第十話:秘密基地・ほむら君の両親
「〇〇ちゃんは生まれつきの髪の毛というだけで何もおかしいところはないわ、みんなは自分の髪の色を傷つけられたら嫌じゃない」
先生に言われた生徒達はうつむきながら答えた。
「いや…です」
「そうね。 〇〇ちゃんに傷ついたのは分かるよね」
「はい…ごめんなさい」
先生に諭された生徒達は女の子に謝る。
「…ううん、生まれつきこの髪色だから仕方ないよ」
女の子は自分の心に嘘をつくように弱々しく笑った。心の中は傷だらけなのに。みんなを困らせたくなった女の子は我慢をすることしかできなかった。勉強の時間が終わると家に帰らないといけないが、悲しそうな顔を親に見せたくなかった。
切り替えるために女の子は人がいる所は苦手なので自然と森の中の探検していると素敵な場所を見つけた。
「わぁ」
そこはいろんな花が咲いており、女の子は野を駆け上がり夢中になって丘を上がると絶景が待っていた。一本の大きな楠の木がありその手前に湖があった。女の子は好奇心をくすぐられ木の下まで歩いた。
大きな木の下から見上げると子供だからか余計に大きく感じてしまう。女の子は幹に耳を寄せて耳を澄まして音を聞いた。
ザワザワ、サワサワ
ピチチ、ちゅんちゅん
木の葉が揺れて優しいさやさやと鳴る音と鳥達の囀る声が女の子を優しく包んでくれる。
『ここなら、気にせずに』
そう思った瞬間、まぶたが熱くなり我慢していたものが溢れてきた。女の子は思いっきり泣いてそして、両親に心配されないように目の腫れが引くまで居続けた。夕方前になると、
「そろそろ帰らないと…いいところを見つけたな〜 男の子達が言っていた秘密基地みたい」
ふふと口元に笑みを浮かべながら女の子は明るい表情で帰って行った。歩き去っていく女の子の影を追うようにもう一つの人影が見ていたことに気づかなかった。
「……ふ うゔ」
自分のクラスは髪のことで言われなくなったが他のクラスの男子からいじめられた。
傷ついた心を癒すためにあの場所に行くことが心の拠り所となっていた。そして自分に向かって男の子にいじめられたが、同じクラスの女の子から庇われたことを思い出した。
「そういえば、あの女の子かっこよかったな」
その女の子は自分と違い、髪の毛が短くてみんなの人気者だった。
そうだ!っと、女の子はハッとして自分の鞄の中にあるケースからハサミを取り出した。
『これで髪の毛を切ったら何も言われなくなるかもしれない』
年頃の女の子にとって髪の毛は大事なはずなのに、彼女にとってはただ億劫なものでしかなかった。
震える手で自分の髪の毛を手繰り寄せて髪の毛を切りやすいようにハサミに手をかけた。
その瞬間、両親から髪の毛のことを褒められたことを思い出したことで女の子の手は止まる。
『……お母さん、お父さん、ごめんなさい』
脳裏によぎった親に謝り、決心した指に力を込めようとしたその時だった。
「……何をしている」
それは突然のことだった。キョロキョロと見回しても誰もいなかった。空耳かと思った刹那、それは現れた。目の前に一人の子供が上から落ちてきた。
「ひゃっ?!」
あまりの突然の出来事に女の子は飛び上がり持っていたハサミを落としてしまう。女の子は最初何の動物が降りてきたのかと思い、恐る恐る腕の隙間から見ると一人の男の子がそこにいた。
『良かった 人だった』
一安心したのものの心臓は早鐘のように鼓動が収まらない。
「あの…あなたは」
「…お前、俺を知らないのか?」
そう言われた女の子は男の子の容姿をはっきりと見た。下に俯いていたのでわからなかったがこの時初めて見て驚く。
黒い髪と黒い瞳は誰もが持っている一族の特徴なのにこの少年は何かが違うと女の子は感じた。男の子は美しい顔立ちをしていた。そこに立っているだけで存在感があった。
「…おい、俺の話を聞いているのか?」
「……ふえ? あっ、ごめんなさい」
女の子は男の子から咎められたことに気づき、男の子の話を聞いていなかったことに謝る。
「…お前はどうしてこんなところにいるんだ」
「私は、その…」
「はっきり答えろ」
男の子の遠慮のない物言いに怯えた女の子は我慢していた涙が溢れてきた。
「ふえ…ごっ、ごめんなさい」
女の子を泣かせる気はなかったが泣くとは思わなかった男の子はギョッと驚きオロオロとしてしまう。
「おい?! 泣くほどのことじゃないだろ」
「……うゔ……ふえん」
嗚咽を漏らしながら、女の子は少し時間が経つと泣くのが収まった。目元が腫れているが幾分か落ち着いた表情をしている女の子に喋りかける。
「…落ち着いたか」
「……うん」
さっきよりも優しい声と、自分が泣き止むまで待っていてくれたことにお礼を言った。
「あの…ありがとう」
泣かせたのに感謝される覚えのない男の子は不思議そうに首を傾げた。
「なんでお前がお礼を言うんだ?」
「……えっと、私が泣き止むまで待っていてくれたから」
「そう言うことか、泣いたままじゃまともに話ができないだろ」
「うん、そうだね」
怖いと思ったのは最初の印象だったが、その時だけで優しいところもあると気づいて、とっつきにくく言われても怖くなかった。
〇〇
「お前どうしてこんなところに来たんだ」
「それは…泣いているところを見られたくなかったから」
俯きながら女の子は答える。
