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第二十六話:賀茂家の次期後継者と暗示

その日のうちに田ノ上は目が覚めて、そばにいた警備の刑事に自首をし、洗いざらい自分の余罪を吐いた。


 自分は五年前に家に忍び込んで、女子中学生を殺したことをーー田ノ上は殺人罪、死体遺棄罪、それに不法侵入罪の罪を認めた。その後刑法で裁かられ、死刑または無期もしくは二十年以上の懲役となり罰せられる。


 田ノ上に関する卑劣極まりないニュースは全国に流れた。彼は治療が終わると刑務所に逆戻りとなった。


 部下である刑事二人の疲れ切った顔を見た部長は苦笑しながら話しかける。


「お二人さん、目の下にクマができているぞ」


 足立と立川は丁度田ノ上に関するニュースを見ていた。立川は部長の声に反応して

振り返る。


「え……そうですか まあずっと眠っていないので」


「そうなのかね」


 部長の心配そうな声で話しかける。


「あまり無理はしないように、特に妖怪が絡んでいるとなると」


「なんだか部長の言葉から妖怪って聞いても違和感がなくなっているような…」


 立川は苦笑すると、部長もまた同じ表情をする。


「まあ、慣れたら早いもんさ、今日は二人ともそれじゃ仕事にならないから帰ってゆっくりと休みなさい」


「はい、お疲れ様でした」


 足立も一緒に退勤して、駐車場に向かう前に立川は自動販売機により缶コーヒーのを二本買い片方を彼にあげた。


「お、気が利くな」


「居眠り運転は良くないですからね、それとちょっと話したいことがあるんですけど良いですか」


「ああ…いいが、タバコ吸っていいか」


「どうぞ」


 病院はタバコが吸えないため我慢していたのか、ポケットからすぐに取り出した。近くにあったベンチに座った。朝方なのにふわふわとしているのは疲労感があるのからなのか少し覚束ない。プルタブを開けてぐびっとコーヒーの苦味で目を覚ます。


「……ふー」 


 気持ちの良い青空だというのに重たいため息が辺りに沈む。本当に色々とあった。そして今でも心残りなことがあったので立川は足立を引き留めた。このままの気持ちで家に帰りたく無かったからだ。


「僕はあの時、殺された彼女を止めることはできませんでした」


「……被害者の中学生の子か」


「僕も、もし殺されたら同じように殺した人を恨んでしまうかもしれん……先輩だったらどうしますか?」


「俺だったら…? さあ、分かんねえな……そん時になんねえと」


「そうですよね…変なこと聞いてすみません」


「いや、別に変なことじゃないだろ…ただ何もできなかったのは悔しいな」


「はい、僕たちができたのはかべに張り付いていたことぐらいですもんね」


「そうだな…まあ、専門は専門にまかせればいい、下手なことを考えるなよ」


「でも…」


『僕にも何かできないかな…』


「人間には適性が必要なんだ、俺はからっきし見えるだけだったからだけど」


「適性?」


「妖怪を祓う能力だな」


「阿倍野さんや加茂野さんたちみたいなですか」


「あの人たちは特別な家の血を引いているからな……」


 そんな家ってどんな家だろうと立川は思い浮かべる。


「まあ、俺たちには俺たちにしかできないことがあるさ…それじゃあもう帰るな」


「はい、ありがとうございます」


 足立は手を振ると立川は話を聞いてもらったことに礼をした。その後、被害者の伊藤弓の遺骨はその後、火葬され被害者の家族の元に返りようやく事件は収束した。


〇〇


「ふ〜、なんとか面目が保たれたでしょうか?」


 田ノ上の代役を立てるために式神を作っていて、役目を果たした途端、阿倍野は一息ついた。


「お疲れ〜、眠ってていいぞ」


 普段は阿倍野が運転しているが、今は加茂野が代わりに運転する。


「眠るわけには、後処理もありますしーー」


 阿倍野は最後まで自分の仕事を全うしようとするが、舌足らずになり目も虚である。


「う〜」


 寝ないと言いながらも、ものの数分で夢の中に旅立っていった。


『いつもそれぐらい素直だといいんだけどな』


 加茂野は吐露しながら、陰陽局に戻っていった。陰陽局に到着し駐車場に止めようとしたところ、地下の入り口付近に丁度2人の知り合いがいたので、加茂野は車の窓を開けて話しかける。


