第九話:賑やかなお茶会・南大和
静のシスコンっぷりを知っている鈴蘭は苦笑する。
「ふふ、葵ちゃんの溺愛っぷりは相変わらずね」
「当たり前だ、紗羅はこの世で一番可愛い」
「鈴蘭さん、サンドウィッチが食べたい」
静がぶつぶつと一人言など眼中にない、マイペースな声を出したのは東方院の次期当主・東方院 樹里である。
鈴蘭はすぐに樹里に渡すとモソモソと食べはじめた。
静の話をちゃんと聞いていた南方院の代理は朱鷺はまるで西洋のお城に済んでいるような王子様の容姿である。朱鷺が葵がこないことに意外感があった。
「それにしても、葵ちゃんが来ないって初めてだね」
朱鷺の言葉に鈴蘭はうなづいた。
「それもそうね、何かあったの?」
重く沈んでいた静は顔をあげた。
「最近、友達ができたようで」
「え、葵ちゃんが友達?!」
鈴蘭は幼い頃から人見知りの葵の性格を知っていたため普段はおしとやかな態度をとっている彼女だが目に見えて狼狽する。
それは南方院の朱鷺も同様だったが嬉しそうに笑みを作った。
「そうか、友達が 良かったな 静……?」
朱鷺も葵を妹のように思っていたので喜んだのだが、その言葉に静は一層、眉間にしわが寄る。
「そうなんだ、そうなんだが……」
「だが?」
「前よりも話しかけてくれなくなった」
「なんだそんなことか……?」
「……そんなこと」
低い声音でいう静に地雷を踏んでしまった朱鷺はすぐに詫びた。
(しまった……)
「そんなことじゃないよな、お前にとっては可愛い妹だしな」
「そう、そうなんだよ」
慌てて軌道修正した朱鷺はほっと一安心したものの静は拳を作り、力説をしはじめたことに口元が引きつる。
樹里はその様子を止めようとせず、黙々と軽食を食べながら静が暴走する様子を傍観していた。
「この前、葵と一緒に踊りの練習に行こうとしたら用事があると言われて」
他にも話しかけようとしたら、友達とピクニックに出かけると言われてしまい呆気なく撃沈する。
「……それは、まあ寂しいわね」
鈴蘭は困ったように同意した。
「そう、そうなんだよ」
先ほどよりも肩を落とす静をみていた樹里は声をかけた。
「そんなに友達のことが好きなんだね …好きな人だったりして」
何気なく自分の思ったことを樹里は呟いただけなのだが、静は正常な状態だったらもう少し冷静に考えたかもしれないが…
「す、好きな人?」
「う、うん ああ」
動揺激しい静に何故か言い詰め寄られる朱鷺も困惑する。俺が言ったのではないと吐露する。
「好きな人、いやでも、男の子と言ってなかったような あれ、どうだったけ?」
何やらまた大きな独り言をいい出しかねないの静に朱鷺はフォローした。
「静、落ち着けって それはもしかしたらの話で」
「もしかしたらいるかもしれないだろ?!」
またも暴走状態になった静に朱鷺は悪戦苦闘する。鈴蘭も余計な一言で火に油がそそかねないか困り顔をしていた。
「そんなに気になるなら、確かめて見れば」
サンドウィッチを食べ終わり、デザートを食べ始めた樹里は一言呟いた。
静は樹里の的を得た一言に水を打ったように鎮まり返った。
「そ、そうだな そのお友達を紹介してもらって確かめれば済む話じゃないか いいことをいうんじゃないか 樹里」
(お前が一番話に振り回されていたぞ)
口元が引きつる朱鷺は突っ込みたかったが、ようやく場が収まりつつあるので薮蛇にならないようになんとか堪えた。
「よ〜し、善は急げだ!」
静は声高に上げて宣言した。こうしてちょっとしたお茶会はお開きとなった。
〇〇
四神の次期当主は踊りを中央の麒麟に奉納するように四神を守護する妖達は各代表から選ばれる。
ちなみに守護妖とも呼ばれる。各々の隠れ里の住人でもあり桃華もまたその一人だった。
陰陽寮には数多くの東西南北の守護妖が入学している。そして今日武術大会に選出される4人のうち、南方の選出者に選ばれるものが決まる。
トーナメント制で決まり決勝戦に残った二人のうち一人が桃華だった。
一人で仕事を請け負うのは伊達ではなく、その太刀捌きは見事な腕前で他の追随を許さなかった。
そしてもう一人は南大和と呼ばれた桃華とは別の隠れ里で生まれた南方出身の少年だった。
大和もなかなかの剣の腕前で次々と倒していったがあと一歩というところで桃華に競り負けてしまった。
力の方は男の大和の方が上だったが、スピードは桃華の方が上だった。負けた日から大和はふつふつとした思いを抱きながら無気力に過ごしていた。
