は自然や自然現象、物に対して神々しい何かを感じ畏れて暮らしていた。俗にいう八百万の神というのもこの中に含まれている。人間は古来から神に対して様々な形で語りかけ、聞こえるかもわからない『声』を聴き、その声を民衆に伝え神と共に生活を送っていたという。神が怒れば人間はその怒りを恐れ、土地を去り、新たな土地を求めて旅をする生活を送るというその繰り返しだった。
この頃の人間が恐れていた神の怒りというのは、ほとんどの場合人間では到底解釈できない事象であろう。そういう事象と言えば、災害などがわかりやすいであろう。後は伝染病なども、この神の怒りに当たるのであろう、当時の人間にとって災害は行いに対する応酬、それが怒りになると精神的かつ遺伝子的レベルで思われていたのであろう。
それだけ人間は行いに答えようとする神――その頃ではまだ原因やメカニズムが解明されていない各種現象一般――に対して感謝する、それは同様に自然に感謝していたと言うことにもなる。
先ほど、『神に対して様々な形で語りかけ、聞こえるかもわからない声を聴き』と書かせてもらったが、すべての人間が神の声を聞けるというものではない。だが、ごく一部にその力を持つ者がいたという。希少なる存在してこの場合、神官やシャーマンといった類の系統とも似ている。これらのことが顕著になるのはさらに後、人間が農耕によって決まった場所で生活するようになる時代になった頃だという意見もある。やはり定住をするということは、土地がもたらす災いを受けやすくなるからだろう。
この災いは天変地異で片づけられる一方で、自己解決できる手段はない。現代のような予測技術や微力な災害対策という手段はまだ皆無の古代で、それなりの知力を持ち手慣れた木工と貴重な金属があふれ始めようとした時代に、その土地の神様にご用立てできないかという考えは生まれはじめた。
この辺りは安全祈願祭や地鎮祭といった表現になる。形式的なものではあるが、中には『本当に神の声を聴くことができる』稀なもの達も少なからず存在し、彼らによって本物の神様にご用立てを行う所業も密かに始まった。これが神還師のはじまりだということを書いてある文献は多かった。この考え方は元号が生まれる前から存在していた話であり、これらをまとめる何かが存在するとすれば、その歴史はかなり立ち入った物となり、ここまでの歴史研究を行っている学者は現時点で存在していない。ほとんどの研究は個人による独自の仮説によって成り立つ場合がある。
神還師の基本的な考え方や表だった行動は中世あたりまで続いていたらしいのだが、このあたりの資料は眉唾物が多かったため正確なところはない。神還師のような神や霊験的な物に対峙するという内容は、中世になると、浮世絵や戯曲、人形浄瑠璃といった題材の中で取り扱われるなどの当時一大ブームにはなったらしい。だが中世後半になってそのあたりの怪士物については発禁となった経緯があり、それらの物語の原作が現在までに資料の一部も残っていないとされている。当時の寺社関係からの苦情があったのかもしれないし、それらの原作は現在も寺社関係が一目に見せないように破棄したか封印したかもしれない。
いずれにしろ、それらの行動が原因で神還師の存在は地下に潜り、現在まで表立った行動が確認されていないのはそれらの理由もあったのではないかと考えられる。
魔封師と呼ばれる神還師とは真逆の存在もあるがこれに関しても話すと長くなるので神還師にのみ話を絞ると、確実に言えるのは現代でもその神還師という組織は形やシステムをかえてひっそりと存在しているということだ。
ただ、ほぼ科学万能の現在においてはその存在に関しては異物扱いになるのは、人がその何かを畏れなくなったという点であろう。とはいえ、土地神や迷い神ははその存在を失うことはなく普通に存在して見えていないという状況なのである。
更にごく一部の人にはその存在を常に気にしてやまない、というわけで、現在ではこの手の職種にちょうどいいのが寺社関係ということである。もちろん理想的な例であってすべてに当てはまるわけではない。神と話せる能力というのは限定的ではあるが、別に寺社関係の人間にのみ与えられる特権ではない。藤本由美のような医者に宿ることもあれば、榊のように報道記者に宿ることもある。榊たちの場合は特に寺社に所属するわけはないので、このあたりは協力関係またフリーランスなどの表現を示す場合があるという。
基本は彼らのような、なにかと気になって仕方ない人たちによって、神還師が結成されて、夜な夜な街に出ては、変なことが起こらないか監視しており、必要に応じて、処置を行い、街を平和にしていると考えてもらえるとわかりやすい。もちろんこれらが本当なのかどうかも眉唾物なのは、何度も断っておこう。
Q02:迷い神って何?土地神と何の関係があるの?
