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今昔あやかし転生奇譚 〜平凡な女子高生の彼女と幼なじみには秘密がある  作者: yume
第一・五部:終わりの始まりの幕を開ける
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第三十五話:憧れへの渇望

花月は生徒会長の記憶を垣間見てから、何故だか既視感を感じていたた。


『あれ…? 私も前に保健室の先生に同じことを言われたような』


『でも それは…』


 決して男性ではあり得ないことだと花月の頭の中にある先入観で塞がれている。


『それとも朝日ちゃんのように体が弱いのか』


 考えたが結局花月は答えは出せなかった。そしてふと周りを見ると、


『あれ、ここは』


 夢現つの中にいた花月は現実に戻ってきたと思った。けれどここは学校でもなく、全く違う別の場所のように思える。


『どこだろう、ここは』


 花月は何故か原っぱの中を裸足で歩いていた。土のひんやりとした感触と夜空だとは思えないくらい明るく満点の星空が煌めいていて、足元は明かりがなくても見えるぐらい見渡せる。


『すごいっ あんなに星が綺麗に見える』


 都会暮らしに慣れた花月はあまり綺麗な星空を見上げたことがなく感動もひとしおである。


 ふと前方を見ると誰かいることに気づいた花月は思わず声をあげた。


『あの人はっ!』


 あの時夢に見た男の人……?


「また会えたな」


 彼は花月に挨拶をすると『私』は話しかける。


「私ね、貴方に次に会えたら名前を贈りたいって思ってたの」


『えっ…何これ 口が勝手にーー!!?』


 自分は話していないのに話しているような感覚に思わず手を塞ぎたくなる花月だが思うように動かない。流れるような光景に自分はただの傍観者のようである。


「嫌かな?」


 不安そうに『私』が彼に尋ねた。


「名前か…普段は王とか言われて堅っ苦しいからな」


 気恥ずかしそうに彼は笑い『私』はその笑顔に自然と笑みが溢れる。


「そうかな、皆から慕われて私は羨ましいけど」


「お前も似たような者だろう」


「私はまだまだ新参者のだからね 受け入れてもらうにはやっぱり時間がかかるね」



〇〇



「早く…私を殺して」


 悲壮な声に日影は素早く反応する。


 生徒会長はさっきまでの歪な形を潜め人間らしい表情に戻っている。日影は思い悩む表情に誰だか見当がついた。


「あなたは…生徒会長ですね」


 耳を傾けた生徒会長は目を見開き、自分の正体を知っている日影に驚く。


「あなたのことを助けます だからっ」


 日影は生徒会長は励まそうとするが、彼は力無く首を振った。


「私は…もういいんです。 人を傷つけすぎた。 私はあの子を食べれば、完璧な女の子になれると思っていたんです」


 涙ながらに生徒会長は自分の罪状を吐露した。


「けれど、そうなれば完全に私は人では無くなる。 だから体が乗っ取られる前に…早くっ」


 生徒会長のなり振りなんて構っていられない様子に日影は焦りを募らせるが、あえて平常心を装った。


「あなたの秘密には思い当たることがあります。けど完璧な者なんていないんですっ」


「その自分もまたあなた自身なんですっ」


 ほんの少しでもいい。自分の言葉で何か変化が起きて欲しかった。


 そして生徒会長が日影に何かを言いかけた瞬間、苦しみだした。


「うぐっーーー!?」


 そして、ガクンと糸が切れたように動かなくなり、その不自然さに戦慄が走る。生徒会長はうつむきながらため息をつきながらぼやく。


「全く…霊感が強い子は取り憑くのも中々大変ね……でももう表に出れない」


「ーーー!」


『完璧に飲まれてしまったか』


 日影なんとか生徒会長の意識を変えたかったが、何もかも遅いことに気づいた。


 長い期間精神状態が憔悴していたツケが回ったのか、耐えることができなく遂に闇に飲み込まれてしまった。


 日影は…朝日は絶望に飲み込まれつつあった。


 僕はまた何もできないのか。自分では処理できない時は直ちに来るようになっている。僕なんかよりもすごく頼りになるけど、また志郎や真澄にいつものように迷惑をかけてしまうのか。


