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今昔あやかし転生奇譚 〜平凡な女子高生の彼女と幼なじみには秘密がある  作者: yume
第一・五部:終わりの始まりの幕を開ける
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第一部:【完】

  その後どうなったかということ何事もなかったかのように花月は事件の翌日に朝日と普通通りに学校に向かった。


 変哲の無い授業が終わり、花月は気になってお昼休みに皆に話しかけた。するとどうやら、親睦会があったことはみんな覚えていた。


 けれど、それは途中までだったーー


 親睦会のことを聞いた花月は、生徒会長の踊りのとこまでは皆憶えているけれど、肝心のところは花月以外覚えていないことが発覚する。


 花月は昨日のことを思い出した。


『そういえば皆眠りについてたんだった』


 花月は自分だけしか知らないことに、少し心細い気持ちになった。学校の教室で朝日に声をかけられる。今は放課後で生徒もまばらである。


「はなちゃん。 今日、行くんだよね」


「うん」


 今日は朝日とお墓に行く日であり学校の帰りに朝日と亡くなった両親のお墓参りに行った。


 お墓参りに行く前に花月と朝日はお墓に供える花を買いに花屋による。


「あら、いらっしゃい〜」


「こんにちは」


 花月と朝日は花屋に挨拶をした。


「花を買いに来ました、両親の命日なので」


「そうね、もうそんな時期なのよね。 ちゃんと用意しているわよ」


 花屋が奥から取ってきたのは梅の枝である。


 通常仏壇やお墓に供える花は菊が多い。枯れても散乱せず、夏から冬までどの季節でも購入することができるからである。


「花恵さんは梅の花が好きだったわよね」


「いつもありがとうございます」


 梅の花は時期的に桜の前に咲く花で、今は5月である。


 花月が梅の花は無いか花屋に尋ねると、翌日また来るように言われて

来てみると、紅梅色の花が咲いていた枝を渡された。


 花屋の家の庭には時季外れの梅が咲いているらしい。


「私の名前にも梅の花の意味が込められているので」


「もしかして満月蝋梅のことかしら。 花月ちゃんの名前には「月」の文字が入っているわよね」


「知っているんですか? 私まだ見たことがなくて」


「冬の花だからね。 とてもいい香りがする花よ いつか見れるわ」


「へ〜」


 花月はどんな花なのか思いはせていると、花屋はこんな話をしてくれた。


「満月蝋梅の花言葉って知っているかしら?」


「慈愛っていう意味が込められているの、慈愛は深い愛情のことを言うわ」


 自分の名前の意味を知った花月は胸が熱くなった。


「他にもーー」


 花屋は何か言いかけると、聞いていた朝日が話しかけた。


「そろそろ行かないと日が暮れちゃいますね」


「あ、うん そうだね。 花屋さん、ありがとうございました」


 花屋さんにお礼を言って、別れを告げた。


「ふふ、行ってらっしゃい」


 バスの中で花月は朝日は提案した。


「今度は私が梅の花を持ってきていい?」


 花月と花屋が仲よさそうに話しているのを黙って見ていられなかったのだ。彼女が嬉しそうに梅の枝を見るのに対抗心を燃やしていた。


「朝日ちゃんが…?」


「あ、でも花屋さんので大丈夫だよ」


「そ、そう?」


 朝日は花月の何気ない返事にずんと落ち込んでいると、花月は朝日の手を握った。


「朝日ちゃん、一緒にお墓参りに行ってくれるだけで十分だよ」


「…うん」


 花月の嬉しそうな顔に朝日はコクリと頷いた。恥ずかしそうに下を俯き、窓に反射した朝日の頰は赤く染まっていた。


 お墓参りは朝日と来るのが恒例になっていて、今年で3年目になる。


 石段を駆け上がり、風が吹き竹藪の音が心地良くて階段を登りきるとそこにはお寺がある。


 白檀の香りがかすかに匂い、まるで別世界に来た気分を感じさせる。お墓がある近くに行くと住職さんがお墓の周りを掃いている姿が見えた。


 声をかける前に花月たちが近づく足音に気づいた住職さんが2人にに気づいた。


「おはよう〜 平野さん、代永さん」


「おはようございます 水卜さん」


「いつもありがとうございます 綺麗にしていただいて」


「な〜に 年寄りになると朝が早いからね」


「良い時間つぶしになるよ」


 お墓参りに来るとどうしても湿っぽくなってしまうが、この住職の水卜さんのユーモアさと砕けた感じで空気がふっと和らぐ。


 挨拶もそこそこに、花月と朝日ちゃんはお墓の前で足を止めた。


 2人分の線香をあげて家から持ってきた着火マンで蝋燭に火をつける。煙とともに線香の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。


