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第十五話:夢の中とかくれんぼ

田之上はふと目を覚ました。


 そして病室の中で目を開けて、たまには外にいけないかとナースコールで呼ぼうと鳴らしたが応答がなく苛立った。


「何だ? 誰もいないのか」


 ドアを開けたい時はナースコールで人を呼んで開けてもらうしかない。一応犯罪者なので施錠されていることを知っている。


 ここで待っていても仕方がない。どうにか開けられないかと試そうとドアの扉に手をかけると、


 ガラリ


 ーーといとも簡単に空いたのだった。


「へ……」


 驚きを隠せずに田之上は呆然とする。


 「いくら何でも無用心だろ…」と思わず突っ込む。空いたのなら我慢はする必要はないと一応「外の空気を吸ってくる」とメモ書きをして病室を出た。


 そして廊下を歩いていると違和感を感じた。人の気配と音が無いのだ。


 いくら病院は静かでも人が会話する音など必ず聞こえる。なのにこの空間は切り取られたように静寂に包まれていた。


 田之上はそのことに嫌な感じがしながらももう少し歩くことにした。けれどずっと歩いていも人一人見当たらなかった。


「どういうことだ…」


 ペタペタと冷たい感触を感じながら歩くしかなかった。


「誰かいねえのかよ」


 と愚痴りながら諦めかけていた時に不意に目の前に白いナース服をきた女性が現れた。人がいたことに安堵した田之上は思わず声をかけた。


「あ、ナースのお姉さん。 今日ってどうしてこんなに人が少ないの」


 ナースの女性が振り返り笑みを浮かべた顔に見覚えがある田之上は笑顔が凍りついた。その女性は独房の中でみたあの妖の女だった。


「ここは夢の中だからだよ、坊や」


「お前は……」


 顔色が青くなっていくのが自分でも分かるぐらい田之上は言葉を失う。


「どこに行ったかと探したじゃないか、でもまた追いかけっこをしてもいいのよ、また逃さないからね」


 ナースの格好をした女性は田之上に近づき両手で頬を掴んだ。


「私が永遠の眠りを見させてあげる、いい夢を見られるよ」


 普通の女性だったら喜んで受け入れていただろう行為だが田之上は恐怖で絶叫しそれれを振り払った。


 〇〇


「うわぁぁぁぁ!!」


 真夜中の1時過ぎに叫び声が響き渡る。ナースステーションからもその叫び声が聞こえたその直後ナースコールがなり、どの部屋に異変があったのか看護師が急いで駆けつける。


 コールが鳴った部屋に入るとベットの上で一人の男性が狂ったように泣き荒んでおり看護師は急いで部屋に明かりをつける。


「ふ〜、ふ〜」


 看護師は病室の住人である田ノ上正一に声をかける。


「たの……ひっ」


 名前を呼ぼうとしたが場慣れしている看護師でもその光景は常軌を逸していてとっさに漏らした悲鳴を口元を手で押さえた。瞳孔が開き震える姿の彼に驚愕する。


 看護師は何とか理性を取り戻しコールで当直の医師を呼び出す。鎮静剤を投与して、ようやく落ち着いた。翌日目を覚ました田ノ上に話を聞くと、意味不明な言葉を言う。


『化け物が俺を殺そうとした』


『死にたくない』


『何でもいいから俺を守ってくれ』


 気が狂ったように大の男が泣き叫ぶ始末である。病院側は会議の結果、警察側にボディーガードを要請する。病院から要請が終わった警察は二人の刑事を警護に当たらせることにした。


 田之上の担当である立川と足立は何かあった時のために警視庁で待機していた。病院に向かう前に立川はポツリと呟く。


「昨日の今日といいおかしいですね、いくら何でも情緒不安定というか…」


 そんなボヤに足立は病院に行くことを急がせる。


「つべこべ言うな、仕事だ」


 前よりも話し方が柔らかくなった気がした足立に部長は少し驚く。


「お前たち、前より仲が良くなったな」


「そうですか? あ、おとといの夜に先輩に色々とお世話になって」


 立川は部長に照れながら話しかける。


「私はもう二度とごめんですよ」


 うんざりしながら、足立はつぶやく様子に部長は苦笑する。


「まあ、そう言うな…田ノ上容疑者の警護をよろしく頼む」


 病院に行くのはこれで2回目になり、師長が対応してくれたまでは昨日と変わらない。けど部屋に入ると白いかけ布団をかぶった物体があった。


 最初は何だと思っていた立川だったが師長がそれに向かい声をかけた。


「田之上さん、警察が来られましたよ あなたを守るために」


『…警察』


 くぐもった声に掛け布団の中に田之上がいることが判明し、その変わりように驚きを隠せなかった。立川は田ノ上に事情を聞くと、


「あいつが……追ってきたんだ」


「あいつが、追ってきた?」


「最初は夢だと思っていたんだ、けど夢じゃなかった あいつはここまで追いかけてきたんだ」


 熱のない声音に聞いている立川もゾッとして言葉が止まる。足立は話を進めた。


「そいつはどんな格好をしていた」


「最初に見たのは白い着物だった、次はナース服をしていて…その女が空中に浮かんでいたんだ」


「……それって」


「そんなの人間にはあり得ない、化け物だろう 刑事さん」


 力なくうなだれた田之上の証言が終わり立川と足立は一旦退室する。何だか憔悴仕切った様子はかわいそうに思えるぐらいである。


『今度はあの化け物が俺を殺しに来る』とブツブツと独り言を漏らしていた。


「先輩これって…」


「ああ」


 立川と足立はやっと踏ん切りがついて確証が出てきたものの、次の問題に直面した。

人間ではできない芸当をする正体不明の存在に心当たりがありすぎるからである。


 昔の自分だったら何のことやらと意味が不明だったがここ数ヶ月で立川の日常は非日常である「妖怪」との遭遇に溢れていて前よりは驚きが少なくなった。


 人は怖いと恐怖心が増し、幻覚を見ることがある。けれどそれはどうゆうものか分からないからだ。それを理解できるかどうかで話は変わってくるが、まあそれは割愛して……足立はスマホを取り陰陽局の顔なじみである阿倍野に連絡をとった。



