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第二十一話:禁断症状

 「ひらたけんくん」


 いきなり声をかけられた健は少し驚いた。


「君は確かよながあさひちゃんだよね? 君もどうしてここにいるの?」


「お見舞いに来たんです 家が近くなので」


「へ〜、そうなんだ」


「あ、そうだ。ひらたくんに付き合ってほしいところがあるんだ」


「聞いてくれないかな?」


「(腹の足しぐらいになるだろう)うん、ちょっとだけならいいよ」


「ありがとう」


 朝日は健の返事にニカッと笑った。朝日に連れられてきたのは近くの公園で健は話は何なのかと尋ねた。


「どうしたの朝日ちゃん、こんなところに呼び出して」


「実はね最近ここら辺で子供を襲う妖怪が現れたんだって」


「え…そうなの?! それじゃあここにいると危ないんじゃない?」


「うん 危ないから君をはなちゃんから遠ざけたんだ」


「……遠ざけた、僕を?」


「私は君の正体を知っています」


「なんのことをいっているの?」


「妖怪は正体がバレれば、力が不安定になる、顔に出ているよ」


「狐の妖怪ーーー野干」


 健ーーもとい野干はバッと手で本性がでた側面を隠した。


「お前っ…何者だっ」


 さっきの子供の声とは違う唸るような獣の声に、目元に隈取の模様が浮かび上がっていき、徐々に人型から動物になった。


「何者ということはないです。 もうこれ以上、子供を襲わなければ見なかったことにします」


「はっ 何を言っている?」


 朝日の宣告を野干は一蹴した。


「あんな極上の獲物を前にして立ち去るわけないだろう」


 野干は朝日に襲い掛かったが慌てはしなかった。朝日は大事な友達を獲物と捉えた野干に激怒した。


「分かった。 なら、私は容赦しない」


 襲い掛かってきた拍子に隠し持っていた刀で切りつけた。


「おのれ…」


 朝日に断ち切られた野干はパタリと倒れ、砂のように消えていった。


「ふ〜 終わった」


「お疲れ様です」


「わっ」


 後ろから声をかけられたことに、朝日は驚いた。


「びっくりした」


「最後まで油断は禁物ですよ」


「そうだね」


 そこにいたのは、和服に身を包んだ志郎だった。


 一応野干に仲間がいた時のために朝日が野干を公園にまでおびき寄せているときに、花月の家は無防備になるので、そっちは真澄がつくことになった。


「はあ まあこれで一件落着だね」


 翌日、ひらたけんという男の子の存在はいつの間にか消えており、いなくなっていた。

 朝日が先生や園児に聞いても誰のことが分からないことに幻術が消えたのだと安堵した。


「おはよう、朝日ちゃん」


 風邪が治り元気になった花月は朝日を見つけて、駆け寄ってきた。


「はなちゃん! もう元気になったの?」


 朝日は花月の体調を気遣った。


「うん! 心配してくれてありがとう」


 花月は朝日にお礼を言った。


「今日も一緒に絵本を読もうね」


「うん」


 この先どうなるか分からないし、いずれこの子に自分の正体を言う時があるかも知れないけど、しばらくはこの余韻に浸っていたいと、朝日はそう心から願った。


ーーそうしてまたいく年月が流れていった。



〇〇



これは中学生の時にあった朝日の苦くも甘酸っぱい記憶である。


「僕…」


「朝日ちゃんのことが」


「小学生の頃からずっと好きです」


 震えながら、けれど勇気を振り絞った少年の声。緑色が生い茂る木と爽やかな風が黒髪になびく。


 場所は中学校の体育館の裏庭の定番中の定番。


 女の子と男の子が二人だけ。


 ここで何が行われるか大体相場は決まっている。


 先ほどのセリフといい思い当たる言葉は「告白」しかない。


 現に男の子の顔は真っ赤に染まり、ほっぺたがりんごのようである。


 その告白された女の子の名前は代永朝日。


 平野花月の幼なじみであり、彼女はもともと男女問わず可愛いと言われていたが、大和撫子と言われていた朝日もまた負けず劣らず、男の子から告白を受けることも少なく無かった。


「ごめんなさい」


「あなたの気持ちにお答えすることはできません」


「!」


 男の子は朝日の返答にグッと堪えたが素直に受け入れる。


「分かった……」


 憮然に立ち去ろうとする男の子を朝日は呼びかけた。


「でも、ありがとう 古田くん」


 好きな女の子にフラれたが最後に優しい笑顔でお礼を言われて嬉しくないはずがない。


 男の子は少し涙目になりながら、朝日は優しく手を振ると笑顔で帰っていった。


 男の子の記憶にはきっと心の中ではいい思い出として消化するだろう。


『やばい 禁断症状がっ!』


 告白された武者震いからか、体調が悪くなったのか彼女はガシリと震える肩を押さえつけるように腕を交差させキョロキョロと辺りを見回し誰もいないことを確認し息を吸い込んだ。


『よし! 誰もいない』


「すうーー」


 朝日は清楚な大和撫子に似つかわしくない大きな口を開けたものの小さな声で叫んだ。


『なんで野郎に何十回も告白されなきゃなんねーだよ!!』


「っーーはあ」


「はあっ、はあっ」


 あまりの絶叫に呼吸が乱れて息切れした声は女の子としては少し低い、さっきの男子より高いが男の子の声にも聞こえる。


 それもそのはずで代永朝日は歴とした「男」なのである。


 趣味や願望などでしているわけではなく、女装をしているには訳がある。命を狙われているからだ。彼は戦国時代に生まれて、志郎と真澄には江戸時代に出会った。


 朝日には記憶がない。彼は江戸時代が終わる頃に何者かに刺されて、少しの眠りについていたらしい。


 時代が大正から昭和になる頃、眠りから目覚めると朝日の体は大人だった体が子供になってしまったと言う経緯を志郎や他の人たちに聞いて、僕が生きていることがバレないように女装して生活することになったのだが…



 ーー正直しんどくなっている

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