第二十七話:波乱の幕開け
誰もが寝起きの朝はいつも良いとは限らない。
「どうしたの!? 朝日ちゃん」
「目の下にすごいクマできているよ!?」
花月が朝から吃驚した声を出したのは、昨日は幼なじみの家にお泊まりをし、夜に2人で話し合った時は透き通るような色白な肌だったからだ。
けど今朝起こしに来たら、朝日の目の下に立派な黒色のクマができていたので驚いた。寝起きが良くないことを知っていたが隈の下ができるほど眠れないことでもあったのかと聞くが大丈夫だの一点張りである。
朝日は花月が黙っていることを夜通し考えていたらなかなか寝付けることができなかったのだ。
花月は、朝日の原因になっているとも知らずにそばに寄った。何か病気の前兆じゃないかと彼女は心配になる。
「だっ、大丈夫だよ これくらい」
朝日は身振り手振りで元気さをアピールしているがーー…そう言われると本当に元気なのか疑い深くなるのもので至近距離で花月は朝日の顔をじっと凝視する。
ーーおよそ3秒
「……(もうダメだ!?)」
たった数秒間の沈黙に耐えられなかった朝日は慌てふためき心情を吐露する。
「えと…昨日はっ…ちょっと寝付けが悪かっただけだからっ」
「そ…そうなの?」
朝日がはきはきと話す様子に花月は少し目を見開いた。いつもは寝起きがあまりよくないので、新鮮味があったのだ。
志郎は朝日の目の下を見てすぐに目線をそらしたが、口元が引きつっているのが見えて朝日は思わず殴りたくなったが後が怖いのでやめた。
真澄は即座に朝日の異変に気付き、心配そうに顔を覗き込んだ。慣れた仕草でどこにも異常がないことを確認した真澄は料理場に戻っていった。
今日も美味しい朝食をいただいて花月たちは学校に向かった。
学校の前で友希子と麻里子が歩いているのが見えた花月は声をかけた。
「おはよう 友希ちゃん、麻里子〜」
「おはよー 今日も2人で大変仲がよろーー「おはよう〜 朝日 はな」
麻里子が茶茶を入れない様に友希子が割り込む。
「おはようございます」
朝日は友希子に丁寧にお辞儀をし、花月は麻里子たちに昼の誘いをした。
「今日は一緒にご飯を食べても大丈夫?」
「うん もちろん」
花月は麻里子と和気藹々と話している。友希子の心労が増えることは確実になった。
同じく朝日が小さくため息をつこうとした時だった。
学校の門前にまで来ていた花月たちは、いつもは無い人だかりが出来ていることに驚いた。見れば生徒会の人たちがいた。
「おっ、これは何があったんだろうね」
好奇心が疼く麻里子は辺りを散策すると、知り合いがいたらしくその子の元に向かった。花月たちも気になったので後を追った。
「おはよう 紫ゆかり」
「あ、おはよう 麻里子」
類は友を呼ぶのか二人には同じ雰囲気を花月は感じた。
「朝からいいネタになりそうだよ〜」
花月たちがついてきたことに気づいた麻里子は彼女のことを教えてもらった。
「あっ、紹介するね」
「藤井紫、同じクラスで部活は新聞部に入っているの」
新留は花月たちの顔をよく知っているらしい。
「おっ、有名人揃いだね」
肩より短めのふわふわの髪の毛に前髪が切り揃えている印象にお姉様感がある。
ニマニマする様は麻里子と酷似していて、知らない人が見ると血の繋がった姉妹にも見える。
〇〇
「いや〜こう見ると眼福ね」
彼女の容姿とは裏腹にまるで酔っ払いの中年親父のような物言いに友希子と花月はキョトンとしているが朝日は口元を引きつかせた。
紫は何かプリントを手に持っていたのを見つけるのが素早い麻里子は一早く気づく。
「それがネタ?」
「ふふふ 見せてもいいわよ」
紫の掛けているメガネがキラリと光ったように見える。
「そうね…三回ぐるっと回ってワンって言いなさい」
そう言われた麻里子は即座に三回ぐるりと回ってワンと鳴いた。半分冗談だったのだろうか慄いたように紫はゴクリと生唾を飲み込んだ。
『やるわね…』
紫は怖いもの知らずの麻里子に戦々恐々としたのである。朝から自分は何を見せられているんだろうと朝日は現実逃避をした。
心の中では他人のフリをしたい友希子だが、苦労性が染み付いたせいかその空気を変えようとプリントのことを促した。
「それで その紙には何が書かれているの?」
「コホン」
恥ずかしそうに少し頬を染めた紫は咳払いをした。花月たちにも分かるように、その紙を突き出した。
「これよ!」
花月たちは身を乗り出し、中身に注目する。
「なになに?」
「【親睦会】?」
「親睦って友好とかを深め合うだっけ?」
「時間は夜に行われるって書いている」
「えっ 何それ 面白そう!」
「内容は乞うご期待ですだってーーー」
「君達もぜひ来てね」
花月たちは夢中になっていると、聞いたことのある声が入ってきた。人だかりの中心にいた生徒会長が話しかけてきたのである。
「強制じゃないけど、興味が少しでもあれば」
麻里子と新留は2人同時に喋った。
「「行きます 会長」」
「それは良かった」
そして、桐原は返事をしていない花月と友希子と朝日にも話しかける。
「君達もよかったら是非」
「はい ありがとうございます」
朝日は丁寧に返事をした。そのままどこかに行くのかと思いきや、生徒会長が朝日をじっと見つめていた。
「君…僕と前に会ったことがある?」
「……いいえ、多分会ったことはありませんが」
「それじゃ 僕の勘違いか……ごめんね 不躾に見てしまって」
「いえ…他人の空似はよくあることですよ」
軽くお辞儀をした生徒会長はその場を去り、他の生徒にもビラを配りだした。働き者だな〜と花月は感心する。
「前にも会ったことある?」
花月は何だろうと紫を見ると生徒会長の先ほどのセリフを真似ており、それに麻里子も何だか楽しそうである。
「なんか漫画の主人公とヒロイン見たい」
「属性だと眼鏡っ娘と生徒会長か〜 萌えるわね」
「お〜 話が分かるわね」
何だか二人は白熱しだしだしている様子に友希子と花月と朝日は傍観に徹した。
朝日は自分をネタにされたのが嫌で感情的になるのをグッと堪え、二人を淡々とした目で見てたのは、花月は気づかなかった。
「そういえば親睦会って何をするんだろう? イベントとかかな」
花月はふと疑問に思い呟くと、
「あれ? 知らないの? 多分、舞踊かも知れないね」
「桐原先輩は日本舞踊の家元のご子息で踊りの達人なんだよ」
「へ〜 だから背筋とか立ち姿が綺麗なんだね」
知っている方が不思議だろと、もはや突っ込むこともなく出遅れた友希子であった。朝日はプリントを見て嫌な予感を募らせ、そして花月もまた同じような気持ちだった。
「朝日ちゃんは親睦会に行くの?」
「う〜ん、どうしようかなって迷ってる…体調がよかったら」
「そっか」
先ほど生徒会長に会った時、あまり嫌な感じはしなかったが、あの時のものがいつ出るかと思い払拭できなかった。
『このまま何も起こらないでほしい』
そして朝日もまた、
『生徒会長が何かに憑かれているかぎり、何も起こらないはずがない』と思いながらも、二人は親睦会を無事に終わるようにと心から願った。




