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第十六話:もたらされた知らせと暴かれた心

「知らせ?」


 普通ならこんなに怪しい人物の話などを耳に貸したりしないが何を知っているの気になったゆみは聞いた。それはゆみに取って関係あることだった。


「あなたを殺した人が今どこにいるか知っているわ」


「……え」


 いきなりの情報にゆみは困惑する。


「今は警察病院にいるわ」


「……それを私に教えてくれるのはどうしてですか?」


 どうして自分に教えてくれるのか女性に聞いた。


「私ね、昔人に殺されてこの姿になったの」


「え?」


 自分と同じ過去を持つ女性にゆみは驚く。


「だからあなたのこと助けようと思ったの」


「私を助ける…」


「殺した人には少し仕返しするぐらいよ、それぐらいいいと思うわ。それと私はねあなたを蘇らせた人を知っているわ」


「……え?!」


 それはいまだに誰も判明していないことだ。どうして自分が蘇ったのか蘇らせたのかを知りたい。


「明日一緒にその男の元にに向かいましょう だけどそんなことあなた達の周りのものは許さないわよね」


「……あ」


 話に夢中になっていて真澄達のことを思い出す。そんなことをすればきっといい顔をしないことは分かっていた。けど……


「別に無理強いはしないわ、私はここで待っているから」


 少しの猶予があることにゆみは安堵した。


「あ、……はい」


「それにしても貴方からとてもいい匂いがするわ」


「……え」


 女性は不意に近づき花月の頬に手を添えた。


「なんて瑞々しい肌なの……」


「はは、そうですか」


 ゆみは口元を引きつかせながら、うっとりする女性の顔を見た。


「もっと近くに」


『え、こんなに近づいたらキキキキスじゃ…』


 女性の行動にゆみは押し変えとするすが華奢な体なのにどこにこんな力があるのかと思うくらいの力がありググッと更に寄せようとした時だった。


『それ以上近寄るとただでは済まない』


 低く通る男性の声が女性の接近を邪魔した。ゆみはすぐに振り返るとそこには銀の目を持つ黒い長髪の美丈夫ーー白銀がいた。


「あんたは……」


 ゆみはいきなり現れた白銀に呆然とする。


「あんたいい男だね、だけど邪魔しないでくれるかい」


 女性は自分の味見を止められたことに怒り口調で咎める。女性がまた花月の手を引き寄せようとした瞬間だった。


「もう一度いう、それ以上近寄るとただでは済まない」


 女性の聞く耳を持たない様子に白銀は女性の手首を掴んだ瞬間彼女の手首を白い炎で焼き払う。


「ぎゃああ?! 何すんだい」


 痛みに悶える女性に睨みつけるが冷淡に睥睨する白銀の目にすくみ上がる。普段は温厚な彼だが人を傷つけるものには情け容赦ない。


「もう一度やるか?」


「ひい、もうしないよ?! それじゃあ待っているからね」


 女性はゆみに一言を残して慌てながら去っていった。そして白銀は視線を森の影をじっと見つめると何かがふっと物凄い速さで飛んで行った。


『逃げたか…』


 白銀はどうするか考えゆみを見たときに追う選択肢は無くなった。二人となったゆみと白銀に沈黙が流れるが最初に口を開いたのは彼だった。


「大丈夫だったか?」


「はい、大丈夫です…貴方は」


「俺は白銀という」


「白銀さんっていうんですか、あなたは一体」


「俺のことはまあ志郎が知っているかな」


『志郎さんが…』


 志郎の知り合いであることに知ったゆみはひとまず安心した。


「お前はこんなところで何をしているんだ?」


「私は…子供達とかくれんぼをしていたらあの変な女性に話かけられて…」


『あなたを殺した人が今どこにいるか知っているわ』


 女性の一言が脳裏によぎった。


「私は…、私はーー」


(そんなのーー) 


