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第四話:波乱なデートと涙

「ごちそうさまでした、ご飯すごく美味しかったです」


「お粗末様でした」


 今現在、ゆみは志郎の家でご飯をご馳走になっていた。


 本来なら花月は自分の家に帰るべきなのだが不安な要素があり志郎は彼女をご飯に誘ったのだ。それは花月は今幽霊であるゆみに憑依されているからである。


 時間が経つにつれて花月の容体が異常などがないか心配である志郎は暗にゆみの今の心境と体調の変化がないか聞いた。


「ゆみさん、今日はゆっくりと過ごせましたか?」


「おかげさまで楽しかったです。 あっ、そうだ! 私、明日は朝日とデートするので」


「ーーごほっ?!」


 魔の悪い時にお茶を飲んでいた朝日は、ゆみの突拍子もない言葉にむせてしまう。


「ほう、それはそれは」


 志郎はちらりと狼狽する朝日を窺う。


「楽しそうですね」


「ごほっ…聞いてないんですけど……」


 呆然として反論する朝日にゆみは面白そうに返す。


「今決めちゃった♪」


 テヘッと指を頰につき、頭をコツンとするお茶目な表情をする彼女だが朝日は思わぬ展開に二の句を継げなかった。開いた口が塞がらない朝日に対しゆみは明日の予定などを考えていた。


「それで真澄さんにデートに行く服を選んで欲しいんだけど」


 朝日が了承してないにも関わらず、ゆみの中でデートは決定事項であるらしい。朝日と同じくお茶を飲んでいた真澄は静かに聞きながらにこやかに微笑む。


「朝日様が了承するなら構いませんよ」


 ゆみの挑むような目線に真澄は真っ直ぐに見返し、湯気が立ったお茶は持っていた湯呑みは瞬く間に凍りついた。


〇〇


 上野ーー東京都台東区の地名。


 数々のスポットがあり、上野恩寵公園略して上野公園は桜の名所であり春になると花見客で賑わっている。恩寵上野動物園、東京国立博物館、国立西洋美術館、国立科学博物館などの文化施設が集中して立地している。


 当然駅前で待ち合わせをする人も数多く、上野駅前は待ち合わせの人々やそれ以外の人口密度が半端ない。


 その中で女の子は駅前で一人で立っていた。一際目立つ容貌はダークブラウンの髪の毛にパッチリとした瞳。薄手のカーディガンに白のフレアスカートを上品に着こなしている可憐な美少女がいた。