「お〜い 憲暁のりあきと秀光ひでみつ、お前ら、今から仕事か」


 声をかけられた少年は加茂野の声に気づき、走り寄る。


「あれ、てる兄?」


 「てる」とは加茂野照良のあだ名である。


「どうしてここに?」


「俺達・は仕事の帰りだ」


「ーーー達って?」


 複数であることに疑問を抱いた少年ーー憲暁は助手席に眠っているもう一人の人物に気が付いた。


「あれ? ゆう兄もいる」


 同じく、『ゆう』は阿倍野裕司のあだ名である。憲暁は阿倍野を伺うと目をつぶっていることに気づく。


「ゆう兄、どうしたんですか?」


 心配そうに眉をひそめる。憲暁を安心させるように加茂野は告げた。


「ちょっと力を使いすぎて、眠っているだけだ」


 そういうと憲暁は少しホッとした表情をした。その横で黒髪の少年が話しかける。


「お疲れさまです、照良さん」


「お〜、秀光」


 憲暁はパッと見、最初は警戒心は強いが仲良くなれば人懐っこくなる。秀光は大人しい見た目とは裏腹にしっかりとしていて頼りがいがある。


「憲暁をよろしくな」


「任せてください」


 本人そっちのけで秀光は胸に手を当てながら宣言した。


「てる兄、それってどうゆうっ」


 加茂野の言った揶揄に何かひっかり問い詰めようとするが、


「さっさと行かないと、仕事に遅れますよ〜」


 秀光は抗議しようとする憲暁を置いて先に歩き出す。


「おっ…おい、俺を置いて行くな」


 主人よりも前に行く従者に焦り、憲暁は慌てて別れを告げた。


「それじゃ、てる兄」


「ああ、またな」


 加茂野は憲暁に手を振りながら見送った。バックミラーで二人を歩く姿を見て笑った。


「あいつら本当に面白えな」


「ーーあまり二人を揶揄わないでください」


「おっと、起きてたのか」


 眠っていたと思った人物が起きていたことに、加茂野は少し驚いた。


「二人は賀茂家の次期後継者とその従者なのですから」


「しかも、彼らはあなたの家の……」


 賀茂家は漢字が違うが加茂野家の本家になり、分家である。身分は憲暁と秀光の二人の方がはるかに上である。


 加茂野は幼い頃から懇意にしているのだが、阿倍野は彼の砕けすぎる態度に注意する。阿倍野の説教に加茂野は慣れたようにへいへいと軽くうなづいた。




〇〇



「う〜ん」


 ムニャムニャと布団の中で眠っていた少女、花月は鼻腔をくすぐる匂いと共に目が覚めた。


「何だりょ……とてもいい匂い」


 起きたばかりで少し舌足らずになったことに恥ずかしく思いかけた時

普段に匂わない新緑の香りがすることに気付いた。寝起きのため意識が定まらないが、徐々に目が覚めてきた。


「あれ? ここは」


 見覚えある和室であることに花月はいち早く気づく。


「ここ、朝日ちゃんの家だ……私、どうしてここにいるんだろう」


 自分のアパートにいないことに花月は腕を交差し考えていると、障子の向こうから、女の人の声が聞こえた。


「花月ちゃん、起きてる?」


 花月は慌てて、居住まいを正して返事をする。


「はっはい、起きてます」


「やっほ〜、お久しぶり」


 障子の引かれた先に出てきたのは黒髪のベリーショートで紺色の着物を着ている女性が入ってきた。


「聖子さん! お久しぶりです」


 花月は少し驚いて、その後に挨拶した。


「あ、後おはようございます」


「うん、おはよう」


「聖子さんと会うのは久しぶりですね」


「そうね〜、朝はいないし夜は仕事だから」


「そうですよね」


 ふと花月は気になったことを聞いた。


「私、昨日、朝日ちゃんの家にお泊まりしたんですね?」


 どうして疑問形に自分でも言っているのかよく分からないがなんだか不思議な質問になってしまった。特に不思議がることもなく聖子は普通に話しかける。


「うん、朝日はまだ眠っているね」


「それじゃ、起こしに行かないと、というより今は何時だろ?……」


 何はともあれやることは変わりないと花月は布団の上から起き上がり立ち上がろうとすると足元がふらついた。


「ふへ?!」


 何故かは分からないが立ち上がろうとした時に足元の感覚がおかしくて花月はたたらを踏んでしまい転びそうになるがすんでのところで聖子が支えた。



「おっと! 大丈夫かい?」


「っ……はい、すみません」


「朝方は寒いからね、体が硬くなったのかもね?どこか体調とか悪くない?」


「はい、大丈夫です」


「そうかい」


 花月の様子を見た聖子の心底安堵するような声に、少し不思議がる。


「どうしたんですか? 聖子さん」


「……ごめんね 花月ちゃん」


 目を伏せた聖子は、目を開けた瞬間花月と目が合った。刹那、花月は聖子の瞳に囚われる。


【あなたは三週間過ぎたことを知らずに、普通に日常生活を送っていたわね? 花月ちゃん】


 聖子の聞いた言葉に花月は人形のようにコクリと頷く。


「後はそうねーー」


 子守歌のような聖子の囁きが、花月を夢うつつに誘う。


 パチリとした音がして、花月は緩慢な動作で音のした方向を見ると、聖子が手と手を合わせていた。


「あれ? 私、何をして……?」


「ふふ。まだ寝ぼけて可愛いわね〜顔を洗って朝日を起こしに行かないとね」


「あっ、そうだった、その前におにぎりを作らないと」


 花月は口に出しながら整理をして、障子から出て行ってまずは顔を洗いに洗面所に向かった。


 顔を洗い、食卓にはのれんが掛かっておりくぐると、二人の姿が見えた。


「おはようございます、真澄さん 志郎さん」


「おはようございます 花月さん」


 真澄は近づいて声をかけてきた。


「具合の悪いところは無いですか?」


「いえ、どこも無いですよ」


「そうですか」


 ほっとしたような笑みを真澄は浮かべた。


「?」


 何だかたくさん心配されているような気がするが、気のせいだろうか花月は首を傾げた。慣れた手つきでおにぎりを二つ作り終え、朝日を起こしに向かった。

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