第三話:違和感の正体、火花散らす二人
三人称です。
今日の気温は23度。人にとって過ごしやすい気温であるが日差しが日増しに強くなり、雨はいっこうに振らずにいて湿気がないため、火事などのニュースが多くなってアナウンサーなどが小火などの注意喚起を促していた。
花月はいつも通り、朝日の家に来て真澄に挨拶する。
「おはよう 朝日ちゃん」
「遅刻するよ」
朝日を起こす前に台所を借りておにぎりを作る。
「朝日さんをそろそろお願いします」
「はい」
花月は朝日を起こしに来ていつものセリフを言う。
「おにぎり作ったよ〜」
「早く起きないと遅刻するよ」
「やだ」
もぞもぞと布団から出てくる朝日。朝日と花月と真澄と志郎は普通に食事をして、あとは学校に行くはずだったのである。
「はなちゃん ちょっと待って」
今日もいつもの1日が始まるはずだった。
「君は誰だ」
朝ご飯を食べ終わり、テレビを見るひと時の間である。朝日の異様な一言から雰囲気が変わる。
「……どう言うことですか?」
不思議に思った志郎も朝日に問い、彼に説明する。それは花月達が昨日あの公園に行ったことは朝日やニュースで知っていた。
その一言に台所で皿洗いをしようとした志郎は動きを止め、その手伝いをしようとする真澄も同じく動きを止めた。朝日の一言に訝しように二人は様子を窺っている。
「何を言っているの?」
朝日に問い、違和感を感じた真澄は朝日と花月を交互に見る。
「君は、はなちゃんじゃない」
「……」
いつもは和やかな雰囲気を持つ居間には、現在は重い沈黙が流れている。花月はおかしそうに朝日に返事をする。
「どうしたの?朝日ちゃん。 …まだ寝ぼけているの?」
「寝ぼけていない」
朝日は間髪入れずにはっきりとした声で答えた。淡々とした口調で話す朝日に真澄と志郎は緊張が走る。
普段は花月に対して柔らかい口調で話すのに、今はどこか他人と話しているような口振りである。
その沈黙に耐えかねた花月はとうとう呟いた。
「……は〜、一発で見抜かれるなんてね」
その一言に志郎と真澄は驚愕して体が強張る。
「どこで分かったの?」
「私は普通に制服に着がえ、普段通りにしたんだけどな〜」
「……分からないけど、なんとなく」
朝日は少し間を置いて、率直に答えた。
「なんとなく……ふっ ははは! っは 何それ面白い?!」
朝日の意外な返答に花月に憑依している霊が笑う様子に真澄は気が付く。
「朝日様……これは」
「あ〜 別にこの子の体を傷つけたりしないから大丈夫よ」
「あなたの望みは何ですか?」
志郎は花月に問いただす。
「あら、イケメンね」
普段だったらここで「早く彼女から出て行け」と一言を言いたいところだは霊が激昂しないように言い籠る。
「そうね……私の望みは「記憶」」
「記憶?」
「私はゆみっていう記憶以外ないの」
「名前はゆみさんっていうんですか?」
「ゆみで良いわよ」
『なんか話し方が若い気がする』
そんなに年齢がいっていないことを朝日は感じる。
「花月さんの意識は今どんな状態なんですか?」
「今はぐっすりと眠っている状態ね」
「あなた達が人間じゃないことは何となく分かるわ」
朝日達はその言葉を聞いて、一気に警戒心を強めた。
「それにしてもブレザーって、やっぱ憧れるわね」
「着たことが無いんですか?」
「そう見たい」
「それにしてもこの子おっぱい大きいわね。 私、多分人間の時は胸が無かったのね」
ゆみは自分の体のように花月の胸を強調するように手で鷲掴んだ。
「ぶっ!!? ごほ」
志郎は耐えきれず口をあんぐりと開ける。朝日は花月のいや、ゆみの奇天烈な行動に吹き出してしまう。
「その反応まるで男子見たいね」
