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第十七話:失踪と落ち込む真澄

病院の護衛をしながら、足立はどこかに電話をかけた。


「少し人を迎えに行っててくるから、ここを頼む」


「はい、分かりました」


 誰か来るのかと思いながらも立川は聞かなかった。足立に頼まれて10分後に姿が見えたと思ったら、


「あっ、先輩ーー!」


 立川は足立が来たとわかると、奥に誰かを連れていることに気づいた。どこかで見覚えのある顔に立川は自分の記憶を探る。


「あなた達はこの前のーー」


 立川の驚く様子に男は微笑んだ。


「その節はお世話になりました」


 足立の背後には二人の男性が立っていた。一人は黒髪でスーツをしっかりと決めている。もう一人の赤毛の男性はシャツを着崩して、ボタンを閉めていない着こなしが彼の雰囲気に合っている。


 一礼してきたのは黒髪の男性の方である、確かーー


「阿倍野さんでしたか?」


「覚えてくれてたんですか? 嬉しいです」


 ふっと微笑む笑顔を見てしまった周りにいた女性達がざわめきだす。


「きゃああ」


「何あれ」


「あの人たちかっこよすぎない」


「お前ら本当に人気だな」


 最後の一言は足立である。自分のことをどこか他人事のように思っているが彼も決して劣っている訳ではない。顔立ちが整っているが3人の容姿が際立っているだけである。


「そういえば陰陽局は阿倍野さん達以外もいるんですか」


「そうですね、陰陽局には公認の陰陽師しか派遣されませんし他にも後輩がいるのですが、実績はあるのですが見た目が若いと他の方から異質な目で見られてしまいますしね…それで足立さんと顔馴染みである私たちが派遣されたんです」


「あとは足立さんから呼ばれたのもあるんですが…」


「ああ、俺が二人を呼んだんだ」


「え、そういうこともできるんですか?」


 前は部長から連絡を取ってもらっていたからてっきり上の許可が無いとダメだと思っていた。とにかく刑事でも派遣できることが判明した立川だが、なぜかジト目で阿倍野は足立を睥睨していた。


「……て、これ足立さんが教えるべきことですよ」


「あ〜、まあそうだな」


 なんだか気まずそうに足立は目を逸らす。


「今、覚えたからいいんじゃねえの」


 と他人事のように話す加茂野に阿倍野の苛立ちに火に油を差すことになった。


「貴方は黙っていてください、何かあってからじゃ遅いじゃありませんか」


 立川はなんだか面倒くさがりの息子にしつけをする母親に怒られる自由奔放な父親が浮かんだ。


 このままじゃ埒が明かないと足立は立川に話をふった。


「まあ、田ノ上っていう男が化け物を見たっていう話を聞いて言葉が耳に引っかかってな、それでこのお二方に見てもらおうと思ったんだ」


「なるほど」


 立川は納得してうなづいた。そのことに何か他にも言いたそうだったが阿倍野はすぐに切り替える。


「ご遺体の方はお役に立てず申し訳ありませんでした。その分、名誉挽回させて頂きます」


「化け物ってもしかして通り魔事件の時に聞いた『妖怪』のことですか?」


 立川は外れてほしいと願いながらも恐る恐る尋ねる。


「その可能性は高いと思います」


「そうですか…」


 そのことに立川は肩を竦める。


「怖いのか?」


「妖怪って見たことがないのでどうゆうものなのか想像できなくて」


 それに反応したのは阿倍野だった。


「まあ、普通はそうですよね 見えない方がいい時もありますから」


 ため息をつきながら立川は頷く。


「僕は見えなくていいです、そういえば先輩は見えるんですか?」


「彼は妖怪を見えるまではともかく霊感が強い体質で妖怪に襲われそうになったところを私たちが助けたんです」


「そうだったんですね」


 立川はそのことを初めて聞いて足立の方を見ると、なんだかむず痒そうにする表情で口を開いた。


「俺の話はいいだろ、それでこの病院にいるのか?」


 立川は話を触れたくなさそうだったので軽く頷くだけにした。病院にいるかいないかは阿倍野が話した。


「はい、この病院に入ってから異様な気配を感じます、特に目の前の病室から、今は真っ昼間なので、向こうは動かないと思いますがその油断を狙ってくるかもしれませんので…問題は暗くなってからですね」


