【第二部:完】
『私はどこに行き着くんだろう』
ゆみが最後に隼人と別れて、間も無くの頃、不思議な光に導かれた彼女の魂は空に昇った。どこへ行くのかという不安や恐怖感ははない。
『あの時とは違う』
あの時とは彼女が最初に目覚めた時のことだ。悲しくて辛い気持ちで潰れそうにもならなったのにーー
『嫌な感じはしない、これはとても暖かくて優しい光だと』
ゆみは何の確証もないがそう感じた。
「あれ?……私以外にも似たようなのがある。あれも人間の魂かな?」
ゆみは気になって追いかけ、後ろについて行った。そして先を見ると、大きな建物があり、目ん玉があれば飛び出しそうなリアクションである。
「でか〜!」
声を張り上げたゆみは、一つずつ呼ばれて行っているので、中で何かが行われていると好奇心を抱きながらも、不安に駆られていると、ゆみの名前を呼ばれたので返事をするが、
「はい!」
極度の緊張でちょっと声が裏返ってしまったのは勘弁してもらいたい。その緊張もどこへやら中に入ると平安時代のような屋敷の造りに感嘆の声をあげた。
「は〜、すごい、何これ 何この映画のセットみたいな感じ…こんな家、教科書とかしか見たことがないんだけど」
現代っ子さながらに感心していると、御簾の奥から人影があることに気づき綺麗な女性の声に聞こえてきた。
「あなたの名字とお名前をお聞かせください」
記憶が戻っていなかったら、名前しか覚えてなかったが、今なら答えられる。
「私は伊藤弓と言います」
どんな声が返ってくるのかと思えば、中々楽しそうな声が返ってきた。
「弓ね! いい名前ね。弓とは魔除けの意味もあるのよ」
「そうなんですか?」
「自分の名前の意味も知らないとは、最近の若い者は」
男の人もいるのだと、男性の声にゆみは少し驚く。女性の声は真ん中から聞こえたが、男性の声はゆみから右に聞こえた。というよりもその言葉遣いに少しカチンときたゆみは苛立ちをこめて言い返す。
「今、知りました。もう忘れません」
ふんとゆみはそっぽを向く態度に、気の短い男なのか語気を荒げた。
「お前、私を三貴子と知ってのことか!」
「……三貴子って何?」
ゆみは知らない言葉に首をかしげる。
「お前日の本に生まれてそんなことも知らないのか私が直々に教えてやる。三貴子とはーー」
『あ、何か話が長くなりそうなパターンだな〜』
昔の学校の社会科の先生を思い出した。それとあの頭のハゲた教頭元気にしているかな〜と別のことを考えていると。
「まあ、いいのではありませんか。いずれ、知ることになるのですから」
「むむ」
さっきとは違う男性の声だとゆみは気づく。少し沈黙があり、男は彼の仲裁にためいきをつくのが聞こえた。
「お前に口では・買ったことは無いからな」
「あら、口でも・じゃないのかしら?」
女性の嗜める声に男は口調がさらに子供っぽくなる。
「そ、それは今言わないでください」
男が慌てる様子よりも、思考がどこかにいっていてゆみもその美麗な声に惹かれていた。
『お〜、すっごい美声』
さっきの男性とは違う声が真ん中から左の方へまた聞こえた。
「ふふふ」
けれど、どこか聞き覚えのある声にゆみは既視感を覚えて首を傾げる。
「話がずれてごめんなさいね」
今度は真ん中の女性から声をかけられた。
「それで、ここでは私が新しい名前をあなたに送らないといけないんだけど、何か希望とかある?」
そんな何か他に食べたいものがあるみたいなノリで言われてもとゆみは逡巡する。
「う〜ん、新しい名前ですか、弓っていう名前は消したく無いので、前の名前がついても大丈夫ですか?」
「ええ、構わないわよ」
「う〜ん」
その言葉にほっとした。人間だった時の名前は両親がつけてくれた名前なので。ゆみは考える人になり、ふと真澄と隼人のことを思い出した。二人が繋いでくれたものは「虹」。虹には他にも名前があった。
「雨の弓……当て字で雨弓あゆみでどうでしょうか?」
「あゆみ……」
女性はつぶやき、鈴の音が鳴る声音で微笑んだ。
「ええ、とても素敵な名前ね!」
そして傲岸不遜な男の声が聞こえた。
「ふん、悪く無い」
『あんたの感想なんて聞いて無いんだけど』と心の中でゆみは思ったがまた言い合いになると思ってあえて言わなかった。
「主宰、天照大御神あまてらすおおみかみによりあなたに「雨弓」の名を与えます」
その途端、ぼやっとした輪郭から姿形が人型になった。自分に手と足があり、金色に光っている。
「これであなたは高天原たかまがはらの住人になりました」
「高天原?」
「高天原は天津神あまつかみと呼ばれる神様たちが住んでいる場所のことよ」
「このままずっと歩いていけば、村があるからまずはそこの村長に頼って行ってね」
「分かりました」
「ありがとうございました」
ゆみはぺこりと綺麗にお辞儀をした。少し歩いていて、振り返ると御殿はどこかへと消えて行った。
「ゲームみたいだな〜」
独り言を呟きながらトボトボと歩いていくしかない。ふと気になったことをゆみは思い出した。御簾の奥にいたあの男性の声に聞き覚えがあったのだ。
「あの声…どこかで聞いたんだんだよな〜」
ゆみは自由気ままにぼやきながら、頭をかいた。
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第二部のキーパンソンとなるゆみが主人公の『今昔あやかし転生奇譚』のスピンオフ『雨弓の外伝~成仏したと思ったら高天原の住人になっていました』も興味がありましたらぜひご覧ください。
別作品に『魔法世界の少年ティルの物語』という作品があります。ファンタジーものが好きな方におすすめです٩( 'ω' )و
 




