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今昔あやかし転生奇譚 〜平凡な女子高生の彼女と幼なじみには秘密がある  作者: yume
第三部:旋風に舞う白き翼、目覚めの鬼はから紅に萌ゆる
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第六話:壺井桐枝・志郎、陰陽局に行く

「相変わらずですね テル兄は」


「ええ、誰かもらってくれますか? この男を」


「僕は憲暁だけで結構ですので」


「そうでずか…それは残念」


「おいおい、本人がいる前で酷い言い草だな」


「すみません、テル兄」


 悪口を言われてふてくされた加茂野の隣に、知らないスーツの男性がいて秀光は気になった。


「あのそちらの男性は…」


「あっ、この人は刑事の足立さんです」


 阿倍野がそういうと、足立は秀光に会釈をした。


「はじまして、警視庁刑事一課の足立と申します」


「こんにちは、私は賀茂秀光と申します」



 〇〇


「助けていただいてありがとうございます」


 憲暁は助けてくれた立川にお礼を言った。


「えっ、ああ…あんなこと言われたら誰でも腹が立ちますよ」


 立川は憲暁が泣いているのではなく怒っていることを見抜いていた。彼の傷ついた心を思いやる。


「酔っ払っていたみたいですし、災難でしたね」


「会合とはいえアルコールは禁止にして欲しいですね」


「まったくですね」


 憲暁の黙っていると切れ長な瞳が怖く感じるが笑うと、年相応な子供らしい表情に立川は少し驚いた。


「私は警視庁の刑事一課の立川慶吾と申します」


「私は賀茂憲暁と申します」


(かものって加茂野か?)


 立川はどこかで聞いた名前を思い出している中で声をかけられた。


「おお〜、久しぶりだな二人とも」


 憲暁は方向転換をして振り向くと見覚えのある顔に叫んだ。



「テル兄!」


「加茂野さん」


「…うん?」


 テル兄と聞こえたようなと、もちろん立川は言っていない。隣を見ると驚いた表情をした憲暁少年がいた。


「テル兄、あの人のことをご存知なんですか?」


 一緒に来ていた足立と目があった。


「一緒だったとは…先輩?」


「ったくどこにいるかと思えば、自分から厄介ごとに飛び込みやがって」


 会えて早々に立川は足立に説教されてしまう。


「そのおかげで後腐れなく済んだのでいいではありませんか?」


 今度は黒髪の麗人に目を留める。


「あなたは…確か阿倍野さんですよね。 お久しぶりです」


「お久しぶりです、立川さん。 私の後輩を暴漢から助けていただいてありがとうございます」


「あっ、いえ 僕は何もしてません」


「謙虚なんですね。 誰かさんとは大違いですね」


 分かりやすく阿倍野は加茂野を見た。


「おい、俺が何かしたか?」


「いえ何も、日頃の行いが悪いんじゃないんですか?」


「お前、昨日俺が勝手に食べたケーキのこと怒っているのか」


「別に怒ってません」


 他人の立川から見ても怒っているようにしか見えない感じに、どうにかフォローできないかとおろおろしているとアナウンスが流れた。


『皆様、お待たせしました。 所属のプレートがあるところに移動をお願いします』


「おっ、やっと始まったか」


「……それでは」


 阿倍野達と別れ、僕らは警視局のプレートがあるところに向かった。


 〇〇


 集まっている数はざっと100人ぐらいだろうか。体格が良すぎる人が多すぎるが、部屋が広いためそう感じなかった。


 別室に移動するとテーブルと椅子が置かれていて、その中央にプレートが置かれていた。それを目印にどんどん着席していく。


 警察関係者は一番隅っこで一番多かったのは陸海空の自衛隊だった。最初はばらけていたが揃っているのを見ると壮観である。


 近くに先輩がいるので目だけをキョロキョロと忙しなく動かすと阿倍野と加茂野が主催側のテーブルにいたのが見えた。


 あそこが陰陽局の人たちかと珍しいものを見るような感じで、そっと伺う。


『陰陽局の人たちって思ったよりなんか普通なんだな』


 てっきり狩衣とかを着ていると思ったのは映画の影響が強いのだろうか。それから壇に壮年の男性が立ち、マイクを持った。


「皆様、お集まりいただいてありがとうございます」


「私は主催の陰陽局の管理を務めている壺井桐枝と申します」


「この会合は親交の場であり、顔合わせの場でもあります。お互いの職業は普通の仕事ではありません」


「人と触れ合い、話すこと、コミュニケーションが何より重要不可欠です。一方的な自己主張は破滅をともなうからです」


 柔らかな声音が一瞬背筋が凍りつくような声に立川はゾッとした。


「ですので、手と手を取り合いお互いのことを思いやる気持ちを持つことは忘れないでください」


「私の話はここまで、あとは若いのにお任せしましょう」


 誰が話すのかと見ていると一人のスーツを着た女性が立ち上がったのが見えた。


「陰陽局の代表、土御門百合絵と申します」


 ウェーブの茶髪は腰くらいまであり、メガネをかけている女性だった。名前の通り凛としたような声音と佇まいのような女性だと僕は感じた。周りの男性達も子供のように騒がないが、彼女の美貌にどこか落ち着きがない。


