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第十一話:それぞれの役目と事情聴取

 その後真澄はゆみをベットに寝かせて布団をかぶせる。なんとか彼女を落ち着かせたもののまずい状態になったことに変わりはなく、真澄は焦りを募らせたがなんとか心を落ち着かせて今やるべきことに行動を移す。


「まずは状況報告をーー」


 真澄は頭の中で朝日を強く念じた。


「……様、朝日様」


『……? 真澄 どうしたの』


 真澄は朝日の式神であるため、従属である真澄が強く念じれば電話機を使わなくても会話をすることができる。


「緊急事態です」


『緊急事態? もしかしてゆみさんに何かあったの?!』


 真澄の重々しく話す口調にに緊迫する声が頭の中に木霊する。


「はい」


 真澄はゆみに起きた出来事をこと細く説明する。


「アパートに帰ってきて夕食の準備をしていたら、ゆみさんの悲鳴が聞こえたんです。すぐにゆみさんのそばに行くとテレビの前で震えていました」


『テレビ?』


「はい。怯えていた元凶はテレビで報道されていた懲役されていたある窃盗犯の男です」


『ちょっと待って。 メモするね』


「はい」


『うん、準備できたよ』


「その男の画像を見たゆみさんの震えが尋常じゃないことに気づいた私は嫌な予感がしたんです」


「ゆみさんはこの人物が知っていることを聞こうとするとーーその男こそが彼女をどうやら殺害した犯人のようで」


『……ゆみさんは今ーー』


「一時暴走しかけましたが、なんとか食い止めました。今は落ち着いて呼吸も安定しています」


『真澄は怪我とかしていない』


 朝日の心配そうな声に気を張り詰めていた真澄は頰を緩みかける。


「はい。 どこも怪我をしておりません」


『よかった…真澄がそばにいてくれて』


「私は何も……」と言いかけた真澄だったがその時、ゆみの言葉を思い出す。


『後悔して欲しくない』


「……私も朝日様がいてくれて…いえ、何でもありません」


「え、う、うん」


 言い慣れない言葉に真澄は途中で恥ずかしくなりやめた。朝日は不思議がっていたがそこで話を終えて真澄はやっと一息ついた。


 〇〇


 目の前にお茶が入った湯呑みを出され手に取る。


「ありがとう、志郎」


「いえ」


 もちろん自動的に出てきたわけではなく志郎が持ってきたお茶である。朝日がちょうど茶の間でくつろいでいたら真澄からの声が聞こえて、そしてひとまず話を終えた所である。


 朝日の異変に気づいたが志郎は念話が終わるまで邪魔をしないように無言だった。朝日はおもむろに口を開いた。


「まずいことになった。ゆみさんが暴走しかけたけど真澄がなんとか食い止めたらしい」


「暴走の原因は何ですか?」


 志郎は深刻にしわを寄せる。


「テレビのニュースを見ておかしくなったらしい」


「テレビのニュース?」


「ニュースで報道されていた窃盗犯が犯人らしい」


「名前は田ノ上正一」


「確かその名前はテレビで名前が挙がっていましたね」


「うん、僕も見た。その男こそゆみさんを殺害した人物だと真澄が聞いたみたいなんだ」


 目を細めて志郎は呟く。


「その男は確か刑務所にいますね。 今すぐ殺して……」


 本来なら止めなくてはいけないのは主人の朝日だが、


「志郎……例えどんなにクズでも人の命はとったらまずいよ、やるなら半殺しで……」


「ちょっとお二人さん気持ちが分かるけど冷静にね」


 隣にいた聖子に咎められた二人は咳払いをして気持ちを切り替える。志郎が先に話しかけた。


「今日は夜中に少しの間外に出ますので留守番お願いします」


「分かった。 刑事の人たちに知らせるの?」


「はい。未だ犯人の所在はつかめていないのですし」


 それを最後に話を終え志郎は夕飯を作って一緒に食べ、後片付けをして、朝日が就寝する頃合に志郎は家を出て、警視庁に潜入し、同じように刑事部の机に手紙を置いた。


 どうして電話などではなく回りくどいことをしているのかというと、昔の時代ならいざ知らず、現代は電子機械やハイテクなどが飛躍的な成長を遂げ、声紋を記録され該当されたら周りにいる朝日たちに迷惑がかかるのだが、一方新しい情報を受け取った警視庁の反応はーー