〇〇





今日は金曜日であり土日が休みである狭間学園は今日まで行けば学校は休みである。アラームの音が部屋中に鳴り響くと同時にその音をスイッチボタンを押して消した。


「よし!」


 ゆみは気を引き締めて、ベットから起き上がり部屋を出るといい香りと軽快な包丁捌きが聞こえてきたので台所に向かい朝ごはんを用意している彼女に挨拶をする。


「おはよう」


「おはようございます、ゆみさん」


 食卓には「ザ・朝食」が用意されていた。


 白いご飯と豆腐とわかめのは味噌汁は鉄板のコンビ。副菜はひじきの煮物と青菜のお浸し。主菜の鮭の塩焼きとなっていた。


 ひじきの煮物は真澄が作り置きしており、いつでも食べやすいように作られており長持ちするので重宝している。醤油の甘辛い味付けが油揚げに染みるのがまた美味しい。


 青菜のお浸しの味付けは風味爽やかなゆずを使っていて眠気覚ましにはうってつけである。


 最後に焼き立ての塩の鮭焼きをほぐしていきまずはそのまま食べて、次にご飯の上にのせて食べると相性抜群である。ゆみはぺろりと平らげて手を合わせた。


「ご馳走様でした」


「お粗末様でした」


「ふは〜、もうこんな朝食が出てきたら胃袋絶対に掴まえられるよね」


 ゆみがぼやいたことに真澄はクスリと笑った。


「喜んでいただけて良かったです」


 ゆみの意図に気づいていないようなので真澄に直接話すことにした。


「私じゃなくて朝日にだよ」


「朝日様ですか、朝日様は生まれてからずっと家事を支えておりますのお弁当とかもいつも美味しかったと言われますが」


 ゆみはこの時何かが真澄に足りないものを感じた。そう新鮮さが足りないのだと。いつも一緒に暮らしていれば食べ物の好き嫌いなど分かっていて当然であろうと。そしてあることが気になった。


「生まれてからずっと? 朝日のお母さんとか料理とかしなかったの」


「朝日様のお母様はその…料理があまり得意な方ではなく、旦那様の朔夜様の方がお上手でしたね」


「へ〜(大昔の料理男子っやつかな)……ってもうこんな時間じゃん」


 時計を見ると七時半前だった。


「…え、あ、そうですね 朝日様を迎えにいきましょう」


 朝日を迎えに行ってそして3人で学校に向かった。ゆみは最近心の中で思うことがあった。


 あと何回彼女達に挨拶できるのだろう。


 学校で友達に会って、おしゃべりをして先生の授業を受け、昼休みに一緒にお弁当を食べる何気なくて当たり前のなりつつある日常をーー


 学校の帰りに真澄とスーパーに寄る前に公園に差ししかかると子供達の笑い声が聞こえた。


 楽しそうな声にゆみは立ち止まる。


「ここって、私がいたところだよね」


「……はい」


「それにしても私を捨てて行った人ひどいよね。蘇らせておいてポイだなんて」


 ゆみは頬を膨らまして真澄はなんて言おうか迷っていると、急にゆみが駆け出した。


「私あの子達と遊んでくる」


「え……?! ゆ、ゆみさん」


 ゆみの突然の行動に真澄は困惑しながらも彼女の後を追っていく。


「ねえ、お姉さん達とかくれんぼしない」


 子供達は突然現れた花月に首を傾げたが


「うん? いいよ〜」


「じゃあ、あのお姉さんが鬼だからみんな隠れて、公園から出ちゃダメだからね」


「は〜い」


「お姉さんが100秒数えるから、それじゃあ逃げろ〜」


 腕を振り上げた声とともに子供達は駆け出していった。ゆみは振り向きながら駆け出していった。


「よろしくね、真澄さん」


「もう、ゆみさんったら」


 そういいながらもいうことを聞く真澄はお人よしである。目を瞑り100秒を数えた。この狭間公園は広さがあり、緑が多いため隠れるところはある。


「ふふん、ここまでくればバレないかな」


 真澄のところから大分離れた公園のトイレの裏で隠れることにした。


「そういえば、ここら辺に彷徨っていたところをこの子に出会ったんだよね」


 自分の胸に手を当てて何だか不思議な気持ちになった。いつまでもこの毎日に浸っていたい。


 けどそれは許されない。この体は花月のものであって私のものではない。


『私はもう死んでいるからーー』


【そうよ】


 自分ではない声にゆみはびくりと肩を揺らした。不意に聞こえた女性の声に辺りをキョロキョロと見渡すが何もいない。


 そのことに恐怖と不安が押し寄せる。


「だれ…誰なの?!」


 すると森の影から白い着物をきた女性が現れたときは驚いた。


「あなたは…?」


 着物の格好は最初は真澄や志郎とかの服装に馴染みがなかったが、慣れればそれが普通になってくるから慣れとは恐ろしいものである。


 けれどなぜか白い着物の女性を見ていると寒々しく見えて震えが止まらない。それを女性が笑いながら話しかける。


「ふふ、そんなに怯えないで 私はねあなたにいい知らせを教えにやってきたのよ」


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