「お母さん お父さん」


「ただいま」


「今年でもう三年目になりました」


「数日前は色々な事があって、もうダメかもしれないと思ったけど」


「私はとりあえず元気でやっています」


 花月は数分間両親の冥福を祈り、その隣にまだお祈りしてくれる親友の姿を見た。


「行こうか」


「うん」


 花月たちは帰り道に歩きながら話をした。


「なんだか色々な事がありすぎてねーー」


「そんなに大変だったんだね」


「うん 朝日ちゃんが来なくて本当によかった」


「どうして?」


「危険な目に遭わせたく無いから」


「…はなちゃん」


「それなら私も同じだよ」


「え」


「私もはなちゃんが危なくなったら嫌だよっ」


 ーーそれは花月が来る前の朝方のことだった。朝日は早朝に目覚めた。


 朝日は花月の手を握りしめた。本当だったらあの現場に花月を連れて来させないようにするか決行するまで悩んでいた。


〇〇 



  花月が友希子達を放っておく理由が見つからず結局危険に晒してしまったことに深く後悔していた。


 翌日目を覚ましたら何もかも終わった後で、ぐっすりと眠っていた自分が恨めしくなった。


『はなちゃんは無事なの…?!』


『何も覚えていませんか?』


『何も覚えていないというか…途中から記憶がないというか……』


『…そうですか』


 志郎に聞いて事件は無事に解決し花月は自分の家に帰り着いたのは真澄から聞いた。


『はなちゃんが危ないと思ったら、体の中が熱くなって周りが見えなくなった そしたらーー』


『気を失っていたと』と志郎が話した。


 朝日はこめかみに手をかざし、昨日から思い出せないことに苛立っていた。


〇〇


 朝日の瞳は前髪で見えないが、強めの語気に花月は目を点にした。


「…うん」


 花月は朝日の友達でよかったと改めて思った。


「そういえば生徒会長は大丈夫かな?」


 あの後、体調を崩した生徒会長は救急車に運ばれ、入院することになったらしい。


 他の人たちは意識をすぐに取り戻し、大騒ぎにならなかった。騒ぎになったのは翌日だった。


 皆勤だった生徒会長が休みをとったことは女子達にとってショックが大きく、瞬く間に広がっていた。


 格好いい芸能人が結婚したら、世の中の大勢の女性達が憂う現象になるあれに似ている。


 規模は小さいが本人の知らぬ間にわずか1日で「生徒会長ロス」と呼ばれるようになる。


 長い間、妖怪に取り憑かれていた生徒会長は衰弱しており、早く回復して欲しいと皆で集まってある物を作った。喜んでくれたらいいな。


 先生にお見舞いをしたいと必死に願う女子達もいたけど、回復するまで面会謝絶になっていると言われ頭を垂れて非常に残念がっていた。この状態で授業する先生は大変だなと他人事ながら思った。


 花月はそこで、生徒会長について疑問に思っていたことを朝日に喋る。


「そうなんだ…私ね…言おうかどうか迷っているんだけど」


「うん?」


「生徒会長ってもしかして…」


 花月はある仮説を朝日に話した。


〇〇



自分が何かに取り憑かれていたことは気がついてたし、認知していた。お祓い屋と呼ばれる二人の男性がやってきて、悪い気を追い払う儀式をした。


 そうすると重かった空気が軽くなったような気がした。


 その後私の手を握り、どこが悪いのか調べて2人は何個か質問をして帰っていった。もう一人の女性にモテそうな甘いマスクの男性に言い寄られそうになった時は若干身を引いた。