「ま・だ・年・齢・が・若・く・、若輩者でありますが何卒宜しくお願いします」


 年齢が若くを強調されたのを気のせいだろうかと立川は首を傾げた。その時、加茂野と阿倍野は口元を引きつかせた。


「さて最近、巷を騒がした死体遺棄事件はニュースでは人が犯したように見えましたが実際には違います」


「実際は死んだ人間を蘇らせようとした禁術を使うものが現れたのです」


 その言葉に一瞬だがざわついたが、彼女が話し始めると小さくなっていった。


「その事件は無事に蘇った霊は成仏しましたが、残念ながら下手人はつかまっておりません…ですので、この場をお借りして何か怪しい情報がありましたらよろくお願いします」


(そういえば、そうだな……少女の霊は成仏したってあの子から聞いたけど、それを起こした黒幕は見つかっていない)


 足立に聞いてみようと思ったが、捕まっていない状況から立川は推測する。これからどうなるのだろうという不安とモヤモヤを抱えながら、最初の会合が終わった。


 色々とあったが充実した時間だったとその日はマンションに着いた途端、疲れていたのかぐっすりと眠りについた。





〇〇




朝日から聞いた志郎は翌日に幼なじみの居候となっている烏丸桃華のことを調べるために陰陽局に赴いた。


 厳重なセキュリティをしいている陰陽局にたやすく入れるのは志郎には特別な許可証を持っているからである。


 狭間区ではそれを持っているのは一人しかおらず、また自分たちの安全のために何かと情報を共有するために陰陽局にたまに行き来しているのには情報は時と場合により命を脅かす危険性を帯びているからだ。


 志郎はあまり派手ではない地味な服装を選んだが、素材が良すぎるために無意味に近い。


 スーツとブラウスにズボンといたってシンプルな格好はもはやモデルのように陰陽局のロビーを歩いている人たちは彼の姿を見た途端足を止めてしまう。


 受付に着くと若い女性二人がいた。


「すみません」


 大抵受付の人は相手の手元しか見えないが次に顔を見るだろう。受付の女性は志郎の顔を見て陶然としていた。


「…あの大丈夫ですか」


「え…す、申し訳ありませんっ 今回はどのようなご用件でしょうか」


 女性は上擦った咳払いをして妙に色っぽい笑みを浮かべて話しかけた。


「情報の開示をしたいのですが」


 志郎は受付にあるシートにカードを提示した。すると見たこともないカードに彼女は隣にいる先輩の女性に聞いた。


「先輩、これ何か分かりますか?」


「これは…」


 何か分かったのかもう一人の受付の女性が「少々お待ちください」とニッコリ笑い後ろにある部屋に下がった。5分もたたないうちに受付の女性は一人の年配の女性を連れてきた。


「お久しぶりですね、日高さん」


「お知り合いなんですか?」


「ええ、昔からね。 彼はお得意様だからね。 確か田口さんは初めてだったわね」


「はじめまして、木内志郎と申します」


 イケメンに弱いのか彼女は頬を染めている。


「は、はじめまして田口里佳子と申します」


 自己紹介もほどほどに日高さんは情報を交換する閲覧室に入った。ここには膨大なデータが管理されており、機密情報とかも入っている。それは個人情報もである。


 志郎が住む狭間区以外にも妖怪が暮らすためには陰陽局、あるいは陰陽寮の認可が降りていないといけない。


 悪いものであれば退治する対象にされてしまう。そちらのリストには載っていて欲しくないと思いながら志郎は「烏丸桃華」という名前を検索バーにうちエンターキーを押すと名前がヒットした。


