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今昔あやかし転生奇譚 〜平凡な女子高生の彼女と幼なじみには秘密がある  作者: yume
第一・五部:終わりの始まりの幕を開ける
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第三十六話:時間切れ

「なっ 何なんだ、その姿は?!」


 妖怪はいきなり目の前に現れた人物に狼狽する。


 花月も突然なことに困惑して微動だにできないでいる。しかし、妖怪餓鬼は別のことに考えを囚われていた。


 餓鬼は今恐れを抱いていた。さっきまで自分より弱い者だと思っていた半人前にだ。


 あの方の容姿とは遠く離れているのに、雰囲気が酷似している。そこにいるだけでこの圧倒的なオーラ


 まるでーー


「お前は…一体なんだ?」


 餓鬼の物言いに白銀は面白おかしそうに笑った。


「そんなことか? それじゃあお前は俺をなんだと思う?」


 白銀の余裕のある振る舞いに餓鬼は警戒心を覚えた。あの時、自分の命が縮み上がるような緊張感と突き刺すような感触が脳裏によぎるが首を乱暴に振った。


「っお前はあの方ではない」


「……お前があの方というのは誰だか分かんねえが、地獄には一人だけよく知っている奴がいる」


「!!」


 餓鬼は瞠目し、なおかつ無視できない言葉に自分から話しかけていた。


「お前はあの方を知っているのか?!」


「まあな」


 餓鬼は一気に警戒心を募らせた。


『この男はあの方を知っている』


「お前はあの方の敵か?」


「敵か……敵にはなりたくなかったがな」


 白銀はどこか遠くを見つめ、瞳を閉じた。餓鬼は敵だということなら容赦する必要は無いと改めて認識する。


「お前があの方の仲間ではないのなら、私はお前を全力で殺す」


「ほう、それは見ものだな」


 餓鬼は余裕綽々としているその顔をぐちゃぐちゃに引き裂くこと引き裂こうと、黒い靄を操り男に襲い掛かるが、それをいとも簡単に躱していく姿に苛立つ。


「はあ はあ」


「ずいぶん息が上がっているな」


 ふん、と餓鬼は荒々しく鼻を鳴らした。


「所詮、人間の体だからな」


 その時にハッと名案を思いついた。どうして今の今まで忘れていたのか。


「ではこれはどうだ。 姿形が変わったとしても、お前は守り人なんだろ?」


 そこにはこのイベントに来た、そうそうたる面々である生徒や観客たちが勢ぞろいしていた。


「殺せ あの者を殺せ」


 餓鬼は手前にいた女子生徒に命令した。


 生徒は力なく頷くと、刃物のようなものを持ち、操り人形のような動きで白銀に突っ込んでいった。


 (いや…そんなことあるはずがない)


 (そうだ。何を動揺しているんだ。こっちには人質がいるんだ。姿形が変わったとして何になる手も足も出せないお前にーー)


 餓鬼は弱みにつけ込み、自分は安全だと鷹をくくっていた。だが餓鬼の思い通りにはならなかった。白銀は餓鬼を愉快そうに述べる。


「そんなの人間以外のものを斬ればいいだけさ」


 餓鬼の胸中を全て見透かしたような発言に焦りを募らせた。


「く、来るな!! 近づけば こいつらを」


 餓鬼は人質をとって躍起になるがそれを見ても何とも思わない様子の白銀に憤慨する。終いに彼は座り込む花月を見て会話する余裕すらある。


「俺を信じて 少し待ってくれるか」


 花月は誰だか分からない、けどこの人は自分を助けてくれた。この人の言葉なら信じたいと思った。


「はい、私は貴方を信じます」


 餓鬼が畳み掛けようとするが、上手くいかない。相手のペースに乗せられかけていることに焦燥感を抱いていた。人質が防御の壁がある限り、目の前にいる白銀より遥か優位に立っていた筈だった。