 それに気づいた隣の男性が襟元を掴み、引きずるように歩いて退室して行った。私はそれに呆気にとられながら見ていた。


 それから翌々日になり面会をしたいという人がいると言われた私は承諾した。母親はひどく憔悴して、義父さんにも心配をかけてしまった。


『誰だろうーー』


 私は思い巡らしていると、病室のドアがノックされる音が聞こえた。


「入っても大丈夫です」


 私の言葉が聞こえたのかその人が入ってきた。予想もしない人物だったことに言葉を失う。そこにはよく見知った男の子が立っていたからだ。


「…え、し…ん ばしくん?」


「どうしてここに?」


「どうしてって見舞いだよ」


 彼の持っていた袋の中に手を差し入れ、大事そうにそれを私にかがけて見せた。


「それって千羽鶴?」


「2日前、お前が入院している間に女子達が折ったんだ」


「全校生徒が折ってくれたけどな」


「これは強制とかじゃないからな、全員の好意だ」


「あっという間だったぜ」


 唖然とする私に、彼は驚かせたことに成功した子供のようにニカっと笑った。


「私は……大きな病気じゃないのに」


 みんなの温かい気持ちに目頭が熱くなり、涙が溢れる。涙を流す私に彼は話しかけた。


「…それと」


「お前に聞きたい事があるんだ」


「お前の本当の名前を知りたい」


「どういうーーー」


 その言葉の意味に、私は流していた涙が引っ込んだ。


「実はな…お前が倒れているのを最初に発見したのは俺なんだ」


「お前を保健室に連れて行って汗が出てたからそれを拭おうと思って、服を脱がしたら」


「その……胸の谷間がーー」


 新橋はその時に叫ばなかったことを、将来の自分に褒めてやりたい。つい先日まで、桐原のことを男子だと思っていた彼は急に女の子だと分かり、その時よりは落ち着いているが結構動揺している。


