車椅子
まだ、もの知らぬ少年は
車椅子をひっくり返し
車輪をからから
回して遊ぶ
「これ楽しいね」
と笑っていても
ベッドに横たわり
木漏れ日を浴びる老婆には
少年の声が、よく聞こえず
少年の姿が、よく見えず
ただその無垢な歓声だけを頼りに
少年入るであろう方向に
微笑みかける
居た堪れなくなり
私は車椅子をひったくって
おもちゃじゃないんだぞと
叱ってやりたかった
ただ
老婆が、あんなにも
あまりにも幸せそうに
笑うものだから
私は何も、できなかった