「ねえ 彼女そこで何をしているの?」


 駅前で人を待っているのだが、二人組の男はそれを分かってあえて話していることが筒抜けである。


「彼女を待たせるなんてひどい彼氏だね」


「そうね〜、でも私デートしたことがないんだけどとてもドキドキするわ」


『何この子 めちゃくちゃ可愛い』


 男たちは彼女の可愛さに見とれた。


「それじゃあ彼氏が来るまでそこでお茶でもしていかない?」


 男の一人が花月の手首を握ろうとした時、制止させられる。


「あのどうしました?」


「あんた 誰?」


「わたしじゃなかった…僕はかか…彼女の彼氏です」


「ふ〜ん」


 男達は朝日の体の線の細さをジロジロと見て、見下した視線が丸わかりである。


『なよっちいそうな男だな』


『押しが弱そうだし これだったらいけるんじゃね』


 彼らは目を合わせた瞬間、女の子が声を上げることは予想していなかった。


「遅いよ、もう!」


 女の子は現れた彼氏の腕に絡めて、立ち去っていった。


「それじゃあお兄さんたち〜 楽しかったわ♪」


 男達は展開の早さに棒立ちしながら仲良く去っていく二人の背中を見ながら呟いた。


「俺。あんな彼女が欲しいな」


「あ〜 そうだな」


 狭間区で女装を解くことを危惧した朝日と真澄に志郎は上野に着いてからと妥協した。男女兼用のトイレに入り、変装することになった。


 朝日がトイレに行っているものの数分で、花月が男性二人組に声をかけられたのである。


「記憶が無いけど男性に声をかけられるって悪い気はしないわね」


 そのセリフをその外見で言わないでほしいと目で訴えた。


『デート前から先が思いやられるな』


「ふ〜ん」


「なっ、なんですか?」


 中身はゆみだが、至近距離で花月にジロジロと凝視されて朝日は動揺する。


「似合っているわね。……それにしてもそれが本来の姿なのよね」


 今の朝日は黒髪の短髪でジーンズにシャツに上着を羽織っている。女装の時とは違う黒縁眼鏡をかけて、元々が男性なのだがどこか中性的な印象を匂わせる。


「私はどうかな?」


 ゆみはクルリと回転すると、スカートがひらりと舞う。回った瞬間、朝日は彼女に見とれた。中身はゆみでも、外見は花月のまんまである。


 朝日は思わず本音が出てしまう。


「かわいいよ」


 ピタリとゆみは回っている最中止まった。


「あんたって結構…」


 ゆみは心の中でボソリと呟いた。


『天然』


「えっ どうかしましたか?」


「いいえ 何でも無いわ〜」


『これはあの子の気持ちも気づいてないわね……鈍そうだし』


 家の中にいるであろう女の子真澄に想いを馳せた。


 けれど、ゆみの心配とは裏腹に真澄は朝日の護衛を兼ねて少し離れたところで彼らを監視していたのである。


『ふ〜 冷や冷やしました』


「二人組の男性には」


 真澄は先ほどの一部始終を目撃していて、止めようか迷っていた。あともう少しのところで朝日が現れて一安心したものの、真澄はどこか心ここにあらずである。花月が朝日に抱きついたように見えるが腕を絡めただけなのだが、真澄にはそう見えた。


『な、何をやっているんですか?!!』


 感情の箍が外れた真澄の霊気が溢れてしまい、周囲に冷たい旋風を巻き起こす。運悪く真澄の近くを歩いていたカップルの男性が身を震わせた。


「うわっ?! 寒っ」


 その声に「しまった」と真澄は振り返る。彼の隣にいた彼女は心配する。


「大丈夫? 私が温めてあげるね」


「あったかいなお前の手」


 真澄はカップルのラブラブっぷりに当てられたものの、異変に気づかなくてよかったとそっと息を吐く。


『気を引きしめなければ!』


 真澄は握りこぶしを作り高らかに拳をあげる。朝日のことになるとや・や・冷静さが欠けてしまう。


 自分はなるべく普通に尾行しているつもりだが、怪しさ満載で道ゆく人に不思議な目で見られていることに彼女は気づかなかった。


 朝日たちは美術展がある東京都美術館に向かい到着した。



〇〇



美術館の前に立ちゆみは一言呟いた。


「なんだか入ったことがない大きな建物ってワクワクするわね」


 今にも中に入ろうとするゆみの行動を静止するように朝日は釘をさした。


「はぐれないでくださいよ、人が多いんですから」


「はぐれないわよっ 子供じゃないんだから」


 僕らが言い合っているとくすくすと笑う声が聞こえた。いつの間にか観客がいたことに気づいた朝日は口ごもり、ゆみは面白そうに呟く。


「ほら 笑われているわよ」


『それはあなたもでしょ?!』


 ペースを崩されるのはこれで何度目かと先が思いやられる。ゆみの揶揄いに彼の口元がひくついたのを見て彼女はほくそ笑む。


「あんたでも怒るのね」


「…えっ」


「怒らなそうでおとなしい子だと思っていたから、でも話してみると普通に話せるし」


 ゆみの指摘に何を言われるかと思えば朝日は肩を落として答えた。


「それは、この外見で明るい性格していたらちぐはぐになりますし、変に思われて目立つのはよくないですし、まあ大人しくしているのが僕らの生活にとって一番いいことなんです」