ギ クリ。
朝日は思いの外に肩を揺らしてしまう。分かりやすい不審な挙動にゆみは見逃さなかった。
「あんた……もしかして」
ゆみは朝日に顔を近づけた。
「男の子?」
「へっ? 何を仰っているのかーー」
「どうしてそんな格好をしている分からないけどまあ別にいいか」
面白い玩具を見つけた子供のようにゆみはニタリとほくそ笑んだ。
いつも上手い言い訳をすぐに思いつくが、今は絶賛混乱中である。側からみれば朝日がしどろもどろしているのを見て面白がっている花月。幼い頃から知っている志郎には奇妙な光景である。
「だったら今もみ放題じゃない ほれほれ〜♪」
まるでたちの悪い酔っ払いの中年親父の物言いをする花月に志郎はめまいがした。こうも人格が変わるだけで人の印象も変わるのかと末恐ろしくなった。
朝日は頬は真っ赤に染まり、止めようとするがそれがゆみにとっては面白かった。
「そんなことできませんっ?! やめてください」
「え〜、今しかできないと思うよ」とゆみは悪魔のささやきを放ち、朝日を困らせる。そしてもう一人、平常心を保てなかった人物がいて冷気を漂わせた。
「朝日様 花月さん……いえゆみさん 色々とおっしゃりたいことはありますが学校に遅れますよ」
「うわ さむ」
花月はもといゆみは寒さに身を震えさせた。真澄はにっこりと絶対零度の微笑みを浮かべ佇みながらつづがなく学校の支度をさせた。
「ふふふ♫」
いつもの花月なら普通に歩く道を鼻歌混じりに元気よく歩いている。
「ふ〜ん♩」
その隣をいつものように歩く朝日。
「あんまり派手なことをしないでくださいね ゆみさん」
「ゆみでいいのに」
家を出る前に注意をしたが不安と動揺で落ち着かない。
『は〜、真澄の機嫌も治らないし朝から思いやられる』
高校に入ってから行く途中、花屋さんに挨拶するのは日課となっているのだが、しばらくは避けたかったが仕方がない。
花屋さんはいつものように店頭にあるプランタの水撒きをしていると、朝日たちが来たことに気づいて手を振ってきた。
「おはよう〜、二人とも」
「おはようございます」
『うひゃ〜 このイケメンまじで格好よくない』
花月は思わず花屋の容姿端麗な美貌に頬を染め興奮する。
「あまり顔に出さないでくださいよ」
朝日はゆみに小言で注意する。
「相変わらず二人は仲良しね〜」
「オカマさん……?」
ゆみは花屋の聞き慣れない女言葉に思わず口走ってしまった。迂闊な言動に朝日は肝を冷やす。花屋は少し驚いた顔をして、花月を覗き込んだ。
「あら〜 私は別にオカマさんじゃないわよ。この言葉遣いが気に入っているの」
「それにしても今日の花月ちゃんはど・こ・か・違・う・わ・ね・」
花屋がそう言って花月に手を伸ばそうとすると、朝日に手を止められた。
「早く行かないと遅刻するので」
朝日が示唆すると、花屋はすぐに手を引いた。
「そうね 行ってらっしゃい」
「行って来ま〜す」
ゆみは大きく手をあげ振った。
「気をつけてね〜」
二人が去る姿を見ながら、花屋はつぶやいた。
「全く昔・か・ら・トラブルに巻き込まれるわね」
懐かしそうに目を細めながら、花屋は何事もなかったかのように水撒きの仕事に戻っていった。
〇〇
「はな 朝日 おはよう」
後ろから声をかけられた花月と朝日は振り返る。
『この声はーー』
「友希子 おはよう」
満面の笑みで花月は友希子に挨拶する。
「!?」
「うん おはよう」
花月の嬉しそうな笑みに何かあったのかと友希子は聞いてくる。
「何かいいことでもあった?」
ゆみは何事もないように返した。
「ううん、特に無いけど」
朝日はゆみの順応力に半ば唖然とする。友希子はふと朝日の方を見て尋ねる。
