第四話:入学式
「それにしてもあの生徒会長の時はすごかったね」
「あっ、そういえば少し友達から聞いたんだけど」
この学校は男子が少ないが、男子も生徒会長に選ばれることはもちろんあるらしい。
生徒会長が登壇し新入生に挨拶するとき、生徒会長の容姿を見た多くの女子たちは色めきだち嬌声と暴動を収める先生たちも入学式から大変な目にあった。
桐原孝太郎
目鼻立ちがテレビに出てくるアイドルのような甘いマスクで、男子なのにまた絶妙に切り揃えた髪がマッチしている。
容姿だけではなく、成績優秀でスポーツ万能。
天は二物を与えずということわざが当てはまらない彼に、それじゃ中身はどうなのかというと、友好関係も広く性格は明朗で穏やかで生徒会の仕事や雑用もしっかりとこなしている。
その友達の情報網も凄いと思うが…私は内心突っ込まずにいられない。
生徒会長の話題が尽きたことで、午前までは入学式だったので午後からは特に何をしようか考えていなかった。
アウトドアな友希ちゃんから少し探検して行かないかと誘われた。初めての建物に胸躍らせているのは事実で、朝日ちゃんもそれに合意した。
一通りの学校の敷地を見ると私たちがいた中学校より敷地は断然広く、よく授業や休み時間に使っていた理科室や家庭科室や図書室などには見慣れた安堵感があった。
そっと窓の外を見た朝日ちゃんは何かに気づいた。
「あれが例の旧校舎なんだ」
この学校には旧校舎と新校舎があり、100年以上前から奥にある歴史ある旧校舎は長年の老朽化で立ち入りが禁止され、その手前にこの新校舎が設立された。
中学2年の夏頃に3人で体験入学に来たが奥まで案内されなかったから気づかなかった。
私と朝日ちゃんと友希ちゃんはこの高校に入学しようと思ったのは家から近かったからという理由が大きい。
「まだ昼なのに薄暗くて、遠目からでもちょっと怖いね」
「まあ〜奥に行くなんて滅多にないと思うし、気にしなきゃ大丈夫よ」
友希ちゃんはからりと笑った。
「そ、そうだね」
自分の焦燥を気取られないように笑いで誤魔化すように取り繕った。けれど、幼なじみの目はその僅かな挙動を見逃さなかっようだ。
そして私達が帰り道にこんな話をした。
「はなちゃん…今日お家に泊まらない?」
友希ちゃんとは帰る途中で分かれて、今は朝日ちゃんと私の2人だけである。唐突な朝日のお泊りの誘いに私は困惑は隠せなかった。
「どうしたの? 朝日ちゃん」
「……最近危ないし、通り魔とか犯人が見つかるまでは家で一人でいるよりは誰かといた方がいいと思って」
口からこぼれたのは私を心から心配する幼なじみの想いだった。朝日ちゃんは普段口数が少ないが、こうして誰かを思いやる気持ちは人一倍強い。
「…そっか」
「心配してくれたんだね ありがとう」
「私……朝日ちゃんの友達でよかった」
朝日ちゃんの気持ちは正直とても嬉しかった。
「でも、ごめんね あともう少しで……命日が来月だから」
「両親がいたアパートに少しでもいたいの」
長年一緒にいた朝日ちゃんは私の両親が死んだ日を覚えてくれている。忘れたくても忘れられない。朝日ちゃんは何かを言いかけた素振りを見せたが、私は何も聞かないフリをした。
「うん…分かった。 それじゃ、またね」
「うん。 気をつけてね」
「また明日」
私は去り際に朝日ちゃんの表情を見るのが怖くて、足早に家に帰り着いた。翌日、習慣通りに私はいつものように朝日ちゃんを迎えにいって、学校に向かった。
今日から高校1年生の始まりでもあり、多くの高校生たちがあくびをしたり友達とお喋りをしたり通勤路を通っている。
「はな〜 朝日〜」
後ろから呼ぶ声に反応した私は振り向いた。
「おはよう」
「おはよう、友希ちゃん」
「おはよう」
朝日ちゃんも友希ちゃんに挨拶をした。
4限目までの授業が終わり、昼休みになった花月達はどこで食べようか相談する。
この新校舎のの敷地内であればどこで食べても大丈夫というのを先生から説明され、天気がいいから中庭でお弁当を食べることを友希ちゃんが提案した。
今日は初日の登校日なため志郎さんと真澄さんが張り切って作ってくれた弁当というよりずしりと重いお重を渡された時は流石に驚嘆した。
友希ちゃんの分も入っているらしく、先生達には申し訳ないが早く昼休みにならないかとワクワクと胸を躍らせていた。