「何をしようと無駄…」


 しかし次の瞬間、その優越感は無に帰する。白銀は襲ってくる女子生徒に目掛けて、持っている刀を振り下ろした。その時に餓鬼は自分の体に激痛が走り、苦しみだした。


「ぐっ、どういうことだーーお前は人を斬れない筈だっ!?」


 餓鬼は驚愕する。人を守るであるこいつが何故だ?!餓鬼の訝しむ視線に白銀は答える。


「ああ、だから…人ではない物を斬ったのさ」


「!!!」


『私の分身だけをーーー?!』


 す…すごいっ


「何か」を斬ったことが花月にも見えていた。


 最初は女子生徒を切ったと思っていたが、男の人が黒い靄を切ったことにすぐに気づいた。


『何だと……』


 餓鬼は目の前に起きた現実を受け入れられなかった。人を切らずに一太刀で餓鬼の瘴気だけを切った。

 女子生徒の様子を見ると血は流れていなくて無傷だった。餓鬼はその事実に驚愕した。


 唯一と言っていいほどの守りが何もなくなった餓鬼は丸裸にされたも同然だった。


『こうなれば 逃げるしかない』


『この全員の人間どもを使って時間稼ぎをするっ!!』


「行け!! お前たちっ」


 餓鬼に操られた生徒たちが次々と波のように白銀に襲い掛かる。


『この間に私はーーー』


「おっ いっぱい来たな。 まあ 手間が掛からなくて済むな」


 白銀は花月から少し離れ周りにいる全員を、刀で薙ぎ払うかのように振り払った。それと同時に突風が起き、風に流された周りの桜の花びらが舞い踊る。バタバタと倒れていく人間たちに花月は呆然とそれを見ていた。


「すごい あんなにいたのに」


 その光景に気を取られていると、背後から影のようなものが覆ったと思った次の瞬間、花月は空高く舞い上がっていた。


「ひゃっ!!?」


『なっ!? わっ私 空を飛んでいる』


「ここではお前を食うことができないっ お前は私の糧となるのだ」


「嫌っ! そんなの」


 餓鬼にさらわれた花月は無我夢中で白銀に助けを求めた。


「助けてっーー」


 頭上高くにいる花月の悲鳴が聞こえた白銀は見上げた。遠くからでも分かる瞳の色は煌々と輝いていた。


「その子に傷つけたらタダじゃすまねえって…わかってるよな」


 餓鬼は白銀の凄惨な殺気にぞくりと悪寒が走る。さっきまでの飄々とした表情をしてたとは思えないほど剣呑な顔つきをしていた。


 花月を攫う妖怪目掛け白銀は突っ込んできた。この近距離では刀を振り上げらない筈だ。しかし白銀は刀を握ってはいなかった。


『どうゆうつもりだ』


 


〇〇



 刀の代わりに白銀は指で刀印を結んだ。白銀が今から唱えるのは不動金縛りの法。


「オン・キリキリ ノウマク サンマンダ バザラダン カン」


 白銀が発した呪文は不動明王の真言。その言葉とともに白銀から発された凄まじく研ぎ澄まされた霊気が餓鬼に直撃する。


「グワッ!?」


 衝撃でひとたまりもなく餓鬼はせっかく捕らえた花月を離してしまい、掴みかかろうとするが、その直後にどこからか雷が飛来してきた。


 体に電気が走り、体勢を取れなくなり地面に落ちてしまう。それと同時に、折角捉えた花月を空中で奪われてしまったことに歯噛みする。


「どういうことだ?! 幻術を破った時といいーーお前は…陰陽師なのか!?」


 苦悶に満ちた表情の餓鬼に白銀は呟く。


「陰陽師…さあな 頭の中に浮かんできただけだ。 陰・陽・師・の・時・も・「・俺・」・は・あ・っ・た・ら・し・い・な・」


「何を言っている…?!」


 白銀の言っていることが理解できない餓鬼は腕をかざし周囲に残っていた黒い瘴気を掻き集めた。餓鬼の体は異様に膨れ上がり、咆哮を轟かせる。


「グワァァァァァ」


 辺り一面に鳴り響く絶叫に花月は肩を震わせた。


「でかい図体だな」


 白銀はそういい花月を抱き寄せて抱っこした。


「っーー!?」


 女子の憧れであるお姫様抱っこをされているが今はそれどころではない。花月は何十倍ものに大きくなった妖怪が怖くて、白銀にしがみついてないと恐怖でどうにかなってしまいそうだったが、