「朝日なんだか疲れてない?」
「え、そうですか?」
「うん 何となくだけと」
「大丈夫ですよ」
朝日は持ち前の演技力で何とか取り繕った。
『今は疲れている場合じゃない』
友希子の名前を言わずともゆみは花月の記憶を見ることができるから、咄嗟でもすぐに反応できる。けれど油断は禁物である。朝日の怒涛の一日が始まった。
「一限目は体育だね」
「体育?!私 好き」
「えっ…はな 体育そんなに好きだったけ?」
花月のそばにいた朝日が友希子に分からないように背中を突いた。
「ふぐ?!」
「今日はバスケだったよね」
「バスケ」
花月は目をキラキラとさせていて、急いで体操服に着替える。朝日は忘れていたことを思い出した。朝日は体育をする前は手間だがトイレで着替えていた。さすがに思春期の女の子と一緒に着替えるのは気恥ずかしい。
『しまった?! いつもトイレで着替えているから でも目を離したく無いし』
「朝日さん……私が変わって見張ります」
「真澄?! どうしてここに」
「志郎さんから言われたんです。「朝日様の手に負えないことがあったら応援してください」とーー
朝日は志郎と真澄の激励に目頭が熱くなり、真澄の手を握る。もうすでにてんてこ舞いだったためこの援助はありがたい。
「ありがとう 真澄 僕頑張るね」
朝日はいそいそとトイレに入り運動服に着替え始めた。朝日が去った後に真澄は茫然自失、歓喜に打ち震えていた。
『不肖、朝日様に使えて齢四百年、式神として朝日様のお役にたちます』
真澄は俄然やる気を出し目的がいる更衣室に向かった。そんな頃に更衣室では、女子たちがあることで話を繰り広げていたのである。
「平野さんって胸があっていいな〜」
それはある女子から始まった。
「そうかな?」
花月はいつも着替えるときは隠し隠し着ている。この時期、思春期のコンプレックスは敏感である。何喰わない一言でも傷ついてしまうこともままあるので、ゆみも慎重である。
「でも肩こるし、暑いとあせもができるしな〜」
あえてゆみはデメリットをいうが、それでも羨望の眼差しで見られるのに悪い気がしないのは仕方がない。
「揉んでみる?」
花月のなんとも言えない魅力的な誘いに女子はうなづく。
「えっ いいの?」
「じゃ お言葉に甘えて」
花月の胸に触ろうとする一歩手前でパンと音が鳴った。音が鳴る方向を一斉に見ると、花月達と同じように体操服を着ていた女子がいた。
ゆるく三つ編みにした黒髪を一つに束ね、眼鏡をかけた色白な和風美少女に一同は面を食らう。
『あの女の子 クラスにいたかな?』
『いた あんな子?』
女子達は忽然と現れた女子生徒にざわつくが、当人は平然と挨拶する。
「私のこと忘れちゃったんですか。 私はこのクラスメートの広瀬真澄です」
その時、真澄の瞳がキラリと光った。同時にクラスメートはその瞳に囚われる。
「……もちろん 覚えてるよ」
「忘れるわけないじゃん 広瀬さん」
「あ、もうこんな時間?!」
「早く授業に行かないと」
パタパタと女子達は退室して、教室には二人だけ残っている。真澄は驚いているゆみの近くに寄り体育館に誘導する。
「あんたって家にいた……」
「授業に行きましょう 花月さん」
「うん、そうだね」
ゆみは真澄を見て、ニカッと笑った。
体育館に入ると女子達と男子達が集まっていた。朝日は自分の性別が分かるような特別な理由で授業を受けることはできないが、水泳以外の授業は受けるようにしている。今日の体育の授業は女子はバスケで男子はバレー部である。
みんなで体の筋肉をほぐす体操をする。チームはAとBチームに分かれてAチームは朝日、真澄、Bチームは花月、友希子で別れている。
