第七話:真相は・原宿でクレープ
「それで平野ちゃんの家にはどんな子がいたの?」
はなちゃんの家に行った翌日、昼休みに麻里子から聞かれた最初の言葉は何気ない一言だった。
ご飯を食べている途中だったため思わずむせそうになり、それを見ていた真澄はすぐに用意していた水筒のお茶を差し出してくれたおかげで飲み込むことができたが、咳は我慢できなかった。
「ごほっ」
「朝日ちゃん、大丈夫?!」
僕が咳き込みそうになったのをはなちゃんと友希ちゃんは心配そうに伺っている。
「うん、大丈夫…」
「いや〜、ごめんね」
謝っているが、心配は建前でそれよりも早く話せと麻里子の目がぎらついているのは後退りしたくなる。
「……特に変わったことはありませんでしたよ」
「え〜、そうだったんだ。 つまんない〜 彼氏とかいると思ってたのに」
僕はブスくれる麻里子に苦笑いを送った。
「え……彼氏ってなんのこと?」
それを聞いたはなちゃんが何なのか気になったらしい。
嘘やごまかしはかえって逆効果になる時もある。こうゆう時はありのまま言った方がいいと僕は思い説明する。
「最近、早く家に帰るのはどうしてなのかと思いましてーーそしたら、麻理子が彼氏とかでもできたんじゃないかなって…」
何だか分からないがこれは自分に精神的ダメージがある。顔が熱いのと沸き上がる羞恥心で汗が噴き出そうである。
「それで彼氏って…」
一瞬沈黙してひんやりとしたが、僕の心とは裏腹にはなちゃんは声を上げて笑った。
「ふふふ、彼氏だと思ってたの」
はなちゃんに聞かれた僕は正直に答えた。
「…うん」
「彼氏じゃないけど、男の子だったらときめいていたかもしれないな〜」
一瞬安堵しかけた気持ちが急降下する。
『え…それはちょっと』
「それじゃ、女の子なんだ」
推察をした友希ちゃんははなちゃんに聞く。
「うん! 女の子なんだけどすごく運動神経が良くて喧嘩が強いの」
「…うん?、それって不良じゃない?」
彼氏じゃないことは残念がったものの、気になるワードを聞き逃さない麻里子は食いついた。はなちゃんはコンビニで不良少年に絡まれてその女の子に助けられたことを話した。
「何それ面白そうじゃん」
新しくいいネタにキラキラと輝かせている麻里子に僕は嫌な予感を感じた。
「私、その子に会ってみたいな〜 あっ、それじゃあ今度カフェにいく? その子も一緒に行けないかな?」
「……え?」
麻里子のいきなりの提案にはなちゃんはキョトンとした表情をしていて僕は同じような表情をしていたに違いない。
〇〇
学校から帰った私は彼女に話をした。
「烏丸さん、少し話したいことがあるんだけど」
「うん? 何?」
今は夕ご飯を食べて、お茶を飲みながらテレビを見ていた。
「今度の日曜日、予定空いているかな?」
「うん、空いているよ」
「それじゃ、一緒に遊びに行かない?」
「遊び?…私と」
烏丸さんが指で自分を指して、首を傾げたので私は友達に誘われたことを説明した。
「あ〜、私の友達と合わせて何だけど」
「…そう、それじゃ、その友達と一緒に行った方がいいんじゃない」
「え?」
「私、人と話すのが上手じゃないし、変な空気になっちゃうかも」
その時烏丸さんの表情が少し暗くなり、何かあったのだと私は推察した。過去は知らないけど私は今の烏丸さんと遊びたいのは本当の気持ちだからと振るい立たせる。
「…それじゃ、私も行かない」
そんな私の反応に、烏丸さんは表情が落ち込んだままだ。
「別に私じゃなくて誘われたのはのあんただし…」
「でも…私は烏丸さんとも遊びたい」
目と目があった烏丸さんは恥ずかしそうに目を逸らした。
「…う、分かった 私も一緒に行くわよ」
「えっ、いいの」
「私が断ったら行かないつもりでしょ」
「うん」
私は烏丸さんに言われたことに即答するとおかしそうに笑った。その時はもう暗い表情はなかった。そして翌日、麻里子に一緒に行くことを伝えると、飛び上がるように喜んでくれた。
「えっ?本当、まじで嬉しい」
こんなに喜んでもらえると説得したかいがある。行く前になり、そういえば彼女に服とかあるかなと心配になった。
『帰ったら聞いてみよう』
学校が終わり、家に帰ると烏丸さんがいて早速聞いて見た。
「服? 学校の制服とかじゃダメなの?」
そのあまりの発言に私は硬直した。自分もおしゃれはしない方だが流石に制服は着ない、というよりも落ち着かない。
「…私の着ていた服でいいかな」
「うん。 何でもいいよ」
『折角可愛いのにもったいない…よし私が烏丸さんを今まで以上に可愛くして見せる』
私は来る日のため静かな闘志を燃やしたのだった。タンスの服の中に眠る自分の昔の服を出してはと烏丸さんに似合うのかと考えていると数時間経っていて、遅くまでかかってしまった。
いよいよ今日は烏丸さんと遊びにいく日となった。原宿駅で待ち合わせとなり、烏丸さんと原宿駅に向かった。
朝日ちゃんから迎えに行こうかと言われたが、着替えに時間がかかるかもしれないからと真澄さんと先に行ってもらった。
日曜日の原宿駅は平日よりも多く人であふれていた。カップルや家族づれなどもいるが若い人たちが多いのが見受けられる。原宿に着いた途端、私は変・な・違・和・感・を感じたがその時は特に気にしなかった。
〇〇
駅前は待ち合わせするには絶好の場所で改札口を出ると4人の女の子がいると少し目立つので探す必要はなかった。