本来居るべき場所に存在するはずの土地神が自分の場所を離れて迷子になることがある。その神を迷い神と呼ぶ。一度迷うと自分では元の場所に戻ることが出来ないばかりか、別の場所に居座ろうとしたりする物ぐさなところがある。
しかし土地神はその土地を守護するという性格上、みだりに動くと言うことがない。
動くためには理由が必要になる。
土地神が迷子になるには理由がいくつかあるが、中でも人間の生活によって動物のように土地を追われることが近年多くなっている。環境破壊もあれば、人間が生活しなくなったために土地を追われることもあるという。逆に元の土地に帰らないという事例もある。その場合は別の物なり土地なりに移す場合がある。これを神移しの作業と呼ぶ。特に人間の営みによって土地や宿り場を壊された場合などがこれに当てはまる。その作業を行う場合は移し先にも細心の注意がいる。
迷い神の姿は、ウサギのような姿をしていれば、のっぺらぼうの様な妖怪の姿をしたりとさまざまな種類がある。中には仙人のような老人の姿をしていたりと多岐にわたる。人間のような迷い神も存在するらしいがここではまだ確認されてはいないようだ。
迷い神に対して光は非常に有効で、特定の光の波長を当てると、迷い神の動きを緩慢化させる働きを持っている。なので夜道を懐中電灯などで歩けば自ずと迷い神は寄ってこなくなる。
彼らは土地神である以上に必要な要素として『軸』の存在がある。軸は別名『地脈』とも呼ぶこともあるらしいが、軸は彼らの生きる源でもあり、この軸が乱されることで、彼らはいとも簡単に迷い神になってしまう。土地神が土地神として存在しうる所以というべきものといえよう。
しかし、軸の定義はさまざまで大きな植物や、石碑のようなものから、小さな物が軸になることがある。
神還師は迷い神を本来の土地に戻すためには、軸を戻すことも行動の一つである。しかし、本来の軸に戻れないということも想定としてある。特に土地は常に同じ物が存在するわけではない。その場所に道路ができるようなこともあるため、軸を失うこともある。
一時的な軸を用いたといえば、本編第三章(カクヨム版第二章)の立川の社の迷い神は、一度軸を人間に脅かされたが、仮の場所として、和櫛に軸移しを行った。これによって一時的ではあるが、土地神は軸を持ったまま動くこともできる。
戻る場所があり、それが人間の手により元の環境に戻れば迷い神は軸に戻り土地神に戻る。そのための説得も神還師には必要となる。この説得が拗れてしまった場合、迷い神は暴走し、人間に危害を加えるようになる。その力は天変地異並みとされ、地震などを起こすとも言われるくらい凶暴である。神還師の場合、自らを防御するための道具は一応用意する必要があるとされているが、実際にそれらの装備には必ず限界がある。そのために魔封師によるサポートが最悪の状況に対して用意されていることがある。しかし、魔封師による暴走の抑止には加減がない場合がある。その場合、迷い神は元に戻ることはできない場合がほとんどである。この理由については魔封師に関す項目で説明する。
Q03:神還師は免許制?能力によっても違うの?