 〇〇


「またか……」


 早朝、昨日と同じような手紙に刑事部部長の井原は頭を抱えた。二人の部下を呼び出し、見覚えのある封筒に驚く。


「それまた来ていたんですね」


「ああ、ったくどこから入ってくるのかね」


 警視庁の人間が間が抜けているわけではない。一般の人間が見学できるところは限られているし、業者なども証明証がなければ入れないほど厳重なセキュリティが施されている。


「監視カメラとか設置してみたらどうですか?」


 立川のアイデアに年上の二人はうなづきたくなるが、経費削減のためそれに回すお金が無いのである。


「まあ、みたところ有力な情報だからそれにあやかろうじゃないか」


「早ければ早いほうがいいですよね」


「手紙には一人の男性の名前が書かれていた」


「田ノ上 正一」


「あれ? この名前って」


 見覚えのある顔に立川はつぶやく。


「そうだ、昨日ニュースで流れていた裁判所に出廷していた窃盗犯ですよね」


「この男がどうやら亡くなった女の子と関係あるらしい。三年前に窃盗の罪で捕まり今は刑務所にいるから事情聴取を頼む」


 足立と立川は部長に敬礼して庁内を出る。車の運転するのは足立で助手席に立川は座り話しかける。


「やっぱり待ち伏せとかしていた方が良かったですかね」


 こいつが待ち伏せしたら一気にバレそうだなと考えたが足立は口に出さずに別の言葉を立川に話す。


「待ち伏せして捕らえられる可能性は低いな。何より相手の情報が少なすぎる」


 つまり余計なことはするなど言外に述べているつもりだがなぜか熱い視線を足立は感じて訝しむ。


「何だ」


「いや〜、そこまで考えているなんてさすがと思って!」


 そこまで考えていないお前は刑事に向いてないんじゃないかと足立は突っ込みたくなったが余計な体力を使うまいと気持ちを切り替えて、二人は刑務所に向かった。





〇〇





刑務所に到着した立川と足立は身分証を提出して刑務官に挨拶をする。


「警視庁から電話が来ていると思います。私は足立と言います、こちらは立川です。田之上正一の面会を事情聴取をしにきました」


 そして面会の個室を借りて刑務官から連れられて一人の男がやってきた。テレビで見たまんまの顔ですぐに本人だと立川は分かる。


 身長は160前後だろうか中肉中背で黒の短髪に三白眼のいたって少しほおの痩せこけた普通な男性だと第一印象はそんな感じであった。


「それで俺になんの用件でしょうか、刑事さん?」


 立川はまず礼をして質問を述べようとすると、向こうーー田之上の方から声がかかってきた。


「あなたに聞きたいことがあるんです」


 とふとメモから顔を上げると面白そうに自分を見る男に立川は訝しみ、どうしたのかを聞いた。


「いや〜、すみません。 刑事だからもっと強面の人が来ると思っていたのでまさかこんなにイケメンな人が来るとは」


「え、そうですか」


 思わず褒められたことに悪い気がしない立川は素直に嬉しくてむず痒い気持ちだった。けれどそれを後ろに聞いていた足立は咳払いの音に我に返る。気を取り直して、


「そ、それよりもあなたに質問をしていいですか」


「ええ、いいですよ、私に答えられるものであれば」


「あなたは十件の窃盗と六件の窃盗未遂の罪で逮捕され3年間の間刑務所で過ごしていました。その中で反省し後悔していると裁判所で述べていましたがこれは本当ですか?」


 立川は田之上の裁判での発言と反省している意志を確認をする。


「はい、私は後悔しています。 一人で生活していくのもやっとでお金が無くて何回も万引きに手を染めました……けど貧乏だからと言って万引きをするのは間違っていると刑務所の中で気づきました」


「そうですか」


 立川は何度も頷きその話を聞いているうちに前向きに歩いている目の前の囚人に追い討ちをかけるような言葉は気が引けたので励ましの言葉を送った。


「なら、これから頑張んないとですね」


「はい、ありがとうございます」


 立川の激に田之上は丁寧に礼をした。この男が女の子を殺すように見えなかったので話を終わらせようとした時だった。


 後ろで壁にもたれかかり話を聞いていたため黙っていた足立は口を開いた。


「ああ、話が終わったか。俺もお前に聞きたいことがある」


 田之上は足立の言葉に耳を傾けた。


「はい、何でしょうか」


「お前殺しはしたことはないか?」


 まるで今からコンビニ行ってくるような軽い物言いに、田之上もそれを聞いた立川も呆然とした顔をしていた。


「……はい?」


 それを聞いた田之上は首を傾げて否定する。


「殺しって…殺人ですよね 私は殺しの罪まで犯していません」


 冷静にいう田之上に足立は非礼を詫びた。


「そうですか、いや私も確認をしたくなかったのですがこれも仕事でしてそれは失礼しました。いや〜容疑者の似顔絵に貴方の顔にそっくりな顔がいまして」


「そうだったんですか、この世には似た人が三人いるって言いますしね」


 田之上は苦笑して足立の詫びを受け取り、質問をそこそこに切り上げて刑務所を後にした。


 そして車に乗り込み立川はどうしてあのタイミングで質問をしたのか足立に問いかける。


「あいつなんか隠しているかもしれないな」


「隠している? 殺しをですか」


「人ってのは隠していることがあれば挙動不審になるか、大抵は仕草に出るがあいつは全く見えなかった」


「はい、僕もおかしいところは見えませんでした」


 立川も足立と田之上の話を交互に聞いていたのでそれは納得する。


「そう、おかしいところがなかった。 殺しているかと聞かれれば怒っても良かった、なのにあいつはやけに冷静すぎた」


「していないから冷静だったのでは」


 言葉の鸚鵡返しに足立は肩を動かす。


「そうゆう奴ほど怖いな。ここには嘘や隠し事が上手い連中がわんさかいるからな。もしあいつが殺しをしていればあいつは虚偽の罪に問われて隠蔽の罪もあるな。あいつの化けの皮は一体何枚なんだろうな」


 立川は足立の話を聞きながら自分の意見を述べた。


「僕は反省して更生しているなら応援したいと思いました」


「それでいいんじゃないか、お前は…優しい言葉をかけるってのも時には必要だがらな

、だがそういう奴もいるってことだけは覚えておけ」


「はい」


『足立先輩はやっぱりすごい人だな…僕なんてただ聞いているだけだったのに』


 あの短い時間で田之上が嘘や隠し事をしていると見抜けるなんて自分にできるのかと自問自答する。


『今の僕にはできない、けど一つ一つ学んでいくしかない。何もしないよりはきっと…』


 立川は気持ちを切り替えて足立の教訓を覚えておこうと心がけた。それから二人は報告をするために警視庁に向けて立川が運転手席、足立が助手席に乗りエンジンをかけて車を発進した。

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