 夜は魔が活動しやすい時間。夜の闇に紛れた妖怪が人を恐怖に陥れるにはうってつけである。立川は思い出したように呟く。


「そういえば、田ノ上も悲鳴をあげたのは真夜中だったそうです。それに田ノ上は容疑を否認しているみたいですが、人を殺しているみたいなので」


「自業自得だな。 人を呪わば穴二つ、殺した仕返しが来るなんて夢にも思わなかったんだろうな」


 窓側に寄りかかり、加茂野はつぶやく。


「ええ、けどだからと言って連鎖をさせるわけにはいきません」


「私たちはどうすればいいでしょうか?」


 足立は逡巡し、阿倍野に意見を求める。田ノ上の警備を任されているため何もできずに帰るのは忍びない。


「そうですね、まだ少しいてもらっていいですか?もしかしたら、田ノ上に恨みを持った生きた人間という可能性もあるのであるいは人間に取り付いた妖怪かもしれません」


「うえ、何ですかそれは?」


 立川は阿倍野から瘴気という言葉を教えてもらった。瘴気とは人の感情が濁り澱んでできたものだと。それが助長されると妖怪化してしまうことを教えてもらった。


「その後の処理をお願いします」


「分かりました」


「夕方まで僕たちは近くに控えておりますので」


 阿倍野と加茂野は立ち去っていった。頼もしい二人の後ろ姿を見ながら立川は口を開く。


「あの二人がいたら、百人力ですね」


「そうだな、俺たちよりよっぽど頼りになる」


〇〇


 時間はもう夕暮れ時となる。


 真澄は時計を何度もチラチラと見ながら、スマホを見ながらと彼女の帰りを待っていた。


 それまでは色々と考えた。


『ゆみさん、友達と遊び過ぎて時間を忘れているのか』とか『どこかで迷子になっているのか、事故でもあったのか』


 料理を作り終えた真澄はテーブルに肘を突きながらゆみの帰りを心配する。時間が刻々と過ぎていく。そして十七時が過ぎてもゆみは帰ってこなかった。


 嫌な予感が胸によぎる。そういえば、ゆみは友達の名前とか言ってなかったことを思い出す。


『どうして…?』


 まさかと……けれど真澄は今できることの次の行動に移すしかなかった。真澄は朝日に連絡をするために念話をする。


「はい、もしもし」


『朝日様……っ ゆみさんが、ゆみさんがいなくなりましたーーっ』


 ここでようやく真澄はゆみが花月に憑依したまま忽然と姿を消したことに気づいた。






〇〇





真澄は朝日が来るのを玄関の前で待つことにした。今すぐ探しにいきたい真澄だが心許ない状態だった。どこを探しに行けばいいのかというのもあるが、真澄の心の中で彼女がいなくなったことがそれほど大きな衝撃だった。


『どうして…』


 何度も同じことを考えていると、ガチャリという音で玄関の扉が開いたことに気づいた。もしかしてゆみかもしれないと向かったがーーそこには先ほど連絡をした朝日がいた。少し早歩きをしてきたのだろうか息が荒かった、たとえ家の近くでも朝日が体が弱いという設定は守らないといけない。


 少しでも朝日の役に立ちたいと願いながらも、この失態はどう贖うべきと考えていた。言い訳など言える権利などない。ただ自分を信頼してくれた主人を裏切ってしまったことにも深く絶望していた。


「真澄」


「……朝日様」


 朝日はすぐにアパートに駆けつけて真澄に話を聞こうとするが彼女の異変に気付いて言い籠る。


 血の気の通らない青白い肌と何よりも哀しい表情に朝日も辛くなった。いつも以上に小さい声で真澄は朝日に話しかける。


「あ 朝日様……っ 申し訳ありません。ゆみさんが……花月さんが」


 いつも冷静沈着の彼女らしからぬ口調の真澄に朝日は一瞬戸惑ったがとにかく落ち着かせることにした。


「気をしっかり持って、よく考えよう。ゆみさんはどこか様子がおかしくなかったかい?」


「おかしなところなんてどこにも…ここ最近普通でしたから」


 真澄は朝日の質問に力無く首を振り、どうしてこうなったのか彼女自身も分からなかった。


「ただ、何もーー」


 そんなことしかいうことが出来ない真澄は唇を噛み頭を伏せるしかできないことに、己の不甲斐なさにただ自己嫌悪に陥っていたが朝日の言葉に耳を傾けた。


「ゆみさんが行きそうな場所ってどこだろう、上条さんの実家とかかな?」


 そのことを考えた真澄はゆみがどのように行動するか推理した。


「…ゆみさんでしたら、一言いいそうですが」


「そうか…他に何か関係ありそうな場所」


『関係…』


 その時に漠然と頭の中でパッと閃いたものがありポツリと呟いた。


「田之上正一」


「うん? 田之上って」


 朝日は真澄の言ったことを聞き逃さず聞き返す。


「はい、何もいえずにいたのは自分を殺害した人だったからではないでしょうか」


「なら田之上がいる場所だと刑務所か」


「もしかして…ゆみさんは」


「その可能性もあるね」


 志郎は朝日に素早く連絡を取り、ゆみがいなくなったことを話す。


「志郎、今大丈夫?」


『…はい、どうされました』


「まずいことになって、実はゆみさんがいなくなったんだ。」


『! ゆみさんが花月さんに憑依したままですか?』


「うん、どこに行ったか心当たりがあるんだけど刑務所にいる田之上の安否かどうか調べてほしいんだ」


『わかりました』


「すぐにそっちに向かうから」


 朝日は念話を切り、玄関にドアの鍵を施錠して朝日の家に向かった。志郎は陰陽局にある人物に電話をかけた。電話に出たのは年は若くないが落ち着いた優しい声音が電話口から聞こえた。


