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第六話:二年前と小さな勇気

友希ちゃん視点です。

【友希子・視点】


 はなと知り合ったのは中学の時である。


 私のこの食欲はいつからなのか自分の親に聞いてみたら、これは生まれつきみたいだ。遺伝なのか両親も弟もたくさん食べる。


 それを話すとアパートで一人暮らしをしているはなにとって、食費とかどうなっているんだろうと恐ろしそうな表情をされた。


「友希ちゃんと出会ってもう2年半経つんだね」


「そう? まだ2年ぐらいなんだね」


「何だかはなと朝日とはもっと長い時間一緒にいた気分になるけどね」


 そう言うとはなは嬉しそうに笑った。


 中学2年生の時だった。


 はなは朝日が美化委員会からの帰りを待つまでの間、いつものように一人で本を読んでいた。


 その時に私から声をかけたのだ。


「ねぇ なんの本を読んでいるの」


「この後、何か用事があるの?」


 はなの両親が事故で亡くなったことはこのクラスの全員、いや、おそらく学校全体が周知している。


 知っているが、どうすればいいのか?クラスメートはまだ当時13歳か14歳である。


 大人でも身内のものが亡くなれば対処が難しいのに、子供はまだ未知の領域なことが多すぎる。

 クラスメートははなにどう声をかけていいのかという、居た堪れない状況が続いてはなもそれに気づいて、クラスのみんなに気を遣われないように図書室に逃げ込んでいたのを後で知った。


 私も2年半という言葉に過ぎ去ったことに思いを馳せていた。


「友希ちゃんと出会うまで友達とかいなかったもんな〜」


 という言葉に私は衝撃的で、2年半経った今でも覚えている。なぜかというと学校での2人は美少女ということで有名だったからだ。そんな彼女たちに友達がいないことに驚いた。