「だから昨日も泣いていたのか」
「…え、どうして私が昨日泣いたこと…」
女の子は男の子に聞くと、彼は木の上に指をさした。
「ここは俺の昼寝の場所でよく来るんだ。 寝ていたら泣いている声が聞こえて下を見るとお前がいたんだ」
その時、自分が男の子の安眠を妨害したことに気付いた。
「そうだったんだ…あっ、昼寝の邪魔をしてごめんなさい。 もう来ないので」
女の子は立ち上がろうとしたら男の子に手を握られて足を止める。
「昨日は邪魔だと思ったが今は邪魔じゃない」
「え…それって……ここにいてもいいの?」
「ああ」
素っ気なく言う男の子は言う言葉に女の子は嬉しくて、この時初めて笑った。
「ありがとう」
気持ちを込めてお礼を言った女の子は言ったのだが、男の子はなぜかそっぽを向かれたことにショックをうける。
「えっ、私何か変なこと言った」
「別に、何でもない」
「うん……」
男の子の顔を見ると頬が赤く染まっていることに気付いたが、嫌われたわけじゃないことが分かりほっとした。
「お前の名前は?」
「…私は〇〇って言います」
「俺は……ほむら っていう名前だ」
「ほむら 君?」
「ああ」
これが女の子と男の子の最初の出会いとなった。
「木の上で眠るのって難しくない?」
「昼寝をするのに最適だし、ここはうるさい家庭教師がいないからな」
「ヘ〜、家庭教師ってえん君のお家ってお金持ちなんだね」
「…まあ、そこそこのお金持ちだな」
ほむらは何かを誤魔化すように目線を逸らしながら喋ったが女の子は気づかなかった。
そして、数日後に彼の家に遊びに行くとそこはとても大きな門がある屋敷だった。あまりの大きさに呆気に取られたが、女の子は男の子に呼ばれたことに目を覚ます。
「な、何これ?! ここがほむら君のお家なの?」
「まあな」
「ヘ〜、すごいね」
どこまで続いているのか分からないぐらいの廊下は奥行きがあり目が眩みそうになった。一体何部屋あるのだろうと考えていた女の子は男の子がある和室の前で止まり、障子を開けた。
中を見ると真新しい緑の畳と埃がかぶっていない高そうな調度品が置かれていた。
「ここは?」
「ここは俺の部屋だ」
「えっ、ここがほむら君の?」
「ああ、今何か持ってくるから少し待ってろ」
「うん」
『ここがほむら君の部屋』
女の子は胸を踊らせて彼が帰ってくるのを待ちわびた。
それから少し待つと足音が聞こえたので彼だと思った女の子は障子を開けようとしたら、向こうから障子を開けた。男の子だと思っていた女の子はまさか障子を開けたのが別人だと思わなかった。
「ふへ?」
「雲雀? いるか〜? ちょっと話がって…女の子?」
「…あ、あの」
お互い虚をつかれて表情になり、すぐに切り替えたのは男性の方だった。
「えと、君は雲雀じゃないよね こんなに可愛い女の子どうやって 君は一体?」
「あの、私はほむら君に連れられて」
「ほむら? その名前は」
女の子は包み隠さず話した。自分がおかしなことを言ったのか急に不安になったところ、男の子が帰ってきた。
「おい、〇〇 お茶を持ってきたって……父上?!」
『父上ってことはほむら君のお父さん?!』
「いや〜まさか息子が女の子を連れてくる日が来るなんてね父は嬉しいよ」
親からすると友達が来たことに嬉しいのだろうが、子供からすると恥ずかしいことこの上ない。
「早く出て行ってくれ」
ほむらは父親を早々に締め出した。
去り際に「ごゆっくり」と声をかけられた女の子は苦笑した。
「かっこいいお父さんだね」
「外見だけはな」
ふんと鼻でため息をついたほむらに女の子はふふふとひそかに笑った。その後、彼の母親もやってきて「雲雀の彼女?いらっしゃい〜ゆっくりして行ってね」
「はっ、母上?!」
いきなり現れた母親にえんは目を白黒とさせて叫んだ。
「どうしてここに……父上ですね そこにいるんでしょ」
物陰からそっと先ほどのほむらの父親が現れた。
「いや〜、息子が女の子を連れてくるなんてめでたくて」
「あっちに行ってくださいますか」
息子の怒声に二人は渋々と出て行った。女の子は堪えていた笑い声を抑えられなくなり声が漏れてしまった。
「ふふふ」
「笑い事じゃない」
ほむらは怒っているのに本気で怒っているわけでない。少し怖いけど優しい少年だと言うことを女の子は知っているからだ。
『いつかほむら君に恩返ししたい』
こうやって笑い合っていつまでもこんな日々が続いて欲しかった。けれどそんな幸せな日々はいとも簡単に崩れ去ってしまう。それはある日の夜中の出来事だった。そのけたたましい音に女の子は目が覚めた。
『何があったの?!』
火消しの手伝いに行った父親を見送った女の子は近所の人たちが話すことに悪寒が走った。
近所の人たちが言うには誰のことを指しているのか分からなかったが、ここらへんで一番大きい屋敷だと言うことは知っていた。
女の子は無性に不安になり走った。彼と彼の両親が安全か確認する為に。けれどたどり着いた先にあった屋敷は炎に飲み込まれていた。
焼かれている屋敷にまだいるかもしれないと思った女の子は中に入ろうするが近くにいた女性に止められる。理性を失っていた女の子は火消しの人により気を失い眠った。
目が覚めるとそこは自分の部屋じゃないことがわかった。
「ここは…一体?」