「…はい、志郎様」


「突然すみません、少し貴方のお力をお貸し頂きたい」


「はい、私でよければ」


「ある人物から依頼が来ていないか、名前は田之上正一です」


「…その人物でしたら昨夜に依頼が来ました。 何でも病室に化け物が現れたというので」


「田之上容疑者は確か囚人でしたよね」


「はい、ですが何かの精神疾患で失神してしまい当初はそうゆう医師の判断でしたが、刑事が確認すると化け物を見たという報告がありこちらから2名派遣しました」


「場所はどこですか」


「警察病院です」


「分かりました ありがとうございます」


「はい、御武運を」


 家に着いた真澄と朝日は玄関に上がると和室には聖子がいた。


「志郎なら奥にいるわ」


 志郎が電話するのが終わり奥から和室に現れる。


「田之上正一は今病院にいるということです」


「え、病院」


 別の場所にいるとは思ってなかった真澄と朝日は虚を衝かれて返答に困る。


「はい…なんでも化け物が出たということでそれを聞いた刑事が妖怪絡みじゃないかと気づき、陰陽局に要請したそうです。そして田之上正一は今、警察病院にいます。その化け物がゆみさんかは断定はできませんが要請があった日と日にちが近いので何らかと関係していると思います」


「でもどうしてゆみさんが刑務所じゃなく病院まで現れたりできたんだろう」


 朝日はただ単純にそのことに疑問を抱いた。それには真澄も気になっていた。


「確かに…」


 ゆみさんは中身は中学二年生の少女のまま殺害された。そして田之上容疑者に復讐をするために自発的に向かったにせよ、刑務所は葛飾区にあり、警察病院は中野区にあるので電車でも中々距離がある。


「もしかしたらゆみさんじゃないかもしれません」


「どういうこと?」


「事前にそのことを知っているのは田之上を襲った犯人でゆみさんではなく別の誰か」


 ゆみとずっと生活していた真澄はうなづいた。


「はい、数日前はゆみさんは普通に生活をしていましたし、外出していません」


「色々と気になるところがありますが、何にせよそこにゆみさんが向かった可能性は十分に高いです」


『そこに、ゆみさんが……っ』


 はやる気持ちを抑えながらグッと眉間にシワを作っているといきなり後ろから両方の頬を持ち上げられて奇声を発してしまう。


「みゃっ?!」


 さっきまで和室で話に耳を立てていた聖子は沈鬱な表情をしている真澄のほっぺたを握ったのだ。


「真澄」


「きき聖子さん、何を」


 聖子の奇行に真澄は珍しくどもる。


「何しょげた顔しているのよ」


 聖子は真澄のほっぺたを優しく引っ張る。


「むっ むみょ なにゅをしゃれりゅんでしゅ〜(何をされるんですっ)」


「はは、元気になったわね」


 思っ切り頰をつねられた後、聖子はすんなりと両手を離した。揶揄ったのは真澄の強張った緊張を解きほぐすためだとすぐに気付き、今は聖子の思いやりは有り難かった。


「それじゃあ行きましょうか」


「はい!」


 聖子の言葉に力強く真澄は返事をした。そして話が終わった時に奥から現れた男がいて楽観的な声に気が抜ける。


「風呂掃除終わったよ〜 何、何の話をしているの?」


 二人の目の前に短パンとTシャツ姿の赤毛の糀こうじが現れる。一見普通の大学生にしか見えない下手したら高校生に見えるこの青年が大江山の頭領をしていた酒呑童子だと誰が思うだろうか。


「あれ真澄と朝日もいる、みんなでどうしたの?」


「私たちは今から仕事に行きます」


「じゃあ、僕も」


 糀は自分を指を指して自分も行きたいアピールをするが、志郎にバッサリと言われる。


「糀はお留守番です」


「え〜、また聖子だけずるい」


 糀の物言いに聖子は口を酸っぱくする。


「あんた隠密行動できないでしょう。馬鹿力であちこち壊されたら溜まったもんじゃないわよ」


 腰に手を当てた糀は握り拳を作る。


「できるよ、それくらい」


 糀の憤慨に志郎は綺麗にスルーした。


「さてと、行きましょうか」


「あ 待って」


 と止めようとするが、


「お留守番をしっかりしないと朝日様が困りますね」


「?!」


 志郎の言葉は効果絶大で、駄々をこねそうになる糀はすぐに大人しくなり玄関から頬を膨らませながら見送った。

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