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今昔あやかし転生奇譚 〜平凡な女子高生の彼女と幼なじみには秘密がある  作者: yume
第三部:旋風に舞う白き翼、目覚めの鬼はから紅に萌ゆる
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第十五話:わずかな勇気・白き翼、参上!

 山下と田上の二人は木原がキャッチの仕事をして帰ってきたらいつものように茶化してやろうと話しかけたつもりだった。


「おい、木原 また帰るのが遅かったーー」


 山下が嘲笑しながら木原にちょっかいをかけようとした時、後ろに誰かがいることに気づき目を見開く。


(おい、嘘だろ……誰か連れてきたぞ)


 動揺する山下と同じく、田上もまた驚きで表情を隠せなかった。そんな驚く様子の二人に木原は面白そうに見つめた。


「びっくりしてますね 実は女の子を連れてくることに成功したんですよ」


「……」


 喜んでくれるかと期待して待っていた木原だが待てども返ってくるのは沈黙だけだった。


 山下と田上に呆然としていたので木原は不思議そうに首を傾げた。ーーまさか自分がいない間に賭けの対象にされているとは思わなかった。


「どうしたんですか?」


 木原にもう一度声をかけられ、少し理性を取り戻した。


「へっ、あっ、いや お前中々やるじゃねえか」


「お、おう、すごいな」


 山下と田上は褒めちぎり、木原を賛辞した。普段褒められ慣れていない木原はこれには大いに喜んだ。


「ありがとうございます」


 笑顔になっている木原の反面、山下と田上のテンションは急降下していった。木原から少し離れて二人は顔を突き合わせて話し合う。


(おい、あいつ 女の子連れてきてしまったぞ)


(ああ、賭けに負けたら俺たちは……)


 二人が今後のことを憂いていた時、地獄の足音が聞こえ、扉が開かれた。


「あ、酒呑様、おかえりなさいませ」


「お〜、小鬼いや木原か 帰ってきたのかーーって、お?」


 酒呑ーー南雲はすぐに後ろにいる女の子に気づいた。


「お前やるじゃないか……なあ、お前ら」


 笑いながら視線を二人に移した。


「え……ええ! そうですね」


 突然、赤鬼に上機嫌で話しかけられた山下と田上は肩をびくりと揺らし慌てて口を開く。


「そうですよね?! 木原はやる時やる男なんですよ」


「俺も見習わないとな」


 二人の調子良くいう様がおかしくなった赤鬼は失笑した。


「ははは」


 その冷笑が二人にとって寒々しく感じた。そして、赤鬼は木原に話しかけた。


「木原、その女の子を別室に丁重にお連れしろ」


「はい! 分かりました」


 木原が女の子を連れていき、部屋の中には山下と田上と赤鬼の3人になった。赤鬼はまだ何人も言っていないのに無言は二人にとって恐怖でしかない。その沈黙に耐えられず山下は口を開く。


