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今昔あやかし転生奇譚 〜平凡な女子高生の彼女と幼なじみには秘密がある  作者: yume
第一・五部:終わりの始まりの幕を開ける
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第二十九話:彼の拒絶と親睦会当日

「今日は本当にごめんね」


 昼休みに花月は朝日に起こしに行けなかったことをもう一度謝った。


 友希子は知っていたが、それを知らない麻里子は何のことやらとキョトンとしている。そして面白そうな話題に食いつくのは、もはや彼女の習性である。


「えっ、なになに何の話?」


「あ〜 はなは朝が弱い朝日を起こしに行ってるんだけど、なんか今日は珍しくはなの方が寝坊したみたいで」


「え…それってカップルもごもごーー」


 暴走しそうになった麻里子の口を、さっと友希子は封じた。それを尻目に朝日は落ち込む花月に優しく話しかける。


「そんなに謝んなくていいよ、はなちゃん……私も今日は奇跡的に目が覚めるのが早かったから」


「そうだったの…?」


「うん、今日は早く目覚めることができて……」


『本当は、昨日も夜帰るのが遅かったからなんて言えない』


 花月に嘘を言うのは辛いが、本当のところ御影様として夜回りをしているためいつも夜は遅く眠り、朝が起きるのが辛いだけだと言えない朝日は歯痒い気持ちだった。


 最近夜周りをしても通り魔事件から一向に怪しい影は現れずにいる。目星をつけているが、表面に出てこなければ「彼」が傷つくかも知れないことも恐れていた。


『もしはなちゃんを狙っているとしたら、親睦会当日に狙われるかも知れない』


朝日の真剣そうな顔つきに花月は首を傾げた。


「どうしたの?」


「うん? いやなんでもないよっ」


「そう…?」


 花月はこれ以上へりくだると、朝日を困らせてしまうと思い言うのを止めた。


 朝日の笑う顔を見て花月の表情は自然と華やいだ。その二人の姿に麻里子は微笑ましく笑いながら隣の友人に話しかける。


「友希子はずっとこれを見ているんだね」


「まあね」


「私も見習わないとね〜」と話す口調はまるでお婆ちゃんだ。


『何を』と言わざるとも、友希子は麻里子に聞かずとも知れている。


 花月達の日常はこの4人でご飯を食べたり、おしゃべりを楽しむのが当たり前となっていた。


「そういえば親睦会って一週間後だっけ 楽しみだな〜」


「そっかもう一週間後か」


『一週間後…何かが起きるとしたら』


 皆はイベントに嬉しそうに楽しみにしていても朝日の心だけは晴れなかった。あれだけ騒いでいた通り魔事件の影も鳴りを潜めて今は「親睦会」に夢中になっていた。


 一週間があっというまに過ぎ去っていく。平和に何事もなく、当たり前の日常が、これが嵐の前の静けさになるとは誰も知る由もない。


そして朝日の推測は当たってしまい、親睦会が訪れるまで事件は起きなかった。


〇〇


 親睦会まで後何日か迫っていた頃のことである。主催を務める桐原は朝から放課後まで、授業を休むことなく大忙しだった。


 今日も全ての授業が終わり、すぐに生徒会室に桐原は向かった。その後、副会長の新橋が来て桐原に挨拶をする。


「相変わらず早いな」


「僕も今きたところだよ」


「そうなのか」


「僕はちょっと職員室に行って書類を届けに行くから」


「ああーー」といいかけるが、桐原は足を止めた。


 桐原は自分の腕を掴む相手ーー新橋を凝視する。


「どうした?」


「お前…顔色悪いぞ」


「そうですか? 最近ちょっと張り切っているからーー」


 ドアの方に足を進めようとしたその瞬間、視界が霞んだ。


「おい!?」


 新橋は桐原の体が倒れそうになる瞬間、抱き抱えて彼の体に触れた時に桐原の体の線の細さに瞠目し新橋は固まった。


『なんだこの細さ』


『ご飯ちゃんと食べているのか』


『それにーー』


 新橋には妹が二人がいるため、二人の世話や面倒を見てきたからなのもありかなりの心配症なところがある。


 けれどそんな心配とは裏腹に桐原の思った以上の体の柔らかさにドキマギしながらも苦しむ表情を見て、我を思い出す。


「お前熱でもあるんじゃないか?」


 新橋は桐原を抱き抱えながら、慣れた手つきで自分の手の平を彼のおでこに当てようとした瞬間ーー


 パシン


 彼の手はおでこに手を当てて熱を測ることもなく桐原によって止められてしまい、今までの不調が嘘だったかのように彼はすぐさま立ち上がった。


「心配かけてすまない…もう大丈夫だ」


「え……ああ そっそうか…」


 去り際に桐原はそう言い残し、足早に生徒会室を去っていった。


『さっきのは、拒絶…だよな』


 桐原に拒絶されたのが思った以上に、よく分からないがショックだった。それは心配したのに叩かれたのもショックだったのもあるが他にも理由があった。


 新橋が出会って初めて美少年だと思ったのが桐原だった。こんな完璧な人物もいるんだなと感心するほどに、だからなのか無理をして欲しくないと思い止めようとしたが、まさか明白に突っ張られるとは思わなかった。