「大丈夫だ」


 その時に白銀は優しい声で花月を安心させてくれる。


「2人もろとも食らってやる!!」


 白銀は花月を腕に抱きながら、刀を振り下ろした。


「お前の元いた場所に帰りな」


「ギャアァァァーー!!?」


「おのれ…」


「ワタシハ…アノカタ…ノヨウニーー」


 トドメの一撃が効いたのか断末魔の叫び声を上げ、最後の想いを搾りながら呆気なく砂のように消えていった。その最後の姿を二人は見届けた。


「終わったんですかね…」


 花月はいろんなことがありすぎて少し放心していたが、彼が抱き抱えられていたことでなんとか理性を取り戻した。


「あ、あの 助けていただいて ありがとうございます」


 花月は助けてもらった白銀にお礼を言おうと見上げると、彼は別のところを見ていたのに気づいた。


『何を見ているのだろう』


 視線を下に向けると、自分のスカートがめくれあがり、太ももが見えていた。角度を変えれば下着が見えてしまうだろう。花月は大慌てでスカートの乱れを直した。


「ひゃっ、ごごごめんなさいっ! もう大丈夫ですので 下ろしてください」


「……ああ」


 促された白銀は私を下ろしてくれた。ようやく地面につくことができてホッとした。


 つい数分まで花月は学校の屋上近くまで生身の体で飛んでいたなんて誰も思わないだろうと思った。


 餓鬼が消えて生徒会長が倒れているのを目撃する。花月は生徒会長の安否に近寄り確かめる。


「生徒会長は大丈夫なんでしょうか…?」


 花月は近くにきた白銀に尋ねる。


「命に別状はない。 餓鬼を斬ったことで瘴気を消滅した」


生徒会長はなんとか無事のようで花月はホッと安心すると、今度は白銀から声をかける。


「ようやく会えたな。 やっと俺の名前を思い出してくれた」


「はい…やっぱりあれは白銀さんだったんですね」


 疑問に思ったことを私はぶつけてみた。


「でも貴方は日影さんじゃないんですか?」


「うん? ああ ちょっと色々とあって本来の姿を取り戻せないんだ 記憶もな」


「お陰で少しの間だけ戻ることができた」


 何か訳ありのようであることに気づいた花月はそれ以上聞くことをやめた。


「そうなんですね」


 やっと周りを見る余裕ができた花月は、倒れている人たちの安否が心配になった。


「いけないっ。 あの倒れている皆はもう大丈夫なんですか」


「ああ…瘴気の元は絶ったし、もう少ししたら目覚めるだろう」


 その言葉を聞いて花月は胸を撫で下ろす。


「良かった」



〇〇


トクン


ーーードクン


(もう時間切れか)


 白銀は目をつむり、自分の中にいや、『今』は朝日の中にいる「白銀」が目覚めだけに過ぎない。


 眠っている「朝日」にむけて白銀は声をかける。


「それじゃあ、あとはよろしくな「朝日」」


(名残惜しいがなーー)


 そして薄れゆく意識の中、白銀は後ろにいる人物に声をかけた。


〇〇


 何も言わずに立ち去ろうとする白銀に花月は別れを惜しんだ。


「もう行っちゃうんですか?」


「ああ」


「ここに居たいがいると(俺じゃなくて朝日が)流石にまずいからな」


「……そうですか」


 花月は白銀にやっと会えたのに、もうお別れなんてとても寂しい気持ちになった。下を俯いて落ち込む花月の頭に優しい掌でそっと撫でてくれた。


「またな」


 花月はその後一人で帰っていった。

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