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第十二話:立川、先輩刑事を居酒屋に誘う・〇〇は地雷

足立と立川は警視庁に帰り着き部長に報告するために部長の机の前に移動する。椅子に座った部長の井原十蔵は部下の報告を待ちわびていた。


「ご苦労様でした、それでどうでしたか?」


「黒でしたね」


 黒とは犯人である要素が十分にあることを示唆している。足立はポケットの中に忍ばせていた録音するボイスレコーダーを部長の机の前に提示した。


「そうか、ご苦労様だったな。田ノ上の担当はお前たちにする。これから忙しくなるし今日はもう帰っていいぞ、連日だったしな」


「分かりました」


 これでやっと帰れると足立は立ち去ろうした瞬間だった。空気を読めない立川は手を挙げて提案を出した。


「あ、それじゃどこか食べに行きますか」


「はあ?」


 声をあげた足立はそのまま家に帰りゆっくりする予定だったので立川の提案をすぐに断ろうするが、


「おお、いいじゃないか足立! たまには息抜きも大事だぞ」


「部長……」


 上下関係などあまり気にしない彼だが部長に恩がある足立は断ることができなかった。


 霞ヶ関にある警視庁から車で数分で着くサラリーマンなどが多く行き交う新橋駅に赴き立体駐車場に止めた。足立はついていきながらどこに行くのと思いきや立川が選んだ場所は足立も馴染みのある大衆居酒屋であった。


 立川をバックにみた居酒屋があまりにも不似合いすぎて違和感しかないことを足立は吐露する。


「お前が行くなら、バーだと思った」


「あっ、バーとかの方が良かったですか?」


 慣れた手つきでスマホを操作する手を止める。


「いや、俺はどこでもいい」


「そうですか」


 立川が扉を開けると店の中からお客様を待ち構えていた女性の店員が元気よく声を上げる。


「いらっしゃいませ〜、何名様ですか?」


「二人で禁煙席をお願いします」


 足立はタバコを吸うが食事をするときだけタバコをしないことを立川は知っていた。何でもタバコで食べ物の味が分からなくなるとか、何ならいっそのこと吸わなければいいんじゃないかと言えば別にいいだろと言われて話は終わった。


「二名様のご来店です」


 女性店員の明るいかけ声に奥から威勢のいい男性の張りのある声が返ってきた。


 店内に入ると昼間のため混んでなくまばらで人も少ない。足立と立川はゆとりがある四名席に座った。


 立川は早速掛けてあったメニュー表を手にとる。


「何を頼みますか?」


「生を飲みたいところだが烏龍茶だ」


「そうですね、車で来ましたし」


 烏龍茶を二つと枝豆とキャベツの塩昆布和えとタコの唐揚げを注文する。まずは黄金色に輝いたビールではないがさっぱりとした烏龍茶で乾杯する。


「お前ってなんか注文といい、慣れているな」


「え、まあ〜よく合コンとかでやってましたから」


 久しぶりの単語に足立は年取ったな〜と実感する。


「合コン、若いな」


 その一言に立川は反論する。


「先輩も若いじゃないですか、先輩ってご結婚は……」


「いや、独身だ、お前はどうなんだ」


「俺も独身なんです」


 意外だった。顔が良くて性格も悪くないと足立は少なからず思っていたので彼女ぐらいいるかと思っていた体。そう言えばこいつと組んでから彼女の「か」の文字も聞いたことなかったことを思い出した。


