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第七話:科捜研の変人

狭間公園で白骨化された遺体が見つかって早数日。


 遺体は陰陽局に送られていたが、何かトラブルがあったのか警察庁のもとに返されてある所に送られた。


 科学捜査研究所


 略称は科捜研と呼ばれ、科学捜査の研究および鑑定を行う。警視庁及び道府県警察本部の刑事部に設置される附属機関。


 業務は法医学(生物科学)・心理学・文書・物理学(工学)・化学の分野に分かれており、それぞれの業務および研究は最先端の科学技術レベルを誇っている。


 研究員は警察官ではなく研究職員であり、捜査権は有さない。それぞれの専門知識・技術を応用して、犯罪現場から採取された資料などの検査(鑑定)を行っている。さらに鑑識技術向上のための研究開発を行う。


 その科捜研から電話が1本、刑事部に入る。刑事部長が応答し、刑事部にいる同僚の二人に声をかける。


「足立、立川」


「はい」


「ちょっといいか?」


 部長は二人を別室に移動させる。


「狭間公園であった遺骨が返された」


「えっ、でもあれは、陰陽寮に渡されたんじゃ」


「ああ、どういうことか分からないが、返されてきたんだ」


「でーーうちの科捜研から聞きたいことがあるみたいでな、お前らが担当だったな、行って来てくれ」


 その時、足立がゆっくりと手をあげて、質問を許す。


「部長…科捜研ってまさか」


「そのまさかだ」


「あ〜〜」


 足立は面倒くさそうに顔の表面をボリボリと掻く。


「そういえば、現場に行った時会いませんでしたね」


「どうしたんですか?先輩 さっきから何か苦い顔をしてますが先輩は知っているんですか?」


「ああ、なるべく会いたくない変人だな」


「変人?」


「まあ……会えば分かる」


 警察署の科捜研までは数分で着く。建物自体が大きいため足立はともかく新人の立川は初めてである。立川はノックすると、部屋の中から声が聞こえる。


「はい」


 少しドアを開き声をかける。


「刑事課の足立と立川です。検視官の呼び出しで参りました」


「いますよ。あっちの部屋の中に」


 科捜研の人に言われ、部屋の中に入ると人が倒れているのを目撃する。


「人がっ」


 足立は立川のとっさの行動に引き留めることができずに手を空中で留める。


「大丈夫ですか?」


「うん?」


 その人物は何事もなかったような顔をしていて、自分を起き上がらせた立川の顔を凝視して来た。


「お前は一体なんだ?」


「ふへ?」


 一室に案内され、4人掛けのテーブルの上に紅茶を用意される。足立と立川の前には科捜研の野原寧々が座っている。立川は席を立ち真っ赤になりながら謝罪をする。


「すみません! 実験の邪魔をしてしまって」


「まあ、暗礁に乗り上げていたから気にするな」


 野原の言葉を聞いて立川はホッとする。見た目からして男っぽい話しをする女性だと立川は感じる。大野寧々ねね。28歳の女性。


 黒髪のウェーブは肩より長めで、メガネをかけていて白衣の姿ははいかにも科学者らしい。そして美人である。野原は紅茶の中に角砂糖を1・2・3個が入れていく手に足立は苦虫を噛み潰したような顔をする。更に入れようとするが彼女のそばにいた助手が止めに入る。