 いつの間にか黒い触手に四方に囲まれた。もう逃げ場が無い獲物を無力で何もできない日影をあざ笑うかのように餓鬼はせせら笑う。


「お前は何も救えない 半人前のお前にはーー」


「まずは邪魔なお前から排除する」


「その後にあの娘を美味しくいただくとするか」


 餓鬼は日影の後ろで眠る彼女ーー花月を見つめ、ニタリとほくそ笑んだ。


「最期に言い残したことはないか」


 自分が優位に立つ餓鬼は最期のあがきを聞いておこうと日影に言い放つ。絶対的劣位にいる日影はプレッシャーと焦燥に駆られながら重い口を開く。


「僕・は・ーー」


〇〇


「で、どんな名前なんだ」


 彼は聞きたそうに花月を見つめた。


「あれよ」


 あれって…お月様だよね。花月は自分が指を指している方向を見た。


  目線より遥か上空にあるそれは銀色に光る大きな大きなお月様だった。そして花月は『私』は彼に嬉しそうに話しかける。


「私とは正反対ね」


 だから『私』と対の名前を貴方に贈る。


 貴方の名前はーー「  」





〇〇




『ーーー白銀ーー』


『月のように光る貴方の瞳が私はとても大好き』


 ドクン…ドクン


 さっきから胸の鼓動がおかしい。


 知らない人の映像が朝日の脳裏に過ぎる。


 誰なんだ。


「なんで こんな時に」


 それに、胸が熱い。


 今は自分が苦しんでいる場合ではない。


 僕は何のためにずっとそばに居たんだ。


 彼女を救いたいのに。


 僕は人間を守る守り人なのにあまりにも無力だ。


 それと御影様としてではない。


 彼女は僕の大切なーーー


 彼女が何かを呟いたの聞き取り、心地よい声音が耳に響いた。


『ーーシロガネ』


 彼女の口から言われた名前に心当たりなんてないはずなのに。


 僕は急に目の前が真っ暗になった。



〇〇



 花月はうっすらと目を開けながら彼の名前を呟いた。


「白銀しろがね」


 初めて聞く名前なのに涙が溢れて止まらなかった。


 何かが覆いかぶさってくるのが見えたが、寝起きで何が起きているのわからない。


 餓鬼が襲いかかってくる瞬間とも分からずに花月は微動だにできなかった。怖くて目を瞑り衝撃に備えたが一向に訪れない。



 どうしたのかと花月は目を恐る恐る開けると、自分を庇うようにそこには誰かが立っていた。


 志郎より背丈があり、漆黒の艶のある黒い髪に銀色に光る双眸を持っている男性がいた。


「…え」


『この人は確か……って、あれ? さっきまでここにいた日影さんは?』


 花月は何処かに消えた日影を探したが見つからない。仕方なく花月は目の前にいる着物の男の人をもう一度見た。


 日影と同じ黒色の着物に羽織を羽織っている姿に花月はふと考えがよぎったのである。


『もしかして…日影さん?』


「久しぶりだな…この姿は」


 男は仁王立ちした腰に手を当て、唖然とする餓鬼に向かい艶然と微笑んだ。



〇〇


 私は餓鬼。


 私に元々名前はない。地獄の中にある六道と呼ばれる餓鬼道に生まれた。


 私は他の餓鬼よりも違うところがある。それは頭に脳みそがあることだ。


 他の餓鬼には脳みそが無く、食べるものを掴んでは火に変わってしまい、決して満たされることのできない苦しみをずっと繰り返している。


 それがこの餓鬼道の所以だ。


 学習する脳みそが無ければ私もそれを繰り返していただろう。私は早くこんな所から抜け出したいと思った矢先のことだった。


 運が悪い時に私は自分よりも何十倍も体積のある餓鬼道の妖に追いかけられた。


 私は食われそうになって必死に逃げた。ここは弱肉強食の世界。


 負ければ、逃げなければ生きていけないそんな世界だ。


 もう少しで追い付かれ食われそうになった、その時だった。


 ドンとした鈍く重い音がしたと思ったら、妖が一瞬で巨大な力によって掻き消されたのだ。


