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今昔あやかし転生奇譚 〜平凡な女子高生の彼女と幼なじみには秘密がある  作者: yume
第四部:月の光の中で花のように笑う少女に四神は涙する
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第六話:無防備な笑顔・北方院静



 生徒会室に戻った新橋は早速呼びかける。


「桐原〜」


 呼び掛けられた桐原は返事をする。


「うん?どうした」


「なんかお前に話がある生徒がいるらしい」


 桐原は作業していた手を止めて立ち上がる。


「分かった」


 室内を出るとそこには新橋の他に二人の女子生徒がいた。桐原は二人を見てハッとした。


(この二人は、確か…)


 花月は桐原が来てくれたことに礼をした。


「こんにちは、お仕事中にすみません」


「……ううん、大丈夫だよ」


 いつもはスラスラと言える弁舌が歯切れの悪いことになっていた。それもそのはず、桐原が妖怪に操られていたとはいえ、彼女を怖がらせてしまったことに変わりはないのだから、花月に対して罪の意識が残っていた。


「あの……あの時は大丈夫でしたか?」


「え、あの時って?」


「先月の親睦会の時です」


 そのことを指摘されて花月はようやく思い出した。


「あ、はい 大丈夫ですよ」


 花月は気にしないでと慌てて手を振っても桐原の顔に晴れずどこか強張っていた。


「私はあなたに申し訳ないことを……」


 桐原の様子に花月は思った。あの事件が終わってからも()()は忘れていないんだ。


(あれは生徒会長のせいじゃないのに……っ)


 花月はおもむろに桐原の両手を取り優しく語りかけた。


「あなたのせいではありません、完璧な人なんていません もっと自分を大切にしてください」


「……ありがとう、平野さん」


「それにあなたは一人ではありません」


「え……?」


 (どういうこと……?)


 視線を巡らすと花月の目線の先に心配そうに伺う新橋を見た生徒会長は目頭が熱くなった。


「……大丈夫か?」


「う……うん」


 言葉が少ないか、思いやりのある言葉に桐原はうなづいた。少し涙声になりながら花月に話しかける。



「そうですね……彼には頭が上がりません」



 最後の言葉は小声で花月は聞こえていたが新橋は聞こえなかった。


「それで私に何か用事とは?」


「あ、はい、あの私の友達に踊りのことで悩んでいる子がいまして、その子に何かアドバイスを教えてもらえないかと思いまして」


「アドバイスですか…半人前の私で良ければ」


「是非っ、よろしくお願いします」


 桐原の家は江戸時代から続く日本舞踊の達人で、餅は餅屋とこれ以上ないほどの逸材である。


「うん、私でよかったら、何でもお手伝いさせてください」


「ありがとうございます! 友達に伝えておきます」


 花月は色よい返事をもらえたことに喜んだ。連絡先を交換して花月達はその場を去った。


「なんか面白そうだな」


 新橋のポツリとつぶやいた独り言を聞いた桐原はふと提案する。


「それじゃ、家に来る?」


「……え、いいのか?」


「うん、大丈夫だよ」


 その表情に新橋はドキリとした。ーーいいタイミングで扉が引かれる音が聞こえた。

声をかけてきたのは羽柴だった。


「生徒会長〜、話が終わった? ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「はい、わかりました」


 新橋はその様子を見ていつもはキリッとしている姿と先ほどの無防備な()()を見ていたら、せっかく顔を洗ってスッキリしたと言うのに何とも心もとない心境になった。




 〇〇




 四神家の家の配置は五芒星により決まっている。北方院家の家は神獣である玄武を祀り、水の能力に長けている一族である。


 他家によって家の外観がそれぞれだが、北方院家は学び舎の洋館風の建物とは異なり、純和風の日本家屋である。


 北方院葵は部屋で読書をしていた時だった。充電中のスマホが鳴ったのに気がついた。


 神獣の子孫が文明の利器に頼るのも変な話だが、早くて便利なものに越したことはない。


 葵は着信者の名前を見て、目を見開き慌てて通話ボタンをおした。


「あ、こんにちは 葵ちゃんで合ってますか?」


「は、はい! 合っています ひ、平野さんですか?」


「うん、そうだよ それでね、私が言っていた踊りの上手な人にアドバイスをもらえないか聞いてみたら、引き受けてくれるみたいで」


「え……本当ですか!」


 葵は驚きと喜びの声をあげた。今度の日曜日にどうかと言われ即答した。


「それじゃあ、日曜日に」


「はい、ありがとうございます」


 花月が電話を切った後、葵は電話を切り少し放心状態となっていた。


(こんなに人と喋ったのは久しぶり)


 葵は友達と呼べる呼べる人はいなかった。こんな風に女の子とちょっとした会話をしたのは初めての体験だったのだ。葵はくすぐった気持ちになりさっきまで花月と電話していたスマホを大事そうに抱きしめた。