「ーー俺、あいつよりも可愛い女の子を連れてきます 三時間いえ一時間あれば」


「俺も二、三人連れてきます」


 二人は捲し立てるように懇願するが赤鬼は聞く耳を持たなかったところか、二人をどういたぶるかを考えるのに夢中になっていた。


「賭けは賭けだ。 そしてお前達はそれに負けた」


 二人に向かい手をかざした赤鬼に男達は戦きそして絶叫をあげた。木原は女の子を部屋に送り届けて帰る、丁度その時に悲鳴が聞こえた。


 何があったんだと部屋の扉を勢いよく開け目にしたのはーー人間に寄生する前の雑鬼の彼らがいた。




 〇〇




「何があったんですか、酒呑様 これは……」


「うん? 戻ってきたか 女の子は部屋にお連れしたか?」


「はい、それはできましたが …先輩達はどうして」


「お前には悪いが俺たちは賭け事をしていたんだ」


「賭け事?」


「お前が女の子を連れて来れなかったらこいつらの勝ちで、連れてきたら二人の負けになる」


「そしてお前は連れてきたことで、こいつらの妖力を譲り渡すことになったんだ」


 初めて聞いたその話に、木原は身を寄せ合って震えている2匹を睨んだ。


「……そうだったんですか」


 睨まれた二人は木原と視線を合わせるのが後ろめたく逸らした。


「まあ、俺の顔に免じて二人のことを許せ。その分、お前にこの力を渡そう」


 赤鬼の右手に黒く禍々しい炎が輝いていた。その黒い火ががはじけて木原の体を包んだ。


「これは…」


 木原の体は、迸る妖力に酔いしれた。


「身体中から溢れてくる」


「ふふ、ははは……」


 壊れたように笑い狂い木原に初めて山下と木原は恐怖して身を寄せいながら震えた。


〇〇



 別室に連れて行かれた女の子ーー花月は木原と呼ばれた男に連れられて部屋の中に入れられた。


「ここでしばらく、大人しくしててね…」


 部屋の中に入ると女の子達が5人いた。思った以上に綺麗な空間は整備されたことが窺える。ソファにテーブルに本棚やキッチンなど簡易的な居住スペースがあった。


「あなた達はここで生活をしていたんですか?」


「はい、そうです ここではなんの苦しみもなく過ごすことができます」


 そういう女の子の目を見ると花月は普通じゃないことに気づく。


『この子、何かに操られている』


 前にも似たようなものを見たことがある花月はすぐに幻術にかけられていることが分かった。


「あなたも何か悩みがあるのよね でもここなら安全よ」


 女の子は花月の手を取り中に入るように勧めるが、花月は足を止めた。


「確かに私は悩んでいることがあります。 でもそれはこんな狭い部屋で閉じこもっていても私自身は変わりません」


「私自身…」


「周りの景色が変わらないのなら、自分自身が変わるしかありません 怖いと思っていたら、何も変わらない。 私はそのことをある人から教わりました」


「変わる……自分を」


 さっきよりも熱がこもっている声に花月は手を肩にのせた。


「変われますよ! きっと」


 なんの根拠もない花月は他人に偉そうに何を言っているんだと自問自答をする。


(変わりたいという気持ちが強ければ強いほど、人は変われるとういうことは私は知っている)


 花月の声に女の子達は目を覚ました。


「私…は、どうしてこんなところに?」


「ここ、どこなの?」


 女の子達は次々と瞳に生気が戻っていく姿にホッとしながらも花月は気を引き締めた。


「まずはここから脱出しましょう」


 花月はドアをガチャリと開けた時、異常に圧力を感じた。下の階から感じる波動に花月は足を竦ませた。


『……これは』


 その時人の高笑いする声が聞こえ、それを聞いた女の子達は怯えた。


「こわっ 何この声?!」


「誰か笑っているの?」


「早くここから出たほうがよさそうですね」


 花月は気持ちを切り替えて、わずかな勇気を振り絞り足を進めた。






〇〇





花月がドアを開けたのを赤鬼は感じ取った。


「うん? どうやらお姫様達が目覚めだようだーー小鬼、彼女達を夢から絶望に染めてあげようじゃないか」


「分かりました、ーー酒呑様」


 小鬼は酒呑に話しかけ、先ほどまで仲間だと思っていたものに侮蔑の視線を投げる。


「それとこの二人も使っていいですね」


 面白そうな提案に赤鬼は口元を歪めた。


「ああ、お前に任せる」


 恭しくお辞儀をした木原は山下と田上を無造作に掴み取りその場から消え去った。



 〇〇



 花月達は下の階に行こうとした時だった。下の階から足音が聞こえた花月達は下に行くことができずにいた。


 エレベーターで確認するとビルはどうやら十階たてのようであることは確認できたが、見張られている可能性は高く乗り込むには二の足を踏んだ。だからと言って上に行けば行くほど逃げるのが難しくなる。花月はどうするかと考えていると、遠くから大声で叫ぶ声が聞こえた。