「神還師」本編で榊守には神還師の免許は持っていない。神楽や藤本、久我山といった免許所有者と共に行動することになっている。
作品の中で厳密な理由などは書かれていなかったが、神還師が特定の地域で活動を行う場合は免許が必要になる。神還師には明治時代の新政府発足後に全国の神社仏閣各所で内々に取り決められた『迷神還師ニ処スル規定管理ノ法律』に則り、神還師には各地域での活動を行うために必要な免許制度をしいている。
免許制の目的としては、自己申告による地域での活動許可登録を行うための登録者情報をまとめることが目的で、原則神還師の活動は各地域の『管理団体』の許可がない限り認められない他、活動における神還師の予期しない破壊などがあった場合、保障されないものなのである。
管理団体の存在はQ04の審議会を指し、東里市の場合は審議会が管理団体である。
神還師への免許発行の条件は、能力面と知識面の高さで級数が変わる。各級数に関する部分は次の通りとされる。
■能力級数 『神還師としての生まれながらの能力と素質に関する部分』
〇一級 ――見る・聴く・話すに対する能力を十二分に持ち、単独での説得行動ができる。
〇準一級――見る・聴く・話すに対する能力を最低限持つが、
知識級数一級と共に説得行動が認められる。
〇二級 ――見る・聴くに対する能力を持つが、単独での説得はできない。
能力級数準一級以上、または知識級数二級以上との説得行動が必要。
〇三級 ――見る・聴くどちらかの能力しか持たないため、単独での説得はできない。
能力級数二級以上、または知識級数二級以上との説得行動が必要。
〇級なし――どちらの能力も持たない為、単独での説得行動は不可能。
例外として、知識級数を持ち合わせる場合は能力級数有段者と共同で、
説得活動は可能である。
■知識級数 『神還師の知識的・対処方法などの計画・統率に関する部分』
〇一級 ――準一級の条件に加えて、他の軸への神移しが可能であること。
〇準一級――神移しに関する行動一般を把握・統率し、防御に関する知識を有する者。
能力級数一級であっても、知識級数一級と組む必要がある。
〇二級 ――神移しに関する行動一般を把握・統率できるが、防御に他する知識を持たない
知識級数準一級以上との説得行動が必要。
〇三級 ――神移しに関する行動一般を把握しているが、統率能力は無い。
知識級数準一級以上との説得行動が必要。
〇級なし――神移しに関する行動一般を理解できてはいないため、単独行動は不可。
例外として、能力級数を持ち合わせる場合は知識級有段者と共同で、
説得活動は可能である。
細かい解釈のように見えるが、現在では能力的な要素や科学知識によるサポートなどが充実しており、これらの級の決め方は当時の法律では合う部分が少ない。補足情報や、経験による能力の向上を補足情報としているため、最低限の判断はその部分で扱われる。
資格は二つの級数に分かれ、生まれながらの能力がすべてではなく、神還師に関する知識も級として問われる。その行動範囲も限定されるので、他の上位有級者と組む必要がある。
免許証自体は一般的なカードサイズまで縮小されており、デザインは普通の免許証に近く、顔写真の他に、本籍地・現住所―都道府県市町村までと生年月日などは記載されいる。更に常時携帯品である管理手帳を所有する必要があり、管理手帳には過去の神還師業務の記録が逐一報告・記入されている。この記録によって級を更新する場合もあり、各種保障も適用範囲が決められている。級の更新がない場合はほぼほぼ更新は無い。
この免許システムによって、全国の神還師はすべて管理されて、個人的にまたは管理団体から必要な業務が発生した場合は、それに協力することが出来る。
キャラクターの各免許資格などの能力については別途人物編にて参照する。
Q04:審議会って何?
本編を通して存在している『審議会』と呼ばれる存在は、今回の第一書や余章ではあまり大きなことは書かれていない。実はこの組織は神還師の存在管理に対して一番重要な機関だったりする。
神還師の管理団体は全国の市町村単位で分散しており、東里市の場合は『審議会』と呼ぶ。全国一元ではないので各所で勝手は異なる。市内各地域の神還師やそれを生業とする寺社が集まり、運営の方針や迷い神による破壊などが起こった場合の修繕などの方針を決める場合が多い。地方地域によってもその管轄は分かれるが、明確な縄張り意識はない。管轄地域での神還師の免許登録や在籍登録や活動状況を管理・確認している機関としている。
各種業務は定例会議で行われ、免許登録された神還師が自由参加できる会議である。会議自体は活動状況報告を行う他、各種登録申請もこの会議にて行われる為、常に会議中は人の流れが絶えない。先ほどの免許の話でも書いたが、原則神還師は免許の登録を行わない限り、単独・独断での活動を認めていない。免許制度の取り扱い上、神還師は国内であればどこでも活動は可能であるが、各地の審議会にて、登録申請することで神還師作業の斡旋や、修繕に関する保険業務も執り行っている。壊れた物の保証はあくまでも迷い神が暴走したときのみだが。
