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今昔あやかし転生奇譚 〜平凡な女子高生の彼女と幼なじみには秘密がある  作者: yume
第一・五部:終わりの始まりの幕を開ける
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第三十話:最期の舞と黒い靄、再び

これは大昔にあった物語。


 ある所に一人の子供がいました。父親は早くに病で亡くなり母親は舞いの達人「白拍子」で、小さい頃から子供も自然と踊りを教えられてきました。


 子供は母親の素質を受け継ぎ町でも評判な踊り子として持て囃されました。そしてある町で子供はある男性に一目惚れしました。


 きっかけはある時体調が悪くなり、道端で倒れていると声をかけられた時です。


「おい 大丈夫か?」


 子供に手を差し伸べてくれた男性こそ彼でした。お金持ちではないが貧乏だけれど、気さくで温かい性格に心惹かれました。


 けれど、ある日子供の恋心を引き裂く出来事がありました。


「お母さん…どういうこと?」


「私が若君に嫁ぐなんて聞いていません」


 本人のいないところでいつの間にか母親は子供の未来を思慮し、相手を選んでいたのです。


 白拍子になった子供を貰ってくれる相手など限られている。若君は子供の容姿と踊りに惚れ、求婚を申し込んできたとのこと。


 お金持ちの若君が見つかったと大層嬉しそうな母親に、子供は今まで育ててくれた恩を仇で返したくはありませんでした。子供はとても悲しみました。


 男をそっと見ることしかできなくなることにーー


 結婚前日までに一目惚れをした男性を見続けて、大層人気があることが分かりました。


 男が女の子と話しているのを見るだけでとても胸が苦しい。子供は悔しさに歯噛みし、思いっきり叫びたかった。


 私はどうして踊り子なの?


 どうして私はこんな格好をしているの?


