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第十四話:悪夢は静かにやってくる

 暗い……何も見えない…


 ここはどこ…


 寒さで体が凍えそうになり呼吸もままならない。体から体温が抜けているように感じて声を出しても音にならない。


『誰か……誰か……助けてよ』


 その時声が聞こえた。


『ここから出たい?』


 声がした方を見るとその姿は強い光に照らされているので逆光で見えず目を細める。


「誰?」


 姿を確認しようと次に目を開けた瞬間部屋の中にいた。花月はいや、ゆみはその瞬間目を覚ました。


「はっ はあ はあ……っ何これ?」


 寝起きなのに全速力で走ったような後みたいに呼吸が乱れていたことに自分でも驚いた。


 心臓がばくばくと高鳴っているのを感じる。額からひやりとしたものを感じ、手で拭うと濡れていた。


「汗が出てる」


 いくら真夏が近い6月でも朝方は冷えるのにも関わらずにである。ゆみは先ほどの夢が原因だと考えた。


「なんなの……あの夢」


 ベットの上でうなだれているとカーテンの隙間から日の光が差し込んできたので気持ちを切り替える。


「顔を洗おう」


 ゆみはベットから起き上がり、洗面場に向かおうと部屋のドアを開けるといい匂いが立ち込めていた。


 まずは洗面場に向かい汗をかいた顔を洗い食卓に向かった。花月の住んでいるアパートは2LDKでキッチン、リビング、和室、洗面場が一通りあり一人で住むのには十分すぎるほどである。元々は花月たち家族3人で住んでいたのもあるが。


「おはよう、真澄さん」


「おはようございます、夕べはよく寝れましたか」


 その言葉にゆみは窮した。あんな変な夢を見た後でよく寝れたかと言われるとそうでは無いような気がした。


「……」


「どうかしましたか?」


 ゆみのすぐに返事がをしないことに、真澄は心配そうに伺った。


「え、ううん なんでもない ちょっとまだ寝ぼけてて」


 背のびしながらゆみは答える。ゆみの返事に納得したのか真澄は準備に戻っていった。


『嘘ついちゃった……どうして、嘘ついちゃったんだろう』


 ゆみは真澄に嘘をついたことに少し後悔した。けれど自分が変な夢を見たって言ったら多分心配して悲しそうな顔をすると思った。


『真澄さんの悲しそうな顔を見たくなかった』


 ただ、それだけだった。


 思ったらとっさに出た自分の嘘に罪悪感を募らせる。昨日は色々と心配をかけてしまったし、真澄にはこれ以上心配をかけたくないというゆみの思いと築いた関係を壊したくないと願っていた。


 〇〇



 いつも通りに3人で学校に向かい玄関までは普通だった。


 カサ。


「こっ、これはもしや」


 いつもは上履きの中にない何かがあった。上履きはロッカー仕様で、手前に開ける仕組みになっている。


 ゆみたちはいつも通り学校に行き上履きにはき変えようとしたら、花月の上履きの上に手紙が載っているのにすぐに気づいた。ゆみが手紙が持っているのを麻里子がいち早く気づく。


「それってもしかしてラブレターじゃない?!」


「うん、私もそう思った」


 ゆみは開けていいものかと思ったが『一応本人だしまあいいか』とその場で開封し、中身を見る。


【昼休みにお話したいことがあります。校舎裏で待っています。一年C組 宮田 優人】


「お話ってこれって絶対告白だよね〜」


 むふふと抑えきれない笑い声をあげる麻里子。


「そうだね 行くの?」


 ゆみの向かいにいる友希子が尋ねる。


「うん、行った方がいいと思うし、この手紙を頑張ってかいたと思うと相手に失礼だしね」


「そうだね」


 友希子はゆみに笑いかける。朝日と真澄はこの会話を聞いて、いうに言われない気持ちになる。きっと彼女が伝えたかった人がーー


 授業が終わり、昼休みの時間となる。ゆみは真澄と朝日と友希子に一言告げて、手紙に書かれていた校舎裏に向かった。


「私、ちょっと行ってくるね」


「……はい、行ってらっしゃい」


「うん」


「行ってらっしゃい」


「大丈夫でしょうか 一人で行かして」


「う〜ん」


「そういえば、花月、最近変わったね」


 友希子のポツリと呟いた言葉に真澄と朝日はドキリとした。平常心を装いながら朝日は尋ねる。


「何が変わったんですか?」


「何ていうかな なんか明るくなったというか…なんて言えばいいんだろう」


 それはそうだろう、中身が別人の幽霊が入っているのだから。そのことを知らないにも関わらず様子が違うことを気づくのもまたすごいことだと思い朝日は友希子を心の中で感心する。年頃らしく友希子はどんな人物がラブレターを書いたのか気になっていた。


