第四話:不器用で、だけど優しい
とりあえず、和室に移動した直後に烏丸さんは朝日ちゃんに謝罪した。
「本当に申し訳ない。 まさか幼なじみだったとは知らず不法侵入者と思い技をかけてしまった」
「えっ、ああ…私も驚きましたがもういいですよ」
朝日ちゃんは平伏する烏丸さんを落ち着かせようとしながらも、目線を横にそらした。
「それよりも服を…」
そのことに気づいた私は烏丸さんに謝る。
「あっ、着替えを置いておくの忘れてた。 ごめんね」
「いや、風呂上がりはこれくらいが丁度いいから」
「…はなちゃん、元々知り合いなの?」
朝日ちゃんに聞かれた私はどこで出会ったのか経緯を教えた。
「彼女の名前は烏丸桃華さん。烏丸さんと出会ったのは一昨日だったかな。丁度朝日ちゃんと真澄さんが日直の時でね私が買い物に行く途中だったの。それで女の子がコンビニの前で遊んでいる男子中学生かな?喧嘩しそうになっていて…」
「けど、烏丸さんすごいんだよ。あっという間に3人の男の子たちをやっつけてしまって、私が助けようよしたのは足手まといだったな〜って」
『ちょっと色々と突っ込みたいんだけど…』
朝日ちゃんは何かを言いかけるが、烏丸さんが話したのが早かった。
「そんなことはない。 現にあの後は私は倒れてしまって、その私をここまで運び介抱してくれたあなたを足手まといであるわけがない」
「…烏丸さん」
彼女はそう言った後照れ臭そうにそっぽをむく仕草に私はキュンとする。
〇〇
やっと彼女が服を着てくれて精神的なダメージが緩和されてほっとしたのも束の間で
、とにかく会話のリズムを崩さないように僕は繋げた。
「へえ〜、それはすごいですね」
「あんたは見たまんまね。体が華奢すぎる」
グサっと会って間もない女の子に自分のコンプレックスを僕はやけぐそ気味に笑ってやった。
「あはは、それよりもそんなに強いなら何か武術とか習っているんですか?」
「一応、小さい頃からあらゆる武術を習得している」
「へえ〜、すごいね。そんなに強くなって夢とかあるの?」
はなちゃんは興味津々に無邪気に聞いた。
「夢というより目標かな」
「目標?」
「私はある人を探しているの…その人を探すために私は強くなりたいと思ったの」
すごく沈痛そうな表情に見ていたはなちゃんも悲しげな表情をした。
「今度こそ私が強くなってあの人を探して守って見せるって」
はなちゃんは烏丸さんの両手を握り締めた。
「烏丸さん、私も協力する」
「は…はなちゃん?」
僕がそういうとおもむろにはなちゃんは話し出した。
「私もねある人を探しているから」
「えっ、ある人って?」
僕はもしかしたらと冷や汗をかく。
「御影様っていう人?何だけど、この前助けてもらってちゃんとお礼をしたいなって思って」
「そうだったんだ…」
幼馴染の前で涼しい笑顔を浮かべる僕はなるべく内心を悟らせないように必死だった。
『言いたい、非常に言いたい』
『御影様は僕だって』それにお礼は気持ちだけで十分だって言いたいがぐっと堪えた。
「…それじゃあ、私からも幼なじみを助けてくれたお礼を言わないといけませんね」というのが精一杯だった。
「そういえば、あんたはその子が見・え・る・の知っているの?」
「ふへ?」
『うん?』
見える=妖怪が見えることを示唆しているのだろうか。
またもや無自覚という名の爆弾を放り出された気分がした。その言葉を聞いたはなちゃんは明らかに挙動がおかしくなりテンパっている。
そんな姿も可愛いじゃなくて、どうしたものかとあぐねていると、烏丸さんが失言に気づいたのか、他のことを言い出した。
「見えるってあれよ、え〜と、まあ気にしないで」
『気になる、めっちゃ気になるけど丸投げした』
答えが分かっている為あえて質問をしなかった。僕は話を変えるために持ってきた羊羹のことを思い出した。
「あっ、そうだ。 これよかったら食べて」
「あ! これ私も好きな小豆堂の羊羹だ」とはなちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせる。
僕は差し入れを持ってきたことをよかったと後で志郎にお礼を言おうと心から思った。
〇〇
朝日ちゃんはしばらくして夕方前に帰っていった。夕食の準備をしようと台所に向かおうとすると烏丸さんにいきなり謝れる。
「ごめん…見えるってこと秘密にしていたんだね。 軽率だった」
「あ〜、うん、妖怪が見えるってこと誰も知らないの。みんなを危険な目に合わせたくなくて」
「私も言うのを忘れていたから、そんなに落ち込まないで」
「…うん」
しゅんと落ち込む姿は悪いことをしてしまった子犬のようで、可愛いと思ってしまった。
「なんとかごまかせたと思うから大丈夫じゃないかな? 何も聞いてこなかったし」
「そうかな? そうだといいけど」
私が励ましても、むしろ今は逆効果か。
『不器用で、だけど優しい』