管理団体のとりまとめは管轄地域でも大手または最高位の寺社に勤める者による昔ながらの封建的なものである。さらに彼らの場合は能力含め、神還師の仕事を代々世襲している事が至極当然であり、資格申請そのものも彼らのような『高貴な者達』によって自発的且つ中心管理している場合がある。この状況は特に東里市に限っての話ではなく、地域によっても異なるが、古くからの富豪や地主・寺社系が力を持つ関係が存在していた場所によってもこの手の話は若干残っている。
加入者についてもほとんどが高齢者であったりするが、中には若い僧侶もいる場合がある。最近では他の地方からやって来て寺社に付かないフリーランスも増えてきている。
ここでいうフリーランスは原則寺社出身でもなく確定した土地に住まない神還師のことを指す。現在各地の半数の神還師がこのフリーランス形式を取っている。仕事の内容によっては報酬のばらつきが大きく、専門職として生計を立てられるものはごくわずかのため、別の本職を持っている場合が多い。作品では久我山のように公務員の仕事の傍らもあれば、藤本の様に寺社出身ではない一般家庭出身の神還師もフリーランスに該当するが、神楽親子のサポートとして参加することが多い。
特にこの場合は榊のように魑魅魍魎の類いが見えるものが全てではない。寛三のように見えないが、神還師の知識や対処方法に長けている場合もある。そのような面もあるが、やはり代々能力を受け継がれなくなった寺社に対してのサポート含めて、その部分での主従関係は最近問題になっている。
その様な主従関係に陥る最たる理由は、予算的なところが大きい。管理団体の運営予算は寄付と登録者からの運営費徴収で賄われている。特に寄付面は管理団体上役の寺社関係が大きく影響し、檀家からの十分なお布施も含めて潤滑な運営ができているのも現状である。
更に近年の傾向として、不動産に絡む部分での神移しが上手く行われていない事例が多発している。先に話が合った高規格道路建設などの用地買収後の対応が甘いといった話も案件として浮上している。これらの相談については役所が審議会などに相談を行い、審議会から登録された神還師に作業委託を行う。その作業委託は自治体からの費用は発生せず、審議会からの予算によって賄われる場合が基本である。『マヤカシ物に払う銭なし』が自治体の基本であり、審議会は運営費から支払うので主従関係は変わらない。さらに近年ではどの寺社でも檀家の現象が進んでいることもあり、寄付についてもその額には大差が発生しており。その点についても役員内での格差も問題視されている。
本編を通して存在している『審議会』と呼ばれる存在は、今回の第一書や余章ではあまり大きなことは書かれていないが、今後これらの存在が重要になってくる。
Q05:神還師は説得で迷い神を抑えるのはなぜ?攻撃はしないの?
神還師は説得と軸移しによる、迷い神の説得が中心であり、攻撃は行わない事が、基本的な所作となっている。何故攻撃しないのか?迷い神は、気分屋でも感情に敏感な神でもあり、最悪攻撃してくることもあるとされている。その前提があるのにもかかわらず、実際神楽や藤本は、迷い神に対して追いかけてはいたが、榊のように攻撃をする事はない。榊の場合は振り返ってもその種類が異なるのではという疑問もあるが、気山町の大楠の木に関しては、ほぼほぼ榊が迷い神を攻撃し倒したようなことになっていた。
そもそも迷い神に対して攻撃できるのだろうか?それはイエスでもありノーでもある。一例として、光は迷い神にはかなり有効な手段だ。現代の科学での範疇では、迷い神は昼ではなく夜に活動するのは太陽光の特定の波長に関わるという検証結果もあるが、その節の正しさは眉唾だ。一部の神還師からの報告もあり太陽光の波長の範囲内で特に特定のレベルで動きが緩慢になりやすいという噂もある。一昔前は神還師もたいまつの他、光量の強い電球に波長を絞るフィルタみたいなものを掛けていたりと時代で発展したが、システムが大きすぎて運用に支障を来していた。近年は波長範囲が限定できる高輝度フルカラーLEDなどのデバイスが台頭し、デバイスの小型化が安易に出来るようになったとしている。本編でも気山町の迷い神退治に有用だったが、詰めが甘かったということもあり、もろくも壊されていたが。
一例はともかく、そんな大雑把かつ、どっちつかずな回答になっているのは理由があるが、これは対極の存在である魔封師が大きく関係する。魔封師は「迷い神を殺す人たち……。前に言った霊媒よ」と言わしめた神還師とは真逆ともいえる存在として、この小説の中では取り扱われている。
「私たちは迷い神を守り元の土地神に戻る努力を行うけど、それが出来なかったときは彼らによって封じられてしまう……」神楽の言った言葉の意味と、魔封師が現れる事は神還師にとっては敗北を意味し、彼らを守れなかったことは後悔でもあり屈辱としている。
攻撃ではないということは軸移しは攻撃ではないのか?それはノーといえる。それは人によるかもしれないが、神楽の場合は、拝みの言葉の中に意味があり、『御神の安らぎ犯す人の過ちに償いを、戻れぬ安らぎを与える償いを』という言葉から、迷い神に対する謝罪と償いのためとして、行っていることから、これが攻撃というわけではなく、弁償のような形としているため、迷い神には攻撃とは思われていないのだ。
魔封師については次回に紹介する。