前半戦のゲーム開始のホイッスルが体育館に鳴り響く。
「止めて〜!!」
敵チームの子が、
『ふふん♩このクラスにはバスケ部は私だけだから楽勝ね』
バスケ部の女の子がドリブルで突っ込もうとした時、ボールをバッと奪い取られてしまう。
「うえ?!」
女の子は中学の頃からバスケをしている。自分が取られると思ってないクラスメートの花月からするりとボールを持って行かれてしまう。
そして、ゴールの手前に華麗にジャンプをしボールは綺麗な弧を描きリングに吸い込まれるように入っていった。
「すごい 平野さん」
「バスケ上手いね」
「たまたま上手く行っただけだよ」
友希子が近寄り、花月にハイタッチをする。
「はな すごいね」
「えへへ マークされていなかったからね」
注目され浮かれている花月もといゆみと違い、朝日と真澄はハラハラしていた。
『うわー あまり無茶しないでほしいな』
朝日が心配していることを察している真澄は花月を止めに行くことにした。あまり目立った行動はしたくないが仕方ない。タイムの時間に真澄はバスケ部の彼女に話しかける。
「私は平野さんのマークをしてもいいですか? 絶対に逃しませんっ!」
真澄は普段クールな表情をしているが内面では熱い闘志を燃やしていた。女の子は真澄に心打たれ握手を交わす。
「やろう」
「はいっ!」
AとBチームはどちらのチームも拮抗し、授業のチャイムが鳴り響き終わる。
「今日の授業はここまでです」
「ありがとうございました」
「結構やるんだね」
ゆみは真澄に話しかける。
『は しまった ゆみさんの独走を止めるつもりが自分自身も目立ってしまった』
盛り上がるクラスメート達とは裏腹に真澄は意気消沈する。
「広瀬さん」
自分を呼ぶ声に真澄はびくりと肩を揺らし恐る恐る振り返る。
「代永さん すみません 私っーー」
彼に謝罪をしようと真澄は頭を降ろしかけるが、朝日の予想外な態度に驚く。
「頑張ったね」
朝日は長年一緒にいることが多かったが彼女と共に体育の授業を受けたことがなかった。真澄のバスケをする新鮮な姿に意表を突かれたのである。真澄は朝日の惜しみ無い賛辞に顔を赤らめながら返事をする。
「はい がっ……頑張りました!」
その二人の様子をゆみは気づきニヤつく口元を手で隠しながらは静かに見ていた。
いつもの昼休みにみんなが集まりお弁当を広げるのはいつもの光景である。昼休みの頃には真澄は暗示を術を学校全体にかかり、彼女を生徒だと思うように認識させる。
「それにしても体育の時間は凄かったね」
事の発端は友希子である。
「何 なんの話?」
食いつてきたのはもちろんネタになる話が好きな友希子の幼馴染の麻里子である。体育の時間にあったことを友希子は話した。
「それで、はながドリブルでバスケ部の女の子から取っちゃったの」
「へぇ〜」
内心話を聞きながら、朝日と真澄の心臓はドキドキである。
「広瀬さんもすごかったね」
「えっ?!」
自分に話を振られるとは思ってなかった真澄は素で驚く。
「そ、そうでしょうか」
咄嗟に褒められて真澄はしどろもどろになる。
「それで最後はどうなったの?」
麻里子は友希子に結果を聞いた。
「最後は引き分けでそこで、授業のチャイムがなってそこで終わり」
「お互い健闘したんだね」
『青春 青春』
麻里子は感慨深く首肯する。真澄はどこか恥ずかしそうに顔を赤らめながら、終始顔を俯いていた。
「あ そうだ」
麻里子が何かを思い出し、おもむろにポケットから二つ折りにした細長い紙を取り出した。
「これ誰かもらってくれないかな」
「それって……美術展のチケット?」
明日は魔法世界の方を投稿します╰(*´︶`*)╯♡お楽しみに。