「なぜか僕の家に来るとみんな消えていなくなっちゃんですよね」


「何だそれ? 何か動物とか飼っているのか?」


「いいえ。別に飼ってないんですけどね」


 立川はキャベツの塩昆布和えをパリポリと食べながら話す。塩昆布の塩っ気とキャベツの甘みを引き立たせるごま油の風味が食欲をそそらせる。


「あ。これ美味しいですね……う〜ん、何が悪かったのか。強いて言うなら部屋がちょっと散らかっているぐらいですかね」


 足立はこの時その言葉の意味を気にも止めなかった。何やかんや話をしている内にしばらく経ち足立は途中トイレに行くと、時計の針が夜の9時を回っていることに気づいた。


 明日休日だからゆっくり休むかと席に戻るといつの間にか立川はテーブルに突っ伏していた。酒を飲んでいないのに酔い潰れたようにしか見えない。


「おい、そろそろ帰るぞ」


「う〜ん、むにゃむにゃ」


 足立は面倒臭がりだが面倒見がよく放っておけずに、タクシーを呼び立川が言っていた白金台にあるマンションまで送った。


 千鳥足で歩くこともままならない立川を支えるために足立はマンションの中まで入る羽目になったことに心の中で決意する。


『もうこいつとは二度と飲まねえ』


 愚痴りながらも目の前の建物に足立は見上げながら目を見開く。


「ここって高級マンションじゃねえか…俺が住んでいるアパートとはえらい違いだな」


 敷地内に入ると玄関先から隅々まで清掃が行き届いているのがうかがえる。


「おい、カードキーとかないのか?」


「う〜、右のポケットれす」


 右のポケットに手を入れると正方形のものに触れ手に取る。入口にオートロックがかかっていてカードをかざすとドアが開いた。


「お帰りなさいませ。 立川様でしょうか?」


 フロントがあってコンシェルジュがいる設備に足立は少し引いた。


『どんだけ金持ちなんだよ』


 コンシェルジュに返事をして立川に声をかける足立だが、


「はい……おい、返事しろ」


「ただいまれ〜す、ヒック」


 立川は酒を飲んでいないはずなのにしゃっくりを出しながらコンシェルジュに返事をするへべれけっぷりに足立は眉間にシワを寄せるが人前で怒るのも忍びない。何とか我慢をしてエレベーターまでに案内してもらい、部屋の前までやっとたどり着く。


「おい、着いたぞ」


「すか〜」


 もう一度揺さぶり起こそうとするが気持ちのいい寝息が帰ってくるだけである。苛立ちを抑えながらカードキーをかざし、ドアを開け壁際についている電気のスイッチを押すとーー


 足立は自分の目を疑い、ただ一言ポツリと呟いた。


「きたねえ」


 視界いっぱいに広がるゴミの山に足立は唖然とする。中に入りたくないがこのまま放置するわけには行かず、運んでいく。足立は居酒屋で立川と話をした記憶を思い出す。


『何でか逃げていくんですよね』


「これは逃げたくなるだろ」


 部屋の残状を見ながら、立川をバカでかいキングサイズのベットまで運んで寝かせた。やっと一息つき、足立は無性に腹が立っている。ここまで運ばされたのもあるがそれよりもと、


 無精にも見えるが、こう見えて足立は綺麗好きで潔癖症なところがあるので鳥肌が止まらない。毎日この部屋で暮らしているとこの男と一緒に仕事をしたくないくらいである。


『は〜』


 立川は大きな息を吐いて、まずは大きなゴミを集めていった。ーーそして夜が明けた。


「ふわ〜、……あれ、ここって……俺、確か居酒屋にいたようなーーどうして家に戻ってきているんだ」


 それにしても気持ちの良い目覚めだと背伸びをして辺りを見回すと立川は目を見開いた。


「……うん?」


 それもそのはずである。


「めちゃくちゃ綺麗になっている?!」


 まず驚いたことに部屋や廊下に放置されていたゴミの山は綺麗に片付けられていたことに驚愕する。


 呆然としているとドアが開き、そこには見知らぬ一人の男性が立っていた。立川はあまりに呆気に取られて思わず敬語口調になる。


「え〜と、どちら様ですか?」


「ああ、何言っていんだ、お前?」


 声を聞いてそれが別の意味で驚いた。足立と同じ声だったからだ。


「せ、先輩?!」

 

 いつもはオールバックにしている髪が今は下ろしているため、誰であるかか気づかなかったのである。

 

 立川に凝視されたことに足立は不思議に思い尋ねる。


「何だ?」


 初めてのヘアスタイルに立川はガン見する。


「先輩が髪を下ろしているなんて初めて見て、先輩って結構どうが……」


「ん」とほぼ言い切る瞬間、顔面に手元にあったタオルを叩きつけられる。


「今、なんか言ったか?」


 足立のドスの効いた低い声音に悪寒が走った立川は「いいえ、何も」とタオルごしにくぐもる声と首を横に激しく振って否定を示した。




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