「…そうか」


 胸が見えたのなら胸パッドだとか上手い言い訳も通用しない。それに私はもう彼に嘘をつき続けることはできないだろう。私はそっと首を抑え、男声から女声に変化させた。


「嘘をついてごめんなさい。男子のふりをしているのはそういうしきたりなんです」


「そうなのか」


「すごいな お前」


 低い声から高い声になった私を見て新橋は驚いた。


「一応仕事だからね」


 新橋は笑いかけようとしたが、私の次の言葉に凍りついた。


「やはり決心がつきました。 私 、学校を転校します」


「え…何言ってるんだ」


「ばれてしまいましたし、他の所で改めてまた再出発しようと思うんです」


「だから」


「勝手に決めるなっ! 転校する必要なんてないだろうっ」


「俺が黙っていればいいだけだろうっ?!」


 彼の大きな声に、私は大きく肩を揺らした。


「あっ…ごめん」


「大きな声を出して」


 彼に怒鳴られて吃驚したのもあるがーーそれよりも


『勝手に決めるなっ! 転校する必要なんてないだろうっ』


 私はさっきの言葉を頭の中で繰り返した。


「それって」


「転校しなくてもいいってこと?」


 彼はすぐに首を縦に振った。


「ああ」


『私はここにいていいんだ』


「ありがとう」


 私は嬉しくて笑顔を向けた。そうすると彼は目線を逸らした。


「なっ名前 そうだ 名前を聞いていなかった」


「えっ ああ そうだったね」


「私の名前は華蓮」


「華は華道の「華」」


「蓮は蓮の花って意味なの」


「…蓮の花ってどういう花なんだーー」


「それはね…」



〇〇



「驚きましたね」


「何がだ」


 阿倍野と加茂野は生徒会長の邪気を払うために向かい、顔を見て思い出した。


「あの子、日本舞踊の踊り手だったんですね どうりで見た覚えがあると」


 阿倍野は小さい頃から舞踊を見るのが好きなので、注目株の「彼」については知っていた。


「この前妖怪から襲われた女の子から生徒会長の写真を見てからどこかで見た覚えがあったんです」


「けれどまさか女の子だったとは…昔のしきたりでは良くあることですが徹底していたので分からないものですね」


「そうだな。 いや〜 あの子は将来美人になるな」


 阿倍野は何度も得心する様にうなづく様子の加茂野に苛立つ。


 病室を退室する時も手をずっと握っていたりしていた加茂野に阿倍野はヒヤリとした。彼女が良心ある女の子だったらよかったものの、一歩間違えればただの変質者である。


『誰か相棒を変わってくれませんか』


 阿倍野は運転中のハンドルを握りしめ、助手席にいる先輩に何度か話かけられたが無視した。



〇〇



「「女の子」」かってこと?」


 花月の導き出した答えと朝日の答えがあっていたことに仰天した。


「!?……っ どうして分かったの!?」


 驚いた顔で朝日を眺めていると、わかりやすく説明してくれた。


「どうしてって……え〜と 白拍子って元々女性が男性の格好をして踊る人のこというからね」


「そうなの? 知らなかった〜」


「朝日ちゃんは色々と知っていてすごいね」


「まあ〜 似たようなものだしね」


 自然と話してしまった朝日は「しまった」と顔を出しそうになったが、何とか我慢した。


 花月は最後の一言は聞こえなくて、聞き返す。


「えっ 何が?」


「えっ、いや〜 何でもない」


 特に重大なことでもないだろうと花月は気に留めなかった。


 二人で家までの道を帰っていると、どこからかいい匂いがしてきた。近所の誰かが夕ご飯の支度をしているのだろう。


「あっ 今日は志郎がご馳走を作ってくれるんだった」


「どうかな? はなちゃん」


「一緒に帰ろう」


「うん」


 帰りに花屋さんの前を通った時に二人に気づいた彼は手を振った。そして彼は、あえてあの時に言いかけた言葉を言わずに二人を見送った。


「もう2つの意味があるのよ」


「蝋梅にはーー」


「先見は将来どうなるか、あらかじめ見抜くこと」


「先導は先に立って導くこと」


「か・つ・て・の・貴・女・がそうであったように」


「始まりの始まりがあったように」


「終わりの始まりがーー幕を開けた」


「もう誰も止めることはできない」


「永遠にこの時間が続いてほしかったけどーーー」


 いつも笑っている顔も今は惜別するかのように、苦渋に満ちていた。その言葉の意味を知るのは、もう遠くはない。


〇〇


 何事も無かったかのようにいつものような日常に戻るーーーはずだった。昨日までは妖怪なんていないと思っていた。


 けれどそれは実在して、妖怪の血が流れる人に助けられた。あの人にもう一度会いたいと思っている。


 死ぬ思いをしたのに、あんなに怖がっていた自分がまるで嘘のようで、どこかであの人が見守っていると胸がドキドキしている。


 いつの間にかあの人の面影を探してしまう自分がいる。もう一度会えるといいな。


『そういえば』


 御影様が白銀だったことを思い出した。花月は何となく横にいる朝日の黒髪を見て、御影様を思い出した。


 朝日の黒髪も綺麗だけど、同じくらい御影様も綺麗な黒髪だったなとーー花月は朝日から差し出された手を握り返した。その時になぜか既視感を感じた。


『あれ…?』


『この手 どこかで』


 あの日御影様の手を握られた温もりに似ている。御影様は僕って言ってたし男の子の声だと思う。朝日は誰がどう見ても女の子だ。


『って…私は何を考えているんだろう』


 色々なことがあったから、疲れているのだろうと花月は朝日の家にある豪華な温泉で疲れをとろうと楽しみにし、さっきまでの空想を頭から除外する。


『まさか…ね』


〇〇


 幼い頃から何度も見てきた怖い夢


 辺り一面は赤い炎に覆われていた


 凄惨な光景にそれをただ呆然と見ている「私」


 すぐそこには赤い海が広がっていた


 「私」はその光景を見てただ泣いていた


「私があなたと出会わなければ――」


「恋をしなければ」


「愛さなければ」


「こんなことにはならなかった」


 彼女はいずれ幼い頃から見ていた怖い夢が何なのか本当の意味を思い知ることになる。


 そうとも知れずに、ただ平穏な日常が来ることを願っていた。けれど今回の事件はこれはまだ本のきっかけに過ぎない。


 けれど、止まっていた歯車は今再び動き出した。それは朝日と花月が出・会・う・前・から始まっている。


 かつて天照大御神とよばれた女神は「平野花月」に転生し、そして第六天魔王とよばれた男は「代永朝日」としてーー


 ーー「終わりの始まり」の物語が今ようやく天地開闢の折、神話の時代から百八十万年前の時を超え、火蓋を切って落とされる。


読んでいただいてありがとうございました!

ブックマーク、評価などしていだだけると飛び上がるように喜びます!


別作品に『魔法世界の少年ティルの物語』という作品があります。ファンタジーものが好きな方におすすめです٩( 'ω' )و


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