〇〇





 そんな葵が夢心地の時だった。障子の外から声をかけられて彼女は飛び上がる。


「は、はい」


「葵様、おやつを準備いたしました どちらで食べられますか?」


 その声は葵の身の回りのことを任せられている女性、佳乃(よしの)という気立てのいい女性で彼女は生まれる前から仕えている。


「はい、えっと…居間で食べます」


「分かりました そちらに準備いたしますので」


 佳乃はそういい、障子から離れすすっと言う足音とともに立ち去っていった。


 葵は一息つきスマホを机の上に置いて、居間に向かうと一人の男性がすでに座っていたことに気づき、誰もいないと思っていた彼女は目を見開く。


「兄様!」


「葵、今日はお前の好きなカステラだぞ」


 座卓の上には美味しそうなカステラが用意されていた。表面の焦げ茶色に膨らんだ卵のスポンジのしっとり感と甘い香りが食欲を掻き立てる。


 そして渋いお茶との相性は最高である。葵にとって甘いものは好きなのだが、奥に座る葵は兄と呼んでいるが血のつながりはないが兄弟のように育った。


 玄武は亀と蛇の神獣である。


 玄武の「亀」の能力は葵の父親から娘が引き継ぎ、「蛇」の能力は静の母親から息子の静に引き継いでいる。


 けれど兄弟のように育っても、葵は北方院静にはどうも苦手な意識があった。


 才能があり、勉学や技能の訓練にも優れ、高身長で白金に光る髪と琥珀色の瞳で優れた容姿を持ち陰陽寮の女子生徒からも大変な人気があった。


 そんな兄なのに一つ困ったところがあった。


「いつ見ても葵は可愛いね」


 静は両頬に手を添えて、臆面もなく呟いた。葵はカステラとお茶を飲み、また一口食べようとすると


「はあ〜、可愛い葵ちゃん どうして俺の妹ってこんなに可愛いだろう」


(血はつながっておりませんが……)


 葵を黙々とカステラを食べながら、聞かないようにするのが精一杯だった。


 そう北方院静は度がつくシスコンだった。大好きな甘味を味わいたくても目の前の兄に凝視されては落ち着けと言われても無理な話である。


 葵は泣く泣く早く食べ終わろうと考えていた時だった。


「そうだ、今度の日曜日踊りの練習をしない?」


「練習……」


 いつもだったら、渋々になりながら葵はうなづくのだが『日曜日』と言う単語に押し止まる。


「あ、日曜日は 用事があるので……」


「何を踊ろうかなーーって え、そうなの?」


 静は葵に断れると思ってなかったので、まるでブリキの人形のように首を動かして彼女を見つめた。



「な、何の用事か聞いてもいいかな?」



「えっと、友達の家に遊びに行こうと思って 霞ちゃんと一緒に」


 葵の友達という初めての単語に静は驚愕して思考が停止していた。一人で行かないことに静はほっとしたものの、心の中で激しく動揺していた。静は平静を装いながら葵に聞いた。


「そうか、楽しんで来なさい」


 聞きたいことは山ほどあったが、


(これは後で護衛をつけるか……)


 いくら安倍家の次期がついているとはいえ、誘拐されたらと心中で吐露すると、「兄様」と葵の方から声をかけられる。


「また一緒に踊りの練習をお願いします」


 妹の可愛いお願いに静は昇天されて、強く強くうなづいた。


「うん、楽しみにしているよ」




〇〇



 そうして日曜日となり、朝の十時過ぎに花月、朝日、真澄は霞が手配した車で一緒に向かった。


 桐原家は江戸川区にあるお屋敷にあり踊りの一門である。歴史を遡ると巫女舞が原点である桐原家は神を憑依させる「白拍子」は有名である。


 この江戸川区は西を荒川と中川で区切られ、車は江戸川で千葉の浦安の市川市と接する。


 花月達は立派な門の前に車から降りると、一人の着物を着た人物が立っていた。


「いらっしゃいませ お待ちしていました」


「こんにちは」


 花月はペコリと頭を下げて、誰かに似ていると思い首を傾げているとその答えはすぐにわかる。


「私は桐原孝太郎の母の美和と申します」


「あ、先輩のお母さん?!」


 花月がどうしてこんなに驚いたのか目の前にいる女人がどう見ても20代にしか見えなかったからである。


「ふふ、そんなに驚いてくれるとは嬉しいわ」


 先輩似と思いきや茶目っ気たっぷりの言葉に花月は緊張がほぐれた、


「母さん、お客様を驚かせてどうするの?」


 美和の後ろから現れたのは苦笑する孝太郎だった。


「先輩、こんにちは」


「こんにちは、平野さん、代永さん、広瀬さん」


 広瀬とは真澄の名字である。朝日は真澄の名字を知っていることに驚く。


「私たちの名前をしっているんですね」


「うん? ああ、君たちは校内で有名だからね 名前をたまに聞いたりするんだ」


「そ、そうなんですか」


 あまり公では目立ちたくない朝日は口元を引きつらせながらうなづいた。


「それとこの二人は初対面だね」


 桐原は初めて見た女の子に目線を向けたことに気づいた花月は説明する。


「隣にいるのが、踊りのことをアドバイスをもらいたと言っていたほ……えっと、北川葵さんです」


 ここに来るまでに北方院という名前は目立ちすぎるので偽名を使うことにした。


「そしてこちらが安倍霞さんです」


「安倍霞と申します 本日はよろしくお願いします」


 それを見て葵は恥ずかしそうに前を見ながら慌てて口を開く。


「あ、北川葵といいます 今日はよろしくお願いします」


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