「目立つのがダメってまるで誰かに命を狙われているようね」


 ゆみの何気ない一言に朝日は一瞬固まり、ゆみの顔を見た。その表情にゆみは動揺する。


「…そうだったら、僕はもうここにいれません」


「……え?」


「大切な人たちを守るために、危険が及ぶようならこ・こ・からいなくなります」


 見た目は10代でも、中身は百年近く生きている。慣れ親しんだ人間と生活していくことがかけがえの無いものになっていた。


 あまりにも無神経なことを言ってしまったゆみは後悔した。


「そっか…それもそうよね、ごめんね 」


「いえ、僕もこんな話をしてしまってすみません」


「それじゃあ、回っていきましょうか」


「うん」


 朝日の先導にゆみは大人しくついて行っていたが、


「中も広いわね〜」


 とりあえず1時間くらい歩き回ると、小腹が空いてくる。時刻も丁度12時を回るところである。


「朝日〜 お腹空いた〜」


 興味がある人にとっては一時間くらいあっという間だったが、ゆみはお腹が空いて限界だった。


「最後にこのギャラリーを見て帰りましょう」


「帰りにどこか寄りましょうか?」


「あっ」


 ゆみはバックの中に手を突っ込み、ガサゴソしだした。中から取ったのは一つの紙切れである。


「ここのカフェに行ってみたい」


「分かりました」


 最後はこのギャラリーを見て何事も無く、終了するはずだった。10分後くらい歩き回ると彼女は一つの絵の前で止まった。


「この絵…」


 ゆみが立ち止まったことで、朝日も立ち止まり彼女の見ていた絵に注目する。


「綺麗な虹の絵ですね」


 ポタリ。


 何かが上から落ち来たことに朝日は気づいてギョッとする。美術館に水気は厳禁である。現に美術館には貴重な絵画や展示物が展示されているからなのだが。


 上を見ても、天井の様子を見て雨漏りや水道管が破裂とかなど確認する。


「ゆみさん、そろそろ出ましょうか?」


 ゆみの顔をそっと伺うとーー


 ポタ。


 ポタ。


「どうしたんですか?!」


「えっ?」


 朝日が驚くのも無理はない。さっきまで泣くそぶりなど一切見せてなかった彼女が泣いていたのだ。


「私……どうして泣いているの?」


 ゆみ自身、自分がどうして泣いているのかわからない状態である。朝日が突然のことにオロオロしていると、男性から声をかけられる。


 どうやらゆみが泣いているのに気づいて、男性の手元には箱入りのティッシュを持っている。


「これ使ってください」


「ありがとうございます」


 誰かは知らないが折角の好意に朝日は箱を受け取ってゆみに手渡した。


「どうかされましたか」


「いえ、彼女が虹の絵を見た途端いつの間にか泣いていて」


「虹の絵……僕の絵が何か気に障りましたか?」


「えっ、あなたが描いた絵なんですがーーーいえ僕はとても素敵な絵だと思いましたし……彼女はなんか昔見たことがあるような絵だったので」


「そうだったんですか  よかった……」

 自分の絵が不快な気持ちにさせなてないことが分かり安堵した。涙を拭きながらゆみは男性に話しかけた。


「……貴方の絵なんですか?」


「はい…私は上条隼人と申します」


「この絵はここでしか出されないんですか?」


「大学のサークルで出展することになって自分の絵を出すことになったんです。普段は上野公園で虹の絵を描いているのでよかったら見に来てください」


 上条という者から名刺を手渡された後に彼は去っていった。


「ゆみさん……」


「大丈夫ですか?」


「ごめんね……心配させてもう大丈夫」


 記憶が無いという状態は魂が不安定になる。いい例が朝日であり、彼は記憶を失っているが安定している。


「私行きたいところあるんだけどいいかな?」


「ええ、いいですよ」


「どこですか?」


 朝日はゆみの心配をよそに、数分後に安請け合いしてしまったことを後悔する。

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