第二話:幼なじみと毎朝の日課
指摘された文章を修正いたしました。no nameさん、ありがとうございます!
私には幼なじみがいる。出会ったのはまだ六歳の時のこと、まだ両親も生きていて、幼稚園に通ってたときのことーーお遊戯の時間、私はある女の子がずっと気になっていた。
他の子たちはみんなお遊戯の時間になると、外に行って滑り台に登ったり、自由気ままに元気よく遊び回っているのに、その子だけがいつも室内でおとなしく絵本を読んでいたからだ。
自分の好奇心な気持ちを抑える事ができずにいた私は勇気をふり絞って、女の子に話しかけた。
「ねえ、何の本を読んでいるの? 外で遊ばないの?」
女の子は私に気づき一瞬戸惑ったが、下を向きながらたどたどしく可愛らしい声で喋り出した。
「えっ……と、私は体が弱いから…先生からあまり遊ばない方がいいっていわれたの」
私は女の子のことが気になっていたので、それならと無理をさせないように屋内の方で遊ぶことにした。
「そうなんだ! それじゃあ私もここにいていいかな?」
「え……う…うん! いいよ」
戸惑いながらも嬉しそうに応えてくれた女の子に、嬉しくなった私はさらに質問した。
「名前、なんて言うの?」
「あ…あさひ」
「よなが あさひ」
代永朝日ちゃん。それが私との最初の出会いである。
朝日ちゃんは私が住むアパートの近くに住んでいて、小学生の頃から毎朝日課のようにやっていることがある。
その幼なじみは小さい頃から体が弱いため、そのことに心配している私は迎えにいっている。
幼なじみが住んでいる家は、築百年以上はありそうな趣がある古民家で広さも中々ある。
生まれてからずっと賃貸アパートにしか暮らしことがない私だが、よく見かける一軒家の敷地より遥かに広いと思う。
かくれんぼをした時があったのだが、見つける方も隠れる方も一苦労だったことは今はいい思い出になっている。
私は立派な門をくぐり、玄関の前をほうきで掃いている今時珍しい着物姿をしている少女に挨拶をした。
「おはようございます 真澄さん」
このうら若き清楚な美少女は幼なじみの代永朝日の親戚の広瀬真澄さんと言って、この家のお手伝いをしている。
艶やかできれいな黒髪は一つに束ね膝の上ぐらいまであり、涼しげな目元に愛くるしい顔立ちしていて、華奢な体つきをしている。黒髪に和服が組み合わさった姿は、「大和撫子」というに相応しい。
ちょこちょこと手を動かしている姿が愛くるしく、この時代では流行りの服が多岐に渡る中、今時珍しい和服を来ている少女は、見るものを爽やかに癒してくれる。
私が来たことに気づいた真澄さんは、涼やかな笑みで迎えてくれた。
「おはようございます 花月さん」
「今日もいい天気ですね」
『はあ〜 朝から目の保養だな〜』
私は美麗だが可愛らしい真澄に見とれつつ目の保養としながらも、いつも聞いていることを尋ねた。
「朝日ちゃんは……まだですよね」
当人がいないことを一応、確認しながら私はおもむろに周囲を見渡した。
「はい まだです」
真澄さんは困ったような笑みに私は諦め顔になり、そっとため息を吐いた。
最初の頃は小学生だった為あまり気にしていなかったが、このやりとりをするのは日常茶飯事のようになっていたことに気づいたのはいつだったか覚えていない。
玄関を上がり朝日の寝室まで歩くのに廊下があるのだが、そこから中庭が見渡せるようになっている。
〇〇
中庭には小さな池や石橋があってとても風情があり、手入れをちゃんとしているのが見受けられる。
さわさわ…
かこーん…
吹き抜ける爽やかな風と獅子威しの音色が早朝の眠気覚ましに心地いい。
「風が気持ちいい…って、和んでいる場合じゃなかった! 朝日ちゃんを起こす前にまずは下準備をしないと」
爽やかな一息をついたのも束の間、私は朝日ちゃんのいる寝室ではなく食卓に向かった。
