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今昔あやかし転生奇譚 〜平凡な女子高生の彼女と幼なじみには秘密がある  作者: yume
第三部:旋風に舞う白き翼、目覚めの鬼はから紅に萌ゆる
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第五話:会合と耳障りな雑音

「ぶ、部長」


「仲がいいのは結構だが、部屋の外まで聞こえていたぞ」


「「仲良くありません?!」」


 同じタイミングで放った言葉までもが同じになり、その様子にからりと部長は笑った。


「まあ今のように気を張らずに行ってこい」


「はい。部長 行ってきます」


 立川たちは今日陰陽局で行われる会合に行く。会合は顔合わせや情報の共有・交換を円滑するために開かれる。


 出席するのは僕のような警察関係者や様々な職業の人たちも来るらしく、陸上・海上・航空を守る自衛隊のエリートなどくるらしい。


「陰陽局に着いたぞ」


「えっ、そうなんですか」


 立川は心から残念な気持ちになった。昔からある陰陽局と聞いてもっと寺院や木造の建物だと思ったからである。けれど彼の予想は見事に外され、眼下には今時珍しくない高層ビルがそびえ建っていた。


「ここが陰陽局」


 日本家屋だと思っていた立川はテンションが下がる。そんな気落ちした様子に足立が話しかけてきた。


「何だ随分と残念そうだな」


「…思っていたのと違って」


「…ああ、何か古い寺院とかだと思ったのか」


「はい、普段見慣れているものを見るのってなんか新鮮じゃありませんか」


「まあ、そうだな(高層マンションに住んでいるお前からしたらだろうが)」


 物珍しい様子に足立はふと立川が住んでいるマンションを思い出した胸中で毒突いた。 


『こいつ、嫌味があって言っているんじゃないんだろうが、嫌味にしか聞こえない』


 楽しみにしていたので文句を言いながらも立川は初めて来るところに初心者らしくキョロキョロと自然と見渡してしまう。


「おい、あまりキョロキョロするな」


「あっ、すみません」


 注意された立川は、だたっ広い広間を迷いもせず歩く足立に気になって話しかける。


「先輩、前に来たこともあるんですね」


「ああ、何回かな」


 エレベーターに乗ったと立川と足立は最上階まで行われる会合に向かった。扉が開くと受付があり、足立はリストに署名した。検査を受けて、会場の扉をあけると人々の話し声で溢れていた。

「うわ〜、すごいですね こんなに人がいるとは」


「まあ、いつもこんな感じだな」


 立川はある人物に注目する。


「…うん……? あの人ってこの前テレビで見た〇〇じゃないですか?」


「…ああ、そうだな。 ここは陸海空の自衛隊の幹部が来るからいてもおかしくない」


「わあ、あれ、海上のコーラス部の美人なお姉さんで有名な人だ」


 立川はもうすでに上の空である。


『聞いちゃいねえな、これは』


(ねえ、あの人カッコよくない)


(声かけてない?)


『ここでも人気は健在だな…』


 これだけ人がいても、人目を引く顔立ちをしているので女性たちが色めき立っているのは立川本人は気づいていないことに足立は嘆息する。


 開会式は10時から始まるのでまだ時間があるとスマホの時間を確認した。


「すみません、先輩ちょっとトイレに」


「ああ、分かった」


 トイレからは外を眺めるようになっていて、立川は絶景を眺めた。せっかく気持ちいのいい眺めを見た後に事件は起きた。


 トイレを済ませ足立のところに戻ろうとすると入り口付近で一人の少年と二人組の男性が何か言い合っているのが聞こえた。遠くからわかりにくいが、近づくと異様な雰囲気に何か違和感を感じた。


 三人は知り合いじゃなさそうだな。少し観察していると男性の方が顔を真っ赤にして声を荒げて少年に突っかかりそうになったのを見た立川はとっさに体が動いた。



 〇〇



「おい、ここは子供が立ち入るところじゃないぞ」


 誰に言っているのかわからないフリをしたかったが、周りを見ても自分、賀茂憲暁以外に年下の子供は見つからない。自分が呼ばれていることに仕方なく後ろを振り向いた。


「…何でしょうか?」


 振り向くと、俺より年上だが、若い男性が二人立っていた。普段は従者の秀光といることが多いが、食べ物がいっぱいあると言ってスタコラさっさと行ってしまった。


 人に聞く態度ではないものにキレそうになるが何とか堪える。男性の顔をチラリと見ると両方とも顔を赤らめていて、酒臭い臭いがして俺は口元を引きつかせた。


『こいつら会合でも一応、仕事場だぞ』


 会って数分の人間に侮蔑の意味を込めて嗤・っ・た・。


「私は関係者のものですので」


「何? どこのものだ」


「(めんどくせえ)陰陽局のものですが…」


「ほ〜、陰陽局は子供に仕事をさせているのか」


『……やべえ、まじでブチ切れそうだ』


「お前、名前はなんて言うんだ?」


『名乗りたくねえ』


「賀茂憲暁です」


「賀茂憲暁…? 知らないな」


 名字に覚えがあるもう一人のメガネの男性が答えた。


「あ〜、そういえば陰陽道の大家だな、陰陽大家といって安部家、土御門家、賀茂家があるんだ」


「そんなのがあるんだな」と男は相槌を打つ。


「それで、さっき知ったんだが土御門家に偉い美女がいるって噂だぞ」


「へえ、そりゃ見てみてな」


『早くここから離れてえ』


 俺は会釈をして立ち去ろうとすると、メガネの男に呼び止められた。


「お〜と、話が脱線して済まない。 賀茂保憲は知っているよな賀茂家の祖先だから。 何・せ・あ・の・有・名・な・安倍晴明の師匠だろ? けれど、それ以来、賀茂家は特に有名人はいない。 君も賀茂家の一員ならもうちょっと有名になるんだね」