その日のために日々鍛錬して自分の武術に憧れの人物に披露したいと思ったからである。
〇〇
彼の父が南方院の家に生まれ、火事で亡くなった当主の次に強い力を引き継いでおり、正式に決まるまで代理として選ばれた。
そしてその代理の息子が朱鷺であった。父から受け継いだ素質を持ち合わせていた。
大和は幼い頃から尊敬の念を抱いていたので尚更である。負けたからと言って諦めることはできなかった。
そしてある日のこと、大和は一仕事が終わり陰陽寮に帰ってきたときにある噂を耳にする。
それは桃華が友達を連れてきたということだった。大和はあの一匹狼に意外感を覚えたが同時に腹立たしい気持ちになった。
(もうすぐ、大会の日が近づいているというのに何を遊び惚けているんだ)
少し注意してやろうと廊下で歩いていた桃華を呼び止めて声をかけた。
「烏丸、お前どういうつもりだ」
呼び止められた桃華はいきなり声をかけられて立ち止まる。桃華はなぜかきつい目つきで凝視してくる少年に訝しむ。
「藪から棒に、一体なんだ?」
よく見るとその少年は先日トーナメントの決勝で戦った少年だということに気づいた。
「あんたは、確か…南大和」
「俺のことを覚えていたか(俺も見所があったということか)」
大和は自分が覚えられていたことに悪い気はせずいい気分になっていると、桃華はバッサリと否定する。
「いや、単に覚えやすい名前だから」
「そ、そうなのか」
勘違いした大和は赤面になり咳払いをして声を上げる。
「げほん、まあ、そんなことはどうでもいい」
大和は気持ちを切り替えて桃華を睨んだ。桃華はどうしてこんなに見てくるの嫌気がさし、大和にきつい口調で問いただす。
「私に一体なんのようだ」
大和はそのセリフを待ってましたと言わんばかりに口を開けた。
「烏丸、俺ともう一度戦え」
「……どういう意味だ?」
思わぬ言葉に桃華は勢いを削がれ、その言葉の意味の解釈する。
「もう一度とは、この前のトーナメントをやり直せってこと?」
「ああ!」
威勢よくいう大和に、桃華はため息をついた。トーナメントは勝ち上がったものだけが勝者というシンプルな方式でそれは一度だけの対戦で敗者復活戦はない。
大和には叶えたい願いがあるように桃華にも譲れない思いがある。
武術大会に優勝するばいろんな資格などがもらえることができて桃華の探している情報が見つけることができるかもしれないからである。
「……悪いけど、もう二度目はないわ 勝負は一回きり 例外はないわ それはみんなも同じ気持ちじゃないの?」
桃華は大和に自分の気持ちを伝えて、すぐに立ち去ろうとしたが肩を強く惹かれてしまう。
「待て! お前には他にも聞きたいことがある」
「……っ」
「お前は最近修行にうつつを抜かし、友達と遊び呆けているそうだな、そんなことでは他の南方の候補者に示しがーー」
くどくど説教する気満々の大和に、桃華はいいかげんに腹が立っていきた。
「それはあなたには関係あるの?」
桃華の剣呑な空気に大和は口は止めた。だがここで引いたら男が廃ると意地で虚勢を張る。
二人の雰囲気が険悪になり、今にも戦いそうになったその時だった。凛とした声が二人の仲裁に入る。
「あらあら、こんなところでみなさん集まってどうされましたの?」
その声に気づいた、二人の様子を見ていた周囲のものは誰かと気づき急いで道を開けた。
桃華はその人物に気づいて驚いた。
「あなたは西方院の……」
「はい、私は西方院の次期当主、西方院鈴蘭と申します」
上品な笑みを浮かべた鈴蘭の容姿はふわふわの白金の髪に青い瞳を持つ西洋のお姫さまである。その歩く姿に誰もが見惚れた顔をした。
「それで、この騒ぎ一体何事ですか?」
大和はまさか次期当主と遭遇するとは思わず恐縮している。
「いえ、これは次期当主がお出になることはなく ご足労をかけてしまい申し訳ありません」
「私は別に構わないけど、話すのならもう少し場所を選んだ方がいいわ」
「はい」
鈴蘭の助言を素直に受け入れた大和はうなづく。
桃華はもう用はないとばかりに、話をしたくない彼女はお辞儀をして立ち去ろうとするが、大和はその態度に許せなかった。
「おい、話はまだ終わってないぞ」
桃華は大和にきつく腕を掴まれて引き止められたのである。大和が一向に力を緩めようとしないので痛くて眉間にシワを寄せた。
「……っ」
桃華がその腕を振り払おうとしたときだった。大和の腕をがしりと捉えた手があった。
大和は驚き桃華もまた同様に驚く。そこにはいつの間にか一人の男性が立っていたからだ。