そして数分後、私は朝日ちゃんの寝室に向かった。彼女の寝室はもちろん和室で、扉は障子になっている。
「朝日ちゃん、早く起きないと遅刻するよ」
寝室の前にたどり着いた私は「親しき仲にも礼儀あり」というマナーがあるように一声を一応かけているのだが、障子の向こうから返事が返ってきたためしが一度も無い。
シーンと辺りには沈黙が流れるのみ。
分かっていたけど毎回いい熟睡っぷりには感心する。最近、変な夢を見て眠りが浅い私にとっては羨ましい限りである。
「入りま〜す」
スッと障子を開けた先に目にするそこには、一つの小山ができていた。そこには何かがいるのは明らかである。
『……相変わらずすごい寝方だな』
小山ができた近くに座った私は朝日ちゃんを呼び続けた。
「朝日ちゃん、遅刻するよ」
「…う〜ん むにゃ、むにゃ」
呼びかけるが返ってくるのは可愛らしい寝言なのか分からない返事だけである。
「早く起きないと志郎さんの美味しい朝ごはんが食べれないよ〜」
この家には真澄さん以外にも木内志郎さんというお兄さんがいて、今は朝ごはんを作っていて台所に立っている。
少し待てどもし〜んと辺りに静寂が際立つのみである。
『効果なしか……こうなれば奥の手』
「私も朝ごはんのお手伝いをしたんだけどな〜」
棒読みで少し大きめな声で私は言った。ユサっと微かに物音が聞こえた。
私の言葉を聞こえたのか、今までピクリとも動かなかった不動の布団が微動する。後もうひと押しかなと慎重に言葉を選んだ。
「おにぎり美味しくできたのに勿体無いないな〜」
「朝日ちゃんが起きないなら、みんなで食べちゃおうかな〜」
その刹那、布団越しで籠っているが、自分の朝ご飯を食べられまいと制止する愛らしい声が聞こえてきた。
「やだ」
「…それじゃ、一緒に食べよう」
私が作ったおにぎりに反応するのは、朝日の熟睡っぷりを知ってからで、それで何とか起こそうとして出した案が功を奏した。
ーーのだが今は染みついた餌付け……ではなく習慣はなかなか抜けなくなってしまうとは私自身も夢にも思わなかった。
もぞもぞと冬眠から目覚めた熊のようにのっそりと布団から出てきたのは、寝起きなのに滑らかな漆黒の髪は腰ぐらいまであり、色白な肌が際立つ華奢な女の子である。
まだ寝足りないのかふわふわと首が据わっていない。起きているのだが、前髪が長い方で目が開いているのか分からない。
前髪を開ければ可愛いのに勿体無いって言ったらすごく落ち込んでいた。「何でだろう?」と私は首を傾げた。普通可愛いって言われれば、大抵は照れるとか喜んでくれると思っていたからだ。
長年幼なじみだけど知らないこと、秘密にしておきたいところだってあるのだろうと私は帰結した。
『……私にも秘密にしたいことがあるからな』
そう一息をつき顔を上げたところ、私の顔を朝日ちゃんが覗き込んでいたのが見えて少しドキリとする。
「はなちゃん……どうしたの?」
私の名前である花月の「はな」
朝日ちゃんは、私と出会った時からそう呼んでくれる。
花月という名前は、読み仮名ではカヅキと男の子の名前でも可笑しくはない。実際、幼稚園の時に男の子に揶揄われて、母から「はな」とあだ名で呼ばれるようになった。
そのことを話したら、私の気持ちを察してくれたのか、朝日から「はなちゃん」と呼ばれるのは今でも嬉しかった思い出である。それからは普通に花月という名前は両親の形見だと思って大事にしている。
どうやら思ってた以上に考えすぎていたらしく、思い返すと懐かしくて、クスッと笑ってしまう。
朝日ちゃんの前髪が少し長めで、見えそうで見えない大きな瞳が私を見つめて不安げに揺れていたので安心させるために手を握った。
「ううん。 何でもないよ」
「ご飯、食べに行こうか」
私は眠たげな朝日ちゃんとご飯を食べるために食卓に連れて行った。