「お〜い、どこにいるの?」


「きゃっ?!」


「いやっ?」


 男達が自分を探す声に女の子達は叫び飛び上がった。我慢していた恐怖は一気に膨れ上がり、女の子達は錯乱し上の階に登ってしまう。


「いや〜、助けて」


「お母さん〜〜?!」


「待ってそってに行ったらっ!」


 花月は止めようとするが錯乱した女の子達は聞く余裕なんてなかった。そして花月も彼女達を放っておくわけには行かずに後を追いかけた。


 とうとう、最上階まで屋上の扉を開けると開放していて隠れる場所なんて無かった。そして女の子達はなるべくドアから離れた角の所により集まった。


『みんな恐怖で何も考えられなくなっているっ?!』


 女の子は外に向かい大声で叫んだ。


「誰か助けてください!!」


 他の女の子はそれを見て同じことを叫んだ。


「私たち誘拐されれここに連れて来られたんですっ?!」


「誰か…」


 ビルの屋上から声をかければ誰か一人気づいてくれると思っていたが、誰一人気づいてくれない。


「どうしてっ 誰も気づいてくれないの」


「そんなに叫んでも無駄ですよ」


 その声が男の声だと気づき、花月と女の子達に戦慄が走った。扉の前には陣取るように一人立っていた。


 その人物は花月を連れてきた痩せ型の男だった。けれどほんの数時間会っていないだけで雰囲気が変わったことに気づいた。


『何だろう、この嫌な感じ』


 少しでも、恐怖の感情を拭おうと花月は木原に話しかけた。


「どうしてここから叫んでも誰も気づかないんですか」


「うん? それは酒呑様が俺の主人が結界を張っているからだよ」


「結界…?」


「人間達は俺らがどんなに叫んでも気づかない。 ここで何が行われてもね」


 木原は優しく笑いながら、近寄ろうとするが彼女達には恐怖でしかさい。すると一人の女の子が後ろから飛び出して別の方向に逃げた。


 それを見た木原は面白そうに目元を歪ませて女の子一人をじりじりと追い詰める。


 女の子は後ろに後退るしかなく、体がカクンと傾いた。後ろは地面がなく気づいた時はもう遅かった。


 ーーしかし誰もが息を呑んでいる状態で花月は動いていた。落ちかかる女の子の体を押し戻したものの、その反動で自分が今度は落ちてしまうことに気づいた時にはもうすでに遅い。



(あっ、これじゃ ーーー私が)



 女の子達が花月が落ちていくのを見て絶叫し、花月は自分が地面に叩きつけられることを想定し、目を瞑った。


 けれど、それはいつまで持っても起きなかった。それよりもふわふわとした浮遊感に首を傾げ目を開けるとそこにいたのはーー



「全く、どうして遊びに行くのにこんなところに言えるのかしら 花月」



「ーーと、桃華ちゃん」



 白い翼を広げたポニーテールの少女、桃華だった。



「どうしてここに」



「それは私が聞きたいわよ あんたの帰りが遅すぎるから心配して朝日の家に行ったら、何も知らないって言ったしーーこれはおかしいと思って、事件の関連のあった場所を探索していたら結界が張られているところがあったからもしかしてって思って近づいてみたら上からあんたが落ちてきたのよ?!」


 ノンブレスでいう桃華に花月はタジタジになる。


「あの〜」


「説教は後よ」


「さてと、あんたを遠くにやっておきたいけど、目を外したら何をするかわからないからね」


「桃華ちゃん、私も一緒にあそこに連れて行って」


「……何があるか分からないわよ」


「その時はその時です」


「はあ〜、あんたって慎重なのに思いっきりがいいというか何というか……私のそばから離れるんじゃないわよ」


「はい!」


 桃華は花月を抱えぐんと翼をはためかせ上昇した。


 〇〇


「あ〜、落ちちゃったものは残念だけど、こんだけあれば十分かな」


 死んだ人間に興味はないと木原が生きている女の子達に迫っていた時だった。凛とした声が響き渡る。


「火焔かえん、紅華斬こうかざん」


 桃華の愛刀の刀身が紅く染まりあがり、彼女がなぎ払った瞬間、舞い乱れる炎の花が結界を壊し、


「はあっ」


 女の子達を守るために放たれた気合の一撃に木原は思わず後ずさる。


「な、何だ?!!」


 いきなりの乱入者に木原は目線を上げると、そこには羽を広げた妖怪に先ほどの女の子がお姫様抱っこされていたのに驚愕する。


「君はさっき落ちたはずじゃーーいや、お前が助けたのか」


 木原が状況を整理しようとしている間に桃華は屋上に降り立った。


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