 下品な笑みを浮かべた男は俺を鼻で笑うような感じでとどめの一言をのたまいやがった。


「ーー坊っちゃん」






〇〇




『ーーああ、だめだ、怒りが収まりそうに無い』


 憲暁は賀茂家の長子として生まれてから、その宿命を背負って生きている。


 何も知らない野郎どもに自分のことをとやかく言われるのは構わなかったが、けれど、賀茂家の尊厳を傷つける言葉はどうしても我慢できなかった。


「…っ」


「あれ、君泣いているの? 傷ついたことをいったんなら謝るよ。ごめんね」


 泣いているのではない。怒りで体が震えそうなのだが酩酊状態の男は憲暁が顔を俯かせていたので誤解する。


 謝っているが生憎、心がこもっていない謝罪に何も響かない。怒りでめまいがしそうになりかけた時だった。


「あの、どうかされたんですか」


 それは唐突の闖入者だった。憲暁は声をかけた人物と目があった。


 〇〇


 立川は少年の表情に目を見開きそして二人組の男をみた。


「この少年があなた方に何かしたのですか?」


「……いや別に俺らは子供がいるから迷子になっていると思って話しかけただけだ」


 憲暁はその言い分を聞いているだけで、頭が痛くなった。


「…それはまずあり得ないですよ。 ここはホテルの最上階で受付があり、危険物がないか検査をする場所があるんですよ。 迷子なんていたらすぐに分かると思いますが」


「…何だとお前、言いがかりをつけるのか」


 さっきまでの口調とは打って変わってもはやチンピラのようになり、このタチの悪い酔っ払い達をどうしようかあぐねていると男がぐらりと倒れた。


「ヘぐっ」


「えっ…がっ」


 立川はまだ何もしていないが、男二人が倒れそうになったのをいつの間にか後ろにいた恰幅のいい男性が襟首を掴み取り、まるで動物の親が子供の首を噛んで持つような感じである。


「申し訳ない。 同じ自衛隊に所属する身として恥ずかしい振る舞いをお見せした」


「はあ…」


「この二人は徹底的に絞っておく」


「あのあなたは、一体?」


「私は、陸上自衛隊の陸士長の穂村謙一と申します」


「!」


 陸上の穂村といえば豪腕で力強い体格をしているが、知略に長けた人物だと界隈で有名である。


「僕は大丈夫ですが」


 そっと立川の方を見ると、目が合い、憲暁はそっと一息いれる。


「わかりました。 謝罪は受け入れます」


 深く一礼した穂村は気を失った後輩二人を米俵のように担いで去っていった。


 〇〇


 数分後、賀茂秀光は会合が始まる前にトイレに行った。その短時間の間にまさか憲暁が絡まれるとは運が悪いというかコンビを組んでいる相棒の不幸を憂いた。


 人が多く雑音があってもある程度は読唇術で何を言っているか聞き取れる。


 だから、トイレから出た後は相方を見つけ、人に絡まれているのを見た秀光はちょっかいをかけようと思った。けれど、何を言われていたかを聞こえてしまい立ち止まった。


『今、あいつらはなんて言った……あいつが憲暁が頑張っていないだと』


 努力をしても、掴めない、届かない夢がある。秀光はそれを小さな時に聞いて一緒に叶えたいと思った。だから相方を愚弄する奴らに何かしないと気が済みそうになかった。


 どうしてやろうかと止まっていた足を進めた。後ろから声をかけられるまではーー


「ーーおい、動くな」


 秀光はその言葉の通り動けなくなってしまった。


(……これは、言霊)


 言葉には力がある。それを力のある者が発せばさらに強力になる。ピクリとも動かなくなった体に冷や汗をかく。


 まるで刀か銃で背中を突かれるいるような威圧に襲われる。


(一体、誰が?)


 いや、短刀や銃は持って来れないはずだと考える余力はあったが、どうするかまでは時間の余裕が無さすぎる。


 秀光は逡巡していると、どこからかくぐもった声が聞こえて、「あて?!」という間のぬけた声と共に金縛りが解けた。


 肩の力が緩みパッと後ろを振り向くとそこにいたのは馴染みのある笑った顔達だった。


「テル兄、祐兄」


 加茂野照良を「テル兄」阿倍野佑司を「佑兄」と幼い頃から秀光はそう呼んでいる。


「あ〜、すまんな 驚かせて。 お前に声をかけようとしたら、殺気を放っていたからな」


「っ…すみません」


 一部始終を見られていたことに秀光は焦りと羞恥心に駆られる。


「謝ることはありませんよ。この男は遊び半分であなたをからかったのは本当ですから」


 ねめつけるように阿倍野は加茂野を睨むと子供っぽい表情をした。


「私もあんな風に言われたら腹が立ちますけどね」


「…聞いていたのですか」


「ふふ、耳・障・り・な・雑・音・が聞こえてきてしまって。 聞こえすぎるのもいいことばかりではありませんね」


「単に地獄耳なだけじゃ」


 ぼそっと加茂野が呟いたが、阿倍野には聞こえていた。


「今、何かいいましたか」


 にこりと笑っているが瞳の奥が笑っていない。


「いや〜、何でもありません」


 加茂野はわざとらしく視線を逸らすその他愛無い風景に、肩が強張っていた秀光は何だか肩の力をぬけた。

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