 二人の関係は友達というより幼なじみという意味合いが強い。


 性格が悪いとかというわけでもなく、どうしてだろうとあまり気になっていなかったが私のクラスメートがそのことを話していた。


「だってあの二人っていつも一緒だし、なんか近寄りがたいんだよね」


「へ〜 そうなんだ」


 クラスメートの話に私は相槌を打った。まだその当時は二人の噂話は知っていいたが、まだ面識はなかった。


 私が鮮烈に覚えているのは、初めて見た二人の姿だった。


 その日もいつものように学校に登校した私は、靴箱にある上履きに履き替えようとした時に、先日話していたクラスメートとは違う知人に声をかけられた。


「おはよう 友希子」


「今日は珍しく遅いじゃん」


 体を動かすことが好きな私は剣道部に入っていて朝練があるためいつも早かったのだが、部活の先生が足を骨折をしてしまい病院で入院することになった。


「うわ〜 痛そう」


 しばらく学校に来れないとのことでその間は休みになったのだ。

 もちろんその間、ストレッチや体力作りを怠らないことを指示されたが。


「早くよく治るといいね」


「そうだね」


 私とそのクラスメートが先生の快方を祈ってた時だった。


 それは静かに滔滔に現れた。私たちと同じセーラー服を着た二人が歩いている。


 それは別に普通でおかしいことではないのだが、その二人を見て多くは男子が騒いでいるが女子も少なくない。


 けれど私は周りの喧噪がやけに静かに感じた。二人の空気感あるいは醸し出す雰囲気に驚いた。


 二人が寄り添うように歩く姿はまるで……


 刹那、私はそう思った。なぜだか分からないがただ漠然となのだ。


 隣から知人に声をかけられるまで、友希子は一言も発していないことに気づいた。


 私の表情を見た知人はデジャブを感じたのか、その二人のことを勝手に話し出した。


「黒髪で眼鏡をかけている女子が代永朝日ちゃん」


「あまり印象が薄いけど、黒髪がすごくサラサラでスタイルが悪くなくていいと思うんだよね〜」


「あと前髪が長いから素顔を見た人は誰もいないんだって」


「それで私が気になっているのはもう一人の女子の平野花月ちゃんよ」


 クラスメートはなぜか鼻息を荒げながら興奮していている有様に、私はそれに少し後退る。


「見ての通りの美少女ね」


私も初めて彼女の容貌を見て頷いた。


「というかナイスバディなのよね」


「うん……うん?」


 私は続いて頷きかけたが、その言葉に首を傾げた。意味を理解していない私にクラスメートは興奮気味にに説明してくれた。


「私、あの二人と同じクラスなんだけど、体育の時ちょっと見ちゃったのよね」


「ああ・・うん」


「あの子の胸がもうバインって出ていて」


「私、美術部に入っていて、女の子の体をいっぱい書いているからね」


「……」


「あれはEいやFはあるわね…でも成長期だからもっと大きくなるかもしれないし」


「あんたはエロ親父か」


 別に人の性癖や嗜好にとやかくいうつもりはないが、限度というものがある。たまらずに私は鼻息荒く熱弁するクラスメートの頭を軽く小突いた。


「普段はセーラー服という神域に身を包んでいるからか、分からなかったんだよね」


 バックに稲妻が走ったかのように、クラスメートは何かを閃いたらしい。相変わらず分かりやすい表情である。


 何を思いついたのかと呆れながらも私は聞いてあげた。


「どうしたの?」


「もしかして、着痩せするタイプ……」


「ウヒョ〜 いいわね。 夢が膨らむわ」


「ぐふ ぐふふふふ」


 ブツブツともはや独り言を言い、不気味な笑い声を出すクラスメートは側から見るとヤバイ人である。


 私は心から心配した。傍らでその発言を聞きながらいつか捕まるんじゃないかとクラスメートの将来を案じた。


「まあ、程々にしなよ」


 私はクラスメートに忠告したが、その心配をよそにクラスメートは頭の回転というか無駄に切り替えが早い。


 次に出てきた声はさっきの声とは裏腹に沈んでいた。


 さっきとは打って変わって違う様子に私はどうしたんだろうと首を傾けてクラスメートの表情をうかがった。


そして、次の一言で私は凍りついた。


「でも‥…平野さんつい数ヶ月前に両親が亡くなったばかりなんだって」


「…え?」



〇〇




私はそれからはなのことを気になり出した。


 そして、ふとある日、図書室にいることをクラスメートから聞いた私は図書室に来てしまっていた。


『私……何をやっているんだろう』


  心の中でそう自問自答をしながらも、体は彼女がいる図書室に向かい現にここにいる。


『別にいるか分からないし』


 そっと入っていなければ帰ればいい。


 ドアを開け入ると数人の学生たちがいて、少し奥を覗き見ると私が探していた平野花月がそこにいた。


 そしてふと見ていると彼女が本を見ながらため息をつき、つまらなそうに読んでいることに気づいた。


 そして彼女はそっと外の方に目を向けた。


 外の方に何かあるのかと私も一緒の方向を見て、また彼女の方に視線を戻した。


 図書室の外から聞こえる部活動をしている掛け声や女子たちの話し声に耳を傾けていて嬉しそうに顔をほころばせていた。


 彼女の今の近況をクラスメートから聞いている私は、彼女はきっと誰かと話したいんじゃないかと思った。


 初対面の人に話すのはとても勇気がいる。それも顔見知りですらないのだ。


 私は緊張したが、彼女と話してみたい気持ちを無駄にはしたくなかった。話すとしたら今このタイミングだと直感した。


「あの……なんの本を読んでいるの?」


 生憎だが私はあまり読書などはしない。どっちかというと迷いなく部活で体を動かす方が好きな方だと豪語するだろう。


けれど会話の糸口が掴めずに選んで絞り込んだセリフだった。


『私……本なんて読まないのに 何聞いているの?!』


胸中での私は自分を突っ込んでいた。


「…え?」


 突然、声をかけられて目の前に現れた見知らぬ女の子にに彼女は大きな瞳をパチクリと開けた。


 いつも沈んだ感じかしていたからか、彼女のその驚いた表情は新鮮だった。


「えと…」


 彼女は言い淀んでいるのを察した私は、慌てて自分の気持ちを伝えた。


「あっ、いきなりだったよね」


「実は…私、あなたと友達になりたいのっ」


「えっ……」


「そっ、そうなれたらいいなって思ったんだけど・・」


「……」


 沈黙が重い。彼女からの返事がない。やはり早急すぎたかと私は少し後悔した。


 沈黙は拒絶の現れなのか、そう感じた私は出直すことを考えて彼女に謝罪した。


「やっぱ……ご、 ごめんねっ」


「いきなりだったから……嫌だよね」


 私はその場から立ち去ろうとしたその刹那、彼女が声を上げた。


「っ、違ーーううんっ そんなんじゃないっ」


「嫌とかじゃない」


 私のその思いとは裏腹に彼女の気持ちはどうやら同じだったらしい。下の方ばかり見ていた彼女は私に顔を向けて喜色満面の笑みを浮かべた。


「嬉しくてっ!」


 その笑顔がとても嬉しくて私は自然と彼女に手を差し出していた。


「私の名前は立花友希子」


 そして彼女も私の手を握り握手してくれた。


「私は平野花月と言います」


 嬉しそうに恥ずかしそうにはにかみながら、私と彼女は笑いあった。


 その後に彼女の幼なじみの代永朝日も委員会から帰ってきて、私と知り合いとなり友達になる。



〇〇〇



 キーンコーン カーンコーン


 昔話に花を咲かせ、話し終えるちょうどその時に午後から始まる予鈴が鳴った。


「おっと もうそろそろ行かないとね」と私は二人に促した。


「そうだね」


 私達は急いで中庭から教室に戻っていき、他の学生達も自分の教室へと帰っていった。


 今から午後からの授業が始まり、腹を満たされた生徒達は先生のお経のような子守歌と睡魔との壮絶な戦いが始まる。


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