 その後数十分、他の生徒会役員が来るまでの間、彼は仕事に身が入らなくて呆然と立ちすくんでいた。



〇〇



 親睦会の当日ーー


 中庭はいつも花月達がご飯を食べている所なのだが、今はテントや舞台などが設置されていて文化祭さながらに本格的である。


生徒達は親睦会が始まる前にも話していて、そわそわと早く授業が終わらないかと浮足立つ気持ちは花月にも分かる。


 花月自身も怖い気持ちもありながらも、小学生の遠足に行く前日のようになかなか寝付けない気分だった。


 今日の昼休みに朝日、友希子、麻里子と待ち合わせ場所と時間を設定した。今日だけは特別に夜間でも入ることが生徒は自由に入ることが許される。


 昼とは違う別の趣がある夜の校舎の風景にはしゃぐ男子たちがちらほらいて、肝試しに行かないか女子たちを誘っているのが見えた。


「肝試ししようぜ」


「え〜、どうする」


「折角だから行こう」


 飲食物は持ってくるものはゴミを出さないために許可されなかったが、購買で弁当を売っている総菜屋さんの協力によって豚汁やおにぎりなどが売ってあり、味噌の香りが食欲をそそり学生たちまたはお腹は満たされていく。


「お待たせっ」


 花月は待ち合わせ場所のところに向かうと見知った2人の人影が見えて声をかける。友希子と麻里子だ。


「あれ、一人?」


 花月が一人しかいないことに友希子はいち早く気づき口に出した。


「うん…朝日ちゃんを迎えに行ったらなんか具合が悪いみたいで、行けそうにないって」


「あ〜 そうなんだ それはしょうがないね」


 花月も朝日と行くのを楽しみにしていたが、無理はさせたくない。玄関に出た真澄に「朝日ちゃんにお大事に」と託けてきた。


「それじゃあ朝日の分までちゃんと撮んないとね」


 その時、アナウンスが流れた。


「今から、10分後に生徒会長の挨拶がありますので生徒の皆様、ご鑑賞に来ていただいた皆様もお集まりください」


 花月たちは舞台の前に集まると、そこには大勢の人で賑わっている。


「うは〜、こう見ると壮観だね」


「私もこんなに人がいるとは思わなかった」


『それでは生徒会長、よろしくお願いします』


『はい』


 放送されるアナウンスから生徒会長の声が聞こえた。いよいよ真打ちの登場であることに花月達は胸を高鳴らせていたが、


「え!?」


 誰もが驚きの声をあげた。その人物はいつの間にか音も無く、舞台に静かに立っていた。着物を羽織っており顔を隠して見えない。


 辺りは静寂に包まれる。


 その静けさにさっきまで雑然と騒いでいた生徒たちも水を打ったように静まる。異様な空気に包まれ観客を含め花月たちはその人物を刮目する。羽織っていた着物がバッと舞い上がる。


 つられて着物を見上げた私たちは、視線を下ろすとその人物の顔が現れる。そこには和装を見事に着こなした麗人が立っていた。


 観衆が静まる中、麗人は慣れた所作でマイクを持ち口を開いた。


「今日は私主催の親睦会にお越しいただきありがとうございます」


 聞き慣れた生徒会長の声に生徒たちは少し緊張が解ける。


「この会は新しく入ってきた新入生と親睦を深め並びに在校生を労うための発案しました」


「この格好に驚かれたと思いますが、これは狩衣と言いまして昔の衣服です」


 それを見た私は普段から和服を見慣れているので、なんだか親近感を覚える。


「私の家では日本舞踊を生業としています。まだまだ未熟ですが精一杯踊らさせて頂きます」


 わあっと生徒たちから歓声が上がる。


「その前に舞踊には歴史がつきものです。皆様に今からある映像を見てもらいます」


「そう長くはなりませんのでお付き合いください」


「そうか、このための機材なんだね」


 生徒会長は副会長に合図をして生徒会長の背後が光り映像が流れ出した。大掛かりな機材やスクリーンなどはこのために置かれていたのだろうと写真部でありプロ顔負けの腕前を持つ麻里子は推察する。


 生徒会長が前もって録音していたのか、心地よい声音が耳に届く。物語の世界へと観客は引き込まれていった。


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