烏丸さんに風呂掃除をお願いをして私は彼女が何か元気の出る料理を作ろうと考えた。
〇〇
「ただいま〜」
普通なら玄関に入って和室に入るまで返事が返ってくるのだが、今日はいつもと違い玄関を開けると志郎が立っていた。
僕は普段通りにしようと思ったが、何もかもお見通しのように表情で開口一番に聞かれた。
「それでどうでした? 彼氏とかいました」
「…」
丁度玄関から上がる段差だったため、その言葉に思わず気を取られた僕は段差を踏み外してしまい転びそうになる。
「うわ?!」
けれど床に顔をぶつけそうになるが倒れそうになる体を受け止められる。志郎が人並外れた運動神経で僕を支えてくれたのだ。
「ちょっと大丈夫ですか。 動揺しすぎですよ…まさか本当なんですか」
「……いいや、彼氏じゃない。 女の子の友達だった」
「…女の子、それはよかったですね」
「それはよかったんだけど、会ったばかりなのに仲が良すぎると言うか、その子居候しているんだ」
「居候しているんですか? それはまた珍しい」
はなちゃんが人見知りだと言うことを小さい頃から知っている志郎は意外だと驚く。
「僕も驚いたよ。 まさか女の子を住まわせているなんて」
「でもその子、学生じゃないんですか。 親御さんとか許可は?」
「どうやら離れて暮らしているみたいなんだ」
今時、子供が遠くの学校にいくために学生寮で暮らしをするのは珍しくないと志郎は納得する。
「それよりも気になることがあるんだ?」
「気になること?」
「どうやらその子、はなちゃんが妖怪が見えることを知っているみたいなんだ」
「!」
「それと雰囲気が他の人間の女の子と何か違うと言うか…」
「一度その子の素性を調べた方が良さそうですね」
身元がわかるまでは近づかないようにはなちゃんに言いたかったが、言うに言い出せないやむ得ない事情が常に付き纏うことに僕は苛立った。
「うん、そうだね」
「名前はなんて言うんですか?」
「確か烏丸…桃華さんって言ってたかな」
「烏丸…」
「どうしたの、志郎?」
「いえ、明日中に調べて見せます」
「よろしくお願いします……はあ〜、はなちゃんちに行ってこんなに疲れたことがあったか」
「ふふ、お疲れ様でした。 お風呂沸いていますので」
「うん、ありがとう。 先にいただくね」
僕は疲れた心と体を癒すために足早に風呂場に向かった。だから志郎が考えていたことに気がつかなかった。
『烏丸…と言う苗字、もしかして』
心当たりのある苗字だったが、確証がなかった。志郎は調べる準備を整えるために自室に向かった。
〇〇
昨日の夜から緊張していた。いやその話を聞いてからだったからも知れない。俺、立川慶吾は昨日用意した半袖のブラウスとズボンを着替えてマンションを出た。
外は気持ちの良いぐらいの晴れ晴れとして、まるで小学生の時にいった遠足のような気分に浮かれつつ、仕事だと思いながら警視庁に着いた。
室内にはもうすでに誰かが座っていて新聞を読んでいて顔がわからなかったが、体格を見て、足立先輩だと気づいた。
「おはようございます、足立先輩」
「うん? ああ、おはよう」
新聞をずらして目とカチリとあった瞬間に僕は驚いた。
「メガネ、かけるんですね」
「ああ、近眼でな、メガネをかけないと、文字が霞んで見える」
「そうなんですね」
僕は心の中でインテリ〇〇〇に見えたのは、ドラマの見過ぎだな〜と痛感した。
「朝早くに珍しいな、お前が来るなんて」
「先輩こそいつもギリギリじゃないですか」
「何か最近暇でな、早寝早起きしてまうんだよ 何もすることねえし」
「そうですね。 大きな事件といえば先月あったあれぐらいですね」
先月あった死体遺棄事件は公園で発覚しメディアなどで話題となった。
それからと言うもの大きな事件と関わってきていろんなものを見たせいかただの事件では落ち着くようになった。要するに心臓に毛が生えたのだ。
(……いろんなものといえば)
「あの先輩、病院にいた人たちって何なんでしょう」
「あん? 病院って」
「先日あの事件で犯人を治療していた病院にいた人たちです」
「陰陽局の連中か」
「阿倍野さんと加茂野さんでしたよね。 あの人たちも不思議でしたけど、黒髪の少女…じゃなくて少年とか着物を着ていた人たちがいましたよね。あの人たちも陰陽局なんですかね」
「さあな。俺たちとは別次元の人間のようだな」
「えっ 同じ世界に生きているじゃないですか」
「…お前、哲学的なことを言えるんだな」
「先輩、今さりげなく僕を馬鹿にしましたね」
「してねえ」
「いいえ、しました」
「してねえって言ってんだろ。 うるせえな」
「うるさいのは先輩ですよ」先輩の言い草に思わず熱が入ってしまう。「何だとーー…」と先輩が言い返そうとした、その時だった。
「コホン」
すると僕と先輩以外の咳払いを耳にし、誰だと部屋の入り口を見ると自分たちの上司の部長が立っていた。