 その時、白銀が口を開く。


「お前はどうしたい…」


 パカリ


 それは閉じていた感情という蓋が開かれる瞬間だった。白銀が優しく聞くことに余計に困惑するゆみは抑えていた思いが抑えきれなくなる。


「どうしたいって……どうして…どうしてそんなこと聞くんですか。そんなの…そんなことできない。けど私がそんなことするとこの子を危険な目に合わせてしまう?!」


「だったら、あなたの力で消してください! その力があれば私を消すこともきっとできますよねっ」


 声を押し殺しながら涙目になりながらも叫ぶゆみに白銀は変わることなく優しく静かに目を細めた。


「……ああ、だがそれはその子もきっと望まないだろう」


「え……」


「花月が嫌がっていたら俺は危険とみなして消し去っていた。 だけどお前の魂は穢れていない」


「魂…」


「お前がどうするか自分で決めろ」


 彼はそう言うと一瞬の瞬きの間に目の前からいなくなった。


「私は、私は…」


 何度も呟きながら自分に問いかけて呆然としているとふと聞き覚えのある声が聞こえた。


「ゆみさん、見つけましたよ! こんなところにいたんですね」


「真澄さん…」


「子供達は親御さん達に連れて帰りましたよ もう夕暮れですし」


 ゆみは頭を小突いて、舌を出した。


「あっ、そうか〜あまりにも気持ち良くて寝ちゃっていた」


 真澄はゆみの無防備に嗜める。


「もう気をつけないとダメですよ」


 心配してくれたことにゆみは謝る。


「うん、ごめんね」


 まさかすぐに謝れるとは思っていなかった真澄は驚いた。


「やけに素直ですね」


「真澄さん、ひどい〜 私が素直じゃおかしいの?!」


 むすっと膨らませるゆみに真澄は思わず笑ってしまう。


「ええ、ふふ」


 その笑顔にゆみはズキンと胸が苦しくなり眉を潜めたがその瞬間前を向いていたので異変に気づかなかった。


 ゆみは一瞬下にうつむきながらそっと息をつく。胸に宿った感情は消え去ることはなかった。


『ごめんなさい…真澄さん 貴方を傷つけても私は……』


 そう悲壮な決意を宿した瞳を秘めながら真澄のあとをついて行った。




〇〇




朝日は自分の胸を押さえるように握りしめた。


『これは……なんだ』


 自分の心臓が不自然に少し高なったような気がした。


 トクン、トクン


 自分でもどうしてか分からなくてどうしようか考えた瞬間にそれはすぐにおさまった、それはほんの一瞬のことだったのであまり気にしなかった。


 どうして朝日の心臓の脈が上がったのかそれは白銀が花月の危機に顕現した時間だった。


〇〇


 ゆみはそれから普通に過ごし夜ご飯を食べた後、友達と二人で遊ぶことを話した。


「あ、真澄さんに言いたいことがあるんだけど」


「はい、何でしょう?」


「実は明日友達と二人で遊ぶ約束をしたんだ」


「そうなんですか? …分かりました 夕方までには帰ってきてくださいね」


 真澄は少し考えたが日中一緒にいるのは彼女が気疲れすると思い約束を取り付けて許した。


「うん、夕方までにはーー」


 そして翌日になりゆみは家をでた。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 真澄が手を振る様子を見ながらゆみは前を向いて瞳を閉じた。