 生年月日や生まれ、など色々と出てきて読み取り駆除リストに載っていないことに安堵する。その記載をコピーして陰陽局を後にした。その夜報告を心待ちにする朝日に告げた。


 〇〇


「朝日様、烏丸桃華さんは黒でした」


 今は丁度夜ご飯を食べて体温が上昇するために縁側で朝日は涼んでいた。外では日常的に仕方なく周りと合わせるために洋服を来ているが、やはり和服の方が落ち着く。


 志郎の依頼の結果を聞き終えた途端、朝日はがくりと首を落として落胆した。


「はあ〜、そうかなって思ってたけど外れていて欲しかった」


 志郎からもたらされた報告を見て朝日はため息をつく。


「私も半信半疑でしたが、「烏丸」という苗字を聞いてもしかしたらと思ったんです」


「烏丸って地名が妖の世界にあるの?」


「はい、烏丸という苗字は多分南方の出身だと思います」


「こことは異なる世界の隠れ里は東西南北ありそして四方を守護する要を四神といい、東方院、西方院、南方院、北方院があるんです」


「へえ〜、そんなものがあるんだ」


「…って前に教えたはずですが」


 ニッコリと笑っているが、瞳の奥が笑っていない志郎に朝日はヒヤリとする。朝日はごまかすために視線を背け困っていると、突然大きな声があたりに響いた。


「あ〜、志郎が朝日をいじめている」


 ドスドスと床を踏みならしてきたのは志郎よりも背が高い赤髪の青年だった。


「糀こうじ? どうしてここに」


 糀は朝から夜まですこやかで保育士として働いている。人間の世界では労働基準法違反、真っ逆さまのブラック企業だが、体力が有り余る糀にとってはもってこいである。


「今日は夏目と小夜もいるから久しぶりに帰ったらって言われた」


 夏目と小夜は姑獲鳥の姉妹の妖怪で保育士をしていて、糀は彼女達の後輩にあたる。


「そっか、それじゃゆっくりできるね」


 今度先生達に会ったら何かお礼をしないとなっと朝日は考える。


「朝日と遊べる? 最近遊べなくてつまんない〜」


 最近は色々とあって糀とは会話することは少なかったかもしれない。


 一応朝日は糀の主人でもあるため、たまにはおしゃべりするのもいいかもしれないと思った。


「うん、それじゃ遊ぼーーっ」


 と言いかけるが、ごほんと咳払いする音で霧散する。


「糀、廊下は静かに歩きなさい、それと朝日様をいじめている訳ではありません。これは教育的指導をしているんです」


 朝日は志郎が醸し出す異様な雰囲気にデジャブと冷や汗を感じた。


『これはまずいな』


 夏の夜でも湿気があれば暑い時はあるが、汗をかくほどでもない。それよりももっと後味の悪いものである。隣にいる糀じゃさっきまでの挙動はどこへやら大人しいものである。『逃げねば』と朝日は立ち上がる。


「あ〜、ちょっと汗を掻いたからもう一回お風呂入ろうかな」


「えっ、それじゃあ、俺も入ろう」


 二人は足早に立ち去ろうとするが


「朝日様、糀ーーどこに行くのですか? 話はまだ終わっていませんよ」


 志郎に呼び止められた二人は硬直する。


「朝日様には後でたっぷりと勉強の復習をしましょうか」


「そして糀」


 糀は分かりやすいくらいに肩をびくりと揺らした。


「そんなに体力があり余っているんなら、私が久しぶりに組み手をしてあげましょう」


 ワキワキと指を鳴らす志郎に朝日と糀に戦慄が走る。ごく小さな声で朝日は糀に呟いた。


「…糀、逃げるぞ」


 コクリと糀はうなづくや否や、脱兎のごとく逃げた。


「おや? 追いかけっこですか、それもまたいいですね」


 数分後まずは糀から捕まり、そして朝日もあっけなく捕まってしまう。


「さて、何をしましょうか」



『もう、何もしたくありません』



 二人に全速力で駆けて汗だらけだが、志郎は涼しい顔をして汗一つ掻いていない。もうどうにでもしてくれと諦めていたその時だった。凛とした涼やかな鶴の一声が聞こえた。台所から真澄が出てきた。


「朝日様、デザートはどうですか?」


 その声で志郎の説教は止まった。


「…そういえば、デザートがまだでしたね」


 汗をかいていたのでとりあえず風呂に入ることになり、上がると茶卓の上にはお椀の中に黒蜜ときな粉がかかったわらび餅が用意されていた。


「いただきます」


 はむっと食べると餅っとした食感はあっという間になくなり、つるっとした喉越しが、火照った体を冷ましてくれる。


 舌鼓を打ち、真澄も話を聞いていたのか烏丸桃華の処遇をどうするのか聞いた。そして話し合ったところ、「監視」ということで収まり危険性があれば対処するという旨に決まった。

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