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第九話:四神家の天敵

 

 一方、沙羅は花月の誘いを断ったことに、残念な気持ちになっていた。


『は〜せめて、何をやるのか聞いておくんだった』


「お〜い 沙羅、ご飯だよ」


 血は繋がっていないが、兄と慕っている静から呼ばれ沙羅は部屋を出た。静と目があった瞬間に少し驚いた表情をした。


「何かあった?」


「え、何もないよ」


「そ、そう」


 沙羅はあまり感情を表に出さないが、落ち込んでいると静はすぐに気づく。こうゆうところはとても有難いのだが。


 静は無理に聞いてこなかったのは今のナイーブになっている沙羅にとっては助かった。けれど何か言いたそうな視線を送られていたので話題を変えた。


「そういえば、外の方は今どうなっているのかな」


「外はまだ危険な状態だ…あの鬼族がいつまた襲撃してくるのかわからない」


 鬼族ーーそれは四神家にとって古き時代からの天敵だった。





 四神家と鬼神族ははるか昔の時代から争ってきた。争いの原因となったのは鬼族の転化だった。


 甚大な力を持った鬼族は悪行を重ねることも厭わない。人間や並の陰陽師ではまず敵わない。そこで人間の守りをなっていたのが四神家だった。四神家の寿命は人並みだが、鬼神族と同等の力を持っていた。その力は、拮抗していたからこそ、鬼神族も人間界に手を出せないだった。


 外に出れないのなら沙羅は陰陽寮を散歩することにした。寮内であれば、自由行動ができることにホッとした。インドアで人見知りする彼女であるが、たまには息抜きもしたくなるものである。


