表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/198

第二十話:迫りくる危険な影

 その頃、子供を襲う妖怪が出没していることを志郎から聞いた朝日は警戒心を強めた。

 二人でいつものように本を見ていると、一人の男の子が近づいてきた。茶髪の髪にくりっとした瞳が印象的な美少年である。


「ぼく、平田健っていうんだ」


「私は…」


「君は知っているよ はなちゃんでしょ?」


「ぼくのクラスでも人気だから知っているよ」


「そうなの?」


 花月はどうして人気なのか首を傾げた。朝日はこの無頓着さに危機感を何度も覚えた。


「ねえ はなちゃん! 向こうのブランコに遊びに行かない」


「え 私、朝日ちゃんと本が読みたい」


「でも、いつも本を見ていてもつまらないでしょ」


「いたっ」


 健は花月の手首を握り、無理やり立たせようとした。いきなり手首を握られて、花月は顔を歪める。


 花月の悲鳴に朝日は彼女の手首を掴んでいる不埒な手を掴んだ。


「はなちゃんはぼ…私と本が読みたいので。 無理は良くないです」


 なるべく穏便に朝日は話しかけるが、


(本当だったら、鉄拳をかましてやりたいぐらいだが、ここは堪えた)


 朝日に止められるは思ってなかった健は、花月の手首を離した。


「うん わかった。 無理に掴んでごめんね」


「ううん、大丈夫だよ」


花月は手を振った。


「よかった」


 健はニカッと笑い、パタパタと立ち去っていった。


 今までの一部始終を見ていたのか、ぞろぞろと女の子たちが話しかけてきた。


「大丈夫だった?」


「健くん、かっこいいけど結構らんぼうもので」


「いろんな子に手を出しているんだって」


「わたしも話しかけられた」


「本当に?」


 今時の女の子の話す会話に、朝日は強烈にジェネレーションギャップを感じたのは言うまでもない。


「朝日ちゃん、どうしたの?」


「う…ううん、何でもないよ」


 と危うく片言になりそうだったのを朝日は堪えた。


「ゆり組のあみちゃんと付き合ってたんだけど、いきなり振られたんだって」


「そうなんだ」


「次ははなちゃんはが狙われているのかもね」


「えっ」


「はなちゃん このクラスで一番可愛いもんね」


 当の本人はぽかんとしているが、うんうんと朝日は同じく頷く光景はシュールなものだろう。


 そして健は女の子たちの予言通りに、花月に話しかけることが多くなっていった。


『段々、うっとしくなってきたな…』


 いくら年上の余裕があっても、限度というものがある。朝日はそう思いつつ、ある日のこと少しだけなら外で遊ぶことを志郎から許可された朝日は、近くの公園で花月を遊ぶことになった。


 砂場で山を作ったり、砂の感触を楽しむことも悪くないなと楽しんでいた。


「ひゃ」


 花月の驚いた声に何があったのか見ると、そこには小さな黒い靄が見えた。魑魅魍魎である。


 たまにいたずらをするので注意が必要であるが、普通の人間にはまずは見えないはずである。


 さっきの花月の反応はかんがみて、


『ということははなちゃんはあれが見えてる?』


「はなちゃん 大丈夫?」


 朝日から呼ばれる声で、花月はハッとした表情をして、首を横に振った。


「うん 大丈夫だよ。ごめんね 向こうのブランコで遊ぼう」


 花月は指を遊具に指して、朝日を魑魅魍魎から遠ざけるように離れた。握った手が震えていたことを感じたが、朝日はあえて聞かなかった。


『はなちゃん…妖怪が嫌いなんだ』


『ぼくが人間じゃないといったら、彼女はいったいどんな顔をするのか』とーー朝日は急に不安になった。


 その二人の様子を一部始終を見られていたことに、考え込んでいた朝日は気づかなかった。



〇〇



「最近なんだか元気がないですね」


「そうかな…」


 縁側で朝日が涼んでいると、洗濯物をたたんでいる真澄から聞かれた。


「はなちゃんて女の子と仲良くなって明るくなったと思えば、急に落ち込んで帰ったりして何かあったんですか?」


「それは…」


 先日あったことを朝日は思い出したが、うまく言葉が見つからない。


「……」


 どうするか言いあぐねていると、風呂上がりの志郎が入ってきた。


「おや、どうされたんですか? このどんよりした空気は」


 志郎は交互に朝日と真澄を見比べた。


「ーーもしかしてはなちゃんにフラレたんですか?」


「ーーは?」


「え、そうじゃないんですか」


 あまりの突拍子のない質問に朝日は呆然とする。


「何いっているの? 僕たち仮にも幼稚園児だよ」


「今時そんな珍しくありませんよ。 好きになるのに年齢なんて関係ありませんよ」


「それで、どうされたいんです。 はなちゃん関係だと思いましたが…」


 遠慮もなしにズイズイと聞かれると、何だか色々と考えている自分が馬鹿らしくなり白状した。


「実は…」


 公園で会ったことを志郎と真澄に話した。


「なるほど、それははなちゃんの霊力が高い証拠ですね」


「それだけ妖力が弱い魑魅魍魎が見えるってことは」


「はなちゃんはそれに気づいてぼくから遠ざけるように離れたんだ」


「それを見て思ったんだ」


「はなちゃんは妖怪が嫌いだって」


暗く沈む朝日に真澄は声をかける。


「それで、最近元気がなかったんですね」


「ごめんね 心配かけて」


「はなちゃんに嫌われたらどうしようって考えてしまったら、何も考えられなくなったいて…」


「今はその問題よりも…はなちゃんの身を守ることが先決ですよ」


「え、どういうこと」


「最近またなりを潜めていましたが、また出てきたんです」


「あの妖怪か」


 先日悪さをしている妖怪について話していたことを思い出した。


「妖怪が子供を狙うのは単に狙いやすいだけではなく、霊力が高ければ一石二鳥だからです」


「それじゃあはなちゃんが狙われる可能性が高いってこと」


「はい」


「それと、子供に化けている可能性もあります」


「なんだって…」


 もしかしら幼稚園内にいるかもしれないことに朝日はゾッとした。


「妖怪が近くにいれば、分かるもんじゃないの」


「妖気を断ち、人に化けるのが上手ければ、分かりません。 けれど正体が分かっていれば話は別です」


「正体は分かっているの」


「はい、奴はーー」


〇〇


 幼稚園に来ると花月の姿が見えないことに気づいた朝日はひやりとしたが、その理由はすぐに分かった。


「今日はひらのかづきちゃんはお熱が出てしまって、風邪でお休みです」


「みなさん手洗いとうがいはしましょうね」


 風邪かと朝日はホッとした。あとでお見舞いに行こうと考えていると、先生に近づく一人の男の子が先生に話しかけた。


「はなちゃん 大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ、お母さんがついているのから」


「優しいのね けんくん」


 先生は子供の優しさに笑みをこぼしたが、けんの口元が一瞬歪んだことを朝日は見逃さなかった。


『やっと、やっと極上の獲物にありつける』


『前々から、ずっと目をつけていた娘が「見鬼の才」を持っていたとは僥倖』


 じゅるりとヨダレを垂らしながら嬉しそうに呟いた。一人の男の子が夕暮れ時にアパートの前に立っていた。


 彼女が二階に住んでいることは聞き込み済みである。動こうと一歩前に足を踏み出した時だった。


「そこでに何をしているんですか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