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今昔あやかし転生奇譚 〜平凡な女子高生の彼女と幼なじみには秘密がある  作者: yume
第三部:旋風に舞う白き翼、目覚めの鬼はから紅に萌ゆる
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第九話:彼にとっての不運、鬼にとっての幸運

 せっかくの楽しみを奪われて肩をしょげるが命あっての物種である。


「よし、さてお仲間を探しましょうかね」


 赤鬼は光の当たる影の所を重点的に探すようにした。暗い所は魔を呼び込みやすいからだ。そう言う所を探していると雑鬼が路地裏で蠢いていた。


「何だ、お前?!」


「うわ〜、赤鬼だ」


 雑鬼たちは赤鬼の存在に気づくと即座に逃げようとしたが力の差は歴然ですぐに捕まる。雑鬼は恐怖で震えあがり、小さな体を震え上がらせた。


「いや〜、食べられる?!」


 赤鬼は怖がる様子を鼻で笑い、話しかける。


「別に食いやしねえ。 お前らに聞きたいことがあるんだ」


「な、何でしょう…?」


「最近この地に来たんだが荒らしていたら妙な連中が出てきたな、邪魔なんだよな、あいつら変な術を使いやがって」


「変な術…人間」


「……それって陰陽師じゃない」


 雑鬼の一言に耳を傾けた。


「ほう、陰陽師っていうのか、何か聞いたような名前だな」


「千年前からいたからね」


「そりゃ〜長いな 人間だった頃から何年経っているんだ?」


「赤鬼様は人間だったの?」


「そうだな」


 雑鬼はすごそうに目を輝かせて、ふと思い出す仕草をする。


「そういえば昔にもいたよね。赤い鬼の伝説もあるし」


「そりゃ、なんだ 俺以外にも赤い鬼がいたのか」


「いたよ、人を殺しまくってすごくお酒好きでお屋敷からお姫様をさらったりしたんだって、格好いいよね〜」


「ほう〜、それはすごいな。 もっと話を聞かせてくれ」


「うん」


 その鬼は修行僧の見習いだったけど、人からの憎悪により妖怪へと堕ちてしまった。そして悪逆のかぎりを尽くした鬼を退治するものが現れた。4人の武士のうちの一人が首を切られた鬼は封印されてしまった。


「なんだ、殺されたのなら大した妖怪じゃないか?」


「でも、死んでもその妖怪は生きているんだって」


 時間が経てば、その存在は希薄となる。数百年経っても名前が残っていることはそれだけ大妖怪だっということの証明でもある。


「ほう、一応その名前を聞いておこうか」


「名前はーー」




 〇〇




 地方の高校を卒業した俺は卒業して東京のある大学に入った。都会の交通の便利さが好きだった俺は大学を卒業して住もうと意気揚々と不動屋さんに赴いた。けれど現実は甘くなかった。


「なんだよっこれ?! 嘘だろう」


 憧れだった都会に住むには家賃の高さに直面した。不動産屋で家賃の桁に目を白黒とさせた俺はとりあえず聞こうとお店の人にアパートの間取りなどを説明してくれていたが、なかなか頭に入ってこなかった。今までは寮暮らしだったからあまり考えていなかったが、田舎の二、三倍より高いことに計り知れない衝撃を受けた。


 大学まではお金を出してもらえたが卒業した俺はいつまでも無心しているわけにはいかない。きっと両親に相談すれば実家の農作業を手伝えと言ってくるだろ。そこそこ良い大学を出たものの、就職活動をしても何の役にも立たない。諦め癖のある俺は会社に入ったものの、すぐにやめてフリーターとなった。


 俺はレジや清掃係、ティッシュ配りやガソリンスタンドなどを仕事をしたがどれも長続きはしなかった。街ゆく人の中を歩くと一人の少女が、少し昔の俺と同じような感じでティッシュ配りをしていた。


『はあ〜、俺よりも若そうだなあの子、頑張っているんだな』


 ふとティッシュを見るとキャバクラの広告が入っていたのでその売り子だろうか。


『懐かしいな〜…』


 キャバクラにはお金がないので一度も行ったことがない。何だか気になったので俺はキャバクラは女性が男の人と話をする所で逆に男はどうゆうところで女性と話すのかとスマホで検索した。すぐに出てきたが、自分にはあまり馴染みのない言葉に苦笑いをする。


「…ホストか、俺にはなじまなそうだな〜 うん?」


 記載されている日給に目を見開く。日当6000円、月給14万5000円と書かれていた。


 とにかくお金が欲しかった俺は何も考えずすぐに面接の電話をした。初心者歓迎だった仕事場はすぐに合格の電話があり、翌日出勤することになった。


 何も心の準備をしていなかった俺はホストの世界の仕事に衝撃を受ける。ただお客とは話をするだけじゃなく、新人のうちは清掃や雑用はもちろん、先輩のアシスタントや街頭でのキャッチなど仕事内容は多岐にわたる。そして俺はこの仕事に入って初めて下戸酒の飲めないだったことが判明した。