「どうゆう子か気になるね」


「……確かに気になりますね」


「……」


 この時3人は目を合わせて無言で頷き、ゆみの後を追った。


「あの子かな」


 ゆみは校舎裏に行くと、一人の男子生徒が木影の中に立っていった。


「宮田君ですか?」


「あ」


 ゆみに気づいた宮田はこちらの方を向いた。


「こ こんにちは!」


 小麦色の肌にくりっとした大きな瞳に、顔が真っ赤に染まっている。背は花月より少し低めである。


「こんにちは。 私に話しって何ですか?」


 もし告白じゃなかったら恥ずかしいことになるので、一応聞いておく。けれど彼の様子だと「告白」以外ないだろう。


「話というのは僕はーー入学式からずっと好きでした。僕と付き合ってくれませんか?」


 男子は花月に思いの丈をぶつける。


「ごめんなさい……お付き合いできません」


 ゆみは頭を下げ、一寸の隙もなくバッサリとお断りする。彼女は宮田の様子を見ると地面に突っ伏していたのに少し驚く。


「……そうですよね、振られることは何となく分かっていました」


 あくまで宮田は花月に告白してきたので、ゆみは罪悪感を覚えるが「何となく」という言葉が気になった。


「何となくってどういうこと?」


「あの、平野さんって他の男子から高嶺の花って言われていること知っていますか」


「え、そうなの?」


 ゆみは首をかしげる。可愛らしい仕草に振られたばかりの宮田は顔を赤らめる。


「……いつもそばに代永さんとかいるから近寄りがたくて」


『あ〜、なるほどね それで声をかけられる人が少ないのか』


 一人だと声をかけやすいが、二人だと声をかけづらくなる。特に好きな異性には。


「でも最近明るくなったな〜って思って」


「最初見たときはどこか近寄りづらいっていう感じだったけど、今は親しみがあるっていうか……」


「平野さん?」


 急に黙ってしまったゆみを宮田は心配する。


「私もね……好きな人がいたの」


 ゆみは目元を抑える姿に宮田は動揺する。


「大丈夫?! 平野さん」


「けど、ずっと告白することができて言えないままだったーーけど」


「宮田君はすごい、私のこと好きになってくれてありがとう」


 ぎゅっと両手を握りしめた。


「僕も平野さんを好きになって良かったです」


 宮田は換気極まったのか涙ぐみ手が離れた途端、堰を切ったように走り去っていった。


「さてとお昼休みにしようかーーあっ、いるんでしょう〜?行かないの?」


 校舎の物影から出てきたのゾロゾロと人が現れる。真澄と朝日、友希子に麻里子が加わってお馴染みの4人だった。


「やっぱりね〜、いると思った」


「なんで分かったの?」


 友希子は不思議そうにゆみに尋ねる。


「何となく……かな」


 本当は気配だとゆみは言いたかったが、あははと少し誤魔化しながら笑った。お弁当を食べ終わった後に麻里子が興味津々に聞いてきた。


「花月って好きな人いるんだね、誰なの?」


「知りたい?」


「うん!」


「ひ・み・つかな」


「ふへ」


 肩透かしを食らった麻里子はゆみに襲いかかる。


「え、ひゃ、やめて?! くすぐったい …った、助けて〜」


 涙目になりながら友希子に助けを求めた。


「ふ〜、もうやりすぎだよ 麻里子ストップ!」


 友希子から両脇を持たれた麻里子はゆみから引き離される。


「花月って背中と脇腹が弱いんだね」


 いい弱点を掴み、終始ニヤニヤしていた麻里子であった。

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