『さよなら』


 昨日女性と会った公園に向かった。トイレの裏となると閑散として誰もいない。けれど気配は感じた。


「私はきました、だから現れてくれませんか」


 誰もいないところに話しをしているところなんて見られたら奇怪な目で見られるだろうが昨日と一緒で誰もいないことは確認済みである。待つことなくすぐに返事は返ってきた。


「あら〜、よく来てくれたわね」


 昨日のように木の影から女性がのそっと現れた。ゆみは少し身構えるが女性の方もなんだか同じ様子に不思議がる。どこかビクビクとしながらの様子にゆみは話しかける。


「どうしてそんなに怯えているんですか」


「昨日の色男がいないか怖かったんだよ」


「ああ…」


 どう返答していいか困惑していると、女性の方から聞かれる。


「あんたは怖くないの? あの色男が」


「えっ、いや〜別に」


 あの後すぐに消えてしまったし恐怖感とか感じたことがなく、殺気を向けられたことがないからよく分からなかった。


「まあ貴方に手を出せないのは惜しいけどしょうがないわ。それじゃあ向かいましょうか、まずは偵察に」


「は…はい!」


 ゆみはうなづき、女性を先導に共に警察病院まで向かった。狭間区から地下鉄で中野駅を降りて十四分のところにある。


「ここに私を殺した男が…」


「ええ、そうよ 一応予習をしましょうか その前に花屋さんね」


「花屋さん?」


「病室の前を守っている刑事がいてね、少しでも警戒されないようによ」


 女性は妖しく笑いゆみはその隣で決意を胸に病院の中に入って行った。


 今は昼まえで病院のため人も結構混雑していた。不振に思われないように病院の近くにあったお店で途中で買った花を持ちエレベーターがある方に進んだ。


「田之上の病室は5階にあるわ」


 エレベーターに乗ろうと向かおうとした途中だった。女性が何かに感づき立ち止まり舌打ちしたのが聞こえた。それにゆみも同時に立ち止まる。


「ち、忌々しい」


「どうしたんですか」


「厄介な連中が嗅ぎつけてきたみたいだね」


 そこには一人の男性の後ろに容貌の際立つ二人の男性がいた。


「お嬢ちゃんここから少し離れるよ。奴らに邪魔をされたら計画が無駄足になる」


「え…は、はい」


 せっかく準備万端で来たのに出鼻を挫かれたゆみは近くのファミリーレストランにいき時間を潰すことにした。


 女性に話したいことがあるが女性は人間ではないため普通の人には見ることができない。一人で話すと変な人と思われないか聞いたら人間を装うこともできると言われた。


「そんなことができるんですか?」


「短い時間ならね、長時間が経つとだんだんと妖力を使うからね維持が難しくなるんだよ」


「妖力…それじゃあ私も妖力ってのがあるんですか」


「あんたはまだ死んだばかりだからね、人やものに取り憑いたり浮かせることはできても自分自身を、人間を装うのはまだできないだろう」


「そうですか…」


 そんなことしかできないのかゆみは落胆する。


「あの子はよっぽど強いわね」


「あの子?」


 誰のことだろうとゆみは考えるとそれは一番馴染みのある名前だった。


「一緒にいた真澄って子かしら、人外で私よりも年上でしょうね」


『確か四百年以上は生きているって言ってたような』


「私は二百年そこそこしか生きてないけど、私・た・ち・からすると化け物のような強さでしょうね」


「私・た・ち・?」


 複数形を言葉にしたのにゆみは引っかかる。


「他にもいるんですか?」


 女性は思いっきりため息をつき持っているコーヒーカップをかちゃりと置いた。


「…ええ、山奥には人が訪れないからよかったんだけど、今は秘境ブームとかで立ち入り禁止のところまで入ってきたりしてほんと良い迷惑なのよね」


 それにはゆみも苦笑しながらうなづいた。


「昔はそうゆうの少なかったですけど秘境をめぐる番組とか本当に多くなりましたからね」


「秘境って恐れがあるからこそ本来は近寄り難いものなのにそこに入れたと思えばズカズカと、ただそこに何かあるか知りたいのという探究心だけで荒らされたら地元のものはたまったものじゃないわ」


 妖怪も妖怪で人間へのストレスがあるのだと元人間である自分たちが話すのはなんだか変な感じである。


 あまり嫌なことを話してもと思って別の話に切り替える。そして聞いておきたいことあったのでゆみは質問した。


「私を蘇らせた人を教えてもらえませんか?」


「そうね、ここまでがんばってきたんだし教えてあげるわ」


 そして彼女は知ることになる。自分の体がどんな方法で打ち捨てられたのかをーー


「私があんたを見つけたのは山梨の樹海の中だった、誰が捨てたかはわかるわよね」


 今から仕返しする男、田之上正一の顔が浮かんだ。


「山奥で人が遺棄されるなんて昔からよくあることだから、けどねあんたを拾う前に大きな力を持ったものが現れた」


「恐ろしくて顔も見ることができなかったわ。けど印象的なのは声ね」


「……声」


 その時何かを思い出しそうになったが、女性に質問されて霧散する。


「でもそれよりも……貴方はその時何を願ったの?」


「え……本当にやりたいこと」


「貴方は願ったはずよ、ここから出てこんな目に合わせた奴を…」


『許さない……絶対に許さない』


 その時の衝動と悲しい慟哭がゆみの心を切り裂いていく。


「そしてその男にやるべきことが」


「私のやるべきこと……」


 怨嗟を吐くような声で女性はゆみの心を暴き出す。


「お前の命を奪った男を殺したくないか?」


「私の命…」


「奴を殺したら」


 仕返しというなら同等な方法で、目には目を歯には歯を殺しには殺しをーー頭の中が女性の声が響き渡り支配されていきゆみは一言呟く。


「あの男を殺したい」


 その瞳には生気の輝きはなく昏く淀んでいた。


『くくく、ご苦労だった、人間の心とはいとも容易いな…』


 ゆみが堕ちていく様子を窺っていたものがもう一匹いた。女性の背後から黒いモヤが現れておもしろ可笑しそうに嘲笑して女妖怪に命令する。


『あの妙な男が出た時はどうなるかと思ったが、大したことはないな』


 黒い靄は森の影に潜んでおり、様子を伺っていたところ白銀が現れて驚愕するが何もしなかったことに、いやできなかったんだと高を括くくりほくそ笑む。


『しゃれこうべ、お前には邪魔者の陰陽師たちの相手をしてもらおうか』


「かしこまりました」


 しゃれこうべはゆみ『私たち』ということに違和感を感じて問われた時に一瞬焦ったが、揺さぶりをかけて事を終えればあとはもう用はない。笑みを浮かべてた女妖怪のしゃれこうべは縄張りの主人たるものにうやうやしく頭こうべを垂れた。

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