「糖尿病になりますよ」


「むっ」


 助手は上司の体を気遣っているのだが物足りない大野は言い返そうとする。それを聞いた立川は不思議そうに話した。


「そうなんですか? 僕、普通に三つくらい入れますけど」


「おお、君は分かっているな 頭を使ったばかりなんだ。糖分は脳の栄養補給だぞ」


 立川の同意に大野は最もらしいことを述べて自分の助手に反論する。


「ほら、いるところには同志がいるんだぞ」


 上司の大野が胸を張る様子に助手は呆れ顔で口を酸っぱくした。


「昨日もそう言いながら新しくできたスイーツバイキングに行ってませんでしたか、いくらなんでっも食べ過ぎですよ」


 しかし、その単語に立川は目を輝かせた。


「スイーツバイキングに行かれるんですか?」


「ああ、給料をもらってからな月に一度のご褒美だ」


「いいですよね、僕もたまに行きますよ」


「ほう、どこのバイキングに行くんだ?」


「えとーー」


 立川は思いついた場所を言いかけようとすると、足立が眉間にシワを寄せ苦言を呈した。


「おい、スイーツの話はもうやめろ、話だけで胸焼けする 仕事が終わってからにしろ」


「え、そうですか……」


 もしかして甘いものが苦手なのだろうかと立川は少し申し訳なくなり話を中断した。


「大野主査、仕事をお願いします」


 立川は盛り上がりかけたが、大野の助手は上司である彼女に仕事の催促した。


「ん? ああ、そういえばお前達を呼んでいたな」


 呼び出した本人が忘れるなよと足立は口元を引きつかせたが忘れていた大野は淡々と話し始めた。


「お前たちが呼んだのは例の事件の骨のことなんだが、検査して死後五年くらい経過していてな、後は骨盤で女性だということが判明、骨密度が10代くらいということが分かった」


「それだけ分かれば、五年前の身元不明者がヒットするだろ」


 足立の考えに大野は首を振る。


「人の歯、DNAなど調べたがーーー」


 大野は手を上げて降参するポーズをあげる。


「綺麗すぎるんだよ。死体にしては誰かがわざわざ綺麗にしたとしか思えない」


 人間の骨を綺麗にするなんて並の神経でできるもんじゃない。学生時代に人体模型の骸骨を見るのもあまり気持ちのいいものでは無かったと立川は頭の隅で思い出した。


「いや〜、面白くなったね」


 判明できずに、追い込まれているのにも関わらず大野はクツクツとほくそ笑む。

足立が言っていたことを思い出した立川は、変わっていることを聞いていたので驚きは少なかった。


『変人ってこういうことか…』


 立川は来る前に足立が渋っていたことに納得する。


「それで五年前、身長は150センチくらい10代で女性の身元不明者を探してくれないかしら」


「おい、正気で言っているのか? 何人いると思ってんだ」


 足立は眉間にしわを寄せ大野に愚痴る。


「本気だが」


 オールバックに強面を目の前にしても大野は態度は変わらない。


「はあ〜、分かった」


 足立は立川を引き連れて科捜研を後にする。


「先輩が変人って言ってた意味が分かりました。確かに変わってますね」


『お前も十二分じゅうにぶんに変わっているけどな』


 あの大野と初対面で意気投合した後輩に内心思いながらも足立は口には出さなかった。


 〇〇


 陰陽局は何も手をこまねいて警察庁に遺体を引き渡したわけではない。陰陽師の阿倍野と加茂野が検証しようとしたところ、術が跳ね飛ばされたのだ。


「ーーっ?! これは結界」


 1日中粘るが、強すぎる結界は2人の術を跳ね返して、破れることなく終わった。


「これじゃ形無しだな」


 加茂野は息をつき、阿倍野は思案気に呟く。


「こんな結界を作る術者がいるなんて、一体何者なんでしょうか?」


「またあの御影様とかの仕業か?」


 加茂野の言葉に阿倍野は否定する。


「いえ、御影様がこんなことするなんて聞いたことありませんし……だったら結界などする必要はないと思いますし」


「まあ、そうか」


 阿倍野の言葉を聞いて加茂野は考えを改める。


「私たち以外の実力者といったら「陰陽三家」ぐらいでしょうか?」


 陰陽三家とは、賀茂家、土御門家、安倍家のことを総称して呼ぶ。


 安倍家とは数々の門下生を輩出した名門中の名門。


 かの有名な安倍晴明もこの家の出身で阿倍野裕司は安倍家の内分家の一人である。加茂野家は陰陽師の大家の分家。古くから、安倍家と懇意にしている。


 土御門家は安倍家の分家の一つだったが今は三家の家に数えられている。かつては安倍家という名字だったが、室町時代から名を変えた。


「他にも有名な家があるとしたら」


 加茂野はある名前を上げる。


「芦屋あしや家か」


 祖は蘆屋道満あしやどうまん。


 非公認で検非違使という組織を作り、陰陽寮と協力しているし、身内を疑えば安倍家に被害が及ぶことも阿倍野は考えた。それに気になることがもう一つある。


「死者の骨ーー」


 阿倍野は骨を使い、思い当たる一つの術をつぶやく。今でも禁忌とされる術ーーー


「反魂はんごんの術」


 かつて平安時代、安倍晴明が用いた秘術の一つ。誰かが蘇らせようとしたがここには魂が見当たらない。術者が失敗して、魂が定着しなかったか……嫌な予感が胸に渦巻いている。


「私以上に実力を持っている人なんてたくさんいますし、内部調査なんてキリがありません」


 陰陽局は難航を極め、泣く泣く断念することになった。




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