 使用人の吉乃さんに散歩してくることを伝えると、近くにいた静に声をかけられたがやんわりと断った。


『さてと、どこに歩いていっこう 風も気持ちいいし、森林浴もいいかもな』


 そう考えながら、沙羅は10分くらい歩いて行くと人影が見えて少し驚いた。


「あ、鈴蘭さん」


 沙羅は彼女に向かい会釈をした。


「あら、こんにちは 沙羅ちゃん」


 西方院鈴蘭は優雅に白い日傘を差していた。まだ日中、日差しもあるので日焼けは大敵である。沙羅はあまり美容に頓着していない。


「こんにちは」


「どうしたの? お散歩」


「はい、家のなかにずっといるのもあまり良くないかと思って」


「そうね、私も外出したいんだけど、なかなか外に許可は降りなくて本当に困っちゃうわね」


「はい」


「少しお話ししない?私と」


「え、はい」


 唐突な頼みに沙羅は咄嗟にうなづいたのだった。近くにある屋根がついたベンチがありそこに座った。


「あの、」


「うん?」


「鈴蘭さんの護衛の方も休まなくて大丈夫ですか?」


 沙羅の思いもしない言葉に鈴蘭はキョトンとした表情をして微笑んだ。


「ふふ、どうしてわかったの?」


「えっと、足音が」


「足音が聞こえていたの」


「はい、かすかでしたが 集中していないと聞き逃しそうでしたが」


「そうなの、私、索敵能力と顔からっきしダメなのよね、攻撃に偏りすぎちゃって」


「私はそっちの方がかっこいいと思いますけど」


「そうかな、ふ、 ありがとう」


 大人っぽく見えるが年相応に笑う姿の彼女に沙羅はなぜか恥ずかくなって俯いた。鈴蘭は後方に向かい声をかけた。


「あなたも少し休まない?」


 少しして、カサリと木陰から現れたのは一人の少年だった。


「沙羅ちゃんにちゃんと会うのは初めてかしら?」


「はい、鈴蘭様。はじまして北方院沙羅様。私は鈴蘭様の護衛を務める山吹と申します」




〇〇


 黒髪に茶色の瞳。

 端正な顔立ちはきっと女性たちが放っておかないだろうか、表情は希薄だった。


 身長は静かよりも少し低めの170前後ぐらいだろうかと推察する。体格は細いだが、長袖の服からでも鍛えているのがわかった。


「初めまして、北方院沙羅と申します、以後お見知り置きを」


 ぺこりとお辞儀をすると、ふっと笑い返してくれた気がした。案外感情が表に出ないだけかもしれないと沙羅は感じた。感情を表に出しまくる静と正反対である。


「ここだと日差しを浴びちゃうし、どこかお茶でもして話をしましょう」


「そうですね」


 陰陽寮には食堂以外にもカフェテラスがあり、三人はそこに移動した。今日は休みのためわざわざ陰陽寮のカフェテラスにいる学生もまばらである。


「さてと、何を頼もうかしら山吹くんは何を頼む」


「私は、お茶で構いません」


「山吹くん、ここはカフェよ」


 メニューをドリンクの項目を見るとそこには緑茶の名前があった。


「…あったわね これを頼みましょうか 沙羅ちゃんは何を頼む」


二人の会話を聞いていたさらは慌ててメニューを見た。


「ふへ!? えっとミルクティーをお願いします」


「わかったわ、私はどれにしよう アッサムティーでいいかな」


 鈴蘭は呼び鈴を鳴らすとウエイトレスがやってきて注文をした。


「こうやってのんびりできるのもいいけど、あまり退屈すぎるのも疲れちゃうわね」


「はい、あの」


「うん?」


 沙羅は誰もいないことを確認してから話を始めた。


「陰陽師の方は大丈夫なんでしょうか」


「そうね、私たちは直接関わることはないけど色々とお世話になっているし」


「はい、管理官の壺井さんは霞ちゃんが護衛を務めているらしいので」


「そう、だから今はそばを離れているのね 寂しいわね」


「会えないのは寂しいですが、メールとかできますし」


「そう」


 鈴蘭には妹が二人いる。その二人と重ねたのだろう。沙羅は少し恥ずかしくなった。


「それよりも 鬼族のことが気になって」


 その言葉に鈴蘭と山吹の空気が変わった。


「すごく危険なものたちって兄から教えてもらったのですが、もし対峙した時に何も知らないと対処できないって思って」


 それに鈴蘭は一利あると思った。あの超絶シスコンの兄のことだから、一歩でも外を出ようとすれば発狂してしまうかもしれない。人見知りが激しかったさらがこんなにも前向きに考えていることに姉心がくすぐられる。


「そうね、私たち相性がいいし、私でよければお相手しましょうか」


 以前の自分だったら断っていたかもしれないが沙羅は断らなかった。


「ぜひ よろしくお願いします」





 三人はそのまま寮内にある稽古場に向かおうとした時に一人の青年がゆったりと歩いていた。


「あなたも暇そうね、樹里くん」


 声をかけられた青年、東方院樹里は鈴蘭たちの存在に気づいた。


「あれ、鈴蘭さん…どうしてここに?」


「何かと時間があいて、暇だと体鈍っちゃうでしょ 沙羅ちゃんと一緒にどうかなって思って」


 樹里は鈴蘭の隣にいる沙羅をじっと見た。


「そうなんだ」


 あまり人にじっと見られることに慣れていないさらは樹里の凝視する視線に耐えられずオロオロとする。困っているさらを見るのもいいが、鈴蘭は樹里に苦笑する。


「あまり女の子をジロジロと見るものじゃないわよ」


「そうだね。ごめんね」


 樹里は沙羅から視線を逸らした。それに緊張が解かれた。


「いえ」


 それから視線を合わすことはなかった。


「立ち話もあれだし 樹里くんも一緒に稽古しない?」


「稽古? う〜ん まあ 暇だしね」


 樹里ののんびりとしとした口調にさらの第一印象は不思議な青年だった。


「それじゃ、行きましょうか」



〇〇



 その様子を見守っていた二人がいた。一人は安倍晴明。平安時代に名を轟かせた大陰陽師であり今は安部家の守神である。そしてもう一人は四神の中央を司どる神獣の麒麟だった。


「あの子は随分と成長したね」


 晴明はまるで親戚のおじさんのようなセリフに麒麟は笑い声を上げた。


「そうだね、ふふ」


「君は霞ちゃんのそばにいなくて大丈夫なのかい?」


「あの子は私がいなくても問題ないよ 小さい頃から見ているからね」



 自信満々に言う姿はまるで自分の娘を自慢する父親のようだ。麒麟は親バカだと思った。


「それが並の相手であればの話だ」


「…ああ、鬼族がいよいよ本格的に現れた。ここ数十年でなかったことだ あの子に関係あるのか やはり…」


 麒麟は誰のことを指しているのかわかっていた。


「ああ、彼女の力が目覚めつつある。けれどそれは同時の彼女が普通の生活を送れなくなるだろう。前世の彼女はそうだった だからこそ 彼女には少しでも幸せを感じてほしい」


 晴明の悔しさを含む声に麒麟は答えた。


「けれど、鬼族いや鬼神族はいずれ出会うだろう」


 含みのある麒麟の言葉に晴明は眉間に皺を寄せる。


「見えるのか」


「ああ」


 確信めいた物言いに晴明は表情が変わった。


「わしは霞の元に行くとしよ、あなたはどうされるのです?」


「私はまだ少し見守っています」


 麒麟は三人が稽古する様子に嬉しそうに見ていた。まるで自分も中に入りたそうにしている彼に晴明は言葉が見つからない。


「其方も気をつけて」


「ええ、あなたも」


 それを最後に晴明はその場を立ち去った。


しばらく書いていなかったので、登場人物の名前間違いまくっている…( ゜д゜)

この作品を全部投稿し終わるのが5月か6月になると思いますが、訂正はこの作品が終わってからいたします。


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