 たった一口飲んだだけでヘベレケとなってしまい、それを見た先輩からは今日はもう帰れと言われてしまった。


 もう真夜中で終電はもうない。俺は千鳥足で歩きながらアパートに帰っていくと車に引かれそうになり、よろけて路肩にあるゴミ置き場に突っ込んでしまった。


「うわあ、臭え」


 ゴミ袋の上に仰向けになった俺はもう動くのが面倒くさくなり星が見えない空を見上げた。


 東京はスモッグの影響で星空が見えない。俺は小さい頃みた故郷の空を思い出した。目を凝らしても見えないものは見えないその歯痒さに涙がこぼれそうになった。


「俺…一体何やっているんだろ」






〇〇




 そして見上げた電柱の上に何か立っていたかのように見えた。星は見えないが月は見えるのでその明るさと電灯の明るさを頼りになんだと思い目をすぼめる。


 鳥かと思い、次に目を開けた時にはーーもうそれは目の前にいた。


『お前…良い闇を持っているな』


「へ…な、…っ」


 そこには全身赤色の鬼が俺を覗き込んでいた。とっさのことで動くことができず、ただ驚いていることしかできなかった。


『なんだよ、これ 俺は夢を見ているのか?!』


「くくく……俺が良い夢を見させてやろう」


 そう言った鬼は襲いかかってきて、気が動転した俺はパニックになり、またゴミ箱の上に落ちてしまった。


 〇〇


 そして、まだ朝方にゴミを取りにきた清掃係が仰天した。ゴミ箱の上に人が倒れていれば誰でも驚いてしまうだろう。清掃員は警察に電話をする前に意識があるか確認するために倒れている男性に近づいた。


「おお〜い、お兄さん あんた生きているかい」


「…ゔ〜ん」


 男の寝息が聞こえた年配の清掃員はほっと安心したをした後年配の女性らしく憤慨して心配する。


「もう! あんたこんなところで寝ると風邪ひくよ」


「…ああ、……うゔんそうだな。つかぬことを聞くが今は何年だ?」


「今は2019年だよ」


「……俺が死んでからもう1000年以上経っているのか…そりゃ変わるはずだ」


 彼女はその言葉に『さっきから何を意味のわからないことを言っているんだ』首を傾げたがまだ寝ぼけているのだろうとせっかく見た目がいいのにもったいない思ったが口にしなかった。


 清掃員は「早く家に帰るんだよ」と言われた男性はノロノロと歩いていった。男がその場を去り、自分の手と足の感触を確かめるように動かした。


 この男の最近の記憶を盗み見た鬼はニタリとほくそ笑む。


「ほ〜、この男はホストという仕事をしているのか 面白い」


 赤鬼は闇に染まり弱った人間の心を好む。丁度ふらついていたこの男にとっては不運であり赤鬼にとって幸運だった。


 ホストという職業に源氏名は不可欠である。なんにするかこの男は決めていなかったので名案を思いついた。それは少し前に雑鬼と話していた会話の中で出てきた。


「こいつの名は酒呑しゅてんにしよう」


 それはかつて大江山の首領と名を轟かせ伝説となった鬼の名前だった。


「そして俺は新たな酒呑童子として生まれ変わってやろう」


 伝説通りに酒を飲み、両肩に女たちを侍らせる姿に夢心地となり薄気味悪い笑い声を上げながら闊歩していく。その姿は堂々としていて、もう以前の弱々しく嘆く男の面影はなかった。




 〇〇



「ヒック、ヒック」


 一人の少女が隠れるように泣いていた。


「ひく、うゔ」


 涙を止めるように目元を押さえていたがポロポロとこぼれていく。木漏れ日の中で揺れる女の子の赤い髪の毛は腰ぐらいまでありきらめくように輝いていた。けれどそんな見事な髪の毛が原因で彼女は泣いていた。


「うゔ……どうしてこんな髪の色なの……お父さんとお母さんは普通に黒髪なのに」


 女の子の種族は皆同じように黒い髪に黒い瞳を持って生まれてくる。なのに、自分は生まれつき赤い髪と赤い瞳だった。


 両親はそのことに心配し医者は見てもらったが健康そのものだった。周りとは違う見た目でも両親は女の子に大切に育ててくれた。けれど周りはそうはいかなかった。


 子供の言葉は素直であり、無邪気であり無神経であった。女の子の親が気にしていなかったが自分も気にしていなかった。けれど、同じくらいの子供にある日、言われたことで一変する。


『ねえ 〇〇ちゃんってどうして髪の毛赤いの?』


「え……それは生まれた時から赤くて」


 とっさにどう言い返せばいい分からなかったのでそのまま答えるしかなかった。


『ふ〜ん、変なの』


(……変? 私はや・っ・ぱ・り・おかしいの?)


 やはりというのはどこかで女の子が思っていたからだ。周りは黒髪と黒目の人が多いのに自分だけ色が違う疎外感と孤独感があったけれどそれはあくまで無意識に感じていた。けれどその時初めて認識し、そして女の子の心を傷つける出来事がまた同じ事が起こった。


「お前、どうして黒髪じゃないの?」


「それは…」


 女の子はコンプレックスをつかれ言い返すこともできないくらい引っ込み思案となっていた。


「男子、やめなよ」


「そんなこと言っちゃダメだよ」


「お前らだっておかしいと思っているんだろ?」


「…え」


 追求された女の子達は男の子の一言に凍りつき、図星を疲れた女の子は激昂する。


「っ私、おかしいなんて言ってないじゃない!?」


「そうだよ、やめてよね」


 女の子と男の子がもみくちゃになり喧嘩をしているところを先生が駆けつけてきて止めた。


「こらっ何をしているの、どうして喧嘩したの?!」


「だってこいつが」


「あいつが」


 そして喧嘩のきっかけとなった女の子の話となった。


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