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今昔あやかし転生奇譚 〜平凡な女子高生の彼女と幼なじみには秘密がある  作者: yume
第四部:月の光の中で花のように笑う少女に四神は涙する
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第五話:提案・少年の憂鬱



「北方院って珍しい名前ですね」


 花月は気になって葵に聞いた。


「はい、北方院の他に東方院、西方院、南方院という名家があります」


 南方院と言う苗字を聞いた桃華の表情が一瞬かげった。


「東西南北、それぞれあるんですね」


「はい、東は青龍、西は白虎、南は朱雀、そして私の家の北方は玄武を祀る一族の家系なんです」


「葵さんは次期玄武の後継者なんです」


「次期」や「後継」がつく肩書きに花月は驚く表情をすると葵は恥ずかしそうに俯く。

恥ずかしいというよりもどこか謙遜した言い方だった。


「私なんて全然、兄様(にいさま)の方がすごくて他の院の後継者の方達もみな素晴らしい方達ばかりです」


 話していくうちにどんどんと尻すぼみしていく葵の声に花月はどうしたのかと心配になる。


「確かに葵さんのお兄様方は()()()()奇抜なところはありますが踊りも達人ですし」


「踊りって?」


「東西南北を守護する神獣の後継者は中央である麒麟に豊穣と安寧を祈る舞を捧げるのですが」


 そのことに葵は口を開いた。


「…兄様と一緒に踊るとどうしても上手く踊れなくなって、上手く行かないんです」



 気落ちする葵に花月は何とかしたいと思い「踊り」と言う単語にあることを閃いた。


「それならいい案があるかも……」


「……え」


 花月の提案に葵は目を見開いた。


「私の学校の先輩に踊りが上手い人がいるんですけど、その人に聞いて見ます」


 朝日も誰か思い当たった。


「…はなちゃん、その人って」


「うん、生徒会長」


(やっぱりか)


「平野さん、ありがたいのですが、葵さんはあまり外の世界に行ったことがないのでーー」


 幼なじみを気遣う霞の言葉を止めたのは当の本人だった。


「霞さん、私 行ってみたいです」


「…葵さん わかりました」


 いつになく目力がある目つきに霞は折れた。そして連絡先を交換して、夕方に陰陽寮を出て桃華と別れた。


 帰り道でこんな話をした。


「よし、まずは生徒会長に明日会いに行かないと 夏休みは確か生徒会は午前中にいたはず」


分からなかったら学校の情報通の麻里子に聞こうかと考えていると、


「はなちゃん、一人で無理しないでね」


「うん? うん! 無理しないよ それじゃあ、またね 朝日ちゃん 真澄さん」


「はい」


 真澄は一礼して、花月を見送ったが、朝日は彼女の姿が見えなくなるまで見送った。


(何だか胸騒ぎがする)


 


〇〇



 狭間区にある御影高校の在校生は200人以上おり、就職などが希望である普通科は2クラスと大学に進学するクラスが1クラスある。


 1クラスに普通科は30人ぐらいいるが、7:3と女子の割合が多くて、男子にとってはまさに楽園と思いきや、それはドラマの少女漫画などの空想上の産物であって現実とは異なる。


 御影高校の服装の規定は学校の外で服装を乱すと罰則があるので、学校内ではスカートを短くしたり多少のおしゃれなどは許されていた。


 16歳の高校二年生である会計の羽柴莉愛は金髪に染めており、外見はギャルにしか見えないが、アイデアを出したり頭の切り替えが早く広報の仕事も兼ねている。会長の推薦で選ばれたのもその特技があるからである。