 本当の自分が分からなくなるーー


 子供は生きることに絶望し、母親にも誰にも告げずに何処かへと消え去って行きました。




 映像が終わり、ライトが一点に集中されたところに生徒会長が静かに佇み、口を開いた。


「今から踊るのはーー子供が男に残した最後の舞「散華さんげ」です」


 外国から生まれたダンスの方が今は見られる時代で、元々日本にあるダンスーー舞踊はあまり馴染みがない。


 ほとんどの生徒たちは今日本の伝統ある踊りを見たことがなかった。その証拠に、目新しいものに敏感な生徒たちはクギ付けになっている。


 物語が終わり、花月の目の端にツーと涙が溢れた。ふと周りを見渡すと号泣している女の子もいた。いつの時代も女の子は恋愛ものに弱い人が多い。


 題目の散華という意味は「死ぬこと」を意味し、不快感や困惑を少なくする目的であるいは話し手がタブーとされる単語を避けることで用いられる。


「う…ゔうう」


 麻里子もうめくような声が花月の隣から聞こえた。


「悲しい話だね…」


「うん」


 花月もなんとか返事をするのに精一杯だった。


 そうして皆が感動に打ち震えるている時どこからか不思議な音色が、この場を支配する。笛のような音色に観客達は魅了される。


 白拍子に扮した生徒会長の動きは普段とは別人だ。流れるような手の仕草があんなにも美しいものだと初めて感じた。


 早くもなり、遅くもなる足の運び具合に足音が全く聞こえないのだ。一分一秒が長く感じる。誰もが踊りに集中しているときにそれは起こった。


 急に視界が霞んだことに花月は驚く。


「あれ?」


「なんだろう」


 花月の目の前にいた女子生徒が声をあげた。彼女も同様に目の当たりをこすっていた。


 気になったが最初はあまり気にしていなかった。けれど数分後、何かがおかしいことに気づく。


 笛と同時に幻想的な風景を作るためにドライアイスをたいているのかと思えばーーいつまでたっても周りの光景は変わらなかった。


 白い靄の中、花月はもう一度、目の前の女子の様子を心配した。


「あの子 大丈夫かな? 白い靄で周りが見えないね」


「…?」


 不審に思った花月は隣にいる友希子と麻里子に、そう問いかけるが返事は一向に返ってこなかった。



〇〇



 不審に思った花月は麻里子たちの方を振り向くと、微動だにしない友希子と麻里子の姿だった。


 ざわっと嫌な予感が背筋に走った。隣にいた友希子の肩に触れようとした次の瞬間、ドサリとする音を耳にする。


 花月はその音の正体を確認するために、前を向くとさっきまで立っていた女子生徒が倒れていた。


「!?」


 あまりの突拍子のない光景に花月は瞠目した。


『何が…どうなっているの?』


 ドサ…


 ドサ…


 その女子生徒を皮切りに、次々と倒れていく不快な音が耳に伝わってくる。


 さっきと同じような音が何度も続いていく。私は堪らずに隣の友人に声をかけた。


「友希ちゃんっ…なにかがおかしいーー」


 花月は友希子に話しかけようと振り向いた瞬間である。まるで、スローモーションのように倒れていく友人にただ呆然としていた。


 友希子はあの女子生徒と同じようにドサリと音を立て倒れてしまう。あまりの出来事に一瞬、花月は呆然とする。


「友希ちゃん!?」


 ドサリとまた同じような鈍い音がして、後ろを恐る恐る振り返ると麻里子も倒れていた。


「麻里子も…何が、一体どうなっているの?」


 花月は友希子の側により顔を見て、驚愕する。


 いつもはあんなに明るい小麦色の肌が今はまるで生気のない人形のように青白い。目もいつもと違い、どんよりとしていて虚ろになっていた。


「友希ちゃん…麻里子」


 花月はか細い声で二人の名前を何度も呼び、揺さぶったりしたが応答はない。


『このままじゃ…』


『とにかく誰か助けを呼ばないと!?』


 この白い靄で周りが見えないだけで、外の人たちはこの異常事態に気付いていないのかもしれないと、花月は自分自身を震え上がるように気持ちを奮い立たせた。


 白い靄を掛け分けながら花月は声を上げた。


「誰かーー誰かいませんかっ!?」


「倒れている人がいるんですっ」


 目を凝らし辺りを窺うが、見えるのは白い靄のみである。たった数十メートル歩いただけなのに、ズシリと鉛のように重く感じる。視界が変わらない。


 本当にここは学校の敷地内のなのかさえ、疑問に思ったところ人影のようなものが見えた。あたりが白に染まっているからより見つけやすい。


『あそこに誰かいる!』


 花月は一縷の望みを託し、重い足でなるべく早く駆けていく。けど少し歩いてまたピタリと止まる。


『あれは……!?』


 自分の目に映るものを疑った。急に歩くのを止めたのはその影が人ですら無かったからだ。少し前の昼休みの時に見たあの「黒い靄」だった。


『どうしてこんなところに』


『もしかしたら あれが犯人…?』


 花月は幼い頃から不思議なものが見えてきた。害意のないものもいると分かっているが、人に悪さをするものを彼女はよく知っている。


 公園で起きたあのトラウマを思い出した。あの黒い靄はあの時よりも、もっと黒く濁っていることに震え上がる。


『逃げなきゃーーでも…どこにっ』


 花月はそんなこと誰にも一度も相談したことがない。自分で考えるしかないと自問自答していると、あの黒い靄がのそっと動き出した。


 黒い靄は近くにいた生徒に覆いかぶさっているのが見えて、その光景に戦慄が走った。黒い靄が生徒を捕食しようとしているのだ。


 花月が小さかったあの時の黒い靄は、子供の足を引っ張ったりしていたがそっちの方がまだ可愛げがあるように思えてくるほどの恐怖を覚えた。


『早くあの生徒から離さないと、何だか危ない気がする』


 もう一度、周りに目を凝らすと、うっすらと白い靄透けて見えるから校舎の玄関を目にした。


『それに、ここにいたら 友希ちゃんと麻里子が危ない』


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