 逃げるのに必死だったため、一瞬何が起きたのか振り向いた私は理解できなかった。


『あれはっ! もしかして…』


 さっきまで自分を追い掛けていた巨大な妖は無残な姿に変わり果てていた。力の風圧で吹き飛ばされそうになったが、丁度、岩の陰に身を隠していたから助かった。


 私は岩陰から恐怖に怯え覗き見ていた。


『一体…誰だ あんな力を持っている餓鬼がいたのか』


 自分の頭をフル回転させていると、何かの足音が聞こえた。


 あれは人か…?


 徐々に砂嵐が晴れて、その人影の輪郭がはっきりとしてくる。


 私は死んだ人間がここに来て餓鬼に成り果てるところを幾度も見ている。


 けれど元人間の餓鬼があそこまでの力を出せるか疑問に思った。あの人間のことがもっと知りたいと思った私は後を追いかけた。


 その男は岩壁にあった穴倉に入っていって、私もそれに続いた。


 穴倉は暗かったが、暗闇でも見える目であったことにホッとした。


 どのくらい時間が経ったのか分からないが、そんなに歩いてはいない。そして男の歩く先を見ると眩しいものが見えてきた。


『光…? この地獄に』


 そこにはさっきまで後をついていた者と同じ人間が大勢いた。そして、今まで見たことのない建物に唖然とする。


 私が前に歩いてた人間がその場に入ると男に気づいた。他の人間は皆、頭を地面に擦りつけている。


 それを気にも留めない男は何事もなく、平然と通っていく姿に衝撃的だった。


『なるほど あの人間はこんなにたくさんいるのに、その中でも強いのか』


 男は一際高い建物に入る前に、後ろを振り向きこうべを垂れている皆に告げた。


「面を上げよ」


 私に美醜はこの時分からなかったが、その人は間違いなく美しい部類に入るだろう。遠目からでもその男の面立ちははっきりとしていた。少し経つと、人が話している声が聞こえた。


「相変わらず美しいお顔たちだぜ」


「でもあの目で見下されるのもゾクゾクするわね」


「バカなことを言っていないでさっさと仕事しなさい」


「は〜い」


 私はしばらくの間、そこに居続けることに決めた。私は更に知識を得た。その人間がーーあの方がこの地獄で偉い立場にいることは分かった。


 あの方というのは私は尊敬の念を抱いているからだ。私はあの方のようになりたい。


 あの方のような力が欲しいといつしか思うようになった。そして月日が流れ、あの方が大きな建物の中で部屋の真ん中で立っていた。体がピリピリするような霊気に私は思わず高揚した。


『一体、今から何が起こるのだろう』


 あの方は右手に刀を持ち、何もない空間を切り裂いた。その時に何もない空間に切れ目のようなものが入った。


『何が起こっているんだ!?』


 私は混乱した。自分が持っている数年分の知識では認識できないものに。あの方はその切れ目に自ら入ったと思った瞬間いなくなった。


 周りに誰もいないことを確認した私はその中がどうなっているのか恐る恐る覗き見た。


 そこには異なる世界が見えた。何て光に満ちた世界だろう。


 あの方の行った世界に興味を持った私はその切れ目の中に入り込んだ。初めて人の生気を食べた時の快感を今でも覚えている。あれは病みつきになる味だ。


 けど最近は五月蝿い連中がいることが分かった。私のような妖怪を退治できるものーー陰陽師と呼ばれている奴らだ。


 奴らがしゃしゃり出てきたことで大ぴらにご馳走にありつけなくなった私はどうすればいいか考えた。


 人間を食うことができないのであれば、寄生することにした。奴らは人を守る連中だが、逆に人に手出しできないと私は考えた。


 そしてあの子供を見つけた。寄生するには最適な依代に入ってからは自分は強くなったし妖力を蓄えて自信もあった。



 ーーなのに私の心は今、見知らぬ男を目にした途端に震え恐怖で満たされていた。






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