「う〜ん こんなもんかな? 会長〜、終わりました〜」


 彼女が何を終えたかと言うと、今度11月に行われる文化祭のためにアンケートの作成をしていた。そしてその作業が終わり報告した。


 生徒会長の桐原は一仕事終えた羽柴を労い作業していた腕を止めて立ち上がろうとしたが、


「あ、お茶なら私が入れます」


 同じタイミングで立ち上がったのは庶務をしている杉田有紗だった。


「何を飲みますか?」


「う〜ん、オレンジジュースで」


「分かりました」


 杉田はすぐに用意した。


「はい、どうぞ」


「ありがとう、杉田ちゃん」


 グビリと喉の潤いを満たす。


「ぷは〜、生き返る〜」


 威勢のいい声は部屋中に響き渡り、隅で出費などの出入金状況を管理してキーボードで作業をしていた染井奈々は深くため息をついた。


「ちょっと、オヤジ臭く言うのやめてよ あんた何歳よ」


「17歳っす」


 平然と宣う羽柴に染井の苛立ちはますます強まるばかりである。


「そうじゃなくて若いんだからもう少し言葉遣いを気をつけなさいって言っているの」


「別にいいじゃん、減るもんじゃないし」


「私の神経がすり減っているの」


 羽柴に怒る染井だったが、ぬかに釘を打つような本人の顔には一切の反省の色も伺えなかった。


「杉田さんもそう思わない」


「ふへ?」


 まさか自分に飛び火が来るとは思ってなかった杉田は間の抜けた声を出して赤面する。


「あ、え〜と そうですね でもそれなりに気を許せる仲ってことじゃないでしょうか?」


「それとこれは話が別です、今は仕事中ですし」


「私は全然気にしない方だけどね」


「気にしなさいよ 副会長も何か言ってください」


 染井は副会長の新橋日向に声をかけるが返事が返ってこないことに首を傾げた。





〇〇





 その様子をそばで見ていた生徒会長の桐原孝太郎は心配そうに彼に近寄り手をふった。


「お〜い、大丈夫か」


 話しかけてもぼ〜としているのを見た新橋にもしかしてと思い前髪をかきあげて自分の手の甲を当てた。


「う〜ん、熱はなさそうだけど」


「……」


「お〜い」


 まばたきをした新橋に桐原は呼びかける、声に気づいたのかようやく彼の口が開いた。


「……桐原、何をしているんだ?」


「何って、熱を測っているんだよ この時期、熱中症とかなりやすいからな」


 冷房の効いた部屋でもかくれ脱水になりかねないのは盲点で、そのことに心配した。じっと見つめていると新橋はどんどん顔中が熱くなり目線を逸らした。


「おお、俺、 ちょっと顔を洗ってくる」


 新橋は立ち上がり退室して行った。あまりにも挙動不審な態度に女の子達は不思議がる。


「なんか変じゃありません、最近の副会長」と染井。


「そうですね、いつも以上にふわふわしていると言うか」と杉田。


「それって恋してるっぽいね」と羽柴は面白そうに笑い、一同は「何だ恋か〜」と笑い流した。




「こ、恋? あの副会長にですか?」



 染井の物言いにあのと言うのは語弊があるが、人懐っこい性格もあるが、モテていることはしている桐原だが、好きな人がいると言う初情報を知り当惑する。



(そうか、好きな人が)



 別におかしいことではない。むしろどうして今までいなかったんだと思うぐらいである。


 桐原は彼を想うあまり自分のコンプレックスである所を弱みを妖怪につけ込まれてしまい、そして御影様から言われたことに救われた。



『その自分もあなた自身なんです』



 認めたくない自分と認めたかった自分。


 それから退院した後、生徒会からは色々と迷惑をかけたことを朝会でお詫びし、生徒会長の職を降りようかと示唆すると至る所から女子達の悲鳴が聞こえてきて何だと思いよく聞くと、


『やめないで だけど無理はしないで欲しいけど』


『私もお手伝いしますので』


『いや〜、私これから何を推しに生きていげばいいのよ〜』


 叫んでいる言葉を耳にした桐原は予想以上に困惑した。戸惑っている姿をみた新橋は桐原に近寄る。


「みんな、お前に残って欲しいんだよ」


「……僕でいいのかな?」


 いつもはキリッとした佇まいの桐原がどこか不安げな表情に女子達は庇護欲が掻き立てられた。心配してくれた人たちのその思いに答えるために声を上げる。


「皆様の…、応援にこたえて精一杯頑張ります」


 桐原は心からの笑みを浮かべた。普段は見せないその笑顔に女子達のハートは鷲掴まれた。


「え? 今笑ーー 誰か写真!」


「尊いんだけど、ありがとうございます」


 きゃああと狂喜乱舞する女子達に先生達一同朝から一仕事する羽目になった。苦笑する新橋に節目に桐原は笑い続けた。それから生徒会長の職は引き続きとなった。


 それからと言うものあの事件の後から新橋とは普通に会話できるようになった。桐原はうれしかったのだが……今度は新橋の方がよそよそしい態度に少し寂しい気持ちになった。


『まあ、中身は女の子ということを知っているから、あまり近づきすぎないようにしないとな 少し気をつけよう』


 あの事件を経て前よりも落ち着きがある桐原は見当違いのことを考えて、書類の作業に取り掛かった。



〇〇



 一方、生徒会室からでた新橋は自分でもよく分からず火照った顔を冷やそうとトイレの洗面場に向かい顔を洗った。冷ましたことで少し落ち着いた。


「俺……何してんだろう」


 騒動が終わってから桐原が退院して新橋自身も喜んでいた。しかし以前とは違う気持ちに年頃の男の子らしく困惑していた。


 桐原とふと目を合わせる度に心臓が高鳴るように気がして落ち着かずにいるのだ。


 新橋は重いため息をつきながらも生徒会室に戻らないといけない。重い足取りで帰ろうとした矢先のことだった。


「あの、すみません」


 考えことをしていたので、気づかなかった。二人の女の子がいたことを。


 この夏休み中に生徒が学校に来ることは珍しくないが、この先にあるのは多目的スペースがあるくらいだ。新橋は気になって聞いてみた。


「私たち、生徒会室に行きたいんですがこの先で合っていますか?」


「ああ、合っているが、俺も今からそこに帰るんだ」


「あ、すみません、生徒会の人でしたか?」


 茶髪の女の子は慌てて謝罪した。


「いや、別に、まあ生徒会長は知っていると思うけど」


「朝会の時は凄かったですね」


「あ〜、あの時は流石に凄かったな それで生徒会の誰に用事なんだ」


「実は生徒会長に用事がありまして」


(生徒会長か…)


 何かを思い詰める彼女の様子に新橋は心当たりがあった。


(もしかして告白か、この夏休み中に勇気がある)


 呑気に思いつつも、何故かモヤッとした気持ちになったのはどうしてなのか自分でも分からなかった。




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