花月は思わずそこを目掛けて小走りすると、後ろにいる桃華も同じように走ってくれた。
「お待たせ」
「お〜、平野ちゃん来た…」
「ま…麻里子どうしたの?」
花月は麻里子の奇怪な挙動にビクッとなった。
「何なのその服。今日は私のご褒美すぎない。 ありがとうございます」
「え…と、おかしかったかな? 私の格好」
心配した花月は自分の服装を見下ろした。
「すごく似合っていることをいいたいんだよ」
うまく言えない麻里子の代弁を苦笑いしている友希子が伝えた。体のラインを出す服は苦手でゆったりとした服が多いが今日は張り切ってスカートにしてみた。
「はな? もしかしてこの子が」
「あっ、うん」
麻里子は興味津々で、花月は後ろにいる女の子をみんなに紹介した。
「烏丸桃華さんっていうの」
「烏丸桃華です。 今日はよろしくお願いします」
「お〜 めっちゃ可愛い子」
麻里子は桃華に近寄った。
「私、遠藤麻里子っていいます。 よろしくね」
「よ、よろしく」
「その髪型かわいいね」
「あ、うん。 花月から二つに結んでもらった」
そう、今の彼女の髪型はツインテールで、ポニーテールから髪型を変えてもらった。スカートはひらひらするからと短パンとなったのが残念だが。くつはいつも履いているスニーカーがいいだろうとそのままである。
〇〇〇
『はあ〜、ついにこの時が来てしまったかと』眠っていたいが時間は刻々と流れていく。
朝日は布団の中で悶々としていると、障子の外から声がかかる。
「朝日様、そろそろ行きませんと間に合わなくなりますよ」
「うん…今、いく」
諦めたように布団から出て、大きなため息を吐いた。原宿駅にはすでに麻里子と友希子が待っていた。
友希ちゃんはの何回かあるが麻里子の私服を見るのは始めてだった。
二人とも来ている服が似合っていて、友希子は帽子と彼女にあって動きやすいスキニーデニムのパンツが合っている。
麻里子はTシャツにチェック柄のスカートという一旦シンプルだが、彼女の雰囲気を引き立たせている。
「やっほ〜、二人とも 相変わらずかわいいですね〜」
ニタニタしながら寄ってくる麻里子に外見以外はまるで酔っ払いの中年にしか見えないが、朝日はそんなことを思いながら臆面も出さずに平静を装った。
ちなみに朝日の格好はザ・派手すぎない格好である。えりの着いた半袖のシャツにジーンズという格好で、真澄はワンピースに薄いカーディガンを羽織っている。
「真澄ちゃんって何か日傘とかがあればお嬢様に間違われそうだね」
麻里子にそう言われていつものように軽く受け流すかと思っていた。けどどこかその言葉を聞いた真澄の様子がおかしかった。
「そ、そうですか?」
朝日は真澄の不自然な態度に疑問に思った。
『どうしたんだろう?…そんなに動揺すること』
いつも冷静である真澄が狼狽していると妙に落ち着かない。
不審に思った真澄にそれを聞こうとした時、花月と例の女の子がやってきたので朝日は後回しにした。
『まあ、焦ることはないしいつでも聞けばいいか』
いよいよ朝日は本番であると心を引き締めた。花月のいつも着ない服装にドキリとした。いつもは見えない白い素足が太ももまで見えていたからだ。
『静まれ僕の心臓〜』
落ち着かせようようとしているのに必死で、似合っているの一言も言えないのがもどかしくて少し消沈した。そして桃華の紹介に違う意味でドキドキすることになる。
「あれ? あんたこの前の」
「こんにちは、お久しぶりです」
朝日に気づいた桃華から話しかけれて顔面の筋肉を駆使しながら笑いかけようとした時だった。次の言葉で現場が凍りつく。
「あの時の…私が押し倒しちゃった」
「「うゔん?」」
「うん? 今なんて押し倒した?」
友希子が何のことやらとポカンとした表情をしている。
「えっ 何の話?」面白そうな話に麻里子が逃すはがなく、面白そうに聞いてきた。花月はその場に居合わせていたためことの顛末を知っているため苦笑している。
残るはーー…
「それは、初耳ですね。 どういうことか教えてくださいますか?」
そこにはふふふと笑っていたが、目の奥が笑っていない真澄がいた。朝日はどうにか弁明し誤解を解いた。
〇〇〇
駅から徒歩で原宿で有名な竹下通りを歩いた。
一本道となっており人であふれており、こんなに人がいるのによく人がぶつからないものだと感心する。
「わ〜、すごい人」
花月がそう感想を述べると、麻里子から話しかけれる。
「竹下通りは初めて?」
「うん! テレビでたまに見たことがあるけど、すごい人の数だね」
「そうだね」
少し歩くと目的のクレープ屋さんにたどり着いた。いろんな種類のクレープがあったがまずは定番のクリーム系を頼んだ。
花月はチョコバナナ、朝日ちゃんはチョコクリームとアーモンド、真澄さんはブルーベリーチョコ、友希ちゃんと烏丸さんはいちごチョコで麻里子はカスタードチョコだ。
久しぶりのクレープは甘くて美味しい、一口目にもちっとした食感の生地と生クリームの甘さがチョコのほろ苦さを引き立たせる。
『でもそれと同時に何だろう』
花月は目の前のクレープを見て困惑する。それは竹下通りの風景を見たときもそうだった。
初めて見たはずなのに、初めてきた感覚に落ちなかった。ここに来たことがないはずなのに花月はここに来たことがあると思う自分がいる。
『もしかして私が小さい時にきたことがある…?』
食べ歩きながら少し考え込んでいたので、花月はすれ違った一人の少年とぶつかってしまった。




